蚊、部屋に舞う
緑の床が四つほど敷き詰められた狭い空間。脱出を図る為、天に登れば大きな一枚の板が私を阻む。
脱出口はないかと飛び回れば、透明な板があることに気づいた。私は何とか外へ出れないかと体当たりを試したが、透明な板かビクともしなかった。
「おい、お前。どうやって中に入ったんだ?」
「だ、誰だ!?」
私が諦め掛けていたその時、声が聞こえた。辺りを見回すと、透明な板の外側からお仲間が呼びかけていることに気づく。
そこにいたのは、体が大きな魅力的な雌であった。
彼女を見た瞬間、本能が私に呼びかけた。
彼女と子を成せと。
「お前、どうやってそこに入ったんだ。教えろよ」
「分からないんだ。逆に私はどうやってここに来たのだろうか?」
彼女は羽を震わせて笑い、その大きな針で窓を叩いた。
「知るかよ、そんなもん。ただそうだな、そこにいる人間を起こせば出られるかもしれないな」
私は部屋に中央にて、寝静まっている大きな生物を見た。そのものは空気を大きく振動させる声を出し、時折腹を掻いていた。
あのものを起こす!? 冗談ではない! あれは触れてはならぬものだ。あれの怒りに触れてしまえば、私など文字通り粉々になってしまう!
私は彼女に危険性を伝え、安全圏にいるからそんなことが言えるのだと苦言も話した。
すると、彼女は興味が失われた様に羽を震わせるのをやめた。
「ふん、臆病だねぇ。私達は他の奴らの血を吸って、子を成すんだ。それが人間だろうと何だろうと変わらない。あんたは大人しい奴の血しか吸わない腰抜けだってのかい? はぁ、あんたが臆病者じゃなければ、一緒に血を飲んでやっても良かったのにねぇ」
彼女は私にそう告げ、板から離れようとする。
ここで離れて仕舞えば、もう二度と会えないではないか!
「いや、違う。私は臆病者などではない! 私は君と共に血を飲み、子を成す勇者である!」
私は彼女の元を離れ、大いなる生物、人間へと単身翔ぶ。恐怖がないとは言えない、この身は今も震えている。だが、それでも雄にはやらねばならぬ時がある。
そう、それは今! 私は君と子を作りたい!!
「うおおおおおおおおおお!!」
顔の周りを飛び、イラつかせる。そうすれば、こいつは起きるはずだ!
顔の周りを飛ぶと、予想通り人間は眉を潜め、その身を起き上がらせた。その身の大きさたるや、私が千いようとも足らぬと言い切れるほどであった。
私は一度距離を取り、白き太陽の周りを飛ぶ。人間は何やら、赤い筒を用意している様子。
だがこの距離、たやすく詰めれるものではないぞ!
「また蚊だよ。もう秋だっての」
その時、私は白き煙に包まれた。
息が出来ぬ、羽の動きが止まる、墜ちる!?
私はその身を地面へと落とした。
既に羽を動かすことは叶わず、幾ばくかの命であることは明らかであった。
透明な板に目を向けると、既に彼女の姿はなく、青き空と白き雲しか、目に入らなかった。
あぁ、ざんね。