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第三悪 俺様に不可能は無い!

汚い行為では常套手段ともいえる人質作戦で

まんまとイザベルを隷属させた修吾。

果たして彼はどれほど暴走するのか…?

 さて、あの一夜から明けて、学園の俺様の教室なのだが…

…いやぁ、人質ってすごいね。油断していたとはいえ、

一対一では一度は俺様を追い詰めた、

あの「刃の神子(アンファン・ド・ディユ・レーム)」とまで謳われた

イザベルちゃんも下僕に出来ちゃうんだから。もう最高だね。

例えどんなに俺様のことをぶっ殺したい!

と、思っていても従わなければいけない女の子ってのは、

なんかこう、グッと来るなぁ。(危険思想ですが、何か?)

 そういえば、嬉しすぎて今日の朝食はあからさまに

爬虫類の丸のままの姿フルコースだったんだけど普通に平らげて

ララルゥに対してまで『いい人』モード発動しちゃったよ。

その時のララルゥの狼狽といったらあれはあれで…


「随分と元気だな、修吾? お前さてはズル休みか?」


 何だ梶取か…いや、教室で大体一番初めに俺様に話しかけてくるのはお前だが、な…

…こういう楽しい事の初日くらいは真面目に朝練行って、

超疲れ果てて、机に突っ伏して、そのまま永眠して欲しい(笑)


「(『いい人』モード突入!)そう言う梶取君も朝練サボったんですね?」

「いやいや、今日は朝練無いから…で、ホントのところどうよ?」

「三日前は(右肩の刺し傷による)高熱と(失血による)貧血で大変でしたよ?」


 裏づけのために三日前本当に病院に行って証明書も貰ったしな。


「にしても元気すぎだろ、病み上がりでそれは」

「昨日スタミナ牛丼メガ盛を七人前ほど食べましたからね☆」

「あー…なるほど…ってお前はどこの正○超人だよ!?」


 などと漫才チックなやり取りをしていたら…やって来たねイザベルちゃん。

転校してきて三日目でその憂鬱な表情もいいね。

グッと来るよ☆(ゲス野朗ですが、何か?)


「おや、お早うござ――」


「「「イ ザ ベ ル さ ん ! お 早 う ご ざ い ま す !」」」


 な、何だこの野朗共は…! イザベルちゃんを取り囲むようにしつつ

彼女の進行の邪魔をしないようにするこのガチでムチムチな肉の壁は…ん?

一部女子もいる!?


「あー…そう言えば修吾は昨日まで休んでいたから知らないんだな?」

「…何ですか? あの人達は?」

「ほら、お前も去年出ただろ? “春季・新執行部員弁論大会”」

「あ! そう言えば…!」


 “春季・新執行部員弁論大会”…この学園の特殊行事の一つで、

文字通り そ の ま ん ま なやつ。

執行部員が確固たる地位を確立すべきためには避けては通れない登竜門だな。


「で…それとあの人たちの関係や如何に…なんですけど?」

「うん、あれだ、弁論の内容は言うまでも無くカンペキだし、

話しているときのイザベルちゃんはすごく凛としてカッコ良くて、

銀騎士(アルジェント・シュヴァリエ)』なんて英名が付けられた位さ。

ただでさえ美少女なのにそんな一面を改めて見せられたら

心酔する連中が出てきても何らおかしくないだろ?」

「(メガネをクイッと)はぁ…なるほど」


 たしかにイザベルちゃんならそれは分かる。

転校初日に一部女子からも熱烈なファンが生まれたくらいだし。


「んでその弁論大会の後にそんな連中が結成したのが

『銀騎士親衛隊』だとさ。

会員証は制服に着けられる銀の剣のバッジらしいぜ」

「『銀騎士親衛隊』…!(汗)」


 何てご大層な…いや、似合っているけどさ…。


「イザベルちゃんも大変だよなぁ…転校して三日目で、

親衛隊なんてぶっちゃけ重た~いファンクラブを創設されちゃあさ」

「(苦笑)…重た~いとかは言い過ぎですけど、確かにそうですね」


 不本意だが楽しげに梶取と会話を弾ませていると、

ご本人がこちらへつかつかとやってきます。

そりゃそうだ、イザベルちゃんの席は俺様の隣。

俺様の監視のための措置が早速仇になったな…ククク…。


「(顔だけ『いい人』モード)Bonjour, Isabel.(おはよう。イザベル)」

「(必死な笑顔)B...Bonjour m...mon maître.

(……お、おはよう…ございまひゅ…ご主人様(マトル))」


 う~ん…屈辱だがそれを顔に出すまいと必死に振舞うその表情とか、

咄嗟の反応は舌足らずなとことか…堪りませんな!

ちなみに他の連中には俺様とイザベルちゃんの会話はフランス語に

聞こえている事を忘れるなよ?


「「「?!」」」


 梶取以下のクラスメイト連中も死ぬほどビックリだよね☆

何言っているかは理解できなくても、親しげに挨拶を交わしたと見えるのだから。


「(精一杯の笑顔)Q...Qu'est-ce que v...votre entreprise êtes-vous maintenant?

(こ、今度は…な、何でしょうか?)」

「(顔だけ『いい人』モード)Je dis juste bonjour?

Il est emballé dans des mots que cela, Mais cela aurait remarqué, en effet?

Avez-vous tout droit dans tout cela? Héééé?

(挨拶しただけだよ☆ つーか言葉に詰まってんじゃねぇよ。

流石に気取られるぞ? そんなんでいいのか? あ~ん?)」

「(すこし引きつるが笑顔維持)~~~~ッ! J...Je suis désolé m...mon maître

(も、申し訳ありません…ご、ご主人様)」

「(顔だけ『いい人』モード)Il a également bloqué des mots?

Etes-vous sûr de vouloir blague dame sœur sexueeeelleeee?

(また詰まったな? 妹ちゃんに…悪戯しちゃおうかな~?)」

「(一生懸命な笑顔)V...Vous vous souciez de temps après ... mon maître ...

(い…以後気を付けます…ご主人様)」

「(顔だけ『いい人』モード)Le Très bien, la rivière des Perles s'assit.

(ならばよし…席に着け)」


 嗚呼! ララルゥもこんな感じなら全て許して押し倒して××××××してやるのに!


「おい…修吾?」

「(『いい人』モード復帰)何ですか?」

「何言っているかわかんなかったけど、お前…何時の間に…!」

「いやぁ…実は僕、お粗末ながら外国語を勉強してたもので…

…それがきっかけで、実はイザベルさんとは

転校初日の放課後から意気投合したんですよ。

ほら、彼女にしろ僕らにしろ、異邦の土地なのに

同郷の言葉で話しかけてもらえると嬉しいじゃないですか」

「「「何ィィィィィーッ!?」」」


 ああ、もう…この何ともいえない優越感は最高だな…。


「そっか…そういやお前暇な時はそれ系の辞書を読んでいたな…」

「ちなみにその時彼女に病院の手配もして頂いたもので」


 そっちの裏づけもバッチリ…というか命令して遂行させた☆


「...Fils de pute, comme nous dit fièrement...

(…よくも…いけしゃあしゃあと…)」


 イザベルさんや、俺様の地獄耳にはその程度の呟きなど筒抜けですぞ☆


「(顔だけ『いい人』モード)Hé, j'entends?

C'est un bon courage à profaner?

(聞こえてんぞ? 不敬な態度とはいい度胸だ)」


 くどいようだが、周りの連中には俺様とイザベルちゃんの会話は

基本的にはフランス語に聞こえている。


「(必死すぎる笑顔)Je suis désolé ... mon maître.

(申し訳ありません…ご主人様)」

「(顔だけ『いい人』モード)C'est admirable est mignon♪

(その殊勝さは可愛いぞ♪)」

「(一生懸命すぎる笑顔)Merci ... mon maître(ありがとうございます…ご主人様)」


 これ以上いじめると後の楽しみがなくなるから、普通に戻すか。


「(『いい人』モード復帰)それより聞きましたよイザベルさん。

“春季・新執行部弁論大会”でダントツのトップだったそうですね」

「え?! あ…いえ…そんな褒められるようなものじゃ…」

「まぁ、そう謙遜せずに…僕も去年出ましたけど、

現生徒会長と副会長の弁論には遠く及ばなかったんですから」

「(微妙に引きつった顔)そうなのですか? 意外ですね?」


 当たり前だ…生徒会執行部に潜り込めればそれで良かったんだからな。

出る杭は基本的に打たれるのが世の掟と言っても過言じゃない…

お前みたいに特例がポコポコ出てくると思うんじゃねぇぞ?

――と眼で訴えてやろうかと思ったがヤメとこう。

どうにもあの夜以来イザベルちゃんが何となく

「いじめて光線」を出してるように見えてしょうがねぇ。自意識過剰も甚だしい。


「ははは…そうなんです――よ?」


 なんか凄まじく首筋がチクチクすると思ったら

『銀騎士親衛隊』の連中が憎悪しか篭ってない目で睨んできやがる…!

「あの…皆さん、そんな顔してどうなさったのです?」


 イザベルの鶴の一声で奴等、我に返った!? 既に神格化しているとでも!?


「シューゴ? まだ体調が治ってないのですか? すごい汗ですよ?」

「え? あ…ホントだ…おかしいなぁ…」


 我に返ってもなお俺様に純粋な憎悪を向けるザコどもが数人いるな…

とりあえず休み時間に影で俺様への憎しみの感情もろとも消し飛ばしておくか…?

いや、ザコなんだから放って置こう。


 朝はそう思ったとはいえ、ザコどものウザい視線は究極に鬱陶しかったので

イザベルに命令して抑え込ませておくことに…

大体ここでの俺様は『いい人』なんだから、その態度は普通だったら最低な行為だぞ?

普 通 だ っ た ら 、だ け ど な ?(クソ野朗ですが、何か?)

 舞台は昼休みの屋上に移る。表向き俺様とイザベルは友人だから

昼飯を一緒に食うのも何ら不審じゃない。


「どうした? 遠慮せず食えよ?

ご主人様と一緒のメシが食えるなんて下僕としちゃあ光栄至極だろう?」

「………」


 まぁ、絶句するその気持ちはよ~っく分かる。正直俺様も最初は絶句した。

だってさぁ、いつもの弁当が重箱で、その中身がもれなく

丸のままの爬虫類フルコースなわけで……。後で覚えとけよウジ虫みかん…!!


「いつも食べてるんですか…これ…?」

「…食い物に関しては俺様もまともなモンを喰いたいと考えてる…が、

あのウジ虫みかん…もといララルゥが今日に限って朝食からこれ系を出してきやがった」

「彼女って…ホントに『守護兵』なんですか?」

「一応、な…一応」

「人望は本当に皆無みたいですね…」

「だったらお前がこんな状況になると思うか?」

「………いいえ」


 ララルゥ……二重の意味での嫌がらせか! 

貴様はいつか必ず×××して何度も何度も×××して

俺様の××を××せて俺様専用の×××にしてやる!


「見た目から“生”を感じるが、味付けは一級品だからとりあえず食え。これ命令☆」

「くぅ……!」


 その表情ベリーナイス!


「あ…むッ!」


 もう堪らんな…その苦悶に耐えるその表情…!


「…んっ…く…んっ…むっ……あ、ホントだ…」

ふおおおおおおッ!? なんかエロかった! マジご馳走様でした!

「シュー…いえ、ご主人様…? 目頭を押さえてどうしたんですか?」

「…気にするな…それから私的なときは別にシューゴでいいから」

「いいの…ですか?」

「いいとも…ただし公の場では絶対にご主人様と呼べ。これ命令☆

日本語でもいいけど、その時にまず屈辱とか恥辱とかを

より一層感じるのはお前だけどな☆」

「くっ…わかりました…」


 今にも泣きそうだなぁイザベル…あ~、こんな毎日が…生きてて良かったぁーッ!


 と、まぁこんな感じでの学生生活も早や数日…昨日は昨日で

ユリエルちゃんの目の前で似たような事

(ユリエルちゃんは日本語がわからないので

先の学園でのやり取りを日本語でしてみた)をして存分に楽しませてもらった。

もうね、アレだよ。妹の前で気取られないように

必死に耐え忍ぶ姿は最高だったよ☆(鬼畜ですが、何か?)


「………」

「………」


 ちなみに今日は学校が休みなので家にいる。休日の何の予定も無い昼下がり。


「……………」

「……………」


 何の予定も無いので俺様は当然ヒマだ。


「…………………」

「…………………」


 だから居間であんまり見ないテレビ番組を見てるわけだが…


「………………………」

「………………………」


 前にも言っただろうがこの家には俺様とララルゥの二人しか住んでない。

普通だったらこの構図は男のロマン超爆発(ビッグバン)! 

この瞬間は俺と俺の嫁の二人っきり! やるなら今だ!(何を!?)

ここでやらねば男が廃る!(だから何を!?)…って感じなんだろうけど。


「………オイ」

「………」

「……無視すんなこの冷凍みかん」

「………」

「…いつもの返しはどうした?」

「………」

「お前最近マジで人形みたいだな」

「………」

「そのうち“間も無く電源が切れます。速やかに充電を開始してください…ぴーー”

とかありそうでなさそうな事を言いだしそうだよな?」

「………」


 へんじがない ただのにんぎょうのようだ…

 シューゴ は『むなしさ』が3あがった!

 シューゴは おどしもんく のじゅもんをとなえた!


「ぶっちゃけこのまま押し倒すぞ?」

「………」


 へんじがない ただのしかばねのようだ…

 シューゴ は『むなしさ』が5あがった!

 シューゴは きょうはく のじゅもんをとなえた!


「マジで押し倒して無理矢理×××とか強制××××とかすんぞコラ」

「………」


 そのほうこうには だれもいない…

 シューゴ は『むなしさ』が7あがった!

 シューゴは ひにく のじゅもんをとなえた!


「最近お前の作るメシがまともすぎて気味が悪い。

ついにはゲテモノから本格的な薬物にレベルアップしたのか?」

「………」


 最近いつにも増してララルゥの腹が読めない。

いつもだったら最初の一言で「シューゴ様はついに溢れる獣欲が我慢できなくなり

私でそれを…」とか何とか抜かして、もう簡単に俺様をブチ切れさせること

間違い無しなんだが…?


「おい、ララルゥ」

「………」

「ウジ虫みかん」

「………」

「性格ブスの人形女」

「………」

鋼鉄の乙女(マイト・アイゼン)

「………」

切り裂き魔家政婦(メイド・ザ・リッパー)

「………」


 違う意味でムカついてきたぁぁ! こうなりゃ意地でも何かリアクションさせてやる!

考えろ俺様。『ガン無視女子振り向かせ方大全』

(税込み一五七五円)の内容を思い出せ! シナプスを増大させろ!

海馬をフル稼働しろ! 側頭葉を超活性だ! …よし閃いた!


「………まさか、お前…妬いてんの――」


 その時! 眼前に閃く破壊剣オートクレールの切っ先がとてつもない速度でぇぇぇ!?


「うをっ!? まぶ死ッ!?」


 あと0,3秒頭を下げるのが遅かったら俺様の、

万知万能なる頭脳が無残に砕け散った心なしか

生暖かいスイカな状況になるところだった…!


「………アンドロメダ銀河が滅亡してもありえません」


 えぇぇぇぇ…まさかまさかのペカらず

ビッグボーナス生入り直撃かよ!?(意味不明)


「じゃあ何だ」

「シューゴ様には当分理解不能なことです」

「…さいですか…まぁ何にせよいつものお前に戻ったっぽいな」

「……ちっ……もう少し粘れば良かったみたいですね」


 こいつやっぱりムカつくな…イザベルくらいの可愛げを見せてみろっつーの!


「それで、シューゴ様。何か御用ですか?(棒読み)」

「今までのやり取りで俺様が何を欲していたのか察してみろよ」

「…ただでさえ劣情丸出しだというのに――」

「とりあえず今すぐ死んでこいウジ虫みかん」


 何でこう予想してた通りの返答をしやがるんだこいつは…!


「あ~~…最近は夜も虐め甲斐のある奴もいねぇし…積みゲーも全消化しちまったし…」


 テレビのチャンネルもニュースとか昼ドラとか昼ドラとか昼ドラとか

バラエティかと思いきや昼ドラの1シーンだったから面白くねぇし…。


「そんなにお暇でしたら自家発――」

「このウジ虫みかんが! 今すぐ切腹して果てろ!

つーか少しは慎みを持てねぇのか? 大体俺様は身内の汚点だけは

死ぬほど嫌いだと言っただろうが!」

「まぁまぁシューゴ様。これでも読んで落ち着いてください」


 そう言ってララルゥは週刊誌らしきものを俺様に手渡す。


「………ん? 学園ものの漫画か…しかしやけにガタイの良い野朗ばっか出てくる――」

「どうですか? “ハッテン! ガチでムチムチ学園天獄(ゲヘナ)”。

個人的には37ページが…」

「ほぉぉぉぉぉわたぁぁぁぁぁぁぁ!」


 推定時速170km! 今なら俺様甲子園で天下人! ドラフトもダントツ首位だ!


「ああ、定価595円が雲のかなたに…(棒読み)」


 このアマ…なんちゅう本を俺様に見せやがる…うぷ…昼飯の八宝菜が逆流しそう…。


「…だが、まぁ貴様が俺様の気持ちをクソ曲がりなりにも汲み取った事は良しとしてやる」

「ありがとうございますシューゴ様。BLTサンドでも食べますか?(棒読み)」


 ……何かもう、今日は犬を嗾けてこいつをマジで泣かせてやりたくなってきた…。


「切り替えろ…割り切るんだ俺様………ん?」


 さすがにそれは美学に反すると思い、気を紛らわそうと

テレビのチャンネルを回していたら気になるニュースを発見できた。


「遺産相続を巡る血を分けた兄弟の骨肉の争い…ですか。昼ドラだったらベタですね」

「まぁいい加減使いまわすのも大概にしろってな……ってそうじゃねぇよ」

「では何ですか?」

「ジジイの“遺産”だ! よくよく考えたらジジイの“遺産”があるじゃねぇか!」


 最高の暇つぶゲフンゲフン…有効活用の材料がそこにあったじゃねぇか!

常人なら単なるガラクタばっかだが、

魔術師である俺様にしてみればこれほど素晴らしい暇つぶぇえっくしょぉーい!

…もとい有効活用にもってこいなお宝で一杯じゃん☆


「ララルゥ、俺様のスマフォ持って来い」


 遺産とケータイ、ぶっちゃけ直接の関係は0。

しかし必要だから使う。その答えは…


「な、何ですか…今度は?」


 俺様の家にイザベルがいるって事。下僕なのでお茶とかは無し。


「つーかお前、データ通りの可愛い私服なんだな。いや、眼福至極で結構☆」

「~~~っ! …そんなことのために…あんなメールで呼び出しを…!」


 マジパネェっす。その泣きそうな顔。超パネェっすよイザベルちゃん☆


「……変態ここに極まれりですね」

「ララルゥ。テメェわざと耳元で呟くんじゃねぇよ」


 やっぱこいついつかマジで泣かす。


「いや、ぶっちゃけそれならそれでわざわざ呼び出したりしねぇから」

「…それで、今度は私に何をさせるおつもりですか?」

「『魔術議会(コンシェル)』襲撃」

「………何…れすって?」

「『魔術議会』襲撃☆ 俺様のお宝奪還大~作~戦~☆」

「………何…でしゅって?」

「ジジイのものは俺様のもの☆

“電撃! 『魔術議会』強襲お宝奪還!

邪魔者み~んなジェノサ~イド(笑)大・作・戦~☆」

「………にゃん…ですって?」


 イザベルさんは連続噛み噛みしつつも泣くもんか、泣くもんか、と懸命です☆


 と、いうわけで、成層圏より高く、オーロラが煌めく電離層の闇夜を彷徨う浮遊島。

小さい頃に何度か着たことのあるここ…そう『魔術議会』の本部前だ。とは言え…


「いつ見ても質素な作りだよなぁ…どうせ石造りにするんなら

全部大理石とかにできなかったのか?」

「そのように建築しろと貴方のお爺様が……というか、シュー…

ご主人様(マトル)…やっぱりこのスカート…丈が短過ぎませんかっ…!」


 当たり障りの無いように意見するイザベルの服装は、

ララルゥと色違いの特製メイド服。うん…最高。

そういう初々しい反応って何度見ても飽きないよね☆

隣の同じ格好でも恥らう素振りすら一切合切微塵も見せぬ

ウジ虫みかんとは月とスッポン。畜生足元から突風とか吹けばいいのに…!

見えそうで見えない意匠(デザイン)にしなきゃよかった…!


「一つ質問してもよろしいでしょうか、マスター」

「何だよ厚顔無恥鉄仮面(ララルゥ)

「何故“マスター”などと言うベタベタでギトギトな

言い回しをしなければならないのでしょうか」

「イザベルと被るから。以上」


 それとベタベタはまだしもギトギトはやめろ、何か美学に反するモノを想像しちまう。


「もう一つ質問してもよろしいでしょうか、マスター」

「矢継ぎ早に何だ」

「その第六天魔王とかが着そうな悪趣味全開な黄金の鎧と仮面は何処から?」

「こんな事もあろうかとひっそり作成しといた。以上」


 俺様の魔力とカネの結晶を悪趣味と抜かしやがったな。だが我慢。


「あ、いけね」

「どうかしたんですか? シュ…ご主人様?」

「わざわざ仮面と変声機まで(あつら)えといて大事な事を忘れてたぜ」

「大事な事、といいつつもマスターの用件は実はとても下らないことでした(棒読み)」


 ホントこいつは俺様のモチベーションをぶち壊す言葉しか言わねぇな!


「(でも無視する)お前等のコードネーム考えてなかったな」

「コードネーム…ですか?」

「何? 本名(そのまま)でいいの? それならそれで…(ニヤリ)」

「(切ないほどに必死)ぜ、是非ともコードネームでお願いしますっ! ご主人様!」


 ですよね。賢明で結構。


「んじゃそういうことで…お前のコードネームは…(アルジェント)


 シンプルなコードネームの由来は着けてる仮面が銀製だから。安直失礼。


「(やけっぱち)(アルジェント)…ですね! 了解ですご主人様!」


 クフフフ…そのやけっぱちな表情。堪らんなぁ。


「お前はもう鉄仮面ウジ虫みかんでいいよな」

「(素敵スマイル)ひねりが微塵も感じられませんね、このゲスマスター♪」

「一瞬ダークテイストでカッコよく聞こえるけど100%罵ったな貴様!」

「ゴールデンハンマーは貰えないんですか?」

「出したネタ古いなオイ!? 世代格差(ジェネレーションギャップ)が心配されるわ!

あとクイズでもねぇし!」


 お前西暦何年生まれだよ! とか突っ込みたかったがここでやったら小一時間、

延々と皮肉たっぷり♪ 罵り合戦☆ みてぇな事になりそうだから

もう少しマシなコードネームをくれてやらぁ!


(フォル)(フォル)! それで納得しろこのウジ虫みかんが!」

「…ちっ…ただの悪口(つりばり)では食いつきませんか」


 テメェは俺様をスポーツフィッシングの悪食ライギョか何かと一緒にしやがったな!

近い将来必ず絶対テメェを×××して××させて×××にしてやるからな!


 さて、いろいろムダに疲れることがあったが、ようやく奪還作戦を開始できるな。


「ああ、そうだ銀」

「な、何でしょうか、ご主人様」

「お前に武器を貸しておく」

「武器…ですか」


 乗り気じゃないのは仕方が無い。だが奴隷だからンなもん知ったことか☆


「安心しろよ。俺様はしょーも無いことはしない主義だ。ただ念のためってやつだ」


 得物を持っていないイザベルこと、コードネーム・銀にはとりあえず

ララルゥこと、コードネーム・鉄の予備武器でもある

『斬魔刀ピュアブライト』(ご先祖様作)を手渡す。


「これは……こんな業物も持っていたのですか…!」

「そいつは退魔の武器でな、悪魔とか魔法そのものに高い威力を発揮するんだ。

どこぞの鉄仮面の使うような斬壊するだけの武器と違ってな☆」


 一瞬ガン飛ばしたなウジ虫みかん! 俺様が気付いてないと思ったら大間違いだぞ!?


「退魔の…武器…」

「オイ、コラ…何で俺様を見やがる」

「ひぅ…も、申し訳ありません…ご主人様」


 オッケー☆ その反応なら俺様許しちゃうよー☆ …と、それはさておき


「おい鉄。正面玄関の守備はどんな感じだ?」


 ちなみに索敵魔術(サーチ)詠唱妨害魔術(ジャミング)を発動しているから使えない。

と言うわけなので目視で確認する必要がある。

いくら『守護兵』でもこの闇夜で500m以上離れた距離から

正確な人数ははじき出せねぇぞ? さあ、思いっきり間違えちまえ☆


「前衛に戦士320、中衛が銃士120、後衛は術師240、計680。残念ながら間違いありません♪」


 何だと!? えーと暗視ゴーグルどこだ…? 

あった……伍拾、百、百伍拾、弐百………えーと……足して…

…ぐぬうッ!? ホントに全部合ってやがる! ムカつく!


「あの…ご主人様?」

「ん? 何だ銀?」

「どうやって突破するつもりなのですか?

私たちは詠唱妨害魔術の効果で半径十数m内では

攻撃魔術はおろか補助も使えないのですよ?」

「魔術師としては正論だな」

「え?」

「お前等に限らず、専門的に修行を積んだ魔術師ってのは

こういった感じの物事を魔術的に捉えがちなんだよな」

「成程、科学の力を使うのですね」


 鉄の奴は理解が早い、付き合いが長いおかげかもだが。


「科学の力?」

「これなーんだ?」


 俺様は懐から350m缶サイズの物体を取り出して二人に見せる。


閃光手榴弾(スタン・グレネード)ですね。爆光を直視すると一時的な失明、

又は視力の激減を引き起こします」

「ついでに補足すると爆発音を近距離で聞くと一時的、

又は恒久的な難聴も引き起こすぞ」


「丁寧な解説ありがとう」と、何の気持ちも込めずに言ってみる。


「お褒めに預かり光栄です(棒読み)」


 全く嬉しくなさそうな様子を見せ付けやがるが、別に良い。


「…あ、そうか…魔力も一切感じないから…」


 やけっぱちかと思いきや以外にノリのいいイザベルも分かったらしい。

流石だな。最高議員は伊達じゃない。


「んじゃ、一丁派手に行きますか☆」


 マントに下に隠し持って来た閃光手榴弾約二百個+αで楽しいパーティの始まりだ。


☣魔術師クロアミ☣


 『魔術議会』議長を務めるギド・ドゥモンが家族に顧みる時間が

脆くも崩れ去ったのは自分を含めた『魔術議会』最高議員が皆等しく不在であった

僅かな時間を奇襲されたことに始まった。


「……ふむ」


 慌てて駆けつけたイザベルから黒網修吾の監視絡みの報告が良好なものであった故に、

今のこの状況は、自分自身の僅かな気の緩みが呼び込んだ結果なのだろうと

思わざるを得ない。というのも議会場が半壊で、

聞いた報告だけで相当なケガ人が続出との事である。


「いやいや…自分達が俗世とは一線を違えているということが良くわかりますねぇ…」


 ギドの隣でそう呟いて下位議員達からの矢継ぎ早の報告の処理にあたる

優男風の魔術師バルザート。


「議長…この時期の襲撃はやはり…」


 怪訝な顔で訊ねるガルヴァンにギドは一言。


「いや、うぬの懸念しておる事では無い」

「そ~ですよぉ~? あの人たちなら~、

まだ大陸で~睨めっこの真っ最中ですから~~もぉ~

ガルヴァンちゃんは~心配性ですね~?」

「ですがシルヴィス殿…万に一つの可能性も捨て置くべきではないと思いませぬか?」

 内容は至って真面目なのだがその間延びした喋り方で真剣みを感じさせない魔術師の女

シルヴィスに寡黙なナイスミドルの剣士風魔術師ガルヴァンは苦笑を隠せない。

「……そう、ですね……ガルヴァン殿のおっしゃる通りです…」


 分かりきった事だが、その惨状を生み出した一人である

イザベルは心中穏やかではない。


「人間臭さで言うなら、あいつらの可能性も、あるかも」


 そんなイザベルをよそに、周りで下位議員達が奔走する中でも

相も変わらず寡黙を貫く男オールダンと、会話には参加しつつも

目線は魔導書から離れないとんがり帽子の魔術師の少女マリリエル。


「うむむ…この時期にこれだけの行動を起こせる者達か…」


 ギドは懐からキセルを取り出し点火する。


「エルフェス(マリリエルの苗字)よ、

あいつらとはどのあいつらの事を言っているのだ?」

「夜神のほう」

「………大神では無かったのか………」


 何処と無く残念そうな顔をするオールダン。


「いやいや、オールダン。どっちにしてもそれは面倒な方向になりますよねぇ…?」

「………奴等の方が(たお)し甲斐がある………」

「斃し甲斐って…つくづく貴方が良くわからないですよ…」


 バルザートは再び報告の処理にあたる。


「ふむ…可能性で言うならば、どちらが出てきてもおかしくは無い…のだが」


 キセルを深く吸って紫煙を吹き出すギド。


「やはり議長も府に落ちない点が?」

「うむ…大神にしろ夜神にせよ…奴等には『魔葬教会』がいる…

彼奴等との戦いを繰り広げる中でワシらに手を出すなど…何の利がある?」

「ごもっともですな」

「ガルヴァンちゃんに同じです~」

「じゃあ、新興勢力?」


 魔道書を閉じてギドを見つめるマリリエル。


「………」

「オールダン。関心を寄せるのなら何か喋ったらどうなのですか? 

――何ですと? そんな報告は後で良いんですよ!

それよりも別な損害等は無いのですかねぇ!?」


 器用に報告の処理をしつつオールダンを促すバルザート。


「………今の自分が喋る必要性を感じない………」

「ああ、そうですか…え? 治療班が足りない? 

貴方達があたればいいでしょうが!」


 オールダンの言動とグダついていると思われる下位議員達の対応に苛立つバルザート。


「バルザート君も~大変ですね~」

「いやぁ、そんな事はありませんよシルヴィス様」


 デレデレしながらいつの間にか用意したティーセットを傍に

お茶を勧めるバルザートと嬉々として興じるシルヴィス。


「ふむ、この際敵の正体は置いておくとして、問題は死人を出すことなく

此処を襲撃した目的をまず知らねばならんか」

「そうですな、死人だけは一切出さなかったからには明確な目的もありましょう」

「けど、それならたくさんある」

「そうですねぇ…マリリエル様の言う事も尤もですよねぇ」

「れも~ふぉれらったら~ひりはないれふよ~?」

「シルヴィスよ…口の中のものを飲み込んでから喋ってくれぬかのう…」


 何だか段々と和やかな雰囲気になりつつある中、

バルザートが一人の伝令からの報告を聞いたことでその雰囲気も一変する。


「何ですと? …もう一度言ってもらえますかねぇ?」


 その言葉にその場の全員がバルザートに注目する。


☣魔術師クロアミ☣


 さて、今頃連中は狼狽しているだろうなぁ…

何よりイザベルちゃんがその場に凄まじく居辛そうな構図を想像するとこう…

堪りませんな! っと、あんまり悦に浸りまくってると

あのウジ虫みかん(ララルゥ)ちゃんが戯れ言をほざくかも知れんから自重しとこう。


「シューゴ様。この盗品で何をするつもりなのですか? まさか…」

「もう良い黙れウジ虫みかん! まかり間違ってもお前の想像通りの事はしねぇよ!?」

「それはとっても面白くありませんね(棒読み)」


 もうマジこいつ泣かしてやろうか!?


「っと…それはどうでもいい」


 確かに奪い返したのはいいがこれで正直何をするかまでは

これっぽっちも考えてなかったな…。計画性は大事だ。

借金(この時点で何か矛盾を感じるが)も旅行も。


「えーっと…奪い返したものは…」

「『魔剣イーター』に『エリクシル・ノワールのレシピ』、

それから『コカトリスの血晶石(ブラッドストーン)』と

『クルウルウの邪眼水晶』の四点ですね」

「ん? その他多くの魔導書はどうした?」

「シューゴ様の部屋のベッドの下に置いてみました♪」

「何でベッドの下なんだよ!? 発見されたら違う意味でドン引きされそうだよ!?」

「隠れ趣味と言うことにしておけば…」

「おけねぇよ! そもそもベッドの下とかベタ過ぎんぞ!?」

「ではクローゼットの隠し棚に入れておくべきでしたか?」

「テメェ何でそれを知って…まさか!?」

「はい、既に灰燼に帰しました♪」


 ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!! 俺様の魂のバイブルがぁぁぁぁぁあ!!


「何て事をしやがるこのウジ虫みかん! あれは全部絶版だぞ!?

あのア○ゾンや満★堂ですら取り扱ってない激レアなんだぞ!?

オークションかければマニア共が数百万出しても手に入れようと必死になる

艶々な一品ばかりなんだぞ!? それを…それを…!」

「汚物は高温で焼却消毒するのが一番ですから♪」


 おノれェぇぇぇェぇぇェェェぇぇ! ウジ虫みカぁぁァぁぁァぁん!

貴様は近い将来必ず脳髄に焼き付けたバイブルの内容と

同じ事をしてやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


「…まぁ、いい……かまわんさ…それよりも、だ…」

「泣きたければ泣けばよろしいではありませんか?」


 このウジ虫みかんが! 俺様が涙流して泣けないのを知っててほざいたな!?


「取り返したこれらのモノでどんな悪い事をしてやろうかな…」

「切り替えが早いですね。まるで鶏みたいです」

「(全力全開で無視)ん~~力を喰らう武器に…

なんかすごい薬のレシピ…あとは石化予防の宝石に狂気のアクセサリーか…」


 いまいちピンと来るモンが無いな…もうちょっと漁っておけば良かったか?


「こんな時は…」

「こんな時こそ自家発―」


 胸ポケットから犬笛を取り出して口に咥えて大きく息を吸――


「も、申し訳ありません…シューゴ様」


 こういう時は癒されよう…眼と心の保養をしに行こう。


 という事でユリエルちゃんのお部屋です。最近は何だかんだのすったもんだで、

挙句に煮詰まった時はユリエルちゃんのところに顔を出して癒されるのが

俺様の新しい楽しみになった。だってユリエルちゃんは

それこそ (けが) し 甲 斐 が あ る ほ ど に

(ああ最低だとも、だがそれがどうした?)いい娘なんだよねぇ…。


「いつもありがとうございます。シューゴさん」

「いいんだよ…こっちも押しかけてるようなもんだし」


 ちょくちょく来てるからユリエルちゃんともすっかり打ち解けて、

ララルゥほどではないが地を見せられる仲に進展した。うん。

たまにはストイックでプラトニックなのもいい。

これはこれで男冥利に尽きるってもんだ!


「今日はいつに無くお悩みですね?」

「そうなんだよ…友達から貰ったものを使って

何か面白い事をしたいんだけど、中々良いアイディアが浮かばなくってな…」


 何となく本当の事を話してもいいんだが、如何せんいい娘なユリエルちゃんには

刺激が強すぎる。それでユリエルちゃんに何かあったら

折角のお膳立てから何まで台無しになりかねない。

何より俺様の美学に反する!


「お友達から頂いたものでしたらお礼などは…」

「ああ、それは大丈夫だ。その場で最高のお礼はしてる」


 議場の半壊とか、雑魚共のフルボッコとかな☆


「さすがシューゴさん♪ お姉ちゃ…姉様がちょっと羨ましいです」


 そう言って咳き込むユリエルちゃん。背中をなでてあげよう。


「…なあユリエルちゃん」

「ふえ? 何ですか?」

「あんま無理しなくていいんだぞ? 人間は素直が一番だ」


 ユリエルちゃんはホントにいい娘だから、身内に対しても

ガチガチの礼儀を持って接するのも、体が蝕まれていても

気丈に務めるのも良くないところだ。あ、また咳き込んだ。


「でも…それだと…私…」

「イザベルだって嫌々してるわけじゃねえんだ…」

「けど…」


 俺様はついユリエルちゃんの頭を撫で撫でしてしまう。

やべぇこの感覚は気持ちいい!


「はう…」

「そこまで礼を重んじる相手じゃねえよ、イザベルも(特に)俺様も」


 ガラにもねぇ臭いセリフだが…今はこれでいい。何か蕁麻疹が出そうだけど、

ユリエルちゃんの為にも我慢だ! 女の子は鳴かせても泣かせない!

ある意味最低! だがこれこそ俺様の美学がひとつ!


「…シューゴさんは、やっぱり優しい人です」

「俺様が優しかったら、世界は平和だよ」


 この娘は世の中をあんまり知らないのか? 

他人に素でいい顔する奴なんざ、それこそ数えるほどしかいないっての。

大体は俺様みたいに腹黒いド腐れ外道だぞ?


「私の事を知った上で、私に何度も会いに来てくれるのはおばあちゃんと、

お姉ちゃんと……シューゴさんだけです…」


 おいおい…ウソだろ? 他の連中はどんだけ我が身可愛いんだ?

流石に呆れるな。


「会いに来てくれるだけでも嬉しい…しかもおばあちゃんも

お姉ちゃんも私のために色んな事をしてくれる…でも…私…私は…!」


 そう言ってユリエルちゃんはひどく咳き込む。

病人は感極まると良くないと言うが…。


「おい、大丈夫か?」

「はい…もう、いつものことですから…慣れ…っこ…」


そう言って俺様の目の前でユリエルちゃんは倒れた。


 いきなりだったから正直焦った。

とにかくこのままにしては置けない事は確かだったので、

俺様はユリエルちゃんを抱きかかえて自宅に戻った。

戻った時ララルゥはいつもの物言いが無かった。

普段からそうであってほしいと思うくらいの機を見て敏な行動だった。

並みの医者なんぞ役立たずなわけで、ンでもって治療系魔術は

俺様やララルゥは使えないから、ジジイの遺した魔法薬(ウィッチメディシン)を飲ませてやるぐらいが関の山。

 これじゃああべこべだと思ったが、一応イザベルには連絡を付けてある。

一発良いパンチをお見舞いされそうだ。

本当ならこれを利用してもっとえげつないことが出来そうなのだが…

…他人の命が直に関わるような事は、俺様は嫌だ。

 何があろうとも。

 美学以前の問題だ。


「どうにか落ち着きましたよ。シューゴ様」

「………」

「シューゴ様?」

「……そうか……」


 らしくねぇよ…。こんなのは俺様らしくねぇよ。俺様は…超抜無敵の魔術師なんだ。


「おい、ララルゥ」

「全部こちらに運んできても良いのですか?」

「分かってんならさっさとしろ…!」

「了解です」


 ホントに…いつもこうならお前は最高なのに…。


☣魔術師クロアミ☣


 知らせを聞いたイザベルは、血の気が引く。

以前から掛かりつけの白魔女から云われて、覚悟は決めていた筈だったのだが…

まさかこうも早いとは予想できなかった。

色々な意味で自分の不甲斐無さを呪いたかった。

 文字通り飛んできたイザベルは妹が運び込まれた部屋に飛び込む。

そこには弱弱しく寝息を立てるユリエルと、

何とも言えぬ表情でそれを立ったまま見つめる修吾の姿があった。


「……言っとくが、俺様は何もしちゃいねぇ…」

「分かっています…それくらい…貴方以上に!」


 今修吾に向けるべき感情では無いと頭では分かっているのだが、

イザベルはそこまで自分を律する事は出来なかった。


「………」

「………」


 お互い何も語る事が無いまま幾許かの時間が経つ。


「シューゴ様」


 気が付けば開け放たれたままの扉の前に議会から奪い返した

マジックアイテムを大量に抱えたララルゥが入ってくる。


「遅えよ」

「申し訳ありません」


 ララルゥは言い終えると傍にあるテーブルの上に、

マジックアイテムを丁寧に並べる。


「…この状況で、盗品の閲覧ですか…良い趣味です…!」

「……あのよ、イザベル。少し頭を冷やせ…前にも言ったが、

俺様は…しょーも無いこと…人の命を潰す関係の事は何があってもしねぇんだよ」

「では…一体何を…!」


 落ち着けと言われてもそう簡単に落ち着けるわけが無い。

可愛い肉親が生死の境を彷徨うのならば尚の事だ。


「……助ける以外に何があるってんだ」

「!」


 修吾の表情からは真意が読み取れない。だが、今までの修吾を見ていれば、

彼が無益に人を殺めるような悪事を働いていないのは良く分かる。

確かに修吾は『悪人』ではあるが、その根元まで『悪人』ではない。

それは散々こき使われたイザベルが一番良く分かっている。


「ちょっと離れてろ」


 修吾のその表情は他人の被虐を喜ぶ顔ではなかった。

だからこそイザベルは彼の言う通りにした。すると修吾はユリエルに近付き、

どうにか寝息を立てている彼女の首に赤みがかっているが

ドス黒い水晶球がはめ込まれた首飾りを着ける。


「シューゴ…これは…?」

「『クルウルウの邪眼水晶』で作ったアクセサリー…つーか触媒だ」

「しかし、シューゴ様? それは狂気の魔力が篭った死呪の…」


 ララルゥの意見を遮って修吾はこう言った。


「だからよ…触媒だって言っただろ? こいつを利用すりゃ、

“死斑病”をどうにかできるかも知れねぇ…目には目をってヤツだ」


 そう言って修吾は首飾りに小さくも精巧で緻密な魔法陣を瞬きせずに刻み込む。


「………思ったより梃子摺(てこず)るな、こいつぁ」


 そうぼやきながらも、今度はその魔法陣に並の魔術師ならば、

まず聞き取れない程の超高速言語で魔法詠唱を始める。

すると辛うじて呼吸するユリエルの体全体が鈍く濁った極彩色の輝きを放ち始める。


「ようやっと出やがった…喉が痛えじゃねぇか」

「これは…まさか…」


 イザベルの確信を肯定するようにララルゥが答える。


「恐らく“死斑病”の呪力そのものでしょうね」

「へへ……俺様に不可能は無いって事を…魅せてやるよ…!」


 とは言うが修吾の顔からは滝のように汗が流れている。

だが修吾は気に留めることなく超高速言語を再開すると、

今度は魔法陣を刻んだ水晶球から赤黒い光が放たれる。


「シューゴ様…」

「五月蝿い、気が散る」


 段々と顔色が悪くなっていく修吾を気遣うララルゥだったが、

修吾は軽くあしらった。やがて赤黒い光と濁った極彩色の光は鬩ぎ合うように輝く。


「!…もらったぁッ!」


 冷や汗塗れだがしたり顔の修吾がそう叫び、片手を首飾りにかざしたその瞬間、

修吾の手から黒い光が放たれ、鬩ぎ合っていた2つの光を飲み込むようにかき消した。


「ユリエル…?」


 イザベルが恐る恐る歩み寄ると、先ほどまでの生死の境は何処へやら、

ユリエルは穏やかながらも胸いっぱいに呼吸をして眠っている。


「…本当に…治った…? 不治のはず…なのに…?」

「あー…何とかなったのはいいが…薬効いてるから暫くグッスリだな…

畜生…起きあがるやいなや感激しているユリエルちゃんからこう

×××で×××で×××的なご褒美を期待したが…無理っぽいな」


 言い終えるとへたり込む修吾。さりげなくララルゥは修吾に

液体の入ったドリンク剤みたいな形のビンを手渡す。

それをひったくるように受け取って一気飲みする修吾。


「おごあ…変に甘ったるくてクソ不味い…だが効きそうだ」

「はい。“超絶倫! ハイパー黒まむしドリンク”ですから効き目はバッチリでしょう」


 ちょっと吐きそうになる修吾。


「ゴルァ! テメェなんちゅうモノを俺様に飲ませやがる!?

つーかここは雰囲気的に魔法薬だろうが!?」

「でも、元気になりましたね」

「なってねぇよ!? 単に怒ってるだけだし!?」

「少なくとも怒る元気は取り戻せたのですから良いではありませんか?」

「成程言われてみれば確かに元気が…っていいかげんにしろ!!」


 これ以上の言い合いは間違いなく

自分の心にストレス以外の何物をも残さないと感じた修吾は姉妹の方に向き直る。


「んで、どーよ? ユリエルちゃんの容態は?」

「全く…問題ありません…まるで発症する前みたいに…」


 イザベルの双眸にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「…ああ、そういや人は嬉しい時も泣けたんだっけ…」


 修吾は何とも言えない表情で頬を掻いている。


「シューゴ…本当に…」


 イザベルは今にも泣き出しそうである。

そんなイザベルに修吾はとても(くすぐ)ったい感覚を覚える。


「本当にありがとう…でも、これで――」


 そう言ってイザベルの表情が不敵な笑みに変わったとき、修吾は大事な事を思い出す。

そう、彼女は自分に妹を人質に取られていたわけで、

その妹に命の危険云々が今は無い事が確定したわけで、

つまりは彼女が修吾に服従する理由が無くなったというわけで。


「げ、やべ…」


 言い終える前に修吾の体はイザベルの手足に絡め取られるわけで。


「レーム・ド・ルミエル家秘伝! 聖十字固め(スルヴワテュード・セイン=クロゥス)ッ!!」

「ぐあああああああ!? 背骨がかつて無い方向にいいいいいいッ!?」


 さしずめ卍固めのようなサブミッション攻撃に修吾は苦悶の表情を隠せない。


「妹ちゃんの命の恩人に対する礼儀がこれかああああああッ!?」

「これでも最大限に譲歩したつもりですがぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「ぎゃあああ! やめろぉぉ! 人間としてありえない方向に背中が曲がっちゃうぅ!」


 そんな様子をクスクス笑って見ているララルゥ。


「うををををい!? 何笑ってんだウジ虫みかぁぁぁぁん!

ご主人様の危機だぞゴラァァァァァァァァァァァァァ!!」

「シューゴ様ならそれぐらいでは死にませんし、

イザベル様もシューゴ様の命を奪う気なんて無いですよ? 多分♪」

「多分って言ったなこのウジ虫みかぁぁぁぁぁぁぁぁん! …”アッ―――!?」

「……一応、妹の命を救ってくれたのですから、私もそれぐらいは弁えてるつもりです。

でも、今まで受けた屈辱への報復ぐらいはしっかり、たっぷり、骨の髄まで…ね♪」


 イザベルのそんな茶目っ気たっぷりの笑顔に修吾はヘンな恐怖を感じた。


「!? 骨の髄までってそういうことか!?

でもこれは洒落にならねぇってばよぉォぉぉohぉぉゥっ! “ぬふぅッ!?」


 ――嗚呼もうダメだ…何気にワーストデッドエンドだ。

修吾がそんな事を考え始めた時。


「お姉ちゃん! シューゴさんに何て事をしてるの!!」


 聞き覚えのある可愛らしいが怒りを孕んだ声が聞こえる。


☣魔術師クロアミ☣


「え?」


 声の主は先ほどまでグッスリと眠っていたユリエルちゃんだ。

彼女は起き上がって驚きつつも怒りが見え隠れする表情でこちらを見ている。


「ユリエル…? あなた、もう目が覚めたの?」


 イザベルのサブミッション攻撃は途端に緩む。

どうやら俺様はユアーダイでネバーライブなデッドエンドを一応回避できたらしい。


「当たり前でしょ!? あんなに大きな人の叫びで目が覚めなかったら

私普通に耳鼻科にも行かなきゃダメじゃない!!」


 そりゃあごもっともだよな。


「何より恩人に対するその仕打ち…!

お姉ちゃん! いいえ! イザベル・レーム・ド・ルミエル!」

「は、ハイ!?」


 多分妹にここまで怒鳴られたことが無かったんだろうな…

イザベルは、かつて無いその妹の怒鳴りつけに直立不動になっちまってる。


「私たち、レーム・ド・ルミエル家の第一家訓は覚えていますか?」

「えっ…と…」


 正直さっきの怒鳴りつけに反応した時に頭が真っ白っぽいイザベルは

何も言葉が出ねぇとみた。


「はぁ…もう…レーム・ド・ルミエル家の第一家訓…

“受けた恩、特に命の恩は一生懸けて返すべし、身内もまた然り”…

私たちが一番忘れちゃいけないことでしょう?」

「そ、そう…だったわね…」

「なのにお姉ちゃんは、受けた恩を仇で返すような事をするなんて、

恥ずかしくないの!?」

「そ、それは…この男が…」

「言い訳するの!? 自分の事を棚に上げるの!? 恥の上塗りをするの!?」

「ごめんなさい…」


 この構図はなんともシュールな気がする。


「シューゴさん」


 申し訳なさそうだが真剣な表情のユリエルちゃんの呼びかけに、俺様もつい身構える。


「お、おう…」

「愚姉の振る舞いに、代わって私が謝ります…本当に申し訳ありません!」

「い、いや…別に…俺様も最悪の事態は免れたわけだし…」


 うん、腰周りも大丈夫みたいだ。よかった。


「ああ、もう…シューゴさんはこんなに器の大きな人なのに…お姉ちゃんときたら…!」


 気が付くとユリエルちゃんの周りから

彩色豊かな大きな鬼火珠(オーブ)のようなものがたくさん湧いて出てくる。

「な、なんじゃこりゃ…?」

「いわゆる“精霊”だと思われます。シューゴ様」

「精霊だと?」


 疑問の声を上げつつも俺様は最初に

ユリエルちゃんの元へ尋ねたときの疑問が解決する。

魔術無しでモノを動かす等が出来たのも、彼女の周りにいる精霊の力を使えば納得だ。


「意識の無かった間に何があったのかも|精霊(この子)達から聞きました…

だからこそお姉ちゃんのシューゴさんに対する行動は…!」


 気のせいか周りの空気が揺れているような…そんな気がする。


「ゆ、ユリエル…落ち着いて…色々あるけど、今の貴女は病み上がりなわけだし…」

「………」


 なんとも嫌な予感がするので俺様は姉妹の間に割って入ることにした。


「まぁまぁ…ユリエルちゃん…イザベルも反省してるし、もういいんじゃね?」

「でも…」

「ぶっちゃけ病み上がりも事実だろ?

そんなに怒ったら折角の俺様の行動がムダになっちまうよ」


 また倒れられたらマジで凹む。それこそ心臓にも悪いし。


「……シューゴさんがそこまで言うなら…」


 良い子だなー…抱きしめたいくらいだ。しかしこれからどうする?

何やかんやでこの状況は何気にピンチだ。

イザベルも俺様に服従する理由が無くなっちまったし…。


「いけない! 大事なことを忘れてた!」


 突然ユリエルちゃんが声を張り上げたので俺様はついビクッとする。


「大事なこと?」


 するとユリエルちゃんはいきなり三つ指ついて頭を下げる。


「シューゴさん。この度は私の病を治療して頂き、誠にありがとうございます――」


 ああ、お礼か…別にそんなの良いのに…

マジでいい子だなぁもう。んん? 三つ指?


「――そして、不束者ですが、これからよろしくお願いします」

「ちょーーーーーっ!? ゆ、ユリエル!?」


 イザベルは目が点だ。そして俺様は目が変だ。ララルゥは…どうでもいいや。


「え~~~っと…どゆ事?」

「ふえ? そのままの意味ですけど?」


 いやいやいやいやいや! あの言い方は

どう見ても新婦が新郎に言うセリフなわけで!


「だって…恩返ししたいですし……それに、シューゴさんだったら良いかな…って」

「ユリエル! それこそ落ち着いて! それは気の迷い! 血迷い! 悪魔の誘い!」


 何気にボロクソに言ってくれる…。


「今のお姉ちゃんには私に意見する権利なんて無いと思うけど…違うの?」


 ま、また周りの空気が揺れ始めた…!


「う…そ、それは…!」

「じゃあ決まり! シューゴさん…その…これからよろしくお願いします♪」


 ど、ど、どどどどどどどどうすりゃいいんだ?! だってまだ俺様高校生!

こういうところも真っ当な高校生でありたいわけで!

でもここでユリエルちゃんの気持ちを無碍にするのは男として最低の失格で死刑だ!

考えろ! 超天才頭脳をフル回転させるんだ! 黒網修吾!

この俺様に不可能は無い! 

…不可能は、無いはずなんだぁぁぁ…だぁぁぁ…だぁぁぁ…だぁぁぁ…(何故かエコー)


第四悪に続く★

まだまだ書き溜めは残ってますよ!

具体的にはラノベ一冊半くらいという中途半端な量ですがね!!

…威張ることじゃないですよ、何やってんですか私ェ…

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