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第一悪 暁より蠢くは俺様と貴様!

夢から醒めた少年。シューゴなる人物は何者か?

 えー、春ですねぇ。麗らかですねぇぇー。眠いですねぇぇぇー。

夢オチってムカつきますね。本格的に新学期ですね。学校行きたくありませんね。

春休みもう一回したいですね。でも、行かなきゃあならんのですよ。

つい先週始業式終わって高二になったばかりだしな。

 まあこんな感じでグダグダ頭の中で文句言いながらベッドを飛び出すわけだ。

時計を見ればまだ午前七時ちょい。登校するには余裕がある。

着替えて朝飯食っても時間はある。学校が近いから、実際のところ

始業のチャイム10分前に出てもおつりが来る。

これは学校が近いやつにのみ許される特権ってやつだな。とりあえず歯磨いて顔洗おう。


「おーい、メシ出来てるかー?」


居間に向かいながら何とも間抜けに声をかける俺様。返事は無い。相変わらずかよ。


「おーい」


もう慣れた事だが、やはり無視されるのは嫌いだな。

まーいいや、寝起きで気分よろしくないから

そのアピールかねて居間のドアを勢い良く開けてやる。


「おはようございます。シューゴ様」

「うお!? 居るなら居るで何か言えよ?」


ドアを勢い良く開けて飛び込んだ俺様の眼前に

(何故か)黒いミニスカメイド服+フリルエプロン姿に、

言い方が悪いが後頭部に某乗馬レース漫画に出てきそうな

回転する鉄球っぽい髪飾りを二つ着けた、染めてんのかどうか知らんが

スカイブルーのセミロングヘアに何処ぞの人形みてぇな

整った可愛い顔(無表情だが)の少女が姿勢よく立つ。


「必要を感じませんでしたので」

ご主人様(マトル)であるはずのこの俺様に対する不愉快極まりない言い方をしやがる

少女の名はララルゥ。名前からして日本人じゃないこいつは俺様の今は亡きじいさん

(フランス人なのだが帰化した)に所縁(ゆかり)のある少女だ。

こいつは小さい頃からじいさんのメイドちゃんをやっていて、

俺様の食事などの家事全般をこなす役目を担っている。

俺様の幼馴染でもあるが、まぁー今はどうでもいいか。

しかしこいつはとにかく俺様を主人と思っているのか

思っていないのか良くわからんのだ。

表情がそれこそ人形みたいに変わらないことが多いから何考えてるのか基本的にさっぱりだ。


「おいコラ」

「何でしょうか」

「いい加減その態度を改めろ」

「必要を感じません」


堪えろ俺様。ご主人様の意地を見せろ。


「じいさんも既に大往生(くたばった)。だから俺様がお前の主人。そうだろ?」

「はい」

「だからよ、主人に対してのその無機質な言動は良くない…違うか?」

「その件に関しては判断いたしかねます」


 あぁ…なんだか眉間がぴくぴくしてきたよ?


「その言動さえなければお前は最高のメイドちゃんだ」

「はい、最高のメイドちゃんです(棒読み)」

「うん、そうだ。でもお前のその言動で赤点手前だ」

「赤点ではないのですからよろしいではありませんか(棒読み)」


 うぬぅ、握り拳にすんごい力! 今なら青リンゴも一瞬でフレッシュジュースにッ!


「普通に考えたら基本的によろしくないからな」

「【普通】と言う定義は非常に曖昧で時代と共に変化しやすいものです(棒読み)」


 おおおぉぉ…! わかる、わかるぞ!

今なら眼から破壊光線(ブラスター)が出せるぅぅぅぅッ!!


「……おい、俺様は今どんな気分だと思う?」

「大変ご立腹なされています」

「そうだ…朝からこのテンションは健康に良くないな」

「はい(にっこり)」


 今、笑ったね。抱きしめたいくらい素敵に可愛く笑ったね。


「じゃあ…どうして俺様がこんなに怒っているかという原因はわかるな?」

「はい(にやり)」


 あ、もう無理。


「お前はぁぁぁぁ! ちったぁご主人様に対する言動を――」

「朝食が冷めてしまいますが、よろしいのですか?」

「………ッ!」


 くそ、ののしり損なった。


「ったく…朝からいらつかせやがる…」


 色々と言いたい事があったが、朝食は健康の基本! 朝九時までの目覚ましごはんだ!

と言うことで、とりあえず温かい朝飯を頂こうじゃないか。

ララルゥの作るご飯は何だかんだ言って手が込んでいてうまいし。

てなわけで着席! 手を合わせて!


「いただきます」


 今日の朝飯は豚のしょうが焼きに漬物、筑前煮に納豆。ご飯は炊き立て、

香り高い味噌汁は具が豆腐とワカメ。うーん、日本人に生まれてよかったー!

…あ、考えたら俺様ってフランス人の血を引いているから微妙じゃね?

まあそこはとりあえずどーでもいい。後にしよう。忘れよう。メシ食おう。


「ちくしょう、美味い。美味いぞ」


 美味いから余計にララルゥの言動気に喰わねぇー。あ、しょうが焼き最高。

筑前煮はちゃんと鶏肉炒めてあるな。お? 味噌汁はまた一段と風味豊かじゃないか。

加えてご飯がまた素晴らしい炊き具合で……これならおかずが無くても三杯は食える…!


「くそぉ…幸せと怒りが相殺する…!」


 電光石火で飯を喰らって空の茶碗を差し出せばきちんと大盛りで盛るララルゥ。

何でこいつはこんなに良く出来るのにあの態度?

それが無かったら嫁の貰い手困らねぇし素敵な若奥様になれただろうによ…!


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまです」


 もう見ていて気持ちがいいよね。さっと片付けてお茶淹()れて、

さりげなく昼食の弁当も置いて。だからこそあの態度今すぐ治せッ!


「いやー食った、満腹。色々とまだ(わだかま)りとか残っているが、

朝食でとりあえず許してやる。とりあえず、な?」

「ありがとうございます」


 今度はちゃんと答えて背中を向けてすぐ洗い物だ。

いいじゃん。とりあえず、を返上しようか?


「しかしアレだな、今日の味噌汁はいつもより点数高いぞ」

「そうですか、工夫した甲斐がありました」

「ほぉう、工夫か。味噌汁に隠し味でも入れたのか?」

「ええ」


 向き直ったララルゥは微笑む。こいつの笑顔(営業スマイル?)は楽勝で人を騙せる。

それくらい良い。


「んで、何を入れたんだ?」

山椒(さんしょう)を」

「山椒か、いいねぇ、通だねぇ」

「最後に魚が付きますが、ね(にやり)」


 最後に魚? 山椒の最後に魚? 山椒…おい。


「…貴様……サンショウウオ入れたのか…!」

「はい。新鮮な(いきている)うちにペースト状にして入れてみました」


 サンショウウオ…漢字で書くと山椒魚。魚と充てるが魚ではないです。

両生類でトカゲに良く似ております。名前の由来どおり山椒の香りがする珍味です。

遠い親戚に実は猛毒のイモリがいます。近い親戚にオオサンショウウオという名の、

うっかり捕食したら逮捕される比内鶏と並ぶ特別天然記念生物がいます。

加えて言いますと俺様はトカゲとかヘビとか爬虫類が大嫌いです。

似てるものも全部嫌いです。ましてや食うなんぞ言語道断ッ!


「(素敵スマイル)前言撤回だ、お前一回くたばれ」

「(素敵スマイル返し)遂行いたしかねます」

「よしわかった。お前死刑! 百回死刑!」

「(にやり)物理的、生物学的、観念的にどう工作しても一回しか死ねませんが」


「ぬ が あ あ あ あ あ あ ! !  そ の 減 ら ず 口 が

マ ジ で ム カつ く ん だ よ ぉ ぉ ぉ ぉ ッ!!」


 …こいつ俺様の毎日の食事にちょくちょく変なものを混入しやがる。

この間は焼きたてマフィンに塗るバターに

ボイルしたスズメバチの幼虫を混ぜやがったな。

あん時は確か…「エビ風味のペーストを混ぜてみました」とか抜かしやがった…

いや、確かにそれっぽくて美味しかったですよ。けど失格。いや死刑。


「お前が男だったら一万回は殺してる」

「男女差別はいけませんよシューゴ様(棒読み)」


 この棒読みー。ちくしょう素晴らしくムカつく胸焼けするー。

TPOがTPOだったら今すぐ×××だぞコラ!?

 時計を見れば午前七時四十七分。ああ、ままならねぇ!


「学校行くからな。やることやっとけ性格ブスの人形女」

「承りました。シューゴ様」


 携帯よし。カバンよし。服装GOOD。 生徒手帳よし! 弁当よし!

ポケットティッシュにハンカチもOK! 腹具合BEST! テンションWORST! 

では採点! 60点! マイナス分は何もかも貴様のせいだララルゥゥゥゥッ!


「お待ちくださいシューゴ様」

「何だよ」

「忘れ物です」


 採点修正…55点だ。そうそう、俺様は学校ではメガネをかけねばならんのだ。

 ララルゥから愛用の銀縁メガネ(伊達)をひったくって掛ける。


「よし、OK。見かけのキャラ作りはこれで完璧だな」

「非の打ち所がありません」


 お前に言われるとムカつくけどな。とりあえず反転。


「じゃ、行ってくる」

「地 獄 で す か」

「逝かねぇよ! 逝ってもハーレム天国だ!」

「可能性は0に等しいですね」


 無視だ。全身全霊で無視だ。


「帰る頃には準備もしとけ、今日もやるぞ」

「了解です」


 さて、外に出ていよいよ登校を始めるわけだが、

実際ここから俺様はやらねばならんことがある。

今、背後から同級生が通りすがろうとしている。

顔見知りだから当然挨拶を交わす必要性がある。

俺様こと黒網(くろあみ)修吾(しゅうご)が登校中に欠かさずやらなければいけないことは…


「黒網くん、おはよー」

「(後光が指す笑顔)お早うございます。谷口さん。今日も良い天気ですね」


 家を出る前にも言ったがキャラ作りだ。

俺様は学校では誰に対しても丁寧な言葉遣いをする。


「ういっす。修吾。おはよう」

「(笑顔継続中)お早うございます梶取(かんどり)くん。今日は朝練無いんですか?」

「いやー…寝坊したからサボった」

「後々大変ですね。よければ先生に弁明しておきましょうか?」

「悪いな」


 そして俺様は『いい人』も演じる。『いい人』のさじ加減は、日々努力と勉強だ。


「おはよう。修吾くん」

「お早うございます高橋さん」

「よう。黒網」

「お早うございます鈴木くん」


 入学以来ずっとやっている事だから、俺様の物言いに抵抗のあるヤツなど

新入生を除けばいないのだ。無論、日々モンスターペアレンツに怯えているであろう

教師達からも品行方正の生徒というお墨付き。


 舞台は教室に移る。HRのベルはまだだ。


「修吾ぉー! 助けてくれぇ! 俺今日物理の予習忘れてた!」

「とりあえず僕のノート見せますから早く写してください。

次はこんなことが無いように頼みますよ?」

「サンキュー! 助かった!」


 宿題とかを忘れたヤツがいるならノートやプリント等を見せてやり、


「黒網……あのさ…本当に悪いんだけど…」

「ちゃんとお弁当は持ってきてください……まぁとりあえずお昼は学食おごりますよ」

「(両手合わせて頭下げて)ごめんな…ホントにごめん」

「(後光が差す笑顔)いいですよ。次から気を付けてくれれば」


 弁当を忘れたヤツには学食をおごってやる。


 そしてHR(ホームルーム)


「では、今回の生徒会執行部からの報告ですが…」


 誰もが立候補どころか机に突っ伏して無視決め…いや立候補しかねる学級委員もこなし、


 間を割愛して放課後。


「今月の我が執行部の目標は…」


 当たり前のように、何となく目障りな優等生共がひしめく生徒会執行部に所属する。


「黒網くん。あなたは本当に世話焼きね」

「そうでしょうか?」

「なんだか昔の高校を思い出すわ…」


 無論、担任の瑞穂先生(勤続二十年のベテラン。担当は現国)にも褒められる。

他人から見れば都合の良い『いい人』だ。この際『便利屋』でも構わん。

 信頼…それはある意味で最高品質のフィルター。このフィルターのおかげで、

何か事件があっても俺様はまず疑われない。

そして俺様を見る他人の目はなかなかどうして美化される。俺様のカッコよさ三割増し。

 だが…な、『いい人』ってのは…アレだ。しんどい。疲れる。ストレス溜まる。

スマイル継続で表情筋がひきつる。いかん、地が出る。

自重。忍耐。我慢。登校中はまずい。


 終業のベルが嫌いなヤツなどまずいない。もちろん俺様もだ。


「それじゃあ今日の授業はここまで。みなさん放課後の時間を有意義にね」

「っしゃー! 終わったー!」「帰りにメッダーナル寄ってくか?」「行く行くー」


 なんて話し声とともにクモの子散らしで教室から出て行くクラスメイト共。

俺様も生徒会執行部に顔を出したら学校での一日は終了だ。


 さて、下校だ。時間は午後四時五十七分。運動部員はそろそろ帰りたいだろうが、

大抵いるんだ熱血くん。そいつが延長申し込んでこんちくしょう! ってな。

しかし執行部員の俺様は颯爽とうじょ…もとい下校する。

執行部員には延長なんて無いんだよ☆ そんな君達に笑顔で「さよなら、また明日」

なんて少なからず妬まれる事間違い無しな言の葉浴びせて悠々と帰路に着くのさ。


 玄関の引き戸を開ければララルゥのお出迎え。


「おかえりなさいませ。シューゴ様」

「おう」

「お風呂にしますか? お食事になさいますか? それとも…わ・た・し?(棒読み)」


 普通だったら男のロマン万歳! って展開だけど其処にいるのが

ラ ラ ル ゥ だ ぁ ぁ ぁ か ら 超 ム カ つ く ぅ ぅ ぅ ー ッ!

 何、あからさまに頬を染めてんだオイ?! 俺様は知ってんぞ?

テメェがどんだけガード固いか三年前に思い知ったぞコラ!?

当時は死ぬと思ったぞ?! 男としての人生終わっちまったかと思ったぞゴルァ!?


「カバン片付けろ」

「承りました」


 カバンを受け取り残像残して奥に消えたかと思ったら

息つく暇もなく戻ってきたよこのメイドちゃんは。


「では改めまして…お風呂ですか?

お食事ですか? それとも…わ・た・し?(棒読み)」


 だ ぁ ぁ か ら 胸 焼 け す る ほ ど

ム ぅ ぅ ぅ ぅ カ ぁ ぁ ぁ ぁ つ く っ て 言 っ て ん だ よ

そ の 棒 読 み と そ の 行 動 が ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ー ッ!


「……一服したいから居間に通せ」

「あ、そうですか。面白くありませんね」


 キミは俺様を本当にご主人様と認識してやがりますカァァー!?

テメェが野朗だったらなぁ! 一万回と二千回はフルボッコで全殺しですよオォォー!?


「ああ、全ッ然! …面白くないだろうから早く居間に通せって言ってんだろが!」


 心臓痛いよ? お前のせいで心臓が風船みたいに破裂するかもよ?


「承りました」


 俺様の家は広い。二人っきりで暮らすには超がつくほどに広い。

亡き俺様のじいさん、こと黒網漸流(ぜる)が昔一財産築いたことの名残だ。

まぁーそれはどうでもいいか、それよりも今は一服! 一服したいよ! 

長ぇ廊下をどすどすと歩いて一分弱。ようやく居間に入る。そして着席。


「おい」

「どうぞ」


 もはや阿吽の呼吸だ。ララルゥは俺様の求めるものを分かっている。

何処に隠してたか知らんが、俺様の目の前に

伝統的な陶器で出来たティーセットを並べる。

お茶菓子はミルクレープにミルフィーユに……おお、

今日は俺様の好きなガトー・バスク(フランスの焼き菓子。あの王妃も好物だったとか)

じゃないか! よしよし、ちゃんとチェリージャムも挟んであるな、よし合格。

 ララルゥよ、貴様は俺様に対してのみ施行する言動さえ改めてくれれば

超一流のメイドちゃんだ! つーか一服と聞いて何か違うことを考えたか?

残念だったな。それに限っては俺様真っ当な高校生なのであ~る。

(妙に偉そうであ~る)


「あー、()みるなぁ…やっぱり俺様はフランス人の血が流れているんだなぁ…」


 紅茶はストレートのみ。俺様のこだわりだ。

ちなみにコーヒーはミルク入れても砂糖は入れない。これも俺様のこだわりだ。


「…何を今更、どちらかと言えば英国(イギリス)かぶれでしょうに」

「(ガン飛ばし)テメェ聞こえないように呟けよ」


 …わざとらしく言いやがって。

まぁー例え小声で呟いても俺様は地獄耳だから聞こえるんだが。

うん、バスクもおいしいぞ。粉っぽさも一切ナシ。

チェリージャムもしっかりと裏ごしした手作りだ。


「シューゴ様」

「何だ、後にしろ」

「準備は整っておりますが」

「百も承知だ。もう少し楽しませろ」


 ストレス解消はまだ終わってない。ティータイムは序章の序章だ。


 さて、風呂も夕食(久しぶりにゲテモノ抜きの)も済ませた。

時間は午後八時を過ぎたばかり。普通はまだゴールデンタイムだから

楽しいバラエティ番組とか見てゲラゲラ笑ってんだろうが、

俺様はあまりテレビを見ない。一応だだっ広い居間には

これまたバカでかい薄型液晶テレビがあるが殆ど見ていない。少し勿体無いか?


「よし、そろそろ行くか」

「無 間 地 獄 で す か ?」

「逝かねぇよ。つーか手前の地獄全部すっ飛ばすなよ」

「あ、シューゴ様は 最 終 地 獄 でしたか?」

「どっちにしろ最下層じゃねえか!」


 行くか、の一声で大概地獄ネタだ。そんなに俺様が嫌いか?

てかそもそもこいつは俺様にどんな感情を向けているんだ? …わからん。腹が読めん。


「よし」

「お召し変えのお手伝い致しましょうか?」

「最初っからする気も無ぇくせに!」

「(素晴らしき笑顔)ご明察です♪」


 わかっている。わかっているんだ。わかりきっているんだ。けどムカつく。


「外で待っていろ。それからあいつらに何時でも出られるように待機しとけって伝えとけ」

「はい」


 さあ、俺様のもう1つの顔…いや本性を見せるときが来た。

普段は品行方正、人畜無害な一生徒として学業に精を出し、

ストレス溜まるのを実感しつつ『いい人』を演じてきた。


「さて……」


 制服を高速で脱ぐ。クローゼットオープン!

目の前に所狭しと並ぶショルダーガード付きのマントに

怪物の顔をあしらったプレートメイル。さらに特注のローブ。

一気に現実離れしてきたな。まあそれらを着るんだが。

 そして直ぐ風呂場へ向かう。化粧品とかを主にぶち込んである戸棚を開け、

入っている特製のハードワックスでヘアスタイルをオールバックにチェンジ。

目の下から下あごにかけて一筋のメイクアップ。

んでもって耳にアメジストのタリスマンを付けて、

右手に金銀のシンプルな指輪填めまして。最後に左手に黄金色の付け爪を装着と。


「ククク…全く…この瞬間は何にも代え難い」


 鏡をもう一度見る。そこにはあの銀縁メガネの黒網修吾はいない。

 右手を天井に向け、念じれば手のひらには炎の玉が浮かび上がる。


「よしよし…」


 左手を鏡に向ければ凄まじい雷光が飛び、鏡が黒コゲだ。

明日ララルゥに新しい鏡を買いに行かせとこう。

 両手を合わせて詠唱し、開いて正面に向ければ淡く輝く魔法陣が現れる。


「体内の魔力の調子は上々だな」


 黒焦げの鏡の前に立っているのは、魔術師。

パッと見はむしろ魔王かも知れんが、これでいい。

これが俺様のスタイルだ。じゃあポーズ決めて、と


「あえて、あえて言おう。俺様の名はクロアミ。

(将来は)偉大なる『悪』魔術師クロアミ様だ! 断じて唯のコスプレではない!」


 決まった…誰もいないからちょっと空しいけど…決まった。


「キモいです。シューゴ様」


 い、い、いたのかララルゥ…! 


「…テメェ一部始終見てたな」

「はい」

「って…お前メイド服だけそのままじゃねえか」


 んじゃ何が違うかといえばララルゥの背中には

馬鹿でかい両手剣が携えられている事と、フリルのエプロンが無い所だ。


「今日は剣を使わんかも知れんぞ」

「準備は万全を期するものです」

「万全じゃねぇ、服違うぞ」

「戦闘服はクリーニング中です」


 気に入ってんのかメイド服。ん?

よく見たらスカートに毒々しいデザインのドクロのアップリケが追加されている!?

そんなに気に入ったのか?!


「先代はハァハァしていました。もうちょっとスカート短くてもいいぞ!

とも申しておりました(にやり)」


 俺様は身内の汚点だけは嫌いだ。他人の汚点は大好きだけどね☆

 だからこそ、ジジイ…あの世でもう一度くたばれ。いや一万回くたばれ。

ついでにララルゥ。貴様も一万と八千回くたばれ。


「では、行くとしようか」

「汗 だ く 汁 だ く ガ チ ム チ 焦 熱 地 獄 ですか?

個人的に見てみたいです」


 前言を修正する。ララルゥ、貴様は四万と五回くたばれ。

そして当分ベーコンとレタスとホルモンは食いたくないから出すな。

出したら発禁覚悟で究極のお仕置きだ。


 夜の街は高い所から眺めると風情がある。

隣に女の子がいれば口説くのに良さげだ…が、


「少々肌寒いですね、シューゴ様」


 でもララルゥだから全くよろしくない。

どんなに可愛くてもこいつだから少しムカつく。


「そんなフトモモ丸出しのメイド服の貴様が悪い」


 春とは言え、夜は冷える。俺様の場合は、基本的に長袖スタイルだから夏に死ねるが。


「シューゴ様がそそると思いましたのに」


 心にもねぇことを…。しかもなんかさりげなく裾を上げ下げしてる…?

ちくしょう、見えそうで見えない。

絶対領域+黒ガーターベルトが眩しいぞこんちくしょう。


「それで、今回は何を致しましょうか?」

「暴力とか小規模な破壊活動。その他はアドリブで」

「標的は?」

「索敵中だ」


 遠視の魔術で町中の至る所を見回すが、いじめ甲斐がありそうなヤツが見当たらん。

日が悪かったか?


「適当に 斬 り 刻 ん で きていいですか?」

「却下」

「じゃあ適当に 破 壊 し て きてもいいですか?」

「本質変わってねぇ、却下」

「とりあえず適当に 暴 れ て きてもいいですか?」

「…とにかく黙って俺様の言う通りにしろ。

貴様は俺様のメイドちゃん…いや違うか、『守護兵(ソルダー・ル・ガルド)』なのだからな」


 ああ、クソ。ストレス溜まる。


「お…?」


 大通りから少し離れた人気のない公園の前の通り、そこを歩く人を見つける。


「見つかりましたか? 随分とまぁ…」


 幼いな。背格好から塾帰りの小学生の女の子か?

それも低学年の。危ねぇなぁ………悪いヤツ(俺様もだけど)に見つかったら

後でまたマスコミがサブカルチャーバッシングたっぷりで

騒ぎまくること間違いないシチュエーションだな。


「拉致りますか? それとも…」

「この阿呆! あれは餌だ!」

「餌?」

「ちみっ()の後ろを見てみろ」


 ヘッドライトもテールライトも点けずにじわじわと距離を詰める黒塗りの車が見える。

あからさま過ぎて笑っちまうな。


「かっさらって弄んでポイ、か?」

「可能性は89%です」


 ララルゥはこういった計算が得意だ。それも魔術抜きで出来る。

頭にスパコンのCPUとかが詰まってそうだ。


「残りは?」

「間違いなく“やっぱ小○生可愛いよハァハァ”とか言いながら××××していますね」


 前言撤回! こいつの頭には『腐ったみかん』がぎっしり詰まっているッ!


「それで、タイミングはどうすればよろしいのですか?」

「車に引き込んだら(うま)くぶった斬れ」

「中身ごとですね。シューゴ様ったら、超えげつない☆」

「ド阿呆! 車だけ斬れ! このド腐れみかん!」

「面白くないですね」


 ある意味わかっちゃいねぇ…成功してその余韻に浸ろうとした所を

一気に叩き落とすのが最高だというのに。


「あ、捕まえました」


 女の子を羽交い絞めにするのは体格のいい男だ。うん、いじめ甲斐ありそう。


「よし、構えとけ」


 ララルゥは背中の両手剣…ご先祖の業物『破壊剣オートクレール』を上段に構える。


「もういいですか?」

「まだだ」


 女の子は抵抗している。男は慣れてないのか、

女の子の口を塞ぎながらもたついている。


「もう斬りたいです」

「せっかちな女だな」


 ようやく手足を縛って後部座席に押し込んだな。


「斬りたいです」

「まだまだ」


 早く乗れ、さあ乗れ、辺りを窺がわなくていい。

無駄に終わる運命だ。よし、乗った!


「行け」

「了解です(ダコール)♪」


 車はライトを点けて急発進。しかし遅い。もう真っ二つだ。

ちゃんと俺様の理想どおりに運転席と後部座席を分けるように一刀両断だ。

偉いぞララルゥ。腐ったみかん帳消しだ。

 車の傍に降り立つ俺様。隣を見ればきちんとララルゥもいる。


「な、何だこりゃ…?」


 そう言って男が運転席から出る。

おやおや、見た感じ二十代前半っぽいイケメンじゃんか。

個人的には是が非でも惨殺モノだが、しょーもないことはしない主義だ。


 女の子のほうは涙の跡が残る顔で真っ二つの車の片割れを見てお口をあんぐり。

おお、将来美人になりそう。


「やあ、こんばんは同類くん」

「な、何だあんたら…」

「二度言わせるな、貴様の同類だ」

「同類?」

「微妙にジャンル違うけどな」

「はあ?」


 うん、普通の反応。状況を理解できてない。至極当然(あたりまえ)か?


「おい、ララルゥ」

「はい」


 ララルゥは手足を縛られた女の子……

いや将来が楽しみなちみっ()を抱えて戻ってくる。ちみっ娘は…うん、同じ反応。


「お、おいコラ!? 何しやが――」

五月蝿(うるさ)い。黙れ」


 俺様は野朗の髪の毛に小さな火の玉をぶち当てる。


「あああああああッ! 熱ッ! なんだよコレはぁ!?」


 野朗はのた打ち回っている。クフフ…傑作だ。地面に頭をこすりつけてらぁ。

んじゃ、ちみっ娘はどうだ? おお、いいぞララルゥ。ちゃんとなだめているな。


「はぁ…はぁ…はぁ…畜生…なんてことしやがる…!」


 ん? 消火済んだのか…ぶふぅッ! …クッ…クフフフ…

てっぺんだけ綺麗さっぱりになったじゃないか。


「落ち武者ヘアーはこれから流行るかもな」

「こ、こここの野朗…ッ!」


 上着からアーミーナイフ。いい趣味だ。個人的にはククリの方が好きなんだが。


「ところでそれは何処で買ったんだ?」

「うるせぇ! ボケぇ!」


 思いっきりナイフを振るう男。でも当たらんよ。所詮は素人だ。おっと、残念。


「クソったれがぁッ!」


 闇雲に振ってどうする。まぐれ当たりにいい事は無いぞ?

おっとっと、これまた残念。


「採点しよう。0点! ド下手糞め。残念賞にビール券をくれてやる」

「うっるせぇぇぇぇえ! っだらぁぁぁぁぁ!」


 ざくっ。刺さりました。俺様にナイフが。


「へへ…」

「で?」


 刺さったけど、何か?


「は?」

「で? お仕舞いか?」

「随分と余裕じゃねぇか。てめぇ馬鹿か?」

「馬鹿と? 貴様ごときガラクタゴミクズクソカスがこの俺様を馬鹿と? 笑わせるな」


 実を言えば刺さっちゃいねぇ。何故なら刃はそこには無い。


「んじゃ、抜いてみりゃいいんじゃね? どばーっと血が出るからさ」

「あ?」


 ホントに抜きやがった。こいつ、結構単純だな。少し失望したぞ。


「……は、え?」


 そうだよなぁ、普通に目を疑うよなぁ…

刃が八割がた消えて無くなっちまってんだから。


「な…何だよこれ…」

「少年時代を振り返って考えろ。手伝ってやるから」


 野朗の禿げたところに左手を添える。電撃流して人間花火の点火だ。


「うぎゃがmじゃテャあなガいぁウhうぁぬしッ!」


 バリバリと音を立てて光りながら透けて骨が見えるかも…と考えるが、

やっぱりそれはねぇか。現実は精々目ん玉から火花だ。

おぉ、残った髪が逆立ってる。そろそろいいか。


「うむ、ほんの少ぉぉぉ~しだけ、楽しかったぞ。ジャンル違いの同類くん」


 フリースローの如く軽く押してやると、これまた綺麗に大の字。

んん? ちと香ばしい匂いがしているが……

…まぁ生きているだろ? 胸は何とか上下してるし。


「いい夢見ろよ☆」


 聞いちゃいないだろうが。でも言いたい。

もう少し踏んだり蹴ったり××を潰して泣き叫ぶところとかを観察したかったけど。

気絶してるからもういいや。


「終わりました?」

「見りゃ分かるだろ」


 ララルゥ達の方を見れば、ちみっ()は元通りだ。まだぽけーっとしてるが…

…っておいララルゥ。俺様が人間花火して遊んでる間に

車を千切りにしてジャングルジムっぽいものを作ったのか。

なかなかどうして芸術的な…って違うだろ。


「力作です。名づけて『ウジ虫の末路』です」

「いや、これはどこからどう見てもジャングルジムだし、そもそもウジ虫はどこから――」

「そこの男のズボン中央部からだらしなくはみ出している…」


 やはり貴様は腐ったみかんだッ! それもウジ虫が(たか)るウジ虫みかんッ!!


「あ、の…」


 気付けばちみっ()が俺様のマントをくいくい引っ張っている。

可愛いじゃないか。もうちょっと年近かったらこの恩を理由にあんな事やこんな事…

…とはいえ守備範囲外(アウトコース)なので、実に……惜しい!


「あ!? 何だコラ?」


 睨んでみる。ビクッと怯える。ちくしょうホントに年近かったらなぁ…。


「あ……あ…」

「んだよ? 言いたいことがあるなら言ってみろ」


 更に睨んでみる。泣きそうだ。いやもう泣いてるか?


「あ…ぅ…あ……ありが――」

「ゴチャゴチャ言ってねぇで早く帰って風呂入って歯磨いて髪梳かしてとっとと寝ろ!」


 両手挙げて馬鹿みたいに大口開けて怒鳴ってみました。


「ひぅ…ッ! うわぁ~んッ!」


 泣き喚きながら逃げ去っていくちみっ()

そうだ、とっとと帰れ。トラウマになれ。

そしてそのトラウマを乗り越えて俺様好みのいい女に成長しなさい。


「シューゴ様は…小さい子にも酷いですね…見損ないました」


 そりゃあもう美少女ゲームなら間違いなくヒロインから嫌われ確定ゲームオーバー!

と思える超つめた~い物言いなララルゥのその言葉も、

今に限っては褒め言葉に聞こえる。


「当たり前だ。俺様は『悪』魔術師(アン・デモン・マジシャン)なのだからな」

「そうですか、それはそれで存外つまらないですね」


 下手すりゃこいつの方が俺様より『悪』っぽいな…いきなり主役の立場が危ういぞ…。


「次だ次、前菜(オードブル)は終わりだ」

「わかりました」

「次は思う存分斬らせてやる」

「ありがとうございます♪ シューゴ様♪」


 まったくララルゥのヤツはぶった斬るのが好きだな…

…ただ壊すだけでは俺様の『美学』に反するじゃねぇか。

相手の大事なものや、感動的な気分や築き上げてきたものを

無残にぶち壊したりするのがこの上なく素晴らしいと言うのに。


味気ない前菜はとりあえず忘れてしまおう。次だ次。今度はどうしようか。


「う~む…どうせ泣かせるなら年頃の女の子がいいな…」

「斬らせてくれる約束は反故(ほご)ですか? 忠実に従った私に対するご褒美は

放置プレイなのですか? あぁ、そんな…私はどちらかというと攻め一筋(サディスト)なのに…

こんな屈辱の中から快楽を見出せと言うのですか…?」


 ララルゥは俺様の顔を覗き込みつつ目をガラにも無く潤ませてくる。

クソが、その顔が貴様なんぞでなければ電光石火で抱きしめて

有無を言わさずに産地直送特濃俺様フレンチキス・ハイパーボレア

ZEXスペシャリテをぶちかましてやろうというのに…。


「うるせぇ、黙れウジ虫みかん。俺様が貴様に対して約束を破ったことがあるか?」

「………ちっ……ありませんね」


 これ聞きよがしに舌打ちしやがったな? この斬り裂き魔メイドちゃんは…!


「この時間帯だといじめてもしょーもない女の子しかいないんだよな…」


 大概夜にうろつく女の子は金持ってそうなエロ親父か

クールORクランキーなイケメン目当ての正直ケバいのしかいねえのも事実だし…

俺様はもっとこう…今や絶滅危惧種とも言える大和撫子とか

そういう子をいじめたいんだよ。しかし、そこは俺様。

いじめるとは言っても女の子に手は上げないぜ! 紳士だろ?

でも手は出(セクハラ)しまくるよ☆


「平日だから仕方ねぇな…女の子は諦めよう」

「ついに初の約束反故ですね。あぅ、酷いですシューゴ様…

…こんなシューゴ様には毎日食用爬虫類(はちゅうるい)のフルコースで報復するしか…」

「とにかく黙れ、気が散る」


 うるさいウジ虫みかんの(さえず)りのせいで集中できん…

今日こいつ留守番にすべきだったと反省しかけたところでようやく次の獲物を見つけた。


「今度は…シューゴ様の(☣自主規制☣)…」

「…今すぐくたばれウジ虫みかん…!」


 とにかく次の標的はこいつ。やっぱり人気(ひとけ)の少ない所で

ボストンバッグを持ってニット帽をかぶった中肉の野朗だ。

俺様の勘としては…この野朗は――って下着ドロか。

いや、だってほら吸ってー、吐いてー、悶えてー、また吸ってー…とかしてるし。

よし、こいつは半殺しにしてからトドメに溺れさせよう。


「斬っていいですか?」

「いま少しの辛抱だ」


 バッグの中に詰められるだけ詰め込んでいるな。そんなに集めて何を…

…ぬぐ、想像がついてしまった。美学に反するから記憶から消去しておこう。


「うー…斬りたい…斬りたいぃ…」

 この斬り裂き魔メイドちゃんめ…普段俺様でストレス解消してるんじゃないのか?

一体何が貴様をそこまで駆り立てるんだ? 貴様のみかんの中には

苗字がバウアーじゃない方のジャックも同居してんのか?

コラ、わざと俺様の首元目掛けて破壊剣を振り回すな。

当たったら俺様も流石に笑えねぇ。


「はぅー…」


 何してる下着ドロ。さっさと全て詰め込め。ちょ、おま、途中で浸るな!

最後の最後までお楽しみは取っておけこのボケ!

俺様の手の掛かる斬り裂き魔メイドちゃんの目が血走りだしてきたんだぞ!?

ん? 何だ今度は………ってうぉぉぉぉおい!! 何そこで全部出して寝転ぶ!

このKYが!


「うきゅぅー…」


 わかってんのかこのクソKY! ララルゥはなぁ…

なんか可愛い小動物っぽい声とかを出すのが赤信号なんだぞ!?

「赤信号は危険です」って今時幼児でも知ってんぞ?! 


「うをっ!? ま、待てララルゥ!」

「斬ぃ~ら~せぇ~て~♪」

「可愛い声色でねだりながら俺様の首を狙うんじゃねぇ! ぬおッ!? かすった!?」


 ばっちり頚動脈だったが奇跡的に血は出てない、とりあえず良かった。


「どあぁッ! やめろコラッ! せめて居合いの構えを解け!! …!?

無拍子(ノーモーション)だと!?」


 ん!? あのKYやっと詰め終わりやがった! 何だその至福の表情!

普段なら絶好の獲物だが状況が状況だ!


「今だ今! ララルゥ行け! 光の速さで!」

「ララルゥ行きます! 斬ります! 気分は乱切りです!」


 ああもう、お前キャラが壊れてるよ。


「あああぁぁぁぁ! 何てことするんだぁ!」


 早ッ!? おお、あのクソボケKYの至福の結晶が見事に乱切りになってる。

OKさっきの暴走は許そう。

それより俺様もあのクソボケKYをフルボッコにしたい気分だ。


「やあ、こんばんはッ! ジャンル違いの同類くんッ!」

「な、何だよぉキミ達はぁ!」

「色々言いたいがとりあえず一回死ねやヴォケッ!」

「へぶらすかっ!?」


 とりあえずは俺様の華麗なる人間エグゾセミサイル

(プロレス技の1つ。見た感じは

某バイクに乗ります特撮ヒーローでお馴染みの

必殺キックに微妙に似ている)でぶっ飛ばす。


「かはっ……い、痛い…」


 以外に丈夫だなこいつ…! 状況が状況じゃなかったらいい獲物なんだけどよ!


「ぼ、ぼくの至福が…」


 すかさず馬乗り。


「このKY! クソボケ! テメェの超クソしょーもない至福で

俺様は首無しの己の胴体と勘当のご対面!? …するところだったじゃねぇか!」


 などと言いつつこのKYをフルボッコなのは皆さんお察しください。


「そ、そんな…ゆごすッ!? の…ぉでんすッ!? 知らな…いあっ!? よぐッ!?」


 ボコられながら喋るそのスタミナはよろしい!

俺様の怒りの鉄拳をデザート付きフルコースで

腹一杯満腹鱈腹ご馳走してやんぞゴラァァァァァァ!


「はふぅ…(うっとり)」


 俺様の命の危機(ニアデス)を生みやがった当のララルゥさんは乱切りにご満悦で…!

みじん切りも始めてんぞゴルァ?! とりあえず俺様は

このKYの頭を鷲掴みにしてその様子を見せ付けてやろうか!


「あ……ああ…まふへほほ(なんてこと)を…」


 よし! ボコボコ顔になったKY野朗の目が死んできた!

では更に追い討ちじゃー!


「いいことを教えてやる」

「ふぁ(な)、ふぁんでふひゃ(なんですか)…?」

「貴様のその盗んだ下着はな、(☣自主規制☣)歳過ぎたババアのだ」

「ほ、ほんろーでふか(本当ですか)?」

「そうだよ。いい趣味してるぜ」

「や、やっら…ぼふのめらひどほり、ぶふぼだ(や、やった…僕の狙い通り熟女だ)…」


ド畜生!! テメェ熟女好きかよ! 本能的にはストライクゾーン間違ってんだぞ!?


「うふふふふふふふふがばっ!? ゴボボボボボボボボッボボ!?」


目だけは生き生きとしやがったこのKY野朗の顔を水の塊で覆う。


「こんちくしょう溺れろ! トラウマで水が飲めなくなって干物になっちまえ!

つーか死ね! 死 ネ ! 死 ィ ィ ネ ェ ェ !」

「シューゴ様?」

「何 ダ 今 度 ハ ぁ ァ ぁ あ ァ ぁ ぁ Ah ぁ ッ!?」

「それ以上はさすがに死にますよ?」


 お肌も滑々艶々じゃねぇかこの小娘。さっきまでのベルセルクは何処行った?


「あーあー畜生!」


 すっかり溺れて今頃三途の川で脱依婆(だつえばばあ)(三途の川の妖怪)と

ヨロシクやってそうなこのKY野朗のみぞおちぶん殴って水を吐かせてやりましたよ!


「ままならねぇ! 次だ次! 次こそメインディッシュにありつく!」

「次もたくさん斬れ(キレ)ますか? シューゴ様♪」


 頭の奥で何かがこう、ブチブチッと切れた――ような気がする。いや、きっとそうだ。


「調 子 に 乗 ん ナ 

こ の ウ ジ 虫 み カ ん Ga ぁ ァ ぁ あ ァ ぁ ぁ Ah ぁ ッ!!」


 この時ばかりは本当にララルゥに鮮明にして明確な劣情を憶えたぜこんちくしょう。


☣魔術師クロアミ☣


 所変わって、成層圏より高く、オーロラが煌めく電離層の闇夜を彷徨う浮遊島。

常人を一切寄せ付けぬその島に一際目立つ、城を思わせるような建造物がある。

 その建造物は『魔術議会(コンシェル)』と呼ばれる機関の本部にして、

現代社会から身を潜めた魔術師の多くがここに集まって

日夜現代社会における魔術師の在り方を討論し、

そして世界各地に散らばり潜む無所属の魔術師達の監視も勤める者達の総本山。

現代社会からは失われた数多くの希少な魔道書(グリモア)や、

魔道具(マジックアイテム)知的兵器(インテリジェンスウエポン)等をまとめて保管する場所も兼ねている。

 そんな議会の大講堂ですっかり暴走状態に陥った黒網修吾こと魔術師クロアミらを、

円卓を囲って巨大な水晶玉越しに遠隔透視する七人。


「やります…いえ、やらせてください」


 円卓から立ち上がった少女らしき一人を除く六名は微笑む。


「あの鬼畜外道…もとい悪鬼羅刹…いえ、黒網修吾には…

…私が直接監視の下、更正か…抹殺かの一時判断を委ねる権限を

賜りくださったことを感謝いたします」


第二悪に続く★

長いのは昔投稿した際の仕様です。

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