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第五悪 最強!? その男の名はファウスト!

 気持ちは悪くない、むしろ嬉しいはず…なんだけど…このアンニュイな感じは何だ?

 アレか? 朝飯が張り切るユリエルちゃんの殺戮の手料理DXだったからか?

 それとも登校中照れながらも手を握ってきたユリエルちゃんとの様子を

騎士団の連中に見つかって一悶着あったからか? あー、もういいや…

とりあえず机に突っ伏したい…。


「考えるの止めよう…」

「? どうしたんですか? シューゴさん?」


 ユリエルちゃんは上機嫌だ。とても眩しい笑顔だ。


「いや、何でもないよ…」

「やっぱり朝ごはんが良くなかったですか…?」

「大丈夫だ…昨日より上達してるから(常人なら百七回は死ねるだろうが)」

「そうですか…? それならいいんですけど…?」


 正直何でこんなアンニュイな気分なのか分からないのが原因だ。

ひょっとしたら朝飯も原因かもしれんが…しかしそれは絶対に認めない!

俺様の事を好きだと言ってくれる子に対してそんな考えは

万死滅殺神罰極刑(ぶっちゃけありえない)


「そういえばシューゴ…気になることがあるんですが、いいですか?」

「ん? 何だ?」


 イザベルから俺様に話しかけてくるとは珍しい。


「あなたは最近、夜出かけてませんよね?」


 夜…? あ!? そうか…!


「そ れ だ っ ! 何でここ最近妙にアンニュイなのか分かったぜ!」


 そうだ! 最近ちっとも夜に悪事(いきぬき)をしてねぇ! 俺様としたことが…!


「……あなた、本当に最低な…」

「そんな事をお前は俺様に言えるのか?」

「当たり前です! 貴方の監視がいつ終わったと言いましたか?」


 あー…そういやイザベルがここに来たのもそれが理由だったっけ?


「?」


 ユリエルちゃんは話が全く分かってないが、分かられても面倒なので説明しない。


「クク…そうと決まれば早速今夜…」

「そんな事はさせませんよ…?」


 イザベルが立ち上がる。お? やる気か?


「いい度胸だな、“同盟”も早速決裂か?」

「それはあくまでユリエルのためにした事です…

そのために自分の本業を投げ出すわけにはいきません!」

「お姉ちゃん? シューゴさん? 二人ともどうしたんですか?」

「おいおい良いのか? ここは学園だぞ?」

「どうと言う事はありません。忘却魔術(オーヴリィ)を広範囲で使えば…!」


 やれやれ仕方ない…


「…左から三番目の右下、と見せかけてそこから七番目の左上」

「う!? ど、どうしてそれを…」


 見くびるなよ? 他の弱みくらい俺様が握ってないとでも思ったか?


「おや? 何故取り乱す?」

「…く…」

「ねぇお姉ちゃん? 左から三番目の右下の七番目の左上がどうかしたの?」

「ユリエル!? あ、貴女は知らなくて良いことよ!」

「そうだよなぁ…あれは真っ当な女子が読むべきものじゃないよなぁ…」

「う…うぅ……」


 こうかはばつぐんだ! イザベル は ひやあせ をかいている!

 やべぇ ちょう いじめたく なって きた…!


「実はなユリエルちゃん、イザベルの奴…」

「駄目ぇぇぇーッ! それだけは止めてぇーーーーっ!」

「…耳が痛いよ、お姉ちゃん…」

「ごめんなさいユリエル…でもこれだけは許して…」

「いいよ別に♪ 誰だって内緒にしておきたい事はあるから」


 いい子だなぁ…ユリエルちゃんは…なんか微笑ましい。


「さて、イザベル。まだ文句があるなら聞いてやるぞ?」

「うぅ…ありません…」


 あぁ、なんかお前のそんな顔見たら夜出かけなくてもいいかも☆

(ゲス野朗ですが、何か?)


「…何言ってるかさっぱりだが、相変わらず仲良さそうだな?」


 梶取か。ほう、ちゃんと朝練行ったんだな。そうそう、さっきまでの会話。

念のため言っておくが全編フランス語なんでそこんトコ世露死苦ゥ!


「(『いい人』モード発動!)あはは…まぁ、当然ですよ。

誰かを喜ばせるのは僕の生きがいみたいなものですから」

「流石は黒網。『いい人』っぷりは今日も好調みたいだな」


 舐めんな。このキャラは日進月歩で築き上げてんだ。


「ちなみに今日はどうしました?」


 そういえば、俺様に普通に話しかけてくる奴は梶取をはじめ

数えるくらいしかいないな。まぁ多くてもボロが出るだけなので構わんが…。


「ああ、それなんだけどさ。A組の医田部って知ってる?」


 …? …誰?


「イタナベ…? もしかしてST3の医田部さんのことですか?」


 その名前にユリエルちゃんが反応した。ちなみにST3ってのは

『生徒会(Seitokai)トップ(Top)3』の略称だ。

この学園で生徒会役員トップ3の権限は学園長に匹敵する。

特に生徒会長(トップワン)は……つまり俺様は

その生徒会長となることができれば…ククク…。


「ST3ですか…この間生徒会長さんと副会長(トップツー)さんには会っていますから、

医田部さんは風紀委員長(トップスリー)を任されている方ですね」


 イザベルも知ってるのかよ。あれ? 同じ執行部員なのに知らないの俺様だけ?

いや、いつものように気にしてないだけか。


「えーと…それでその風紀委員長さんがどうしたんですか?」

「用があるんだとさ」

「何のです?」

「さあ?」


 ……せめて至急か否か聞いて来いよ。バ梶取。

いくら俺様が一を聞いて十を知る男だとしても、零から十はわからねぇっつーの。


 間を割愛して放課後。今日は珍しく親衛隊や騎士団の動きが無かったな。

ST3の一人が俺様と会うとか言う話は結構広まっていたみたいだ。


「そういえば医田部さんとお会いするのは初めてだね。お姉ちゃん」

「そうね…医田部さんは総会にも滅多に顔を出さないほど風紀正常化に勤しむ方だとか」


 しかし何故呼ばれていないこの姉妹もここにいるのだろう。


「そういえば医田部さんって柔術を習っているそうで、とても逞しいとか」

「それは私も聞いてたわ。シューゴは一見すると文系だから、

医田部さんと並んで歩いたらすごく絵になるかもと、藤好さんは言ってたわね…

もう引くくらいすごく息も荒くして」

「? 絵になるってどういう意味なの? お姉ちゃん」

「…そ、それは…その…」


 何故だ…? ほのぼのした姉妹の他愛ない会話のはずなのに、さっきから怖気が…。


「おや、話題のお二人もご一緒か」


 怖気が見え隠れする会話がその一言で静まったのはありがたかった。

どうやら、俺様を呼んでいた学園長の猟犬…もとい風紀委員長サマのご登場だ。


「君が黒網修吾君か…噂は聞いている。君の存在は、

自分達風紀委員にとって非常に頼もしい“生ける模範”だからな」

「はぁ、それはどうも。えーと…風紀委員長」

忠義(ただよし)()田部(たなべ)忠義(ただよし)だ。

いろいろあって昨年末頃から風紀委員長を任されている」


 バリトンボイスといえばいいのだろうか。声の太さに嫌味を感じない。

殺したいほどに。んでもって逞しい体格の割には顔がゴツ過ぎない……

…言っちまえば微笑が似合う爽やか美男子だな。超殺したいほどに。

そして俺様より背が少し高いが、威圧感よりも頼もしさを感じさせる印象だな。

超マジ速攻ブッ殺したいほどに。大事なことなので三回言った!


「それで…そのイタナベさんが僕に何の用事があるんです?」

「忠義でいい。だから自分も君を修吾と呼んでも構わないか?」


 クソ馴れ馴れしいな。梶取ならともかく、

貴様のような野朗に呼ばせる名前はねぇよ。と、言いたいところだが…。


「じゃあ忠義さん。僕に用事って何ですか?」

「うむ、それなんだが。これを見てくれ。君はこれをどう思う?」

「すごく…カラフルです」


 自分で言って何かいろんな意味で寒気がしたが…そこは置いておくとして。

忠義の野朗が見せたのはどこぞのインターネット掲示板の画像つき

書き込みをカラー印刷したものだ。


「いや、そこではなくてだな…ここの文章と画像のことだ」


 ご丁寧に指差して示す。そこに書いてあるのは


「これは…………!」


 イザベルがこちらにアイコンタクト。まあ皆さんお察しのとおり

忠義の野朗が見せたのは闇夜を駆け抜ける魔術師の俺様と

ウジ虫みかんちゃんらしき人物二人が写った画像だ。

画像が荒いから俺様のカッコよさが微塵も出てないな。


「何ですか…これ?」


 それとなくトボケる。


「君でも知らないか」

「どういうことです?」

「いや、風紀委員長をやっているとつい学園外の風紀も気になってしまってな」

「んと…『間実市の怪人事件を語り合うスレ』…お姉ちゃん、スレって何?」

「スレと言うのは…」


 世間知らず過ぎる妹ちゃんに優しくスレッドとは何かを説明する姉。うむ、眼福。

多分無垢な妹ちゃんの矢継ぎ早の質問にも懇切丁寧に答え…おいコラ待てや、

どうしてお前がそんなコトまで知ってんだよ。


「それと僕に何の関係が?」

「君はこの街で長く暮らしているだろう?」

「はぁ…なるほど」


 俺様が知ってると答えたら、貴様はどうするってんだ?


「仮に……仮にシューゴが知っていたらどうするつもりですか?」

「少し…手を貸してもらおうかと考えたんだがね」


 クフフッ…これは面白い展開かも知れんぞ…。


「ははは…さすがに僕にも出来ることと、そうでないことくらいありますよ」

「…ふむ…そこでそう返すのか」

「まぁ…イヤでも情報は入ってきますので」


 実際下らん都市伝説にすらなり得ない超どうでもいいネタばっかだが。

俺様が『いい人』キャラを演じ続ける理由の一つがこれだったりする。


「実際君には裏の風評もある事は裏付けも取れているしな」


 ほう、そこまで探ったか。まぁ、そりゃそうだ。『いい人』にはいい評判しか付かない

…んなわけがない。そんなの昭和の物語だけだ。大抵の人間には裏の顔があるもんだ。

無論俺様とて…まぁ言うまでも無い。魔術師だけが俺様の裏の顔じゃない。


「本来なら君も十分裁く対象なのだが…

世の中の風紀を本当に正常化しようと考えるなら、

そんな側面とも付き合わねばやり遂げられない事は百も承知だ」

「…正直、嫌な人に見つかりましたね」

「とはいえ、君が『いい人』であることも事実だ。

自分としては其方だけであって欲しいと思っているが…」

「世の中なんてそんなモンですよ」

「ふっ…そうだな、自分もそう思う」

「………」


 イザベルも思うところがあるんだな。まぁその歳で『魔術議会』最高議員だし。

この間俺様に躊躇無く仕掛けられたのも、そんな経験が遭ってこそだしなぁ…。


「……あのー……シューゴさん? というか、

お姉ちゃん達もどうして急に黙っちゃうんですか?」

「「「………」」」


 …何か釈然としねぇ…。


 つーことで、今日は楽しい深夜徘徊。目的は『間実市の怪人事件』とかいう、

何か昭和臭いタイトルのゴシップの真相解明だ。と言っても、

本当は『究極の茶番』だが(笑)


「しかし遅えな…あの野朗」

「まるで初デートに気合入れすぎて遅刻しちゃう乙女みたいな男性ですね、シューゴ様」

「いちいちモノの例えを腐らせるんじゃねぇ」

「医田部さんは一つ一つにこだわる方とは聞いてましたが……でも、まさか…」


 …おかしい、ウジ虫みかんはララルゥだけのはずなのに…

イザベル…お前もなのか?! どうりで例の本棚のアレがアレな内容だと思ったら…!


「春の新刊、お貸ししましょうか? 貴女の大好物のリバや下克上もありますよ」

「え…! ホントですか!?」

「う~そ~でぇ~す(すげぇムカつく上から目線で棒読み)」

「………!」


 イザベルのこんな悲しそうな顔は初めてだ…! くそ、ハンカチを忘れるとは…!


「ふふ…では普通に素敵なラノベをお貸しします。チキン眼鏡と男装執事っ娘モノですよ」

「……やはり貴女は苦手です…が、それで手打ちといたしましょう」


 どうやらイザベルには情状酌量の余地はありそうだ。

例の場所にある意味究極の現実(やらないか)の本と、

この間アマ○ンで数多くの諭吉さん達の犠牲を払って手に入れた

美少女だらけなバイブル二世(内容はやや鬼畜)をそっと加えておこう。

果たして貴様に現実を直視できるか!?


「すまん! 遅れた!」


 ようやく来やがったな医田部…! 野朗の分際で俺様を待たせるなど本来なら万死だ!


「ったく…テメェ言いだしっぺだろ…が…あぁ?」

「ん? どうした? 髪型が決まってないか?」


 いや…決まっているが…なぜ紫ハンバーグ頭にスカジャンなのかを知りたい。

元ネタは不朽の名作だと思う…が、周りに溶け込むスタイルと決めたはずなのに

なぜ貴様はその真逆を突っ走るんだ? 顔バレを防ぐ変装にしても

逆に違和感ブリブリバリバリだっての。


「…………うわぁ」

「乙男は撤回したほうがよろしいでしょうか? シューゴ様」

「あえて聞くんじゃねぇウジ虫みかん」


 俺様達はそこらの連中とカブりそうでカブらないスタイルだというのに……。


「…いざ挑んでみると、いかにも! と思うようなスタイルが決まらなくてな」


 で、それかよ。貴様の辞書には違和感という単語は無かったのか?


「まぁ…いい意味で逆効果になるか」


 凄まじく目立つ格好はその人物の中身をぼかす効果がある。

俺様が言うんだから間違いないとも(笑)


「しかし修吾、君のその変わり身は貫禄があるな」

「おいコラ、義雄(よしお)。それはボケのつもりか? 俺様は修吾じゃねぇっつの」

「む、すまん。今は(おさむ)だったな」


 野朗の天然は果てしなくウゼェ! 偽名使うって言い出したのも貴様だろうが!


「だが、何故ララルゥさんの場合は怒らんのだ?」

「バカに()ける薬は無ぇのが世の常だ」

「…しかし女子に対してその振る舞いは(おとこ)としてよろしくないぞ」

「こいつは女子とカウントしないのも世の常だ」


 そしてその法則は三年前から定まっている!


「さすがシューゴ様。天辺からつま先まで見事に腐っていますね(キラッ☆)」


 ブチッ☆ だがノーカウントなので当然無視する。


「(仏語)…シューゴ…どういうつもりですか」


 そして紅一点たるイザベルにはちゃんと、即座に、光の速さで反応する。


「(同じく)...Mais je vais comme ça?

“…こういうつもりだが?”(キラッ☆)」

「(以下略)Et, je le ferais jamais même fierté

“そして、プライドすら微塵もないのです”(ギロッ☆)」

「(以下)Un jour, vous, je pleure sexuellement♪

“イツカ、オマエ、鳴カス♪”(メラッ☆)」

「(以)Si ce que je peux faire, oser faire, sans le courage♪

“出来ル、モノナラ、ヤッテ、ミヤガレ コノ、へタレ♪”(ギラッ☆)」


 結果ブチッ☆ ブチッ☆ ブチッ☆ の綺羅ッ☆(ぼし)だらけで

超クソ(まぶ)しくなってきたからそろそろヤメよう。

いろんな意味でデカい争いも勃発しそうだし。

空気を読むのもいい男の秘訣だしなッ☆(笑って許せるあなたは立派な大人です☆)


「…言葉は分からんがすごいシンクロだな」

「気にしたら負けですよ?」

「意味が分からん…が、それはともかくこれから色々探るわけだが、

如何せんこの事件は気味が悪いほど目撃情報が少ない。

そのあたりについて自分は皆の意見を聞きたいのだが」


 さりげなく場を仕切ろうとしやがるなこいつ。だが構わん。これは茶番だ♪


「怪人による被害者と思わしき方は後々の捜査で窃盗や誘拐などの

犯罪の容疑者が非常に多いという情報があります」


 何やかんやでこの茶番には付き合ってくれるのかララルゥ。

そこは優秀なメイドちゃんだと認めてやってもいい。

怪人というフレーズを言う際に俺様をチラ見しなければ尚だ。


「(ため息)……むむ…有力な情報源がそれでは聞き込みは難しいな…」

「とりあえず、被害者の出た現場を巡るのはどうでしょう」


 うむ、イザベルも何だかんだでノリがいい。人気者は違うね。


「んじゃその案で行こうぜ。他に良い案があるなら別だが」

「そうだな。まずは行動あるのみだ」


 どうやら忠義の野朗は天然の仕切り屋のようだ。


 てなわけでここに来るのも随分久しぶりな公園前の通り。うん、懐かしい。

ここで攫われそうだったちみっ娘を助けた後で泣かせた光景が蘇る。

ちみっ娘がストライクゾーンだったら、違う意味で泣かせられたのになぁ…

…はぁ…残念。


「新聞記事からの抜粋だが、被害者であり誘拐未遂の容疑者の

フリーターの男性(24)の証言では、“男女二人組みの怪人に火の玉をぶつけられた!

車は滅多切りに切断された! ”とかほざいてやがったな」

「うむ、それは自分も確認している。

実際現場には切断された車と思われる物の部品で作られた

名状し難い物体(ジャングルジム)”が確認されている。

しかし火の玉は…センスが無いな」


 言いつつ何やら考え込む忠義。下手な考え、休むに似たり。


「………名状し難い物体ではありません。あれは『ウ――んむッ?」


 いきなりボロを出そうとしたララルゥの口を塞いだ。

だいたい切断した車の部品なんぞで名状し難い物体を作ったりするのは貴様だけだ!


「ナンセンス…でもファイア・ボールは初歩魔――むぐッ!?」


 イザベル! お前もか! 油断も隙もねぇ! 何がボロになるかわからんと言うのに!


「ん? どうかしたか?」

「何でもねぇよ?」


 デフォルトな立ち姿に戻っているのは皆さんお察しの通りだ。


「しかし…当たり前のことだが、痕跡など何一つ見つかりそうに無いな」

「数週間前のことですから、致し方ないと思われます」


 そういやもうそんなに日が経ってるのか。早いもんだ…。


「んじゃ、次行ってみっか」


 で、下着ドロをボコった閑静な住宅地。

ホントあの下着ドロにはムカつかせられたなー。

もうちょっと殴っとけばよかったかなー。


「ここでの被害者で下着泥棒の容疑者で元・営業職で

とある熟女バー常連の男性(36)の証言では、

“凄く殴られた。大事なものを微塵切りにされた。溺れさせられた。”だとさ」

「…しかし、この水気の無い住宅街でどうやったら溺れることが出来るのか…」


 何を無駄に考えているんだか、忠義の奴…。あー、それにしても…

いやー、もうあの時はマジで殺っちまうトコだったね。

あの野朗の趣味を見事に当てちまうのは予想外だった。


「これは前回の被害者とほぼ同じ日ですから、手がかりは望めないでしょう」

「ふむ、ララルゥさんの言う通りか…仕方ない、次に向かおう」


 とまぁ、こんな感じであちこち探索するわけだが、目ぼしいものにはありつけない。

そりゃそうだ。ブタ箱送りの連中はともかく、その他の目撃者は

基本的に忘却魔法(オーヴリィ)でばっちり記憶消してんだから。


「おら、冷やしデ○タスブラックだ。味わって飲みやがれ」

「ああ、すまんな」


 てなわけでちょっとブレイクタイム。どうでも良いかも知れんが、

俺様は缶コーヒーはデミ○スブラック派なのだ。

 ちなみにイザベルは微糖かなーと思ったら俺様と同じだった。

やはりフランス人同士(まぁ、俺様クウォーターで日本国籍だけど)

カフェには拘るのさ。

 これもどうでも良いかもしれんがララルゥは炭酸と麦茶が好きだ。

だから奴は炭○文明という凄まじくマニアックなやつを飲んでいる。

空気読んでドクペ飲めやウジ虫みかん。


「意外と楽しいな」


 忠義の奴が急に呟いた。


「夜遊びしたくなる連中の気持ちはわかるだろ?」

「深夜徘徊で補導される生徒たちも場合によっては弁護しても良いかもしれん」


 何か今のこいつすげーおっさん臭い。よし、今なら俺様のほうがカッコイイ!


「とはいえこれからどうなさるおつもりですか。シューゴ様」

「義雄に聞けよ」

「忠よ…いえ、義雄様は義雄様であってシューゴ様ではありませんので」

「究極に意味が分からん」

「…ずっと気になってたんだが、何故ララルゥさんは君の事を様付けで呼ぶんだ?」

「こいつの場合100%わざとだ」

「…一体君たちの間に何があったんだ」

「気にしたら負けですよ?」


 そういやあの時口を塞いだ以降から殆ど喋らなかったが、イザベルの奴。

さっきから何をキョロキョロしてんだ?


「どうかしたのか。イザベル」

「いえ…大したことじゃないんですけど」


 と、忠義の奴を一瞥して


「(仏語)纏わりつくような視線を感じるのですが、シューゴは気付いていましたか?」

「(〃)纏わりつく視線だと? おい、ララルゥ」

「(〃)数分前辺りから感じていましたが、聞かれなかったので答えませんでした♪」

「(〃)このウジ虫みかんが! “ほうれんそう”は小学生でも出来んだぞゴラァ!」


 しかし、纏わりつくような視線か…忠義の違和感バリバリな格好は当然として、

俺様達にまでそんな視線を送るような連中といえば…

…あ、思い当たる連中が 多 す ぎ て 特定できね。


「どうしたのだ修ご…いや修」

「何でもねぇ、こっちの話だ。んでよ、義雄。結構いい時間だし、

続きはまた今度にしとかねぇか?」


 もうちょっと茶番を楽しみたかったが、そろそろ忠義の奴にはご退場願おう。


「うむ…? 時間ならば仕方ない。それではまた、次も付き合ってもらえるとありがたい」

「ああ、じゃあな」


 忠義はそのまま帰路に向かう。律儀に「コーヒーの礼は必ずする」と言い残して。

んでもって忠義が俺様達の視界から消えるとほぼ同時に

周りの人の気配がぷっつりと途絶える。


「なるほどな…普通の奴は襲わないって主義か?」

「その可能性は10%です。残りは明らかにシューゴ様を狙っての行動かと」

「…二人とも…相手に心当たりがあるのですか?」

「まぁ、な…あん時は噛み付かれるか否かで正直ヒヤッとしたし、

こんなに血の臭いをさせるような奴なんて決まってるし」

「まさか…人避けの結界を張った相手は…」

「いわゆる吸血鬼(ヴァンピール)ですね。帝都を中心にこちら側の許可を得て

コミュニティを形成しているのですが、人間同様ならず者も居ますので」


 きっかけはある日いつものように出かけた夜に、女を襲おうとしていた野朗を

一発ぶん殴ってみたら吸血鬼でしたというオチからだ。

連中は人を襲う際、必ずと言って良いほど人避けの結界を張る。

(映画とかでも、襲われた人間が殆ど助からないのはそこから来てる)

ちなみに俺様クラスでなくとも、魔術師にその類の結界は効かない。


「しかしなぁ…少なくとも俺様の庭であるこの間実市のコミュニティには

いろいろ言って聞かせたはずなんだがなぁ…」


 俺様は人の命に関わるような事はしないが、俺様の目鼻先で大人しく出来ない

人ならざる連中には容赦しない。いかに人と近かろうと、な。


「出て来い。いろいろ鬱憤晴らしたいから遊んでやるよ」


 ゆっくりと目先の路地から黒ずくめの男が出てくる。顔ははっきり見えないが、

暗闇でも爛々と光るその眼と口元から覗かせる異様に長い犬歯、

何より体から漂うオーラのような妖気(『魔眼』持ちの俺様にしか見えないが)は

どう見ても人外のそれだ。


「シューゴ様私たち丸腰なのですがこのままですとシューゴ様がかぷっちゅと噛まれて

仲魔入りオブザデッドエンド的展開になること請け合いだと思いますが

まさかシューゴ様は――」

召喚()んでやるから急かすな」


 俺様は両手を鳴らす。するとララルゥとイザベルの目の前に各々魔方陣が現れ、

そこからララルゥの前には禍々しい装飾の棍棒と、

イザベルの前にはこの間議会に襲撃する際にお披露目した斬魔刀ピュアブライト。


「え? 私にもですか?」

「吸血鬼相手に普通の武器で挑むのか? 知らんぞ?」

「あ、ありがたくお借りします」

「(ちょっとふくれっ面)シューゴ様。私は剣じゃないんですか」

「たまには棒術もやれ、鈍ったらどうする。てか吸血鬼相手にワンパターンは存外危険だ」


 連中は人間をはるかに凌駕しているわけだから、

ワンパターンじゃ見切られるリスクがでかい。

てことでララルゥには今は亡きジジイが作った『撲滅棍棒マルドギール』を渡す。

この棍棒は魔力を注ぎ込むと三節棍(ヌンチャク)に変化したり槍になったりする

変化に富んだ良い武器だ。何よりララルゥの何かを斬らずにはいられない

ベルセルク化も防げる!


「んじゃ、ちょっくら揉んでやろう」

「……ガァッ!」


 やっぱ魔術師とはいえ人間に舐められるのは吸血鬼としてのプライドが許さないか?

なかなかどうしてな魔力を感じるぜ?


「んじゃ小手調べ。いってみよう!」


 俺様の手から雷の弾丸が飛ぶ。専制攻撃には雷系がいい。

何てったって雷も光だからその初速が凄い。だが相手も吸血鬼だからありえねぇ速度で

これを回避する。普通の人間なら見えないだろうが、残念。俺様には見える。

俺様「魔眼」持ちだぜ? しかも、俺様の「魔眼」は一つだけじゃない。

今回は人間相手じゃないし、久しぶりに使っちまおう。


☣魔術師クロアミ☣


 それはほんの僅かな時間。イザベルとララルゥの猛攻をさも容易く回避して

黒網修吾に突進してくる黒ずくめの男は、おそらく修吾と目が合った。

その瞬間黒ずくめの男の全身からどす黒い炎が噴き上がる。

男は何が起こったのかわからぬまま、黒い火炎に包まれて灰となった…。


☣魔術師クロアミ☣


 結局簡単に終わっちった★ まさに、瞬殺★


「い、今の…何です…?」


 イザベルさんはお口をあんぐり…油断してるから唇奪ってやろうか? 


「久しぶりに見ました。シューゴ様の『アルシエルの眼』」

「アルシエルの眼?! 何ですかそれは!?」


 おお、驚いてるなぁ…よし、自慢しよう。


「『魔眼』だよ『魔眼』。俺様の特・殊・能・力☆」

「そ…そんな力まで持っていたのですか…!」

「そりゃそうだ。だって俺様だし? ちなみに俺様の『魔眼』は生まれつきだぞ☆」


 ついでに言うと『魔眼』は今のところ、さっき見せた瞬間発火の

『アルシエルの眼』の他に、常時発動している『ジェフティの眼』

(効果は幻覚防止・常人には見えないモノの視覚化)なんかもあって、

使えるのは合わせて五種類くらいだな。残りの三つは

そのうち使うことがあったら紹介しようかな。


「もし…本気だったら…私は…」

「良かったですね、イザベル様。

シューゴ様が本気でしたら今の貴女、ここに居ませんよ?」

「ひぁッ!?」


 ララルゥさんや、いきなり人の耳元で喋るのはおやめなさい。

だが、良~いセンスだ!


「しかし、顔は分からんからさっきの奴は何処の者かは分からなかったな。

が、また来たら来たでウゼぇかもだから、

そのうち間実コミュのほうに圧力でも掛けに行くか♪」

「その際は何人か斬っても良いですか?」


 すごくわくわくした表情はやめい。何気に不気味だ。


「その必要があったら許可してやる」

「ありがとうございます。シューゴ様♪」

「………」

「思わず畏怖したか?」

「うっ……」


 若干怯えの表情が見え隠れするイザベル。良~いフェイスだ!


「さて、そろそろ俺様達も帰宅しよう。ユリエルちゃんに心配かけちゃいけねぇし」

「いささか不本意な気もしますがそういたしましょう」


 で、歩き始めたその時だ


「……せ、説明をしてもらっても良いか…修吾?」


 なんとびっくり、近くの電柱の影から忠義が!

違う意味でびびった。しかし、俺様は冷静に奴の頭を鷲掴み。


「お、おい修吾…一体何だ?」


…オーヴリィ…!


 俺様の手が光る、そして例によって忠義の奴は崩れ落ち――


「な、何だ修吾? 一体自分に何をした!?」


 なかった。あれ? 詠唱(スペル)間違った? もう一回。


…オーヴリィ…!


「ま、また光った!? さっきから自分に何をしているのだ修吾?!」

「はて…こいつは…まさか…いや…しかしひょっとして…何だったっけ?」

魔法(マジック)喰い(イーター)ではないでしょうか。シューゴ様」


 おお、それだそれ。『魔法(マジック)喰い(イーター)』…特定の、

或いは魔法そのものによる攻撃を一切受け付けない、もしくは吸収してしまう者の事。

また魔法薬ウィッチメディシンの効果を一切受け付けない、

或いは魔法薬以外の薬が効かない体質の者のことも指す。

以上、俺様のマメ魔術知識コーナーでしたー。


「え? でもまさか…忠義さんは普通の…」

「普通の人間にも居るんだよ。たしか東ロシアとかに割と多くいたな」


 別にこいつが魔法喰いなのはどうでもよかったんだが…

問題なのはこいつが少なくとも忘却魔法をはじめとする精神干渉系が効かない

可能性が激高だということだ。


「さっきから日本語なのに意味不明な会話は何なのだ修吾?

とりあえず手を自分の頭から…痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛だッ!?」


 とりあえず、黙れという意味で忠義の頭に俺様の素敵な握力をプレゼントする。

実は俺様、魔力抜きで72時間ほどエルード(ぶら下がり行為)が出来る。

だからその気になれば鉄球くらいは握り潰せたりするんだよね。


「シューゴ様。どうなさいますか? いよいよ殺ります?」


 どうしよ…しょーもないことはしない主義だが、こいつの場合は色々例外があるから

今回ばかりは良いかも知れない…おっと、美学は美学だ。

さっき吸血鬼殺しちゃったんだから。人間ぐらいは殺さない主義を貫かねば。


「原始的な方法だが記憶を消す方法があるぞ」

「へぇー、それはどんな方法ですか?(超棒読み)」

「予想はつきますが…(汗)」

「ぶん殴る。ただひたすら。そして『ココはダレ? ワタシはドコ?』となれば成功だ」

「待ってくれ修吾! それは余計な記憶も消えている!

せめて今見たことだけに…じゃない! 見た事は忘れる!

忘れるから待ごあmぎあひあgbすいはうたfがが!」

「貧弱貧弱ゥ! そんな心もついでに叩き直してやるぜ! ヒャ~ッハハハハハハッ!」


 皆さんお察しの通り奴をフルボッコタイム。何回やっても楽しいなぁ☆


「……む、むごい…」

「やはりシューゴ様はシューゴ様でしたね…

…………………………………………………………でも、そんなトコロも魅力的ですよ?」

「ララルゥ? 貴女今何か…ひぃッ! しょ、しょの写真は!?」

「ネット拡散されたくなかったら、是非とも忘却を希望しますが…どうですか?」

「ひゃ、ひゃい! わらひはにゃにも聞いてみゃひぇん!」


 何か後ろでも楽しそうな事をやっているみたいだが、

今は忠義の記憶を絶賛消去中だから放っておこう。


 さて、新しい朝です。昨日は本当に楽しかったですね。

おかげで僕は朝から元気百倍ですよ! 

……と、つい脳内まで『いい人』モードになっちまうくらいスッキリした一日だ。

とはいえ結局忠義の野朗は記憶が消えなかったので、奴の事を調べて脅すことにした。

どうやら奴は大手製薬会社の御曹司で、現在は父にして現会長の後釜となるべく、

この学園で頑張っているとのことだ。なんともいいネタだ。

すごく脅しやすくて助かるよ。御曹司と言うことも実に利用価値があって素晴らしい!

まぁジジイのおかげでカネには困ってないが、これはこれで使いどころが多彩だ★


「ふぅ…」

「シューゴさん。何だか今日はご機嫌ですね?」


 ちなみに皆さんお察しの通りだが、昨日ユリエルちゃんはお留守番だ。

てかユリエルちゃんは早寝、早起きのヒバリ

(早起きの例えでよく使われる鳥。逆の例えはフクロウだ)型なので

必然的にそうなった。ちなみに姉のほうは寝不足なのか机に突っ伏して寝てます。

きっと昨日相当に怖い思いをしたんだろうなぁ…。


「まぁな…お、そうだ。折角だから今日の放課後三人でスウィーツでも食いに行くか?」

「え? いいんですか?」

「気にするな、俺様とユリエルちゃんの仲じゃないか」

「私とシューゴさんの仲…えへへ❤」


 どうせ回避不能なフラグだ。折角だから満喫しよう。


「何だ何だ? 二人して何の内緒話だ?」

「(『いい人』モード発動!)やあ、梶取充(みつ)()くん。お早うございます」

「どうしたんだ修吾? 珍しく俺の下の名前まで呼ぶなんて…! どこか打ったか!?」


 失礼な。梶取、今の俺様に対する貴様のその物言いは

この学園における己の人気度を著しく下げる行為だぞ?

まぁお前だから別にドーデモイーケドネー。


「それはともかく、梶取くん。今日も何か面白い(どうでもいい)話ですか?」

「あー…それなんだが…」


 チッ…こういう時に限ってコレか…。


「……どうやらいい話ではないみたいですね」

「ああ、俺も知りたくなかった…実は今日、うちのクラスに新しい副担が来る…

しかもそいつはイケメン外国人教師だ…!」


 うげぇ、マジかよ。この学校、結構外人教師多いんだよな…

女教師も粒ぞろいで良いが、男のほうも洩れなくそれなのでよろしくない。

だというのにまたか! 学園長ももう少し日本人教師を信用できねぇのだろうか…。

しかも副坦って…


「それは最低ですね…」

「全くだ…」


☣魔術師クロアミ☣


 時を同じくして場所は変わり、黒網邸。邸内ではララルゥがいつものように

家事をきっちりと寸分の無駄なくこなし終え、その余暇を自室で過ごしていた。


「メガデス。居るのでしょう?」

「(おや、今日は珍しく貴女から声を掛けて頂けましたか)」


 例によってメガデスがララルゥの影から出てくる。


「私は私に課せられた義務をこなしているだけですが」

「(ふふふ…そうですね)」


 メガデスは首をカタカタと鳴らしている。


「あなたの笑いのツボは相変わらずよくわかりません」

「(ふふふ…それは幸いです…)」

「? …それはそうと、昨日の吸血鬼は何処の者か検討ついてますか?」


 メガデスは器用に八本の腕を組む。


「(それは簡単でしたね。どうやら間実コミュの裏切り者のようでしたので、

向こうからは感謝と礼金を頂きましたよ)」

「そうですか、それは何よりです……で、それは、と言う事は…」

「(相も変わらず数人潜り込んでいましたね。今回は人狼も混ざっていましてね…

少々苦労しました)」

「人狼も…ですか。今日は景気が宜しいようで…それから?」

「(もちろん連中は本当の意味で始末してます。存外手を焼きましたが)」


 ララルゥは傍にあった魔導書に手を伸ばし、ページをめくる。


「しっかりあなたも義務をこなしているようで何よりです」

「(それはどうも……ですが、少々気になることが)」

「(めくる手を止め)……何ですか?」

「(始末した連中が(いささ)か奇妙だったのです。

遺体からは出血が殆ど確認できませんでしたよ。まるでワタクシ達みたいな――)」


 ララルゥは飛ぶように立ち上がる。


「………メガデス。行きますよ」

「(? …如何しました?)」

「……杞憂であれば良いのですが、念のために行動します」

「(…まぁ、貴女のことですから、何も聞きませんよ)」


 メガデスはララルゥの影に再び潜り込む。そしてララルゥは戦闘服を身にまとい、

更には防具も装着し、破壊剣オートクレールを携える。


「どうか…杞憂でありますように…」

「(飛びますか? 少しでも時間は短縮できますよ?)」

「……頼みます。私は迷彩魔術に専念しますから、全速で」


 黒網邸から、常人には捉えられぬ速度で黒い影が飛び()った。


☣『悪』魔術師クロアミ☣


 ったく…可愛い転校生2連続でイエーイ! かと思いきや今度は

転任イケメン外人教師でウゲェーって…落差が激しいな。


「シューゴさん…? 気分、悪いんですか?」

「え? いや、些細なことだ。ユリエルちゃんもわかるだろ?」

「はぁ…まぁ…」


 ユリエルちゃん、この数日で言動まで日本人っぽくなってる。

何て適応力のある…わけでもないか。天然素材は伊達じゃねぇ!

ん? 瑞穂先生来たな。


「きりーつ」


 うん。いつも以上に男子はまばらだ、だが気持ちは分かるぜゲス野朗共☆


「礼」

「「「あよーざいあー」」」


 うわ、超やる気が感じられねぇ…締める所は締めておかねぇといかんぞ?

ほら、瑞穂先生の表情が曇ってる。


「はい、今日はちょっと気合が足りませんね。五月病にはまだ早いですよ?」


 ほらー、エスプリの無い皮肉言われちったよ。


「あーとぅいまてーん」


 そこはしゃんとしろモブキャラA。ほら、瑞穂先生の顔メッチャ曇ってる。


「……その様子だと今回は皆さんご存じないかも知れませんが、

本日から当クラスに新しい副担任の先生が来てくれます」

「キタユメ! キタコレ!」


 何か喜声がしたかと思ったら藤好さんか。

あの人はユリエルちゃんに良くない影響を与えそうだから、

接触してこようとしたらバッチリ粛清しよう。まぁ、粛清っつっても記憶消すだけだけど。


「コホン…! それじゃ、どうぞ…ファウスト先生」


 ん? ファウスト…?


「はい…では、簡単に自己紹介しますねぇ」


 瑞穂先生にファウストと呼ばれた口調が何かムカつく新任の副坦は教壇に立つ。

名前や見た目からしてドイツ系なのは言うまでも無いが…。


「………!」


 隣のイザベルをチラ見して、どうやらこの野朗は…

面倒臭え相手なんだろうなと予見できた。


「僕の名前は…バルザート…バルザート・フォン・ファウストと申します。

正式には最後に十三世と付いちゃうんですけど、割愛しときますねぇ」


 フォン・ファウスト…! しかも十三世…だと!

こいつ…マジで面倒くせエ奴みてぇだ! だとしたらこの野朗…!


「フフフ…遅いよ。狂乱魔術師デリルマギステールくん」


 !? クソが! あの野朗! 既にココは…奴の領域!

奴がマジでファウストなら…人を操るくらい造作でもねぇか!!


 頭の中だからぶっちゃけるが…いや、マジ参った。

あの野朗に操られた生徒どもに俺様絶賛組み伏せられ中。ルミエル姉妹も同じ。

もひとつおまけに詠唱妨害魔術(スペルジャミング)ときたもんだ。


「フフフ…やっぱり最初からこうすれば良かったんだよねぇ…

正直、イザベルはある意味君をどうにかできる…とも思って、

ちょっとは買ってたんだけど、この様だしねぇ」

「うう……」


 イザベルも魔法使えなきゃ唯の美少女。

仮に力でいこうにも組み伏せるのは無関係な生徒。普通にプライドが許さないよな…。

せめてもの救いはユリエルちゃんが当て身食らって気絶中だ。

こんな状況、ユリエルちゃんにはキツイって。


「しかし…こうしてみると呆気無い。手駒を君の『守護兵(ソルダー・ル・ガルド)』に

ツブされた時は忌々しく思ったけど、所詮は人形。

僕相手じゃ手を出せないんだからね…フフフフフフフッ!」


 ま、それも仕方ねぇ。メガデスは初期型だし、『守護兵』の基本である

主の補助がメインだ。迂闊に突っ込んだりはしねぇ。

ナルシストだが奴は究極に慎重派だ。


「はぁーーーー…おい、イザベル。大丈夫か?」

「…こんな状況で、そう見えるなら大した人物ですよ…!」


 ですよね。ったく条件が良けりゃとっくに『魔眼』使って勝負付けてるんだが…。


「おっと…変な動きはしないほうが良いですよ?

彼女(ユリエル)がどうなっても良いなら、別ですが、ねぇ?」


 くそ…ヘンなトコが俺様と被ってやがる…!


「さて、じゃあそろそろ手遊びも終わらせるとして」


 ファウストの野朗がそう言い終えたとき、俺様の視界は急に上に向く。

顎の激痛と共に。


「ぐぎ……く、そ…」


 多分蹴られた。口ん中に血の甘い味がする。中を切ったみたいだ。

しかも顎だから脳が揺れて視界が凄まじく酩酊したみたいにぐにゃぐにゃな状況だ。


「と、思ったけど、君を弄ってもう少し遊びましょうかねぇ…」

「は…ッ。いいご趣味だね…!」

「君だって似たようなものだろう?」

「生憎俺様はテメェみてえな奴専門なんだよ」

「それはそれは…」


 ファウストの奴が俺様に手を向ける。そこから俺様目掛けて電流が飛ぶ。


「ぐがあぁぁアあぁぁああァぁあッ!?」

 

 喰らってみるとすげえ痛えな、コレ。全身を針で刺されるとこんな感じなんだろうな…

てか、致死レベルを想像したら電気椅子も案外えげつないな。


「良い声だ…先祖代々の屈辱が晴れていく福音だねぇ」

「バルザート…どうしてあなたが…」


 確かに、話ではファウストの野朗の目立った動きは無かったはずだ。


「昨日君たちが斃した手駒のおかげだよ」


 昨日斃した…?


「おやおや…君たちは僕が誰だか忘れているねぇ?」


 …バルザート・フォン・ファウスト十三世…この野朗は死霊魔術(ネクロマンシー)のスペシャリスト…!

んでもって吸血鬼は大概が不死者(アンデッド)…なるほどな…

俺様の『魔眼』も筒抜けなわけか…クソが! 初代は爆死したくせに…!


「うん…その悔しそうな顔…それが見たかったよクロアミくん♪」


 血反吐交じりの唾を飛ばしてやる…ってバカか俺様! 刺激しちゃったよ!


「そうだ…そうでなくてはねぇ…」


 顔をやたらと綺麗なハンカチで拭って、

今度は詠唱を始めたなバルザートの野朗。


「どうせだから君は僕のアンデッド兵にしてあげるよ!

あははははは! 死してなおも君は僕のおもちゃになるんだねぇ!」


 教室の中央にやたらデカい魔方陣が出てきやがる…

よりにもよってアラム語の魔方陣だ…あの野朗…

初代同様大悪魔メフィストと契約してやがったのか…?


「さぁ! 死人ノスフェラトゥの仲間入りをしたまえぇ!」

「やれやれ…そろそろいいんじゃねえのか…?

タイミング誤ったら取り返しつかねえっての…」

「もしかして今際の言葉かい? 君はセンスも『悪』なのかねぇ?」


――確かに、センスの悪さもシューゴ様がシューゴ様たり得るものだと思いますが――


「「「!?」」」


 絶対聞き忘れない声と、何かシャキイイイン! 

とかいう音が聞こえたかと思ったら、見覚えのある剣が辺りに閃く。

そして俺様を組み伏せていた連中が綺麗に吹っ飛ぶ。


「ったく…マジでギリギリじゃねぇか! テメェ、マジでウジ虫みかんだな!」


 俺様の目の前には、この間同様おろしたての戦闘服に

専用のハーフプレート等を装着した、どこぞの回転する鉄球のような髪飾りを

二つ付けたスカイブルーの髪の少女の後姿。

ついでに真っ赤なローブを羽織ったデカい人形(メガデス)もいたね。


「生憎、今回は多重の結界+操り死人達が相手でしたので、ガチです」

「クソが! だったら尚のこと急げやボケ! 今回は感電死しかけたぞコラ!?」

「興奮いたしますと、そのゲルニカみたいな髪型が悪化しますよ?」


 意味わかんねぇ! 例えが芸術的過ぎて想像し辛いわ!


「馬鹿な…! 僕の多重結界をこうも簡単に…?」

「目の前の光景を見ろや、これが現実だ」


 さて、状況は少し好転した。次の手を考えよう。


「ふ…まあいいさ、君の『守護兵』が出張ってきたところで、

数の暴力は揺るがないからねぇ…?」


 実際そうだ。操られている連中が全部アンデッドなら俺様の大逆転なんだが、

俺様には美学がある…こいつらを殺さずにあの野朗(バルザート)をボコる策はねぇ。

次の手、次の手っと…。


「しょうがねぇ…こんな時はアレしかないな。ララルゥ、メガデス。時間稼げよ?」

「了解です」


 メガデスも「お任せを」と手話で返事。

んじゃ、時計を確認…現在午前11時43分…と、


「何をするつもりかな? クロアミ君?

まさか君は罪もない生徒たちを諸共にしようと考えてるのかねぇ?」


ダズ・マ・ロウ・ライラ…


「…! これは…シューゴ!? まさか貴方は…!」


安心しろイザベル。俺様の辞書に「美少女を見捨てる」なんて言葉は無いから。


第六悪に続く☆

はい、すみません…前後編でした。

あの時の私は締め切りに切羽詰ってたことも思い出しました。


ああ、若気の至りェ…

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