最初の一歩
パチパチパチと半ば無意識に拍手をする。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
祝福を貰ったのだから、感謝をするのはこちらだろう。
「では、これは私からの餞別です」
そう言って、女神がもう一振り杖を振ると、ケイディアの体が光に包まれる。光が収まると、服装が変わり、背中には弓を背負っていた。
「弓兵の初期装備です。それから、この世界の通貨で1000ネリーをお渡ししています」
視界の右上に【1000N】と表示される。ちなみに左上を注視すると現在の時刻が浮かび上がる。
「視界の設定も好きにカスタムできます。設定で変更したいことなど、何かありますか?」
「いえ、今のところは大丈夫です」
「かしこまりました。ランドクリエイト・オンラインは基本的に音声認識で操作ができますので、何かご要望がありましたらお申し付けください」
音声認識と言っても、実際には『声を発する脳波を受信する』ことで認識されるため、水の中等、声が出せない状況でも可能らしい。
「それでは、早速ランドクリエイト・オンラインの世界へ、といきたい所ですが、もう少しだけ説明をさせてください」
そう言うと、女神の手元にホログラムのような球体が現れる。現実の地球とは違い、殆どが陸地のように見える。
「この世界には、8つの大陸があり、それぞれの大陸の中心に8つの大きな町、都市があります」
光で書かれた文字が浮かぶ。陽輝が集合場所に決めたイトリスの名前もあった。
「都市から近い場所ほど魔物は弱く、離れるほど強くなっていきます。大陸にはいくつかの町や村もありますが、中心から離れるほど厳しい環境になるでしょう。現在、都市や大陸によって殆ど差はありません」
「……現在?」
つまり今後変わっていく予定があるということだろうか。
「全ての大陸は同じ設定で始まりました。ですが、そこにプレイヤーが介入することによって、NPCの行動や思考は少しずつ変わります」
一つのシミュレーションゲームと考えてください、と女神は言う。
「全ての都市はメインポータルが繋げられており、メインポータルからメインポータルへ転送することが可能ですが、それは一律2000Nです。また、大陸内にあるサブポータルを解放することで、同じ大陸内の解放したポータルからポータルへの転送が可能になります。こちらは200Nですね」
他プレイヤーと遊ぶつもりならば先に最初の都市を決めておかないと、始めたばかりでは大陸から大陸に飛ぶのは金銭的な負担が大きい。確かに初期金額の倍は大変だ。
「もし、他のプレイヤーと遊ぶつもりなのでしたら、同じ都市を選んでおかないと、集合するためにお金がかかってしまいますのでご注意を」
「いえ、もう決めています。イトリスで」
「あら、そうですか。いらない心配だったようですね」
女神はそう言って、宙に浮かぶイトリスの文字を手繰り寄せる。そして何かを呟くと文字が光を放ち、その場に空間の裂け目のようなゲートが作り出された。
「このゲートを抜ければ、イトリスの町に出ます。ケイディア、あなたの冒険が、この世界に良い影響を与えることを期待しています」
「はい!……ニックネームとか呼称って設定できますか?できるなら『ケイ』にしたいんですけど」
「……設定致しました。正式名はケイディア、呼称をケイとします」
ケイディアは、ゲートの前に進む。
「じゃあ女神様、ありがとうございました」
「はい。この世界を楽しんでくださいね」
女神の微笑みにつられてケイディアも顔を綻ばせた。
「それではケイ、行ってらっしゃい」
「……行ってきます!」
しっかりと前を見据えたまま白い光の中に飛び込む。視界が真っ白に塗りつぶされた。
「この大地を新たな光で照らさんことを」
優しい祈りの呟きが最後にケイディアの耳に届いた。