初めての戦闘
届かない火炎放射に通常の2倍以上の魔力を持っていかれ、無詠唱の『ファイア』が一発打てる程度にしかダングルスのMPは残っていなかった。
「町に戻ったときに回復させとけよ……」
「金がかかるからなあ」
ちなみにMPは時間経過で徐々に回復する。全回復させるためには宿屋、ではなく、教会に寄付金を払うか、酒場などにいる出張回復士に同額の料金を払うことでLPも含め回復してもらえる。
余談だがログアウト状態でも回復し続けているので、魔力が尽きたタイミングでゲームを終えるのが効率がいい。
などと話しているうちにも、ゴブリンはどんどん近づいてくる。その間にケイディアは更に2発の矢を放ったが、それも回避されてしまった。
「当たらねえ……」
「動いてるんだから偏差射撃じゃないと!」
投げかけられたクローベルからの言葉にハッとする。そのクローベルは攻撃手段がなく後ろから見守るだけだ。
「なるほど!」
「いや、向かって来てるんだから偏差も何もないだろ」
「……なるほど」
そう言っているうちにゴブリンは魔法の射程に入ってくる。ダングルスは再び杖を構えた。
「今度こそ俺の炎を受けるがいい!『ファイア』!」
ブスン、と杖の先から煙が出る。
「今のは……?」
「……話してた部分が詠唱扱いになったらしい。MPだけ全部持ってかれた」
「このポンコツぅぅ!!」
どうやらMPが足りないと不発になった上に全て消費されるらしい。勉強になるなー、と言いながらダングルスはクローベルに罵倒されていた。
「だけど、この距離なら!『ターゲットシュート』!」
「グギギャ!?」
ケイディアがスキルを使い放った矢は、ゴブリンの肩に当たり一瞬動きを止めるが、一発で仕留めるには至らなかった。他の1匹がケイディアに一気に詰め寄り、走ってきた勢いのまま持っていた木製の棒で殴りかかる。
「痛っ……くはそんなに無いけどHPが!」
「おおう、体力の減りが激しいな」
頭の上にHPバー、ではなくLPバーが表示され、そのうち3割が削られていた。攻撃を受けた場所に痛みは無いがピリピリとした感覚がある。
また1匹、ダングルスに襲いかかる。ダングルスはゴブリンの攻撃を持っていた杖で受け止めた。だが、それでもLPバーが少し減少する。
「『ヒール』!『ヒール』!」
「おう、サンキュー!」
2人に回復を飛ばすクローベル、だが、回復を使ったことにより、ゴブリンのターゲットが向いた。矢を肩に刺したままのゴブリンがクローベルに襲いかかる。
これでゴブリン1匹に対し、ケイディア達が1人で戦うという状態になった。
「痛っ!弓が構えられねえ!」
「んー、魔法使えるMP貯まるまで耐えきれる気しないなあ」
「ちょっとぉ!?これってジリ貧じゃないの!?」
構えようとすると殴られて弓が使えないケイディア、MP0の魔術師ダングルス、回復しか覚えてないクローベル。3人とも攻撃手段が無かった。
「いや、策はあるぜ!たった1つだけ策はある!」
「……とっておきのやつか」
「私もこの前読んだけどさあ……」
ダングルスは2人に視線だけで合図を送る。そして
「逃げるんだよぉ!!」
脱兎の如く逃げだした。
逃げるときのお約束。そしてプロローグへ