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火起こし――弓ぎり式

 ――――弓ぎり式は文字通り弓の弦を使って効率的に火切り棒を回転させて着火する方法だ。紐を回し続けて手を離すとその勢いで回転が逆になるような、そういう力の原理を使う。


 異世界でなんでこんな事やってるんだろって思いたくなるけど火属性の魔法もなければ都合のいいマジックアイテムも流れて来ないから仕方ない。


 紐は幸いにもある。昨日取ったリボン状の樹皮と初日に拾ったネックレスの紐だ。バラせば使えるだろう。そこであと必要なものと言えば弓の本体に使う木とか代用できそうな漂着物。


 けどそんな木を見つけることも簡単じゃなくて、探すこと体感三時間。それから弓を使ってどうやれば棒が回転するかを思い出すのに一時間ほどかかった。ははは、たった一時間だ。俺達は相当頭の回転が早いに違いない。そう言い聞かせた。


「なるほど、弦に棒を巻いて弓の部分を持って引っ張ったりすればいいんすね」


「手で直接回転させるよりはマシだろう」


 どちらにしても根気のいる作業だが昨日の方法と比べて大した力はいらない。汗が落ちないように注意しながら俺達は無心になって火起こしを始める。弓を上下、弦が動いて棒が回転。逆回転。回転……繰り返す。火切り板を順調に摩擦させていく。


 さながら修行僧のごとく一点のみを見つめて、回転。回転。リズムよく加速。そうしているとだんだんと棒の根本。摩擦点となっている板が黒く焦げ始め小さな煙が立ち始める。


「見ろ! 見ろノーチェ! 煙だ!」


 思わず叫んだ。火のないところになんとやら。火種さえできれば俺達の勝利が――。


 ブチィッ!


 勝利を確信した途端、希望の光が一転して絶望へと変わった。弦に使っていた樹皮が真っ先に限界を迎えたのだ。棒との摩擦によって擦り減って、軽快なまでに音を発してあっけなくちぎれてしまった。


 さっきまで板を擦っていた棒が勢いのまま砂浜へ吹っ飛び転がって、無力に倒れる。


「だ、大丈夫っす! まだ私のがあるっすから――」


 ノーチェがフラグ全開な発言をした直後、応えるかのように元ネックレスの紐も限界を迎え引き千切れる。からからと虚しく木の板に棒が倒れ伏して、一瞬前まで向けていた情熱と食肉願望が散り散りになって波音に溶けると、俺達の心を再び虚無感で満たした。


「…………サボテンの実。食べきっちゃったな」


「そうっすねぇ……」


「サボテン、味が気になってたんだ。サボテン。サボテンな。サボテン……」


 実ではなく本体……? 葉の部分と言えばいいのか。あれがどんな味か気になってたのは事実だ。取り過ぎない程度に少し貰おう。貰おう。


 なんとか別の方向に話を路線変更しようと俺は不意に思ったことを口にする。ノーチェはしばし唖然として口を半開きにしながら弦を凝視していたけれど、我に返ると何度も力強く頷き始めた。


「うん! うん!! そうっすね! 私も食べたことなかったんすよー! ……あはは」


 何か成功の体験が欲しい。島に漂着して三日目。午後から活動し始めた所為もあってもう夕暮れが近づいていたけれど、今日も火は着きそうにない。西日に照らされた海がキラキラと輝いていた。

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