反省会とこれから
そして彼らはイトリスの町に帰ってきた。
「さて、あっさり全滅したわけだが」
「だからレベル上げからしようって言ったじゃん!?」
「まあまあクロちゃん」
ケイディアはダングルスに食いかかるクローベルを苦笑して諌める。
1匹はクローベルが杖で殴り倒すことができたが、その間に男二人は死亡。あとは囲まれてフルボッコである。
ちなみにデスペナルティだが、次のレベルまでの経験値が半分飛ぶことと、キャラレベル×3分間のパラメーター減少である。このパラメーター減少はお金を払えば治すことが可能だ。
「ゴブリン自体はそんな強すぎるわけでも無かったんだが、ケイが接近されると弓が使えなくなって攻撃手段が半減するのは問題だな」
「MP管理もしっかりしないと魔術師も案山子になるしなあ」
「それに関しては本当にすまなかったと思っている」
その場でダングルスが土下座した。
「私としては攻撃手段無いのがストレスなんだよねえ。白魔法の攻撃魔法!……無いかー」
「スキルは発現せずか。白魔法士は完全ヒーラー向けって話だからなあ」
「ほんとに何故クロちゃんが白魔法士を取ったのか」
「それな」
「喧嘩売ってるのね?」
ダングルスに並んでケイディアも土下座に加わった。
「やっぱり攻撃できるように新しいジョブ取るべきかな?今のままじゃやること無さすぎるからね」
「白魔法って回復以外無いの?」
「……ジョブ説明には回復のエキスパートってしか書いてないな。傷を癒す魔法を扱う、と」
「うーん……生命力を活性化させることで傷を癒してるなら、その延長で身体能力上昇とかも使えるんじゃ……私天才!」
クローベルの視界に『白魔法士のスキル『バイタルアップ』『パワーアップ』『ディフェンスアップ』『スピードアップ』を思い付きました』と表示される。それぞれ体力、筋力、耐久力、敏捷性のステータスを一時的に上昇させる魔法である。
クローベルは一度に4つものスキルを獲得し、さっきまでの不機嫌が吹き飛びホクホク顔だ。
「技量とか魔力とかのバフは無いのか」
「そこら辺は生命力の活性化では補えないってことだろうな」
「魔力と精神力アップは黒魔法ジョブで覚えそうだね」
黒魔法は、属性ではなく魔力そのもので敵を攻撃するタイプのジョブらしい。無属性魔法などと呼ばれることもある。
「でも、結局攻撃はできないのよね。バフも覚えたし前衛ジョブでも取ればいいかな?」
「なんでメインヒーラーやるってやつが先頭に立つんだよ」
ヒーラー死んだら立て直し効かないんだぞ、というダングルスのツッコミを聞きながら、やはりクローベルはヒーラー向きではない性格だなあとケイディアは思っていた。思うだけで口には出さない。
「でも前衛必要でしょ?」
「そこなんだよなあ。なんとかなるかと思ったけど、敵が案外頭いいからなあ」
「前衛ジョブ取るなら俺かダングルスだろ。スナ……サリミラだっけ?に前衛頼んでもいいと思うけど」
そう言うケイディアにクローベルは首を振る。
「キャラは好きにするって話だったし、みっちゃんだけこっちが決めるのは良くないでしょ。それに私もモンスター殴りたい!」
「後ろの理由が重要なんだな?」
ちなみにみっちゃんは砂川のことだ。砂川美月の『美月』からみっちゃんである。
「殴るって……拳闘士でも取るのか?」
「そんなつもりは無かったけど、いいね拳闘士。神官闘士ならぬ白魔術師闘士ね」
「白魔闘士だな」
なんとなく聞き手に回っていたら、話の流れでメインヒーラーが前衛になろうとしていた。まずい流れを察したケイディアは、待て待てと慌てて軌道を修正する。
「ま、まあ、取るか取らないかは明日サリミラのキャラ決めてからでいいだろ。サリミラが前衛するならわざわざヒーラーが前衛ジョブ取らなくていいし」
「まあ、そうだな」
「えー?」
回復の要が殴りに行く状況なんて、嫌な予感しかしない。
クローベルは不満げだったが、とりあえずは砂川がキャラを作ってから、という話になった。