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1話 始まりのオチンポダンス

 免許の実技試験に落ちたと、尾下美緒がピコン。女に振られたと千佳がピコン。

 今晩は、俺たちのグループチャットにやたらとしみったれた話題が並ぶ。

 おいおい、いつからLINEってのは悲劇集積場になっちまったんだ?

「トドメは俺とオマエが、ピコンってか! なぁ!!」

「まさか酔いに任せて、電柱にポコチンふたりでこすりつけてたら、オマワリに捕まるとはなぁ!」

「公園で股間を三時間ほど電柱にこすりつけていたところ、通報がありまして!なんてさぁ!親が泣いてたぜ!」

 俺たちは、別に性的興奮を求めて、己の大切な息子を電柱こすりつけていたわけではない。

 ただそうしなければいけない予感が、俺たちを衝き動かしただけ。

「俺の親も泣いてたぜ!だけど俺たちは?」

「泣かない! それが俺たちの流儀だからな!」

 俺は、盟友の醤油バター69と肩を組み、夜道を行く。醤油バター69とは、もちろんこのロン毛メガネ猿の本名ではない。こいつがそう呼べと皆に要求したのだ。中学一年、春の陽気に包まれた教室で、先生が皆に自己紹介をしろと言ったそのときに。勿論、俺以外は恥ずかしくてその名で誰も呼ぼうとしない。というか、中学の三年間、誰もこいつに話しかけようとしなかった。

「歌おうぜぇ!」

「歌おうかぁ!」

 俺たちの集会場。山下公園の大きな広場で、俺たちはいつもの歌を大声で歌う。

「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」

「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」

 ふたりで両手で、頭の上に三角形を描きながら、ぴょんぴょん飛び跳ね歌を歌う。

 すると尾下美緒が、同じような動きをしながらこちらにやってくる。

 この辺りで一番の進学校に通う、偏差値69の天才美女でありながら、あいつも結局は俺たちと同類だ。

 悲しみなんて投げ捨てて「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」と美しい黒髪を振り回して、踊り狂う。

 すると公園の逆側から、恥かしそうに顔を赤らめ「オ……チ……」ともにょもにょ言いながらこっちにくる女がいる。千佳だ。こいつは、スロースターターなんだけど結局は、俺たちと同じだね。

 ちょうど俺たち4人が輪になった瞬間、千佳は引き締まったその健康的な身体を激しく上下に揺らしながら歌ったんだ。

「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」

 ってね。焦点があってない。こうなるとこの女は危険だ。警察が来ようが、愛する彼女が来ようが、歌うことを止めたりしない。まるで狂犬だ。

 俺たちは、一言たりとも会話らしい会話もせずに「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」とただ歌を歌った。通じるんだよね。俺たちは、これで。そういうのって素敵だと思わないか?

 ちなみにオチンポとは、尾下美緒のオ。千佳のチ。醤油バター69(シックスティナイン)のン。ポリンキーが三度の飯より大好きな、俺のポ。それぞれの頭文字をとった秘密の合言葉だ。

 そこに2tトラックがつっこんで来て、俺たちの身体を一瞬にしてなぎ倒した。

 死んだか。

 ま、いいか。死ぬまで俺たちは陽気だったんだ。どんな悲しいことがあってもね。


「勇者様じゃ! 勇者様が現れたぞ!」

 気がつくと俺たちは、祭壇のような場所に立っていた。石造りの部屋の壁面には、竜や剣を持った勇者たちの壁画が刻まれている。

 ははは、こいつら頭おかしいな。ファンタジーRPGのような場所で、ファンタジーRPGのような服装をしてやがる。

 だけど頭がおかしいってのはいいことだ。常識なんてクソ食らえ。

「私は、星渡りの巫女のリーナと申します」

 なんか神官服を着た綺麗目のパツキンの姉ちゃんが、俺たちに声をかけてくる。

 ははは、頭のおかしいことをしながら、普通の挨拶をするなんて。

 なかなかセンスがいい。

 そんな彼女に俺たち四人は、慌てることなく、いつもの奴をキメたんだ。

 そう――オチンポダンスをもう一度。

「オチンポオチンポ、ニョーキニョキ!」

 踊れ踊れ、世界が終わるその時まで! どんな悲劇も乗り越えて!



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