小鬼の軍団
イトリスの町の門を抜けると、そこには草原が広がっていた。見たこともない鳥が飛びかい、遠くに見える山には雲がかかっている。
「おお……ファンタジーって感じがする」
「ここら辺はプルプルっていう某スライムみたいなのしかいねえから、森まで行ってみようぜ」
そう言ってダングルスは正面に見える森を指差した。
「城の回りでレベル上げが王道なんじゃないの?」
「さっきちょっと戦ったんだけど、プルプルって動く的程度のモンスターなんだよ。退屈すぎた」
「弓の練習には使えそうだな。まあパーティ組んでるし、ちょっと難し目でレベリングしたほうが効率いいだろ」
「そうかなぁ……」
渋るクローベルを連れ森に入っていく。
「……虫系モンスターとか出そうだね」
「うええ、ファンタジーの虫系ってリアルの虫をでかくしただけだからなあ。脚とかカサカサ感が苦手なんだよなあ」
「この森の序盤は推奨レベル2で、ゴブリンとか森プルプルとかが出てくるらしい。虫系モンスターはもっと奥だな」
やっぱりいるのか、と肩を落とすケイディア。そんな会話をしながら、少しずつ奥へ奥へと入っていく。
「モンスターが出ないねぇ……」
「そうだな……。誰かサーチ系の魔法とか使えないのか?」
そう言ったダングルスの声に反応したのかケイディアの視界に『風属性魔法士のスキル『サウンドピック』を思い付きました』と表示される。名前からして、周囲の音を探る魔法だろうとあたりを付ける。
「聞いただけでも思い付くのか」
「そうなのか?まあなんか覚えたなら頼む」
「わかった。『サウンドピック』」
そう言ってケイディアは耳を澄ませる。すると右手側の木々の奥から鳴き声のような何かが聞こえてくる。
「あっちに何かいるみたいだ。鳴き声みたいな音が聞こえる」
「スライムは鳴かないしゴブリンかな。行ってみようぜ」
なるべく木々に体が隠れるようにして少しずつ音のほうへ近づいていく。先頭はダングルス、その後ろにケイディアが続き、最後に着いてくるのはクローベルである。
やがて、見えてきたのは赤黒い肌をした3匹の小鬼の姿だった。ゴブリンである。
まだケイディアたちには気付いておらず、こん棒のような武器を横に置き、グギャグギャと鳴き声なのか会話しているのかわからない声を発している。
「いたな。3匹」
「いきなり3匹はきつくない?」
「先制で1匹削れば3対2だ。ケイ、頭狙って弓使ってみろよ」
「……わかった」
ケイディアにとっては初めての戦闘である。矢筒から矢をとり出し、弓につがえる。そして引き絞り
「あっ、スキル使えよ!」
「あ」
間の抜けた声と共に放たれた矢は、ゴブリン3匹を飛び越え、背後の木に命中した。
初めての割にはちゃんと飛ばせた、などと感慨に浸っている暇もなく、こちらに気付いたゴブリンたちは、置いてあった各々の獲物を手に取り、走り寄ってくる。
「ケイくんって時々うっかりだよね」
「時々?割りと、だろ」
「そうだよ俺が悪いんだよ」
ゴブリンたちとはまだ距離がある。ケイディアは再度矢をつがえ、ダングルスは杖を構えた。
「炎よ走れ!『ファイア』!」
ダングルスが唱えると、杖の先端から炎が放たれる。だが、その炎はゴブリンに届く前に消えてしまう。
「あっ!思ったより射程が短い!」
「火炎放射なんてそんなもんだろ『ターゲットシュート』」
そう言って放ったケイディアの矢は、さっきまでゴブリンがいた場所を通りすぎていった。
「回避されてるじゃん!私攻撃手段ないんだから2人とも頑張ってよ!」
「矢は見てから回避される距離だなあ。頑張れダングルス」
「すまん、あと一発分しかMPない」
「「は!?」」
詠唱つきで魔法を放つと普段よりも魔力を消費する。ケイディアたちがくるまでに少し遊んでいたダングルスの魔力は気付けば殆ど残っていなかった。
次回はオチが見えてるバトルになります。やっとプロローグまでこぎ着けそうです。