スキルと詠唱
魔法使いの服に身を包んだ陽輝のキャラ、ダングルスと合流し、3人は広場でしばし閑談する。
「2人とも予想外の職で来たなあ」
「そうか?黒瀬が魔法使いなのはそんなに違和感無えけど」
「見た目は魔法使いだけど、私は白魔法士よ?」
「……え?」
「え?」
さっきもこの流れあったな、とケイディアは思ったが、やぶ蛇になりそうなので静観する。
「今の『え?』はなにかなー?」
「いや、黒瀬がヒーラーするとかキャラじゃな「ふんっ!」」
ダングルスが杖で殴られていた。
……そういう所がキャラじゃないとか言われる原因ではないだろうか?
ゲーム世界だからと思い切り殴ったようで、殴られたダングルスの頭部に赤色で数字の3が浮かび上がった。3点ダメージだ。
「HP削らないでくれよw」
「ふん、回復の実験台になりなさいよ。やり方わからないけど」
「で、なんで魔法使いなんだ?」
「いやー、この世界の魔法って『詠唱システム』ってのがあるんだよ」
「詠唱システム?」
ケイディアとクローベルは揃って首を傾げる。魔法系をメインジョブにしているクローベルも知らないようだ。
「簡単に言うと、詠唱の長さや内容で魔法の威力に補正がかかるんだと」
基本的にこの世界の魔法には詠唱の必要がなく、技名を叫べば発動させることができる。だが、その技名の前に詠唱をすることで魔法の威力が増減する。それが『詠唱システム』である。
ある程度上昇率に限度はあるが、上手くすれば初級魔法で高レベルの魔物を倒すことも可能らしい。
逆に適当なことを言ったり、火属性の魔法なのに水属性のような詠唱をしたりすると威力は下がる。
「ほー。つまり火力を追い求めたのか」
「いや、俺の右手の漆黒が暴れだすのを止められなかった」
「……病気が発症したのか」
厨二病だった。
「オリジナルの詠唱でオリジナルの魔法が使えるんだぜ?もう取るしかなかったね!」
「オリジナルの魔法とかも出来るのか?」
オリジナルの魔法という言葉は少なからずケイの心を揺らした。確かにそれはロマンが溢れる。
「魔法だけじゃなくてオリジナルの技も作れるぞ。……ああそっか、2人にスキルの覚え方について教授してやろう。
この世界のスキルはレベルアップで覚えるものの他に思い付くことで覚えるものがあるんだ。」
「思い付く?」
「そう。例えばケイ、弓のスキルと言えばどんなものを思い浮かべる?」
「ん?狙いうちとかか?」
そうケイディアが答えると、突然視界に『弓兵のスキル『ターゲットシュート』を思い付きました』と表示された。
驚くケイディアにダングルスはニヤリと笑う。
「なら黒瀬……クローベルは白魔法と聞いてどんな魔法を想像する?」
「そりゃ、回復でしょ……あら?」
「んー、今の答えだと範囲が広すぎて基本的なスキルしか出てないかな」
それでも、『ヒール』は修得したらしい。クローベルが「もっと効果が高い回復」と言うと、『ハイヒール』も修得したようだ。
「じゃあ、全回復の魔法……条件を満たしていません、ってことはレベルとか上げれば覚えるのかな。とりあえず『ヒール』」
「どうも……まあ思い付いたからってなんでも使えるわけじゃない、ってことだな。まあそんな感じでスキルを覚えることができるわけだが、そのスキルは例の『なんかすごいAI』が作成、調整してるらしく、スキルの数は無限に存在する」
作成もしてる、って所が味噌だ。とダングルスは言う。
「AIに説明をすることができて、それに見合ったジョブレベルやステータスがあれば、どんなスキルも可能になるらしい」
「……その話ってどこで聞けるんだ?」
「俺はネットで拾ったけど、基本的には修練所だな」
「修練所?」
「ネリーを払えば修練所で新しいジョブを修得できるんだよ。2つ目のジョブで500N、3つ目のジョブは1000N、で、2000、4000と倍々に値段は増えてくけど」
「じゃあ俺は風も取ったから1000Nか。初期金額が吹っ飛ぶな」
ケイディアが新しいジョブを修得するのは当分先になりそうだ。
「まあとりあえず外でモンスターを倒してみようぜ。新しいジョブは今の使ってみてからでいいだろ」
そう言ったダングルスを先頭に彼らは門に向かって歩きだした。