前振りとフラグ
「昨日はそんな感じで大変だったよ」
「大変だったな」
「楽しそうでいいと思うよー?」
あの後平原で雑魚モンスター相手に新しいスキル等の試し撃ちをしたが、キル数トップは拳闘士ジョブを取ったことで手数の多いクローベルだった。
そして翌日の昼、陽輝の家で圭馬と陽輝は、ネクスディメントを引き取りに来た砂川と、昼食を食べながら昨日の話をしていた。献立は陽輝お手製のそうめん(茹でるだけ)である。
「というわけで、スナにはちゃんとした前衛をやって頂きたい」
「昨日、黒瀬にそれは駄目って言われてなかったか?」
「言われたけどさあ。このままだとメインヒーラーが最初に死ぬぞ?」
「それな」
「くーちゃんなら大丈夫だよー。きっと恐らく多分」
黒瀬に謎の信頼を寄せる砂川。先に食べ終わった圭馬は、流しで洗い物をしながら、その信頼は裏切られることになりそうだと黙考する。
「2人は昼からどうするのー?」
「俺も今日は授業無いから、帰ってログインするわ」
「俺も今日は授業無かったことにするからこの後ログインするわ」
「……出席点には気を付けろよ」
どうやら陽輝は授業をサボって遊ぶつもりのようだ。圭馬達の通う大学は比較的ゆるく、入るのも出るのも簡単な部類である。授業にもよるが、大半は出席点さえ足りていれば単位がもらえる。
「やりたいジョブは決まってるのか?」
「何個かやりたいことあるんだけど、どうしようかなー」
「いいか!?絶対後衛は取るなよ!?絶対だからな!」
「わかった。絶対、だね」
「伝統芸やめろよ」
苦笑して突っ込む圭馬に冗談だよー、と砂川は笑った。
「まあ、決まってないなら、前衛を視野に入れといてくれ」
「全員が後衛職とか洒落にしかならないからな」
「おっけー。じゃあ早速持って帰ってキャラメイクしよーっと!ごちそうさまー」
陽輝の出してくれたそうめんを平らげ、洗い物を始めている圭馬のもとへと持ってくる。
そして、ネクスディメントの箱を手に足早に家を出ていこうとする砂川だったが、ふと足を止めて振り返る。
「んー。……最初の町の名前なんだっけ?」
「イトリスな。覚えとかないと一緒に遊べないぞ」
「了解了解ー。他に何か覚えといたほうがいいこととかあるー?」
「あー、まず最初に修練所でスキル教わっといたほうがいいぞ?」
「……二の舞にならないように気を付ける」
ゴブリン相手に初戦で全滅した話は良い教訓になったようで、陽輝の言葉に神妙な面持ちでうなずいた。
「じゃ、また後でー!」
「おう」
「じゃあなー」
ウキウキとして帰る砂川を2人は見送った。
「ふう、これでパーティは安泰だな。風呂入ってくる」
「フラグを立てんな。……洗い物は終わったぞ」
「さんきゅー」
食器を洗い終え、圭馬も帰る支度を始める。
まあ、砂川もこれで後衛を取るほど芸人じゃないだろう。
その思考こそがフラグになっていることに圭馬は気付いていなかった。