漂着物
一章:渇きと飢えとプロメテウス
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三十分ほど経つと彼女の体は日光によって暖められ、むしろ熱いくらいになってしまって慌てて日蔭まで引っ張った。それでもまだ眠っており目覚める様子もなかったので改めて俺は周囲を散策した。
そこでまず見つけたのは俺がこの場所に来る前夜、寝る前に飲んでいた林檎ジュースのペットボトルだった。海のなかで砂に埋もれていたけど海水が混ざった様子もなく中身も八割がた入っている。
波で流される前に急いで回収した。裸だから海水に飛び込むことぐらい躊躇いない。
(……でもなんでこんな場所にいるんだ? 元の場所に戻れるのか? ……ペットボトルも一緒にテレポートでもしたのか? あの尻尾と翼は……いや、考えるな)
どうせ答えのないことを考えたって無意味だ。考えるくらいなら体を動かすのが一番だ。幸い、とても綺麗な島だった。
砂浜と鬱蒼とした森の境目には何十本もの椰子の木があるうえに実もついているし、黄緑色のサボテンの群生地もあった。真っ赤な実をつけていて美味しそうだ。海に沿って歩き続けていくと砂浜はやがて岩場になり、隣接していた森は切り立った崖になっていた。
「……一度戻るか」
(やっぱり他に人はいない。桟橋とかもない。不自然なくらい何もない)
流れ着いた場所からこの場所まで徒歩五分ほど。途中、使えそうな漂着物を淡々と拾っていったがその所為で嫌な予感というのは高まっていた。
どんな島だろうとペットボトルなり漁網なりブイなりが落ちてていいはずなのだ。清掃員でもいない限り。
けど落ちていたのは流木、普通の貝殻、海藻まみれの木材の破片。これはまだいい。それに運ぶのにも一苦労しそうな巨大な樽、腰に掛ける程度の大きさをした麻袋。中には見たこともないどこかの国の金貨が数枚ほど入っていた。他にも貝殻の首飾りやら、カヌーでは到底使えないだろう巨大過ぎる櫂。
現代文明を象徴できるようなものはまるで落ちてなかった。それこそ最初に拾った、俺の飲みかけの林檎ジュースだけだった。
二人の持ち物。
衣服2着。バンダナ。ナイフ。鞘。ペットボトル(内容物:リンゴジュース)。
拾ったもの。
流木。巨大な櫂。麻袋。貝殻の首飾り。(樽は運べていないが波に流されないように移動だけさせた)