怪しい雲行き
「おお、ケイ。遅かったな」
「すまん、ちょっと矢とか補充してた……クロちゃんは?」
ケイディアが集合場所に着くと、そこにいたのはダングルスだけだった。ダングルスはさあ?と首をかしげる。
集合場所にしたのは、門に近いオープンカフェのような店だった。料理も注文できるが、2人の手元にあるのは水のみである。
「で、何のジョブ取ったんだ?」
ケイディアとクローベルが修練所にスキルの説明を受けに行っている間に、ダングルスは何らかのジョブを習得しに行くと言っていた。
「『両手剣士』にした」
「……なんて?」
ケイディアはダングルスの言葉に耳を疑った。両手剣は大剣、長剣などのカテゴリーがあるが、いずれにせよ振り回そうと思えば、ある程度の筋力が必要になる。最初に聞いた話だと、ダングルスは魔力極振りだったはずだ。
「魔法使いは辞めて、完全に前衛にシフトするのか?」
「いや、魔法使いは辞めない」
「え?じゃあどうやって……それ以前に両手剣なんか持ってないじゃん。ストレージにしまってんのか?」
ダングルスの見た目は初期装備の魔術師のままだ。両手剣など持っていない。
ケイの言葉にダングルスはフッと笑う。
「こいつが俺の両手剣さ」
「……杖を振り回して戦う気かよ」
ダングルスの出した結論は、杖を両手剣に見立てて戦うというものだった。確かに杖の先端を持てば鈍器としては使えるだろう。
「それでほんとに両手剣として使えるのか?」
「修練所のおっさんに聞いたらバカ笑いしながらいける、って教えてくれた」
NPCに笑われてんじゃねえか、とつっこむケイディアにもどこ吹く風だ。
「まあいざというときの自衛の手段程度だと考えといてくれ」
「確かにゴブリンに殴り倒されることは無くなりそうだけどな」
「いやあ、ゴブリンは強敵でしたね」
ハッハッハとダングルスは笑うがそれ以前に、先に修練所に行ってスキルを習っていれば、ゴブリン相手にフルボッコにされることもなかっただろう。
ふと、ダングルスが通りに視線を向ける。
「あれクロじゃないか?」
「お、ほんとだ。おーい」
つられて見ると、クローベルが路地から現れたところだった。大通りを通らずに細い路地裏を突っ切って来たようだ。
そしてケイディア達の姿を見つけ、手を振りかえす。
「……なあ、ダングルス」
「……皆まで言うな」
満面の笑みで駆け寄ってくるクローベルにひきつった笑みを返す。
「いやあ、遅くなってごめんねー」
「おい、メインヒーラー。聞きたいことがあるぞ」
「そうだな。……その手に巻いてるものはなんだ?」
クローベルの両手には包帯のようなものが巻かれていた。もっともそれは、怪我をした部分に巻くものではなく、怪我をしないために巻くためのものである。
どう見てもバンデージだった。
「取っちゃった♥」
「「お前www」」
メインヒーラーが拳闘士になっていた。
前話と比べて文字数の差がヤバい……w。もう少しまとめて1話を長くするべきな気もしてます。