弓の修練所
ケイディアは1人でイトリスの通りを歩いていた。
各自で修練所を周り、基本的なスキルを教えてもらおう、という話になったためである。
通りには多くの露天が並び、ところによっては野菜を売っていたり、果物を売っていたり、魔物の肉を売っていたりと冒険に関係の無さそうな物も置いている。
やがて、武器系ジョブの修練所が集まる区域にたどり着いた。
「すみませーん」
「はいいらっしゃい。お、新米弓兵さんだね。修練に来たのかな?」
ケイディアの声に振り向いたのは弓を背負った軽装の女性だった。褐色の肌に赤い髪で健康的な雰囲気を演出している。
「はい。基本的なスキルを教えてもらおうと思って」
「おっけーいいよ。習得者ならお代はいらないよ。私はアーチ。弓系ジョブ修練所の所長、ってとこだ。よろしくね」
「あ、はい。ケイディアです」
本当にNPCか?と疑うほどの自然な動作での自己紹介を行うアーチ。伸ばしてきた手を取り握手を交わす。
「じゃあケイ君って呼ぶね。私のことはアーチでも所長でもお姉さんでもなんでもいいから」
そう言ってアーチは修練所の奥へと進んでいく。それに続き奥へと進むと、学校の弓道場のような部屋に出た。ただ、一般的な弓道場とは違い、的までの距離はバラバラだ。
「えっと、ケイ君は7レベルの弓使いか。この世界には来た所かな?」
「はい、そうです……なんでわかるんですか?」
「私ぐらいの弓使いになれば、どれだけ弓を使ってるかなんて一目でわかるよ」
ニッと笑いながらアーチは答える。なお、スキルレベルが一目で分かるのはNPCだからである。
「7レベルってことは、もう1つは何のスキルを取ったんだい?」
「風属性魔法を」
「ふむふむ。なるほどね。オーソドックスな魔法弓士って感じだね」
じゃあまず基本的なスキルを教えるね、と背中から弓を下ろし、的に向かって構える。
「『ノーマルシュート』」
そう言って放った矢は、緑の軌跡を描きながら、的に命中する。
「『ターゲットシュート』」
同じように緑の軌跡を描いて飛ぶ矢。先に放った矢は中心から少しずれたのに対し、2本目の矢は的のど真ん中に命中していた。
「『クイックシュート』」
次の矢は、1本目よりも更に中心から外に外れていた。だが、構えてから放つまでがかなり早かった。
そしてアーチの手本が終わるとケイディアの視界に2つのスキルを習得したことが表示される。
「弓のスキルは、狙いをつける時間が長いほど正確に飛ばすことができるよ。しっかり狙いたい時は、スキルのモーションで手を離さずにそのまま狙いを絞るのも1つのテクニックだからね」
「へぇ。勉強になります」
「それと、弓のスキルは組み合わせられるスキルが多いんだ」
そう言って、アーチは再び弓を構える。
「『パワーシュート』『ロングシュート』」
そして放たれた矢は最も遠い的を射抜く。今までより遠くの的に当たったにも関わらず、命中時に響いた音は力強いものだった。
「ちょっとわかりづらいけど、今のはダメージアップと飛距離アップのスキルの組み合わせね。あ、今の2つのスキルの習得条件は弓兵レベル10以上だから、ケイ君が使えるのは少し先だよ」
さて、ここからはケイ君の番だよ、とアーチは手招きでケイディアを呼ぶ。
「俺の番ってのは?」
「見てるだけじゃつまらないでしょ?弓兵レベル5のスキル『ラピッドシュート』と『トリプルシュート』をあの的に向かって撃ってみて。スキル名を言ってモーションアシストに任せてみよう」
アーチの言葉に反応し、先ほどの様にケイディアの視界に2つのスキルを習得したことが表示された。
「じゃあ『ラピッドシュート』!」
今覚えたばかりのスキル名を唱えると、体が自動的に動き2本の矢を番える。そして同時に放ったはずの矢はどういう原理か、直線上に並び、たて続けに命中音を響かせた。
「今のが『ラピッドシュート』。連射のスキルだね。最初に見せた3つのスキル以外は基本的にMPをちょっと消費するから、魔法も使う場合は注意してね」
「あ、ほんとだ。減ってる。えっと『トリプルシュート』!」
次は3本の矢をつがえる。さっきまでと違うのは、弓を横向きに構えていることだ。そして放たれた矢は左右と正面に分かれて飛んだ。
「……3WAY弾ってことか」
「そうそう。縦に構えると縦向きに分かれて飛ばすこともできるよ」
縦向きはあんまり使い道ないけどね、とアーチは苦笑する。
「私がここで教えるスキルはこれで全部、あとは君の想像力次第ってとこだ」
「想像力ですか」
「この世界は君たち冒険者の想像力で回ってる。ケイ君の想像力が、この大地に新たな光をもたらすことを祈ってるよ」
ジョブレベルが上がったらまたおいで、と言うアーチに別れを告げ、ケイディアは弓の修練所を後にした。
区切りがなくていつもより長くなりました。
……今までが短かったんでしょうか?