第六悪 楽勝!? 俺様に倒せぬ敵無し!
ほんのりクライマックス。
でも終らないのでご安心(?)下さい。
さて、例によって戻ってきましたマイホーム。時間は午前9時57分。
過去のララルゥ達が出払ってから数分後ってとこかな。
うん。今度はバッチリうまくいった。
「で、シューゴ様。あの二人の家財道具一式の処分は如何いたしますか?」
「そうだな…折角だからアンティークショ…って何言わせんだウジ虫みかん!」
こいつマジでルミエル姉妹を見捨てる気だったな!? なんて女だ!
こいつマジで近いうちに☣18禁☣して☣21禁☣で☣自主規制☣してやらんと駄目だな!
「ったく…何が気にいらねぇんだか…」
ん? どうしたメガデス? 何々…それは、ララルゥが…
ご主人サマの…こごふぉっ!? そこから先は残像すら見える
ララルゥの真空飛び膝蹴りで当のメガデスが
庭先まで派手に吹っ飛んでしまったのでわからんな。
おお、メガデスに馬乗りになったララルゥが殴る、蹴る、引き千切ッ……!
後でジジイのアトリエで直してやるよ…メガデス…お前、人形で良かったな…。
「まぁ、それはさておき…問題は奴の人質にイザベルたちが居るってことだな…」
そいつさえ何とかできれば後は煮るなり焼くなり闘争本能の赴くままだが…。
「それがなければ、あのオーストリア貴族モドキをフルボッコできるわけですね」
紅いエリクシル(『守護兵』にとってのガソリンみたいなもの)まみれの
ララルゥが戻ってきた。それが血だったら軽くホラーだが……。
「シンプルだがそれだけにメンドくせぇ問題だ…」
時計を見れば午前10時を回った…そろそろ過去の俺様達が組み伏せられるころか…。
「脳ミソが煮詰まるぜ…」
色々考えてはみるものの、多すぎる人質が厄介だ。
ちょっと本気出せば楽勝だが、それじゃ確実に死人が出ちまうし…ああ、ままならねぇ!
「はぁ…しょーがねーな…アレで行くか」
こんな時は動いてから考えた方が案外良いと誰かが言ってたし。
で、再び学園の教室前。時刻は午前11時44分。ドアを勢いよく開けます俺様。
「よう、約束(してねぇけど)どおり戻ってきたぜイザベル」
「シューゴ…? まさか…本当に…?」
「むぅ…? さっきのは幻覚か何かだったのかねぇ…?
とはいえ、わざわざ戻ってきたのかい? この僕に斃されるために…? 殊勝だねぇ?」
フッ…テンプレートな台詞使いやがって。
「ファウストさんよ、貴様は調子に乗りすぎだ。
俺様の実力を過小評価してもらっちゃあ困るぜ?」
結局俺様もテンプレートな台詞だ…が、格好良く行くならこれは外せねぇ。
「ふふ…何を言うかと思えば…」
ムカつくなーその顔。が、まぁいい。
おかげでこの場に居るほぼ全ての連中が俺様に注目している。
「ところでイザベル。アレはきちんと肌身離さず付けてるか?」
「こんな時に何を言ってるんですか貴方は!」
とか吼えるイザベルの胸元(うむ、眼福)にはちゃんと
血のように紅い宝石の首飾りが着いている。
そう、「同盟」の証である『コカトリスの血晶石』だ。
うむ、イザベルちゃん。その実直さは俺様素直に好感を覚えるぞ♪
「と、言うわけで全員、注目!」
言いつつ俺様は目ん玉をカッ! と開く。今のところ使える全五種類ある
魔眼のうちの一つ『コカトリスの眼』の発動だ!
こいつは本家同様目が合った奴を最低でも金縛り、最悪なら石化させる物騒な魔眼だ。
「「「!!!」」」
「え…? これは…?」
俺様を注目しちまった操り人形生徒共が固まる。
どうやら石化はしなかったが、ガチッと金縛りにあってくれた。
ありがたい。正直分の悪いギャンブルだから冷や汗モンだぜ。
ちなみにイザベルは首飾りの力で金縛りからは免れ、そのおかげであっさり自由の身だ。
「く……が……なん……だと…!」
おお。バルザートの野朗まで掛かってやがる。
まさかまさかの小役重複ビッグボーナス!
「キタコレ。なんつってな…グハハハハハハハッ!」
さあ、ボーナスゲームだ。時間が許す限りバルザートをフルボッコしてやるぜ!
指をパキパキ鳴らして準備はオッケーだ!
「く…ぬ…が…!」
「ふぁーはっはっはっはっはっは! 貧弱ッ! 貧弱ゥ!
無駄無駄無駄ァ! どれだけ頑張ろうが時間が来るまで貴様は動けんよ?
そんなコトもわからないのかぁ~?」
本家のコカトリスもこうやって獲物を動けなくして捕食する。
その効果も勿論一定時間が過ぎるまでどうにもならない。
イザベルみたいな石化予防アイテムが無い限りな?
「お、の……れ…!」
バルザートの悔しそうな顔といったらもう最高だね。
そしてこういういけ好かない顔立ちの野朗を原型が無くなるまで
ボコボコにできるのはもっと最高だね☆
「あのー…シューゴ様?」
何だよララルゥ、いいところだから邪魔すん…な?
「…なんでお前、ここに…」
言い忘れてたが、ララルゥたちは校庭で大規模な陽動作戦をして
バルザートの野朗の死人共を引き付けている…はず、なんだけど?
「これはちょっと、無理でした♪」
よく見りゃララルゥさんの体には何か丸太よりも
ぶっとくて鱗ざわざわでニュルニュルした蛇の胴体みたいなもん…
というか大蛇が巻きついていませんか?
「ちなみにメガデスは?」
「絶賛孤軍奮闘中です」
Pardon ? 何ですと?
「く…くくくっ…あーはっはっは!」
すげぇムカつく笑い声が背後から聞こえるね! 金縛り終わっちゃった?!
「備えあれば何とやら…マリリエルさんに借りた
『夜の大蛇』が役に立ちましたねぇ!」
なんちゅうもんを借りてんだこの野朗! うおお!? 鳥肌が止まらねぇ!?
「……ぐぬぬ…」
ボーナスゲームは何も獲得できず終了。んでもって振り出し。
つか最ッ低な状況だね!
「一時は少し焦ったが、やはり君は君だね。クロアミくん?」
あの野朗、俺様が嫌いなモノも何気にリサーチ済みだったとは。
動いてさえいなけりゃ、別にどうってこと無いが、大蛇は反則だろう?
(自分の事棚に上げてます)
「四面楚歌ですね、シューゴ様」
大蛇に巻きつかれて身動き取れない分際でそんな事をほざくなララルゥ。
つかこんな状況でも俺様の窮地を楽しもうとしてないかこいつ?
いや、基本無表情だから内心は全く持ってわからんが。
にしてもサービスカットはいいんだが、チョイスが間違ってる。
ここはララルゥなんぞではなくイザベルかユリエルちゃんだろ?
いや、ララルゥも可愛いっちゃ可愛いけどさ…。
「……こんなことなら、あの時トドメを刺しておけば…」
噂したイザベルはイザベルでそんなコト言ってる。
まぁ、それはしょうがねぇか☆ …って楽観してる場合じゃねえよ。
「さて、いろいろあったが、楽しいお遊びはここまでにしようかねぇ?」
バルザートの野朗の足元にはあの時見た魔方陣が光ってやがる。いよいよヤバイな。
「……ったく、いちいち仰々しい野朗だ」
「ふふ…次はどんな悪あがきをしてくれるのかねぇ?」
「………」
随分なことで…どれ、ちょっと調子付かせられるかどうかやってみるか?
「なぁファウストさんよ、『叫喚の霊帝』とまで言われたあんたが
何でそこまで俺様に拘るんだ? 別に先祖代々の雪辱とかもういいだろ?」
「………!」
うわ、めちゃめちゃ顔が歪んだ。言葉間違った?
「ふ、ふふふ…そうだねぇ…折角だから聞かせてあげるよ。
冥土の土産にでもするがいい」
と、バルザートの野朗は俺様のご先祖様と自分のご先祖様との因縁を、
延~々~長~々~と語りだすわけだが、
マジ長い、どうでもいい、ウザい、臭いので、割★愛。
「と、いうわけさ。理解できたのかねぇ?」
「……んが?」
と、いうわけだから舟漕いでた。うへ、バルザートの野朗がすげぇ形相だ。
「…だから君達の一族は嫌いなんだよッ!」
うお!? きついの一発。腹に響くぜ。
朝飯に喰った……ぐえ、想像したら余計戻しそうじゃねぇか…。
「…初代は爆死したんだから二代目以降もしょーもないのは当然か?」
喋りながら結構血反吐が出てます。内臓が軽くイッてるなこりゃ。
「君はスキモノなのかねぇ…!」
蹴られまくりなのは皆さんお察しの通りだ。
正直もうあんまり痛くない。つまりマジでヤバい。
「バルザート…もう、いいでしょう?! これ以上やる必要なんて無いはずなのに!」
イザベルは優しいなぁ。どこぞのウジ虫みかんとは豪い違いだねっ。
「………っ!」
と、思ったらララルゥさんはすげぇ下唇噛んでます。
無表情だから悲しみなのか怒りなのか笑いなのか、
とにかく何を堪えているのか分かりません。
あ、よく考えたらこいつが普通に泣いたり笑ったりって顔をまともに見たことが無いぞ。
そういや初めて会った時は無表情は無表情でも強張ってる無表情だったな。
うむ、実に初々しい…ってあれ? これ、もしかして走馬灯? 違うか(苦笑)
「ふ、ふふ…イザベルさんの言うとおりかねぇ…
これ以上は確かに君の心を抉ることも出来ないだろうし…と、言うことで」
そう言ってバルザートの野朗は操り生徒らにアイコンタクト…違うな、
顎で使うというやつだ。んでもってそいつらが………ッ!!
「…テメェ…! 何する気だ!?」
「どうせだから君達のお気に入りのこの娘からアンデッド兵にしてあげるよ」
「「!!」」
あのクソ野朗が! よりにもよってユリエルちゃんを! クソが! マジ殺してぇ!
「そんな…! やめて…! それだけはやめてバルザートッ!?」
「貴様ァ…!!」
「いいじゃないか? どうせ最後は皆同じようになるんだしねぇ…!」
ちくしょう…蹴られすぎて余計に動けねぇ…。別に俺様はいいんだ。
恨み買って生きてくんだから、悲惨な死に方も覚悟してる。
けど、ユリエルちゃんは違うだろ…!
「やめてぇッ! バルザート! ユリエルだけは…! 妹だけは許して!」
「何を言っているんだイザベルさん? 君だって十分議会に対する裏切り者じゃないか?
であれば君の家族とて同罪だよねぇ? 僕は間違った事を言っているのかねぇ?」
あのクソ野朗! とうとう詠唱を始めやがった!
俺様が美少女の危機を演出するならまだしも、この状況マジで、
Fuck you asshole!“ふざけるなバカ野朗!” だ! このクソが!
「テメェ…ユリエルちゃんに手を出しやがったら、マジで諸共に殺ってやんぞ!」
今回の俺様は割と本気だ。こいつを人間とカウントしなきゃいいんだからな。
「ほう…? では是非ともそうしてみてもらえるかねぇ?」
もうこんな奴にかける言葉なんぞ無い。
「やめてよぉ…ユ、リエルは…ユリエル、は関係、ないのにぃ…」
イザベルが滂沱の涙…あの野朗の首を捻り切ってやる…!
「ん…うぅ…? お姉ちゃん…?」
最悪。ユリエルちゃんが起きちゃった。俺様は相当に神仏とかに嫌われているな。
「あはははははははははっ! 最高だ! 最高だねぇ!
先祖代々の屈辱をこんな形で晴らしてフィナーレなんて! あはははははははっ!」
逆にイザベルは奴の馬鹿笑いで気を失った…この野朗、絶対殺す…!
「あれ…何ですかこれ…? 体…動かない…?」
「さぁ、目が覚めたと同時にめくるめくノスフェラトゥの世界へご案内だ!」
ファウスト…! 殺シテヤル…!
「?! …シューゴさん!? その顔…! それに…お姉ちゃん…!」
「心配しなくてもいいさ、後で君のお姉さんも
そこの這い蹲ってる血達磨も同じようにしてあげるからねぇ!」
――ナニヲ、シテイルノデスカ? アナタハ? ――
絶対に殺………あん? 今の奇妙なキーの声は誰?
あれ? 何か揺れてないっすか?
「…へ?」
「何ヲ、シテイるノカと、聞イてルノデす、貴方ニ」
「…ぼ、僕なのかねぇ!?」
ちょ、待っ…何かゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッって聞こえるんですけどッ!?
てかもう分かったけど、奇妙なキーの声の主はあの可愛らしい声からは
全く想像付かないユリエルちゃんから出てないっすか? ってぬを!?
そこかしこから極彩色に輝く球体がふよふよと出てきた!
「な…? 何だこれは…! クロアミ!? 今度は何をしたのかねぇ!?」
いや、そこで俺様に聞くなよ…えー、察しのいい皆さんは
とっくの昔にわかってたろうと思うが、念のため言っておく。
今、色んなトコからふよふよモサモサわっさわっさ~、
と出てきているのはユリエルちゃんが使役していると思われる精霊でございやす。
「えー…どぅーしよっかなぁ…?」
他人が困る顔を見ると更に困らせたくなるのは俺様の悪い癖だね☆
「くッ…だが! もう遅…えええええええええ!?」
遅くなかったようだな。だってほら?
あの野朗の魔方陣をむしゃむしゃと精霊ちゃんが喰ってますよ?
てか精霊って怖え。喰ってる時の姿が表現できないほどグロい。
「人ノ話は、聞くモノでス…そウ、教わっタでショ?」
「ひぃ!? ちょ、クロアミ君? この娘、こんな印象でしたかねぇ?」
「違うといったらどうすんだよ?」
「……くッ…こうなったら手駒たち……えええ?!」
気が付けば周りの生徒どもはぐっすりお休み中。
ったく! どいつもこいつも朗らかな寝顔しやがって…。
「ま、まだ『夜の大蛇』…………うぷ……」
いやー、こっちはこっちで魔方陣よりどえらい事になってますな。
うげ…ロメロさんが良い意味でショックを受けそうな状況だ…。
まぁそれでララルゥが自由になってますが。
「反省と言フ言葉ヲ、ご存知ですカ?」
「ぎゃああああ!?」
腰を抜かしかけたバルザートを見てゲラゲラ笑ってたから、
何気なくスルーしていたが、ユリエルちゃんは浮いてます。
んでもって眼の焦点が合ってません。そして口元が微笑んでます…
ちなみに俺様は笑いつつも引きつってます。
「『精霊の娘』…なるほど、
ユリエル様の異名はこの為にあったのですね」
「いきなり耳元で喋るな。今回はマジで心臓に良くない」
そういえばユリエルちゃんの事は何も調べてなかったな。
「ほう…もしやとは思っていたが…」
ここは知ったかぶる。ご主人様の意地だ。
後でしっかり調べときゃ裏付けも出来るし。
「未確認情報ですが、精霊は十三系統のうち、十二の精霊と契約しただけでなく、
名のある英霊や神霊とも数多く親交があるようです。
究極超人ってヤツですね。シューゴ様」
ほお…ユリエルちゃんはいわゆる超天才召喚術師か。
「く、来るな来るな来るなぁ!」
バルザートの奴は滅多矢鱈に魔法をユリエルちゃんに向けて放つ…
しかしそんなもんは片っ端からむっしゃムッシャくっちゃクッチャと
精霊たちに喰われる。素晴らしい悪循環。
「……謝るコとも…デきなイのでスか?」
魔法は無駄と判断したバルザート。何処から出したか知らんが、
当たったら洒落にならない棘付き鉄球をユリエルちゃんに目掛けてブン投げる。
流石に精霊はこれには…って!
「危な…!」
顔面に鉄球が…! って素手で普通に受け止めた!?
あの体育であわや大惨事になりかねない自爆を引き起こしたユリエルちゃんが!?
「……ソう…ですカ…口で言っテ…わかラないデスか」
俺様は己の目を疑った。剛速球の棘鉄球を受け止めただけでも
目ん玉擦りまくりなのに、あろうことかユリエルちゃんは受け止めたそれを
“くちゃっ”と粉々に握りつぶした…。しかも手は無傷。これ、夢かな?
「長い車椅子生活の賜物だと思われます。シューゴ様」
「いやいやいやいやいや!? そんなもんであそこまで出来ねぇし!?」
「いつでも72時間エルードで女子更衣室を覗けるシューゴ様がそれを仰いますか」
だからよ、それは飽くなき向上心と努力の賜物であって、
車椅子の日常生活だけで易々と得られるもんじゃねぇっての。
後さりげなく俺様が毎日やってるように聞こえるような不審な事を言うんじゃねぇ!
全 否 定 は し な い が 、 な☆
「制裁と言う名の粛清ガ必要みタいデスね?」
「「ひぃッ!?」」
「シューゴ様まで反応する必要は無いと思います」
お前なんぞにわかるものか!
あの声であんなこと言われて色々縮み上がらねぇ野朗がいたら
俺様が直々に『漢』の勲章をくれてやるっつうの!
…フェフ…ウルズ…スリサズ…アンサズ…ラグズ…
「こ…ここここここれはぁッ!?」
バルザートさんや、取り乱しすぎじゃぞ?
つーか、たかがルーン文字じゃねぇか……って失われた四番目の文字も入ってるぅ!?
カノ…ゲーヴォ…ウンジオ…ハガラズ…ナウディズ…
「いい発音ですね。シューゴ様」
お前は冷静過ぎだララルゥ。
…イサ…ジュラ…エイワズ…ぺオーズ…アルジズ…
「ア…アンデッド達! ぼ、ぼぼぼ僕を守れぇッ!」
「…来ねぇな?」
ソイル…ティール…ベルカナ…エオー…マンナズ…
「!? …な、何をしてんだ腐肉のゴミ共!
は、早くに、ににに逃げる時間稼ぎを…!」
しっかし奴の慌てっぷりは見ていて飽きないな。
「あ、おかえりなさいメガデス。予定より15分早かったですね」
ん? あ、居たのかメガデス。
「腕を二、三本持って行かれたそうですが、殲滅できたそうです」
「そうか、お疲れさん」
あの狼狽しまくりの腰砕けバルザート君のとはいえ、
吸血鬼や人狼の軍勢相手によくやったな。腕の二、三本は持ってかれたようだが、
全然いいじゃないか。今度は特製の純銀でこしらえた特上品を付けてやるよ。
…ラグ…イング…オシラ…ダエグ…ウィアド…
「は、ははは…あはははは! こんな…こんなのは…ひ、ひひひ…」
いわゆるパニック状態ですねバルザートさん。わかります(爆)
アールヴ…! アールヴ・ラ・ヴェリテ…ユーミル!
「どうやら詠唱が終わったようですね」
「らしいな」
一見静かに見えるが、俺様の目を通して見る究極超人モードな
ユリエルちゃんの周囲は原色のオーラが陽炎のように渦巻いている。
迂闊に近付けば唯じゃすまないレベルなのがよ~く分かる。
「…て、待てよ…そんな力をここでぶっ放す気かユリエルちゃん?!」
「可能性は67.2%です」
なんて不安定な確率をはじき出しやがったララルゥ。
確率表記で一番信用できない数値だぞ? 60%台ってのは…!
あれはマジでイヤだ…鬼の如く連発する時もあれば…
…ぶっ壊れたかと思うほどに不発な時もある…そんな数値なんだぞ?
この話に心当たりがある奴は…いつか話してやるから今は待っとけ。
「残りを聞きますか?」
「遠慮しておく」
こういうときの希望的観測は基本アテにならないことも経験済みだ。
「もういいぞユリエルちゃん! 後は俺様がやるから! だから無茶すんな!」
「………?」
なぜ、首を傾げる?
「…シューゴ様。もう一度時空転移をしたほうが良いのでは?」
「んでまたあのピンチを味わえというのか? 夢は夜に見やがれ」
てか出来るんならとっくにやってるし。今のところ一日一回が限界なんだよ。
魔術も努力も日進月歩が基本だぞ?
「ユリエルちゃーん! 俺様の話聞こえてるかー?」
「……#%$&@¥*…?」
だからどうして微笑みつつも首を傾げるんだ? あと何言ってんのかもわからん。
「先ほどの詠唱でユリエル様の言語認識がルーン系語派に固定化されたかも知れません」
マジかよ。よりにもよってルーン系語派? げぇ! ゲルマン語やアイスランド語とか、
又はその他どれか或いは全てを駆使しなきゃ意思の疎通できねぇってことじゃん!
「最悪の場合高速言語での会話が必要かもしれません」
またまたご冗談を…え? マジ? それこそ死ねと言うようなものだ、
熟練の魔術師でなきゃ使えない高速言語は1文字で五千通りの意味があるんだぞ?
「お前、どれくらい話せる?」
「北欧ルーンは少し忘れかけていますが、ラテン混同式ルーン語でしたら
シューゴ様以上の成果が期待できますよ?」
上から目線がマジムカつくが、背に腹は変えられん。
「そこまで言うならやってみやがれ」
「承りました」
ララルゥは叫ぶようにユリエルちゃんに話しかける。
ユリエルちゃんは先ほど俺様に対しては優しく微笑んだが、ラ
ラルゥに対しては…ひぃぃ! ララルゥ以上に感情が感じられない無表情!
「usamiroettayssootoyemayuom,agamasoguhs,amasureiruy」
「nesamikeduoynihsahabotokonatana」
…早すぎてサンスクリット語っぽく聞こえる。あれもあれで難しいんだよなぁ…。
「usamiroetihsnebiad,ematoniuosnihsnamahamasoguys」
「nesamikeduoynihsahabotok,onotoihanuoyusukakatih,owitomikonuotnoh」
「!!」
お? ララルゥが何か驚いた? プラスと捉えていいのか? …戻ってきたな。
「失敗しちゃいました、てへ❤(中途半端に棒読み)」
「こんな時くらい誠意を見せろこのウジ虫みかん!」
なに自分の頭に軽く拳骨してんだよ!? すげぇあざとくてムカつくんじゃー!
ああちくしょう! 教室なのに突風が吹き荒れ始めた!
「た…たたた頼む…あ、謝るから…ど、どど土下座でも何でもすすするから…」
バルザートの阿呆はさっきのやり取りで学習しなかったのか?
それとも奴は魔術師のくせにルーン言語も出来んのか?
いや、パニックで軽く精神崩壊してる可能性もある。
「…ウィアド、イサ…マンナズ!」
えーと…悪い意味で変換…ウソだろ…?
女の子が「テメェはグチャグチャのクソミソにブッ殺す!」とか
そんな事言っちゃ駄目だろ。せめて「半殺しにしちゃいます」
くらいのオブラートに包もうよ(笑)
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!?」
バルザートさんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃだな。
クフフ…いっその事このまま見届けてやろうか?
おっと…ユリエルちゃん。眼を閉じて…カッ! と開く!
「黄昏よ幾万の神々!」
げげぇッ!! その言葉はアホでも分かる物騒極まりない言葉じゃねぇか!
「おい! ララルゥ! あとメガデス!」
「承知しております」
これは全身全霊で止めなきゃまずい!
あの野朗がくたばるのは知ったこっちゃねぇが、
その為に地球を吹っ飛ばされちゃ割りに合わな過ぎる!
「嫌だぁぁぁぁぁ! 死゛にだぐな゛い゛ぃぃぃぃ!!
殺゛ざな゛いでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
鼻声で赦しを請う、『叫喚の霊帝』の野朗はともかく、ぬおおお?
突風が凄まじくて殆ど進めね…ってか動けねぇ!
ララルゥはともかくスピードスターのメガデスすら踏ん張るので精一杯とか
イレギュラーすぎるって!
「ihsebuanagaetutomowihs,ijnan!」
「Muttiiiiiiiiiiiiiiiii(母上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)!」
恐怖のあまり退行したもうすぐ三十路の野朗の叫び声は知ったこっちゃないんだが…
…ユリエルちゃんが何となくやばそうな事を言ってる気がする!
ちくしょう! こうなったら結界で……いや駄目だ!
とてもあれに耐えられるだけの結界を作る時間はねぇ! どわぁ! 終わっ――
―――――――銀とも純白ともいえない輝きが全てを包み込んだ…!―――――――
マジかよ…こんな終わり方は空しすぎる…。
………こんなことなら、せめてバイブル二世を読破しとくべきだった…!
…………………にしても死後の世界って、寂しいもんだな…地獄とか天国とか
…あるとは思ってなかったが…しかし、これは…切ねぇ…。
………ん? 何かヘンじゃね? 死後の世界が「無」だってんなら、
俺様の精神とかそんなモンも無いはずだ。てか腰周りがやけにや~らかくて暖かいし。
ほんのり甘くて良い匂いするし。
「ん~~~~? この香りは…お風呂上りのお嬢様の香り…か…?」
「それはシューゴ様の錯覚でしょう。間違いなく」
そのムカつく抑揚のない声は俺様を現実に思いっきり引き戻す。
「よりにもよって貴様とあの世逝きとは、神か仏か何かはよっぽど俺様が嫌いなのか!」
「ツッコミがボケ倒し続けるのは怪我の素です」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
あーマジでこいつのせいで思考が嫌な方向でクリアになってくな…!
「しかし…どうなったんだ…?」
「…不明です」
そうか、まぁ無理もない――で、
「いつまで引っ付いてる」
「シューゴ様が離れろと仰るまで」
「………」
若干歩きにくいが、突風も止んでるし、歩いて歩けないこともない。
膝は笑っているが。まぁそんなもん気合でどうとでもなる。
「シューゴ様…?」
俺様とユリエルちゃんとの間は以外に距離があるな…。
「離れろと仰らないのですか?」
今お前と遊んでる暇はない。確認しなきゃいけないことがあるんだからな。
よし…あと4mってとこか。
「もっと抱きつきますよ? 色んなところをわざと押し当てますよ?
シューゴ様の品格が確実に崩壊するような真実を暴露しますよ?」
勝手にしろ。どうせ誰も聴いちゃいねぇ。よし…あと2m。
「!? …何してんだウジ虫みかん」
いきなり俺様の正面に回りこみやがった…! ええい、邪魔だ…
って膝が笑ってるからこれだけで動けねぇ!
ユリエルちゃんの背中まであと数歩だというのに…!
「離れろと仰ってください」
いつもは単にガン飛ばすだけだが今回は本気で睨みつける…ん?
何かララルゥの眉が下がってるような気がする。いや、気のせいだ。
魔眼使ったりあのもうすぐ三十路野朗に散々ボコられたりと、
いろいろあって結構体力限界だし。疲れが一気に眼に来たんだな…。
「………ちょっと立ち位置をずらせ」
譲歩した。離れろとは言ってないが、一応ララルゥの希望には答えた。
さぁ、早くそこから立ち位置をずらせ。
「離れろと仰るまで動きませんよ? 仰ってくださらないとシューゴ様の
今までの世界観が崩壊するような事をしちゃいますよ?」
何でこいつ今日はこうもKYなんだ? って俺様の顔を両手で触るな……
……って! うおおおおおおおおおおおおおお!?
何で顔をゆっくり近づけんだこのウジ虫みかん!?
「いよいよ脳ミソが腐りきったかララルゥ」
ちょ、コラ待てやめろ! ってうをぃ!! 何で眼を閉じるんだよ!?
このままじゃ不覚にも貴様如きに心臓がバクつくだろうがッッッ!
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! …ですよぉ…?」
「「!!!!!!!!!!」」
く、口から心臓が出たかと…! だがこれでララルゥが離れた!
よし! ゴールだ!
「ユ、ユリエルちゃん…?」
背後から失礼して…って…
「それはぁ…わたしの…クレープ…です…んぅ~~」
浮いたまま寝てるーーーーーー!? 君はどこの花咲か天使だぁ?
こんにゃろー(笑)ほっぺをぷにぷにしてみる…反応なし。
じゃあむにむにしてみる…反応なし。じゃあ別なところを鷲掴みして…いや、
それは美学に反する。
「………熟睡してますね…浮いたまま直立で」
「………熟睡してるな……浮いたまま直立で」
超天然? なユリエルちゃんはある意味大丈夫そうなので…
その前方のバカザートは…
「…は…ひ……か…ひゅ…」
ある意味死んでるーwww
これならしばらく放っておいてもいいな。だが、
「おい、ララルゥ」
「どうぞ」
ホント、最初ッからそんな風に機を見て敏であってくれ。
といわけでどこから持ってきたか知らんが、純金の鎖
(金や銀は魔力に耐性があり、なおかつ普通の鉄の鎖と比べて遥かに比重が高いので、
魔術師を縛るのにはもってこいなのだ!)でバカザートの野朗を
がんじがらめにクソ結びで拘束する。
おお、この状態は素材が素材だったら簀巻きじゃん。
「よし…! じゃあイザベルを起こして来い」
「方法は?」
「トラウマが残らない程度ならどんな方法でも良しとする」
「承りました…ふふ…」
んじゃ、俺様はこの天使ちゃんを優しく起こしてあげよう。
クフフフフ…今の俺様は、もの凄くカッコイイな!
「ユリエルちゃん…おやつの時間だぞ?」
「ぬ~~~~」
「ほら、浮いたまま寝たら危ないぞ」
「みゅ~~~~」
「早く起きないとおやつ全部ララルゥがことごとく握りつぶしちまうぞ?」
「い~~~~」
…あん? まさか…ぬみゅい=ねむい? どんだけ反応が遅いんだよ。
「やれやれ…仕方ない…」
ちょっと手間取るが、いわゆるお姫様抱っこをして呼びかけてみるか。
「起きろ、ユリエル」
「ん……んぅ…?」
え? これで起きんのかよ…? まさか…ユリエルちゃんは計さ…
「すぴ~~~~~」
「………」
クフフフッ…真面目に起こそうとした俺様がバカだったぜ。
やはりここは例のあの場所を鷲掴みにして9683回くらい揉み…
「「その手で何をするつもりでしょうか? シューゴ?」様?」
わはーい★
俺様の首筋に左右から素敵なほどに鋭利なものが押し当てられてるぅーー★
ここで俺様が取るべき選択肢は…現れ出でよ! 運命の選択肢!
①あ、あれは何だ!? と叫びその隙にやあぁぁってやるぜ!
クフフ…漢なら一択! さあ行こう! 約束の地へ!
「あ――」
「「呼吸以外で音を立てると、大変なことになりますよ? シューゴ?」様?」
………。
②そもそも茶番でしかないのだと悟る…
そうとも、逝き急ぐ必要など無い。チャンスはこの先、幾千、幾万とある。
目先の幸福など、唾を吐いて捨て置くべきなのだ。
「………」
まだ寝ているユリエルちゃんは物騒なものを下げたイザベルに預ける。
しかし、ウジ虫みかんはまだ物騒なものを押し当てたままだ。
「………いつまで破壊剣オートクレール(ぶっそうなもん)を押し当て続ける気だ」
「シューゴ様が下げろと命じるまで♪」
「じゃあ下げろ火急的速やかに迅速に」
「拒否します♪」
こいつこのやり取りがホントに好きだな…!
しかし、俺様も今回は体力的にしんどいので懐から犬笛を取り出して
口に咥え大きく息を吸い込もうとしたら物騒なモンは
まるで最初からそこに無かったかのように消え失せた。
「しかしユリエルちゃんが発動したと思われる術は結局何だったんだ?」
「私に聞かれても困るんですけど…」
だよね、十数分前まで気絶してたんだから。
「まぁいい…それよりも…だ」
さっきから視界の端っこで動く金色の芋虫みたいなのが気になる。
「おや、どこへ行くつもりかな? 『叫喚の霊帝』殿?」
「ひょぇッ!?」
この俺様から逃げようなどと一億万年早い!
そしてこれからが真のボーナスゲーム!
「さて…いろいろあったが今度こそ貴様をフルボッコだ!」
「ひぃぃぃぃ!」
もう十分涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔をしているが、それはそれだ。
何よりやられた分を百万倍返しだ! それ以下は俺様の気が済まねぇ!
「み…見逃し
ばhたっひあghんhふぁひはがtじゃぽうあなgばうf゛う゛ぁぬしッ!」
俺様フルボッコース! デザートも腹いっぱい喰らわせてやるぜぇッ!
ふぅ…すっきりした。
「無抵抗な相手にすらこれですか…シューゴ様は本当にどうしようもない外道ですね」
「言ってろ」
マジで原型がわからないくらいボコボコな顔で死…
気絶しているバカザートはこのまま議会に梱包して丁寧に現金書留で送り返すとして…
「さて…後片付けだな」
はっきり言って今回は学園中があのボコ顔バカザートの野朗の術中だったわけなので、
総勢三千数百人の学園生共の記憶操作等の事後処理が待っている…うわ…体力持つかな。
つーことでアフタースクール。
「ぎゃあああああああ! 沁みるぅぅぅぅぅぅぅ! もちっと優しくしろヴォケ!」
「消毒はしっかりとしておかないと後々化膿して痕が残りますので」
事後処理はきつかったが、そこは俺様、やってやれない事は無い!
けど沁みるもんは沁みるんじゃー!
「……はぁ…」
「そこはそこでお疲れだな」
「……これで疲れないほうがおかしいでしょう…」
だよねー…百人二百人の記憶消去程度なら楽勝過ぎてハナクソものだが、
全学園生徒と教員合わせて三千五百七十八人の記憶消去じゃなく
記憶操作はきついもんねー………。
普段の夜の活動の際に巻き込んだ一般人の場合は夜中だから
消去だけでも良いが…今回ばかりはTPOが例外中の例外だったもんなぁ。
「…ちなみに疲れている理由は貴方とは違いますよ…?」
「ん? 本格的に議会と対立することが確定したことについて悩んでんの?」
「………!」
クフフフフ…ぷるぷる震えとりますなぁ。わかります。
凄~~く怒りたいんでしょう? その握り拳の力具合からも
フラストレーションなのでしょう?
「あら、シューゴ…こんなところにも傷がありますね…化膿するとあれですから、
そこも消毒しておきましょうか?」
「あん?」
「でしたらイザベル様…こちらをどうぞ」
と言ってララルゥが出したのは…おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!
それグラタラール!!
「おいコラ貴様! それをどうするつもりだ!? それは確かに消毒薬だが、
毒性めっちゃ強すぎるから人間に使っちゃいけない消毒薬だバカ!!」
「それなら大丈夫ですよ…シューゴは多分人間じゃないですし…」
…イザベルの眼が笑っている?! ヤバい!? 戦略的撤退が要求される?!
「!? ララルゥ貴様!!」
「………(にこっ★)」
人を羽交い絞めにしておきながらする表情では無いなぁそれはぁぁぁぁぁ!!!
「さあ、動かないでくださいね、シューゴ(にこっ★)」
手に持っているそれがグラタラールなどと言う劇毒薬でなければ
今の貴女は白衣を着ていない天使と褒め称えただろう!
「うおおおおおおおおおお! 離せ畜生! ララルゥ!
貴様がぁ…貴様が『守護兵』で『美少女』でさえなければぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そうなのだ、ララルゥも何だかんだで『守護兵』…
一見すると超可愛い顔した女の子だ。しかしその腕力は、
その辺の達人級の格闘家とか武術家の遥かなる上を飛び続けるほどの馬鹿力なのである。
故に色々あって疲労困憊かもな俺様は
そんなララルゥに羽交い絞めされては手も足も出ない。
「大丈夫ですよ…シューゴ…痛いのは…ほんの…たっぷりですから…!」
「文法から何からおかしいんだよ今の貴様らはぁぁぁぁぁぁ! ア゛ッ――!!」
普通じゃなかったら死んでるかもしれない。流石は俺様…無敵だぜ!
今グラタラールが沁みて超死ぬほど痛いしそのせいで口から泡が出るし
くたばったはずのジジイがこっちに手招きする幻覚のようなもの(だと思いたいもの)
とか見えてるけどな!
続く
まだまだ連投(俺の)ターンは終らない!