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SS.桜城址  作者: かるちぇ
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桜城址


春霞の薄い青の空に鳶が円を描き、ピーヒョロロと独特の声を響かせる。


山には新緑が芽吹き、まるで黄緑色のヴェールを被っているかのようだ。


ふわっと一陣の風が吹き抜け、桜の花びらが一斉に宙に舞い踊る。


そんな桜吹雪に、僕はしばしの間 見とれていた。


桜の花の散り様は何故こんなにも美しく、切ないのだろう。


戦国時代にここいら一帯を治めていた武将の支城があったというこの小高い丘には今年もたくさんの桜が咲き乱れている。





伝承によれば、武将自身は隣町にある本城に在り、ここの城には武将の一粒種であった美しい姫と、せいぜい数百の兵が詰めて敵の侵攻を本城に知らせる物見の役を担っていたという。


その姫は、敵の万を超す軍勢が攻め寄せて来た時、本城に知らせの馬を走らせた後でこの城にわずかな手勢と共に立て籠って奮戦し、壮絶な討ち死にを遂げたと伝えられる。


城はその時に焼け落ち、今では石垣だけがそのわずかな名残をとどめている。


城跡には、今では姫を祀る小さな祠が建っているに過ぎない。




僕は祠の前で、数百年前にこの場所で散った悲運の姫に思いを馳せ、当時の彼女が見ていたであろう眼下の景色を一望した。


谷あいの盆地に広がる集落、蛇行しながら流れる小川、まもなく始まる田植えに備えて水を張った水田。


きっと彼女は、この美しい故郷を、そこに暮らす人々を守りたかったんだろう。


「あなたは、今もここでこの町を見守っているのかな?」


答えなど期待せずにつぶやいたその時、ぱらぱらっと晴れた空から数滴の雨粒が降ってきた。


ただの偶然かも知れない。


でも僕は、この気まぐれな天気雨に、悪戯っぽい表情を浮かべた気の強そうな姫の気配を感じた気がした。



Fin.

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