風属性魔法の時間
「……このように、風属性魔法士だけでなく、ほとんど全てのジョブには派生ジョブが存在し、派生ジョブを修得することで、そのジョブの中でもその系統の能力が大きく上昇する。裂風属性ならば斬撃系の風魔法、疾風属性ならば移動系の風魔法といった具合に対応している。
ジョブレベルが20になれば、各修練所のジョブマスターがその派生先を示してくれるぞ。新規ジョブ習得扱いになるので、通常のジョブ習得と同様にネリーが必要になる点は注意だ」
あまり多くのジョブを取りすぎれば、上位に派生するのが金銭的に難しくなる。そう話をしているのは、金髪のエルフの女性だった。つり目がちな目は気難しい印象を受けるが、その口元はニヤリと悪戯そうに笑っている。
「新しいジョブを習得する方法は知っているか?」
「はい、一応……」
「修練所でネリーを払えばジョブを習得することができる。その値段は最初は500N……お前はすでにジョブを2つ持っているので次から1000Nだな。そこから、3つ目のジョブなら2000、4つ目のジョブなら4000と倍の金額を払う必要がある。
例えば風属性魔法士をレベル20まで上げ、烈風魔法士、突風魔法士、疾風魔法士の3つをこの修練所で修得したとしよう。そうなると、疾風魔法が1000ネリー、烈風魔法が2000ネリー、突風魔法が4000ネリーだ。だが、さらにお前は光属性魔法も使いたい、と考えた。すると、その修得に8000ネリー、その派生ジョブに16000ネリー、派生ジョブをもう1つ取れば32000ネリーだ。このように、多くのジョブに目移りするのは、私はおすすめしない」
「あの……そろそろスキルを教えて頂けると」
「む?こういった話は重要だぞ?初期金額は1000ネリーだが、初期レベルで1000ネリーをモンスターを狩って集めようと思うと案外かかる。だからこそ、最初の未来設計は重要だ。新しいジョブを取るのは最初こそ財布の負担が少ないが、考えなしに増やすと、上位に派生することができないなどの問題に」
「わかりました!わかりましたから!」
話の長いエルフだった。無理やり話を切ったケイディアにエルフの女性は眉を寄せてムッとする。
「弓を背負っているところを見ると、弓兵のジョブも取っているのだろう?弓の修練所のマスターはアーチと言うのだが、彼女は大雑把な部分があり、こういった説明は不得意だ。だからこそ私は心を鬼にして、このように長い説明をしているのだ。感謝してくれても良いのだぞ?」
「あー……そうなんですね。すみません」
「まあ私の話が長いのは昔からであって、決して無理をしているわけではないが」
「ですよね!むしろ嬉々としてやってますよね!?」
説明をしている姿は生き生きとしており、心を鬼にしているという言葉とは程遠かった。
風属性魔法の修練所にやって来たケイディアに、風属性魔法士のジョブマスター、ウィンガーナと名乗ったエルフは、風魔法の修練をするために来たことを告げると、この世界の魔法の歴史から懇切丁寧に教えてくれた。
「仲間との待ち合わせもあるんで、サクッとスキルを教えて貰っていいですかね」
「ふむ、そうだったのかすまない。まあ私も建国歴史などの無駄知識を披露して満足したし、良いだろう」
「今無駄知識って言いましたよね!?」
「冒険をする上での知識としては無駄知識であることは否めないが、全てが全て無駄というわけではない。無駄は人生を豊かにする。例えば、冒険の途中で古代の魔術の形跡を発見することもあるだろう。私がまだここに留まらず世界を渡り歩いてた頃、とある遺跡を調査したのだが」
「もうお話はいいですから!」
おっとすまない、と全く悪びれる様子もなく、ウィンガーナはようやく風属性魔法士のスキルの話に移る。
「強風を吹かせる『ハイウインド』、かまいたちを飛ばす『ウインドカッター』、風の矢を飛ばす『ウインドアロー』、移動能力に補正をかける『フェザーステップ』、高く飛び上がる『ハイジャンプ』、癒しを与える『ブリーズヒール』、そして突風を封じ込めた気弾を作る『ブラストボール』。
ここで教えてるのはこれだけ……ああ、『ブリーズヒール』と『ブラストボール』はジョブレベル10のスキルだからな」
ケイの視界に5つのスキルを習得したことが表示される。
「以上だ」
「以上だ、って……え!?これだけですか!?スキルの説明は!?」
「ふむ、私の話を聞きたいというならやぶさかではない。だが、私のスキル説明は長いぞ?」
「すみません、やっぱりいいです」
話が長い人の言う長い話など聞いていられないとばかりにケイディアは断り、修練所を出ようとする。
「ああ、待て。1つ有用なテクニックを教えてやろう。お前、詠唱システムについては知っているか?」
「……えっと、スキルの前に詠唱を挟むことで威力とかが上がるってやつですよね」
「おお、よく知っていたな。なら、それがモーションでも補正がかかることを知っているか?」
「モーションで補正?」
「そうだ。見ていろ。……『ウインドアロー』」
ウィンガーナがまずスキル名のみで魔法を放つ。
「お前の武器を少し借りるぞ。……『ウインドアロー』」
続いてそう言ってウィンガーナはケイディアの背中から弓を抜き取り、矢も番えずに構え、同様にスキルを唱える。
そうして放たれた風の矢は、先ほどのがダーツの矢程度のものであったのに対し、一般的な弓矢程の大きさになっていた。
「このように、魔法を放つ際のモーションでも威力に補正がかかる。剣の振りに合わせて『ウインドカッター』を唱えれば飛ぶ斬撃を演出することもできる。実際の剣や矢で攻撃するより威力は出ないがな」
「なるほど。でも、矢が尽きても攻撃できるのは助かります」
「ああ。ここから先はお前の想像力次第だ。お前の冒険がこの大地に新たな風を呼び込むことを願っているぞ」
たまには私の話を聞きに来い、と不敵に笑うエルフにケイディアは苦笑いを返し、その場を後にした。
設定を詰め込むと長くなりますね。まだパーティ揃っても無いのになぁ……。