プロローグ
思いついたまま書いた作品です。
楽しんで頂けたら幸いです。
──勇者
それは、勇敢なる者のことをさす。
物語の主人公であり、魔王を倒せる人間であり、人々の憧れで希望でもある。
これが一般的な解釈だ。
だが、それはもう昔のこと。
勇敢ではないが強く。
主人公かと言われれば首を傾げるしかなく。
人々の憧れと言われれば否定するしかない。
そんな奴が今、勇者をやっている。
何故こんな奴が勇者に選ばれたのか不思議で仕方がない。
しかし、これも神の啓示なのだから仕方がない。
アドレーデ王国の勇者、レオン=アッシュフォード。
茶髪で黒い瞳が特徴的な中肉中背。
「あ〜、今日も1日まったりするぞ〜」
やる気のない声が室内から聞こえてくる。
声の主は、手のひらにボサボサ頭を置き、ベッドの上で横になっていた。
ガチャりと音が鳴り、ドアが開く。
「レオ!!今日こそは魔物の討伐に行くわよ」
綺麗な声が響く。その声にはいくらか怒気が混ざっていた。
名前はアリシア=マグリーン。腰まで伸ばした美しい髪。少し青の入った瞳に整った顔立ちの美女。
「ん〜、シアか。おはよう」
呑気な声が返ってくる。
「おはようじゃないわよ!?今何時だと思ってんの!!2時よ!2時!何回あんたを起こしに来たと思ってるのよ!」
「ん〜、知らない。てか、シアの起こし方が悪いんじゃないの?」
「なっ、私の起こし方が悪いですって?」
「うん、そう。しっかり起こしてくれればちゃんと起きるよ〜」
ケラケラと笑い、自分が起きないのをシアのせいにする。
「へ〜。何回も起こしに来ている人に対してそんなこと言うんですか。しかも、起きる起きるって起こしに行っては何回も聞いたんですけどね〜」
「たぶんそれ寝言。だから、俺の言葉じゃない」
よく分からない言い訳をするレオ。
「分かったわ。これからはちゃんと起こすわ」
「そう。それでいいんだ...うわっ!あぶなっ」
シアの作った魔法がレオの横を通過する。
魔法の名は《ファイアボール》。
「ふふふ、これからはこれで起こすわね」
「あの、シアさん。それは流石に危ないのではないかなと思われるのですが......」
流石にレオも危険を感じたのか説得する。
「普通に起きても起きないのあんたが悪いわ。魔法に殺意でも込めて撃てばあんた起きるでしょ?」
空中にいくつもの《ファイアボール》を作る。
「殺意まで入れるの!?そこまでしなくてもよくね!?」
「あんたが起きないのが悪いんじゃないの!!」
空中に浮いていた《ファイアボール》を1つレオに向けて放つ。
レオは、それを難なく避ける。
「うわっ、危ないな〜。本当に当てにきたな!?」
「っち、避けたか」
「今、舌打ちしやがった!?」
レオの話を無視する。
「レオ起きたわね。じゃあ下に来てね。昼ごはんも出来てるし、みんな待ってるわ」
そう言ってシアは部屋を出ていく。
部屋で1人になったレオは、もう1度ベッドに横になり夢の世界へと旅立とうとした。
ガチャり、部屋を開ける音が聞こえてきた。
(あ、やべぇ。見つかった)
レオが扉の方に顔をやればそこには怒っているシアの顔があった。
「レ・オ〜!?」
シアは中に入ってきてレオの前まで来ると耳を掴む。
レオの耳を引っ張りながら部屋を出ていく。
「痛い!痛い!お願い。自分で歩くから耳を引っ張らないで〜」
これが現在の勇者の姿である。
やる気を1ミリも感じることが無く、覇気がない。
1日を寝て過ごすことに生きがいを感じている勇者なのである。
勇者が勇者しない話です笑