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守護天使

作者: 木下秋

 その日、時間を忘れて仕事に没頭していた私は疲労した頭を冷やそうと部屋を出た。暗い廊下を渡り歩き、館内に出る。時計に目をやると閉館が近く、辺りには誰もいなかった。


 しばらく仕事のことを忘れ、見慣れた展示物を横目にふらふらと歩いていると、暗がりの中にぽつん、と立っている子どもが目に入った。彼は正面から光を浴びながら、透明なケースの中に入っているものを見上げていた。


 私は彼に近づくと、控えめに挨拶をした。


「やぁ、こんばんは」


 彼はこちらを振り向き、返事をする。「こんばんは」


 私は彼の見上げていた展示物を見た。それは、かつてこの星に生きていた、今はもういない生物だった。


「不思議な生き物だよね」


「うん」


「ゾウが好きかい?」


 彼は頷いた。「鼻が長くって、身体も大きい。そしてこの、真っ白な牙」


 彼は指で示しながら説明した。白く輝く二本の牙は雄々しく反り返り、天を突くかのようだった。


「……この牙を目当てに、ニンゲンに刈りつくされ、絶滅してしまったのさ」


 彼は少し残念そうに頷き、「見たかったな」と言った。


 聞くと彼はこの近くに住んでいて、毎日のようにここへ通っているらしかった。小さな姿に、かつての自分の姿を重ね合わせる。私は未来の学者が閉館後の館内に取り残されてしまわぬよう、出口へと誘導した。


 その間、私と彼は展示物を見ては感想を述べあった。精悍なオオカミや、逞しいゴリラ。小さなウサギ。個性豊かで美しい、しかし残念ながら、絶滅してしまった生き物たち。


 出口近くの一際大きなブースの前で、私たちは立ち止まった。それはこの星でかつて繁栄を極めた、ニンゲンについてまとめられたコーナーだった。


「ニンゲンはもう絶滅したの?」


 彼はこちらを見上げて言った。


「いや、まだ完全に絶滅してはいない」


 何を隠そう、ニンゲンは私の専門分野だった。


「ニンゲンは野蛮で暴力的だと、そう思われている。でも、みんながみんなそうではないんだ。ニンゲンには知性があるし、優しい心もある。先の星間戦争の際には互いに多くの犠牲が出たけれど、ニンゲン達だって自分達の住む星を守るために必死だったのさ」


 「ニンゲンは絶滅の危機に瀕している。私達が保護してやらなくては」そういうと彼はわかってくれたようで、しっかり私の目を見て頷いて見せてくれた。


 彼は外に出ると私に挨拶をし、首から下げた灯火(ともしび)を光らせると翼を広げ、夜の空へと飛んで行った。私は彼の姿が見えなくなるまで、空を見上げていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しシニカルでありつつも優しいお話ですね。いつかこのようなことが起こるのかもしれないと思うと、ちょっと悲しいような、でもロマンを感じるような。 その表現の仕方もオシャレですね。こういう、短…
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