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   その六

 ――親戚。


 なんだか不思議な心地がした。

 獣族は蒼き国のように閉鎖的な種族だ。あまりほかの種族のもとへ嫁いだりしない。

 セラフィックの話では、戦いに敗れ、深手を負った華王を癒したのがのちの王妃になる娘だったらしい。娘を気に入った王は周囲の反対を押し切り、異民族の娘を王妃として迎えてしまったという。

 そのときの光景を思い浮かべると、獣族の激昂がまざまざと思い浮かぶようだった。

 母や父からなにも聞かされていなかったことをふまえると、その時点で絶縁状態になっていたと思われる。娘がいたという記録すら消し去ってしまったのだろう。

 祖母の妹がここに住み、暮らしていたかと思うとなぜかわからないが、温かいものがこみあげてきた。

 獣族とほかの種族では生活習慣がまったく違うから、娘にとってここでの生活は決して楽ではなかっただろう。

 けれど、敵国から攻め入られたときに獣族らしい活躍をみせ、人々の心をとらえたという王妃の話を聞くととても誇らしかった。彼女は、(あかつき)の王妃と呼ばれ、華王とともに今も親しみを込めて受け継がれているという。

 シーファスに王妃の肖像画を見せてもらったが、カルアと同じ青灰色の髪に紫水晶の瞳を持っていた。

 二十くらいの年齢のものらしいが、とても美しい女性であった。楚々とした、洗練された物腰でこちらを大きな目で見つめていた。目の強さだけが、獣族らしい気高さがあった。


「守る、か……」


 カルアはほんのりと頬を染めた。

 そんなことを言われたのはナディア以来だ。

 親類と聞いてから、カルアの心にも変化が現れた。

 それはずっと探し求めていた存在だったからだ。

 王家と繋がりがあると思うとなにやら畏れ多い気持ちにもなったが、獣族の血が途絶えることなくほかの地で受け継がれていたのかと思うと、あの冷たい眼差しのゼフィストだって好きになれそうな気がした。

 三人とも母が違うらしいが、長男のゼフィストは母の身分が低く、正妃の子である次男のセラフィックが王となったらしい。第二王位継承権は貴族の母を持つシーファスにあるという。

 血を尊ぶこの国では、生まれた順番などどうでもよいのだろう。

 獣族だったら、身分など関係なく、長子が尊ばれるものだ。

 そんな違いに気づくたびカルアは思うのだ。暁の王妃がどんなに苦労していたか、と。

 つらつらと王妃について思いを巡らせていたカルアは、双月を眺めながらため息をついた。

 セラフィックはカルアが獣族の者だから最初から好意を示してくれたのだろう。まだカルアが獣族であるということは公にされておらず、もしカルアが獣族の娘であることを知ったのなら、蒼き国の民は歓迎するだろうといっていた。

 カルアが伝導師として人を殺した事実を知りながら、それでも受け入れてくれるのだろう。それほどまでにこの国を救った暁の王妃をみんな愛しているらしかった。

 とても優しいとは言い難いここの国の者が手のひらを返してくれるのは嬉しい。

 ここに住めたのならとても楽しいのかもしれない。

 すでに帰る場所を失ったカルアにとって、とても心休まる地となろう。

 けれど――。

 カルアは懐から硬貨を取り出した。ナディアの顔が描かれた硬貨だ。

 それを双月の明かりに照らし、真剣な顔で見つめ、物思いにふけるのだった。


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