崩れる記憶
静寂を壊すのは僕の足音と、呼吸音くらいだった。
ぴりぴりと張りつめた空気のなか、たどりついた1年生の廊下も赤黒いものによりあちらこちら汚れている。
ここまでたどり着くまでに、何ヶ所も血らしきものがこびりついた壁や床があった。
だけど、おかしなことにその血を流したであろう人物はどこにも見当たらなかった。
僕のクラスである1年B組まで、E組から見てきたが誰もいなかった。
A組も同じだろう、そう容易に想像がついたため僕はA組は覗かず自分の教室へ入った。
入った瞬間、妙な違和感を感じた。
他の教室と同じ感じに乱れた机と椅子をざっと流し見て、次に室内全体へ視野を広げた。
様々な掲示物がはってあるのだが、それが僕の記憶にあるものと違う。
不思議に思い、クラスを確認してみると、やはりここは1年B組だ……
頭の中を疑問符で埋めていると、突然悲鳴があがった。
「誰か、誰か助けて!!!!」
何かと揉み合っているような声に、とにかく助けなくてはと慌てて教室からでようとしたときだった。
ガタン。
すぐ近く。そう、A組の教室で何かが動き机かなんかにぶつかる音がした。
人がいたのか……自分と同じように悲鳴をあげた女性を助けようと動き出したのかな。
そんなことを思いつつ、廊下を見て僕は動きが止まった。
ぽたぽたと首から血を流した、女子生徒が悲鳴のあがった方へかっくん、かっくんと歩いていた。
血走った目が狂気に満ち溢れていて、口からは唾液が溢れでている。
声をかけても、音をたててもいけない。
本能がそう叫んでいて、指一本さえ動かせずにいると再度、悲鳴があがった。