プロローグ
この世界には8つの大陸がある。そのうちの一つ、第4大陸の中で最も大きな街イトリス、その南側には小さな森がある。
そして、いくつかの影がその森の中を走っていた。
影は6つ。大きな影のあとを小さな影が追っていくように駆けていく。
「おい!撒いたか!?」
「まだ追ってきてる!」
「なんであんなの相手に逃げないといけないのよー!」
大きな影の内訳は、男の声が2つ、女の声が1つ。木々の間を縫うように小さな影から逃げていた。
「ギギャギャギャグギャ!」
「ギャギャグギャギャギャギ!」
「ギギギャギャー!」
それを追う小さな影も3つ。グギャグギャと奇声を発しながら追ってくる。こちらは奇声を発するだけで聞き取れる言語を喋っていない。小柄な体で器用に追っているが、体格の違いからか、追う影のほうが少しずつ離されて行っているようだ。
「これ、他のプレイヤーに会ったらMPKになるんじゃないか?」
「ゴブリン3体でMPKだって怒る奴もいないだろw」
「笑ってる場合じゃ――」
――ガサッ!
走る大きな影、3人の人間の前に、不意に1つの影が飛び出してきた。
「ギギャギャー!」
「っ!?」
目の前に飛び出した新たなゴブリンを前に、逃げる方の影の1人、黒髪の少女がたたらを踏んで立ち止まる。
「黒瀬!?」
「まずいっ!」
立ち止まった少女に、男2人は振り返る。
「ギギャギャギャ!」
「ちっ!《ターゲットシュート》!」
片方の男が弓を構え、矢を放つ。その矢は緑色の光の軌跡を描きながら飛び、ゴブリンの背中に突き刺さった。
「グギャー!?」
「このっ!このっ!」
弓矢一発では倒しきれなかったが、黒瀬と呼ばれた少女が持っている杖で2回殴ると、ゴブリンはエフェクトと共に消滅した。
「ケイ、ナイスフォローだ」
「……だけど」
だが、逃げていた3人は今立ち止まっている。それは追ってくる3体のゴブリンに追い付かれることを意味していた。
「グギャギャギャギャ!」
「ギギャ!ギギャ!」
「ググギギャー!」
「ギギャギャギギャ!」
「なんか増えてない?」
「逃げてるうちに釣れたんだろうなあ……」
「しかもスリングゴブリンだな。飛び道具使ってくる奴」
半円状に囲まれており、これ以上逃げるのも厳しそうだ。一度逃げた以上警戒されているだろうし、例えうまく逃げ出したとしても、またさっきのように新たな敵とエンカウントすれば絶望的だ。
「3体相手に逃げて4体と戦うって矛盾してないか?」
「ケイそれは違うぞ。さっきは逃げるという選択肢があったが、今回は無いんだ」
「初戦で死に戻りは嫌ー!」
立ちはだかる4体のゴブリンを前に3人は武器を構える。
その後、4匹の魔物を前に、3人のパーティはあっけなく全滅した。