女神との邂逅
「ようこそ。ランドクリエイト・オンラインの世界へ」
圭馬がネクスディメントを起動すると、目の前に現れたのは女神を模した女性アバターだった。腰まである金髪に緑色の瞳、服は青を基調としたもので、同じく青色の羽衣を纏っている。
辺りを見回すと、ところどころに数字やよくわからない文字の羅列が不規則に流れている、電子の海と表現するしかないような空間に足場もなく立っていることがわかった。
「……イニシャライズ、及び同期は正常に完了しました。体への信号の殆ど全てがネクスディメントに反映されます。現実世界の肉体は無防備な状態になりますので、戸締まり、火気の確認等、安全を確保した状態でご利用いただきますようお願い致します」
注意事項を聞きながら、圭馬は体の感覚を確かめる。違和感なく手足が動くが、その手足は自分のものではない。不思議な感覚だ。
「戸締まり、火気の確認等、問題ありませんか?」
「あ、はい。大丈夫……です」
ついつい敬語になってしまった圭馬に女神は微笑みかける。
「では、これをお読みください」
「?」
圭馬の手元に現れたのは、青色のタブレットのようなものだった。物語のキーアイテムのようなものかと思い、目を通すと
「……ってこれ」
「利用規約です」
一番下にチェック欄があります、と微笑む女神。確かに必要なことだが、色々とぶち壊された気分だ。
「……これ、簡略化することとかできないんですか」
「噛み砕いた表現にすること、読み上げることは可能ですが、簡略化することで問題が発生する恐れがあるため、規約の内容を簡略化することはできません」
「……それもそうか」
すんなりと会話が成立する感覚は、相手がAIであると感じさせないほど自然なものだ。
ざっくりとだが目を通していく。リアルマネートレードを禁止する項目や、公序良俗に反する行為を禁止する項目の他に、問い合わせに対しては基本的にAIが対応するなど、珍しい文言も書かれていた。
問題もなく、同意にチェックを入れると、利用規約は光を放ち消滅する。
「ありがとうございます。では、キャラクターを作っていきましょう」
女神がそう言うと、圭馬と女神の間に1つのアバターが浮かび上がる。
「これが、今のあなたの姿です。現在の設定は、ネクスディメントのヘッドセットから読み取った、あなたの顔に近いものになっています」
確かに、ゲーム風にデフォルメされているが自分の顔になっている。入部当時にサークルの先輩に「少し女顔だよね」と言われたが、デフォルメされてそれが際立っている気がする。
うーん、とうなっていると、手元に再び青色のタブレットが現れた。
「その端末で操作ができます。小人族、巨人族、モンスターといった人間の身体と差がある種族は、現実世界との差が悪影響を及ぼす危険性があるため設定できませんが、ある程度までの低身長、高身長、また、エルフ耳、獣耳等は設定することができます。性別も自由に設定できますが、精神衛生上、リアルと同じ性別でのプレイを推奨しています」
「女性キャラも選べるのか……」
圭馬は、普段ゲームをするときは女性キャラを選ぶタイプである。だが、自分の精神ががっつり入り込んでいるこの世界で、その選択を取ることはためらわれた。
それから10分後、少し身長の低い青年風のキャラクターが出来上がる。顔の見た目はあまり弄らなかったが、黒髪に緑のメッシュを入れて、ツンツン気味にしてみた。目線が変わって新鮮だな、とリアルの身長が少し高めの圭馬は思った。
最後に名前を入力して完成である。最初に決めていたように『ケイディア』と入力する。
「キャラネームの変更、髪型以外のアバターの変更は、それぞれ有料コンテンツとなります。これで本当によろしいですか?」
「はい」
圭馬、改めケイディアが答えると、目の前のアバターが消え、女神とケイディアだけが残る。
「では、新たな冒険者に祝福を与えましょう」
キャラネーム変更、アバター変更、新規キャラクター作成等、ゲームバランスに関係ないところに課金要素が散りばめられています。




