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少し不思議で怖いショートショート集

『リセマラ・チャイルド』

作者: 藍田 海辺

「くそっ、また雑魚キャラかよ」


 僕は舌打ちをすると、スマホをベッドの上に投げ捨てた。


 僕がプレイしているのはスマホゲーム。「バトル・オブ・ドラゴン」というタイトルで、今もっとも登録者数が多い人気のゲームだ。


「また面倒くせえチュートリアルしなきゃいけないのかよ」


 僕がやっているのはリセマラと呼ばれる作業だ。


 このゲームでは新規登録者のためにチュートリアルをこなせば一度だけ無料でガチャが回せることになっている。そこで強いモンスターを引き当てることができなければ、データを削除して再度新規登録し、もう一度チュートリアルをこなすことで再びガチャが無料で回せるのだ。


 これを強いキャラクターが引けるまで繰り返すのがリセットマラソン、通称リセマラと呼ばれる行為だった。


「あーあ。ウルトラスーパーレアのモンスター引くまで一体何時間かかるんだよ」


 僕がこのリセマラ作業を始めてから既にかなりの時間が経過していた。

 無料ガチャはその名のとおり無料で引けるのだが、それで出てくるモンスターは弱いものがほとんどだ。強いモンスターが引ける可能性は極めて低い。一方、強いモンスターばかりが出てくるガチャもあるのだが、それを引くにはお金を払わなければいけない。いわゆる高額ガチャと呼ばれるものだ。


 ちょっと休憩するか、と思いベッドに横になる。


 僕は高校を中退し、仕事もせずに毎日ダラダラと過ごしている。

 いわゆる"引きこもり"という奴だ。

 本当は高額ガチャを引きたくて仕方がないのだが、少ない小遣いではそれもままならない。


 両親が高齢の時に出来た子供だったため、僕は随分と甘やかされて育った。

 親からはいつも「あなたのペースで頑張りなさい」と言われてきた。それに甘え過ぎてしまったのかもしれない。僕にはもう少し厳しい教育が必要だったのだ。

 塾に行かせてくれれば成績だってもっと上がったかもしれないし、小さい頃から習い事やスポーツだってやらせてくれれば何か一つくらい才能が開花していたかもしれないのに。


「ご飯ができたわよ。下りてらっしゃい」


 ちょうど母親が僕を呼びにきた。どうやら夕食ができたらしい。そろそろ家族そろっての夕食も気まずくなってきた。優しい言葉をかけてくれるのがまた辛い。


「ほら、今日のご飯は大好きなカレーライスよ」


 食卓には大好物のカレーライスが並んでいた。僕はいただきます、と言って口をつける。さっさと食べて部屋に戻ろう。


 そこで、父親も母親も食事に口をつけていないのに気付いた。どうしたんだろう?


「なあ、大事な話があるんだ。聞いてくれないか」


 父親がそう切り出す。なぜかその目は悲しそうだ。


「単刀直入に言うとね。死んでくれないかしら」


 何を言ってるんだ!?


 飲み込みかけたカレーライスが喉に詰まりそうになる。


「お前をちゃんと育ててきたつもりだったんだが、少し甘やかし過ぎたようだ。悪いけど今回は失敗みたいだから、リセットしようと思ってな」


 僕は驚きのあまり何も言えなかった。

 リセット!? まるでスマホゲームじゃないか。一体何を言ってるんだ!?


「育て方次第でどうにでもなる。そう思って安い受精卵を買ったのが失敗だったな」

「そうそう。それで次はちゃんと高いお金を出して優秀な受精卵を買おうかと思ってるの。この前あなたに書かせた書類、覚えてる? あれ、保険金の契約書類なの。死亡だと結構な金額が入るのよ。それで次こそは良い子供を手に入れるから、ね?」


 金で優秀な受精卵を買うだなんて、高額ガチャのつもりか。


「まあ、お前が納得しないっていうんなら仕方ない」


 ほっと胸を撫で下ろす。いくらなんでもそんな非人道的なことが許されるわけがない。両親のタチの悪い冗談だろう。これからは心を入れ替えて真面目に……。


 カラン、と手に持っていたスプーンがこぼれおちた。

 あれ、手に力が入らない。それに、なんだか眠くなって……。


「お前が納得しないなら、父さんと母さんが責任持ってやってやる。安心しろ」


 な、なんだ。まさか、実の子供を殺そうっていうのか!?


「思えば母さんたちにも責任があったのよ。ごめんね。二度も失敗するなんて。でも、次こそは絶対ちゃんと育ててみせるから」


 そこで僕の意識は途絶え、二度と目覚めることはなかった。


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