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僕がキノコを食べた日  作者: Eco-d
樹編 こんにちわのげぇむ
4/8

パニパニルール

 その後の二ターンは両者ともに駒を進めるだけだった。


 グランディは最初に作成したユニットを限界まで動かした。とは言ってもキノコ族の中でも特に大きな身体を持ち、筋金入りのパワー型である彼女は自身の体力と攻撃力を限界まで高めるために移動力を犠牲にしている。


 そのため彼女が自ユニットを進められるのは、一ターンにつき一マスのみだけだ。


 それに対してスピード型であるチャミィは、攻撃力こそ高くはないものの、一ターンにつき四マスまでと言う優れた移動力を保有している。

 彼女が限界までユニットを動かせば、わずか三ターン程でグランディ本体に一方的にダメージを与えることが出来るのである。


 しかし彼女は二番目に生み出したユニットを、わずか三マスしか動かさなかった。さらに直線に進めるだけでなく、少し右にそらして本体の直線上に配置したのも少しだけ印象的だった。


 その位置に置いたら、グランディが進めているユニットとぶつかってしまう。そうなったら体力が本来より少ないその駒だと負けるのは確実なのだから。


 それからチャミィは始めに作成したユニットをこれまた三つだけ動かし、先にいた分身の右斜め前に配置した。


 そこまでを見て、樹はふうむとうなった。もしかして待ち伏せてから同時に相手のユニットを叩く作戦なのか。それなら三マスしか動かさなかったのも頷ける。


 しかし普段のヒットアンドアウェイ戦法を得意としているチャミィらしくない。戦略をよく練ってきたならまだしも、慣れていない戦い方で勝てるのだろうか。


 そしてチャミィの番となる。ちょうど前回の分身から三ターンが経過した。今回はいささか突飛な行動が目立つものの、駒の作成に関しては定石通りに行うらしい。


 続くグランディもユニットを増やすことでターンを終える。


 チャミィは作成したばかりの分身を、ステータスにハンデのあるユニットの左斜め前まで動かした。これで待ち伏せ戦法だということはほぼ確実だろう。


 それに対して、突出していたユニットを一つ前進させた。あともう一回前に進めば、チャミィが待ち伏せさせている陣にぶつかってしまう。


 いくらグランディと言えど、三体からの同時攻撃を受ければ簡単に撃破されてしまうかもしれない。ならば本体の前で待機している個体を応援によこすのが賢いやり方だろう。


 樹はそれからの展開をなんとなく予想しながら、今までに行われた彼女たちの試合を思い起こした。その時々の能力値を参考にすれば、このままではグランディの完封勝利に終わってしまうかもしれない。


 つまるところチャミィの奇抜な戦法は、あっけなく失敗で幕を閉じてしまうのだろう。

 どうなるかと少しだけ期待していただけに、なんだか残念である。


 チャミイは前回のユニット作成から二ターンしか経っていないにも関わらず、そのプリンみたいな髪を振り乱して分身を生み出した。相手が待ち伏せに引っかかるまではあと一マスだけである。


 つまり、今ユニットを動かしてしまうと陣は崩れてしまい、ただでさえ残念な結果が見えている作戦が確実に成立しなくなる。要は時間潰しならぬ、ターン潰しだ。


 髪の隙間から湧き出た胞子は彼女の眼前のマスで人の形をなした。お腹の前に表示されている体力ゲージは、オリジナルの半分ほどだ。


 分身を作成したことによりチャミィのターンは強制終了、グランディの番になる。


 グランディはにやりと口元をかすかに歪めながら、先行しているユニットを一つ進めた。すると目の前には弱体化しているユニット、右斜めと左前方には体力ゲージが本来のユニット。


 もしこれがターン制ではなくてアクティブ制だったら、グランディのユニットはタコ殴りのふるぼっこ。一瞬で瀕死になっていたことだろう。


 しかし幸いと言うべきか、くしくもと言うべきか、これはターン制である。


 このターン、今までならユニットを動かすだけで終了していたのだが今回は少しばかり勝手が違う。つまるところ、グランディのターンは終わらない。


「チャミィ。まさか今までの戦いを忘れたわけじゃないよね?」


 チャミィは何をと言わんばかりに、ハの字型の太眉をひそめた。


「忘れるわけがありませんわ。だけど今回敗北の味を噛み締めることになるのは、あなただとすでに決まっているの」


 グランディは深いため息とともに、呆れたと小さくこぼした。


 それから右手を軽く挙げる。あれは彼女が攻撃する時によくする仕草だ。別に必須だというわけではなくて念じるだけで攻撃出来るため、相手への礼儀を示すためのものだ。


 今までのキノコ族たちが行ったパニパニの様子から見るに、攻撃時に技名を叫ばないだけでも割りと落ち着いている分類なのだろう。


 彼女の動きと連結して、直線上で敵と相対しているユニットが右の拳を握り、腰だめに構えた。狙いはど真ん中の弱体化しているユニットユニットのようだ。


 グランディに毒や猛毒(・・・・)があったなら色々と話は複雑になったのだが、偶然にも彼女とチャミィに毒はない。

 つまり話は非常に簡単だ。


 拳を構えている分身は、攻撃するのを今か今かと待ちわびている様子である。グランディは挙げている右手の指をぱちりと鳴らした。すると分身の身体から胞子が撒き散らされ、分身自体の右拳に収束されていった。


 グランディだけでなくその様子を見ている樹も、静かにグランディの勝利を確信する。彼女は薄く口を開き、ぼそりと呟いた。


「……いけ」


 そのあとに繰り出された分身の正拳突きは凄まじいものだった。やたらと高い攻撃力を誇っているだけはある。チャミィのユニットの胸に直撃すると拳にまとわりついた胞子が弾け、分身の周囲のマスを蹂躙するかのごとく吹き荒れたのだ。


 当然、斜め前で待機していた敵ユニットも胞子の嵐に巻き込まれている。


 しかしこの胞子の激しい流れはグランディだけのものではなく、毒を持たない個体共通のものだ。無毒のユニットが攻撃をした際に、選択したマス以外のマスにもダメージを与えることが出来る。


 ただしあくまで間接的なものなので、直接攻撃したユニットよりもいくぶんか威力が低い場合が多い。


「やっぱり凄いな」


「そうだね、いつもなら(・・・・・)あれだけで全滅しただろうね」


 樹の呟きにヨウコはぼそりと返した。そこには少しだけ含みがあったように感じた。


 さぞがっかりしているだろうと、樹はちらりとチャミィの様子をうかがった。彼女のことだ、いつも困っているように下がった眉尻を、予想外だとばかりにさらにひそめているのだろう。


 その様子は簡単に想像でき、樹は少しだけ笑いそうになった。しかしチャミィは俯いていたため、その表情を見ることは出来なかった。


「残念だったね、でもその発想は悪くはなかったわよ。……チャミィ?」


 グランディの問いかけにも、チャミィはなんの反応も返さなかった。そんなに負けたことがショックだったのだろうか。いや、顔を上げたチャミィの表情から読み取れる感情は紛れもなく満足感だった。あれは明らかに負けた者が浮かべるものではない。


「私の負け? いいえ、残念ながらあなたの負けですわよ、グランディ」


「え?」


 負け惜しみなのか、事実なのか、それは胞子の嵐がやんだことであっさりと判明する。


「なんでまだ体力が残ってるの!?」


 流石に直撃を受けたユニットは消滅しているが、残る二体の分身は瀕死と言えどもまだ行動可能だ。


 いくら威力の劣る間接攻撃でもグランディの攻撃力を持ってすれば、体力が全損していなければおかしいはず。


 想像外の出来事に目を見張っていたグランディは何かを察したのか、はっとしたように声を荒げた。



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