始まりの町
光のゲートをくぐると、視界が真っ白に塗り尽くされ、気がつけばケイディアは大きな噴水の前に立っていた。
「……すごいな」
まるで二次元の世界に迷いこんだみたいだ。そんな感想を抱きながら辺りを見回す。
噴水の向こうには中世ヨーロッパのような城が見え、背中側には大きな門が見えた。通りには多くの露天が並び、歩く人々はファンタジー世界の装備や衣装を着ている。
「……もしかして、ケイくん?」
「ん?おお、黒ちゃん……じゃなかった、クローベルさん?」
話しかけてきたのは、黒髪を腰まで伸ばした少女だった。現実の黒瀬の髪は肩あたりまでだが、目尻が少し下がっていたり、唇が小さく、頬にほくろがあったりと、黒瀬の特徴を上手くデフォルメしてある。
「ええ、ケイくん……ケイディアくんだっけ?」
「ケイでいいよ。呼称をケイに設定してるし」
「あ、そんなことできるのね」
じゃあ私も、とクローベルは「呼称をクロに変更したい」と宙に呼び掛ける。
「うん。できた」
「おう。……クロちゃんは魔法使いにしたのか」
黒瀬は黒いとんがり帽子に黒ローブという、いかにも魔女といった服装をしている。長い黒髪に似合いすぎていた。
なるほど、広範囲の魔法で敵を焼き払うのか。流石えげつないことを考える、と勝手に想像していると、
「ええ。白魔法士取ったよ。メインヒーラーしようかなって」
「……え?」
「え?」
予想外の選択に思わず疑問符が口に出た。
「……その『え?』ってのはなにかなー?私がヒーラーってのはおかしいー?」
「いやほら……装備が白魔法っぽくなかったから、ね?」
目を反らしながら、そう言って誤魔化す。だが、白魔法を選んだなら、服装もそれらしいものになっているはずだ。
「あー。最初はそれっぽい服くれたんだけど、私のイメージと違ったから、変えてもらったの」
「へぇ、そんなこともできたんだ」
スペックは変わらないらしいよ、と言うが、見た目は白魔法とは程遠い感じだ。
「でもクロちゃんヒーラーかあ。前衛が陽輝1人にならないといいけど」
「ケイくんは弓だもんね」
そうやって話していると、ピロン、と効果音が鳴り、視界に『ダングルスさんからフレンドチャットの申請が届きました』と表示される。
「ダングルスっていうと、陽輝のキャラ名だっけ?」
「うん。確かそんな名前だったわ」
許可、と言うと、目の前にスケッチブックサイズのスクリーンが現れ、相手の顔が表示される。目と髪の色が大分様変わりしているが、顔つきは陽輝によく似ていた。
『ようケイ。来たか。今どこだ?』
「まだ初期位置。クロちゃんも一緒だ」
『おっけー。行くわ』
と、要件だけ言うとすぐに切れた。
「今のはチャット?」
「そう。陽輝もこっち来るってさ」
それから1分ほど、黒瀬と話しているうちに陽輝のキャラクター、ダングルスはやってきた。魔法使いの初期装備で。
「「……え?」」
「あれ?お前らも二人とも後衛?」




