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第八悪 いきなり訪英? あの子の実家は吸血鬼の豪族でした?!

 さて、夏休みも始まった。

本来ならばここで海水浴とかお約束展開を画策したかったが、

前回の事情の究明が先だ。


「ということでやってきました幻・想・大・国・イ・ギ・リ・ス!

またの名をグレートブリテン、及び北アイルランド連合王国!

現在地はロンドンッ! と、見せかけてあのザ・ビ☆トルズ誕生の地でもある

リヴァプールだ! ムダ知識かもしれないが、ここで暮らすスコットランド人や

ウェールズ人といった人達には「イギリス人」を意味する「ブリティッシュ」

と言うのは控えた方がいいぞ。もちろん「アングレーズ」なんて以ての外だ!

やっぱりボーン・アイデンティティは大事だからな!」


 俺様の言っている事の意味が分からん奴は調べてわかれ!


「本当にシューゴって英国にかぶれてるのね…」


 イザベルよ、いいじゃねぇか別に。日本人にとってイギリスは

たくさんのものを見習わせてくれた国家「クール・ブリタニア」だぞ?

日本が世界に誇ってもいい「MANGA」文化は、基はイギリスが持ち込んだ

風刺画(別名:ポンチ絵)のおかげだとも言われているんだぞ?

つまりはなぁ……「クール・ジャパン」の原点は「クール・ブリタニア」こと

イギリスにあり! と言っても過言じゃねぇ!


「ああそうとも…そして耳を澄ませろ! …ああ、本場の英語は美しい…!」

「しかしシューゴ様のEnglishはEngrish

(英語圏の人間がたまに使うという、日本人の下手糞な英語に対する罵り言葉)と

揶揄されそうですが…?」

「ララルゥよ、そんな日本人の相手に合わせる気遣いを分からぬ不届き者には

声高らかに『黙れ(シャタップ)ッ! ファッキンライミーッ!』と叫んでやらぁ!」


 コレもムダ知識だが、「ライミー」と言う言葉はアメリカ人が

イギリス人を罵る時の言葉なので気をつけろ。言う時は殺し合いを覚悟しなければならない!

しかし、ここは神に愛される麗しの女王陛下が治める紳士淑女の国!

礼儀正しく接すれば、拙い英語でも礼儀正しく接してくれるはずだ!

 まぁ俺様はしっかりガッチリ英語が喋れるのでその点は大丈夫だがな!


「けど…私たちがフランス人だってわかったら…何だか怖いです…」


 心配するなユリエルちゃん! 確かにフランスとイギリスは昔から

戦争云々で仲が悪いが、ここにはそんな時の心強い味方もいる!

困ったときは俺様と彼らを頼ればいい! むしろ俺様オンリーでもいい!


「で、ソディアちゃ――」

「おいこらアングレーズ! お兄ちゃんが話しかけてんだろうが!」

「え?! な、何かな…修吾?」


 綺理華の物言いも悪いが、そうビクつくなよ。俺様は紳士なんだから!


「実家は何処だ?」

「とっとと答えろ!」

「…あれ」


 ソディアちゃんが指差したのは高層ビルの馬鹿でかい看板だ。

つか綺理華よ、お前、楽しんでるだろ?


「降り立った女神の霊薬…GoddesFalledElixir…G・F・E…? ってこれ…!」

「ん? 知ってるのか? ハティちゃん」

「知ってるも何も、ここじゃ知らなきゃ赤っ恥の最大手医薬品会社だぞ!?

最近は帝都にも支社が建ったのに…ホントに知らないのか?」


 ん? そういえば忠義(ただよし)の野朗がその会社っぽいとこの愚痴をこぼしてたっけ…? 


「なるほどな…吸血鬼だし、人間の事は手にとるようにわかるわけだから…

そんな会社を運営していても不思議じゃないか」

「……あのさ、修吾…本当にウチの実家に行くの…?」


 話を持ちかけたときもそうだが、ソディアちゃんは乗り気じゃないようだ。


「何だよ、実家が嫌いなのか?」

「そういうわけじゃないんだけどさ…」


 女の子の機微の把握はまだまだ勉強が必要だな。まぁ今回は仕方ないとして…


「足はどうすりゃいいんだ? まさかあそこの会社に行くわけにもいかんだろう?」

「ウチの家は近くに駅が無いから、タクシーしかないよ」


 やはりそうか、金持ちは基本郊外が好きだよなぁ…ってデカい家なんだから当然か。


「まぁいいさ…この間株で大もうけしたから、(ポンド)は腐るほどあるし」

「嫌味も好調なようですね。シューゴ様」


 耳元でやかましいんだよウジ虫みかん。


「(シューゴくん。くれぐれも用心した方がいいよ?)」


 大丈夫だハティちゃん。最悪な状況は想定済みだ。

いざとなったら『守護兵』を総動員すりゃあ何とかなるさ。

それに今回は隠し武器や必殺武器もちゃんと用意してある。

念のため時空魔術の温存もバッチリだ。


「(時空魔術も使えるんだ…いよいよシューゴくんが凄いのか

凄くないのかわからなくなってきちゃったよ)」


 …微妙に切なくなるからそれは言わないでくれ。


 さて、チャーターした大型タクシーに乗ること数時間…

リヴァプールの郊外を延々と走ってるわけだが…これは…


「おい、ララルゥ。大丈夫か?」

「……何とか、頑張ってます…酔い止めは服用済み…です…ぅ…」


 のわりにはグロッキーじゃねぇか。念のため言っておくが、

こいつは俺様の汚い物言いは無論、滑空中のコンコルド搭乗中にも顔色一つ変えない。

だが犬と車酔いだけは駄目だ。


「意外な弱点があったんですね……っと、ユリエル? 大丈夫?」

「うん…だいじょ…んむ…!?」


 やはり基本虚弱なユリエルちゃんは駄目っぽいな。

酔い止めも期待できそうに無いし。


「あんなにウチを酷い目に合わせたのに…この二人」


 俺様が気絶してる間にどんなおぞましい捕り物があったんだ。


「なるほど…ユリっちも車酔いに弱いφ(._.)…と(にやり)」

「綺理華、メモるな」

「えー…」


 ホントこいつはつくづく俺様の従妹だよ…!


「シューゴくん。もう少しで目的地に着くらしいぞ?」


 それは有難い。女子の尊厳を守るためにも火急的速やかに頼むぜ運ちゃん。


☣魔術師クロアミ☣


 女子の尊厳はギリギリ守られたが、結局夜になった。

とはいえ、ソディアちゃんの実家である邸宅に到着した…のだが。


「すげぇな」

「え? 普通じゃないの?」

「滅茶苦茶嫌味に聞こえんだよ! このアングレーズ!」


 綺理華、いい加減落ち着け。しかしコレで普通と言うのはおかしい。

俺様達の目の前に広がる光景はどう見ても城だ。

ご丁寧に敷地全体を無茶苦茶分厚い塀が囲んでるし。

ちなみに俺様達の現在地は塀の門の手前だ。

門の扉は銀と鉄の合金らしきもので出来ている。


「はぁ…」

「どうしたんだよソディアちゃん? やっぱり実家が嫌いなのか?」

「…嫌いとかじゃないの…ただ」


 そうぼやくとソディアは門前の最新式と思われるインターホン…


「インターホンって…」

「ウチも好きじゃない…風情がなさ過ぎるし…夜でも門番いないし…」


 確かに風情が無い。城のつくりは中世に拘ってるとか、

そこまでやるのにヘンなところに先端技術ってのは何か無粋だ。


――ぴんぴろりーん♪――


「「「「「………」」」」」

「何か…ごめんね?」


 いやもうこれは風情が云々とか以前の問題だ。


『はい、こちら城内憲兵課です…御用の方は…』

「ウチ…コホン…私です。門を開けなさい」

『こ、これは姫様!? し、失礼いたしました! イエス! 

ユア、ハイネス! 至急開門致しますッ!』


 姫様…? てか、イエス! ユア、ハイネス! って…


「な…何よ?」

「べっつにー…くふふっ!」

「綺理華、その辺にしておけ。俺様の顔に泥を塗りたくりすぎだ。いい加減にしろ」

「…はぁーい…」


――姫様ご帰還! 全速全開で開城せよ! 繰り返す! 

姫様ご帰還! 全速全開で開城せよ! 遅延は死を以って償うべし! ――


 インターホンの効果音がアレだっただけに、なんか嫌なギャップだ。

扉もゴゴゴゴゴとかご大層な開き方するし…。


「…じゃあ、行きましょうか?」

「…なんとなくソディアちゃんが実家に帰るの乗り気じゃないのが分かったぜ」

「…ありがと」


 城門が開くと、その先の道の脇にはずらりと並ぶぜメイドさん&執事さん。


「「「「「「「「お帰りなさいませ! 姫様!」」」」」」」」

「声が小さいぞ!」

「「「「「「「「お帰りなさいませ! 姫様!」」」」」」」」

「まだだ! その程度では姫様の心には届かん!」

「「「「「「「「お帰りなさいませ! 姫様!」」」」」」」」


 まだ玄関にすら至っていないのに、すごい出迎えだな。てか何だこの軍隊式の挨拶。


「お爺様の趣味って…ホントに理解に苦しむの」

「わかる…俺様のジジイもくたばる前までずっとそうだった」


 ちなみに綺理華はずっと笑いを堪えてるし、

ハティちゃんやイザベルは呆気に取られてるし、

ユリエルちゃんにいたっては眼を回しそうだ。


「ところでさソディアちゃん。ここのメイドさん達は、も…」

「もしかしなくても吸血鬼。夜だし」


 ってことは昼間は人間のメイドさん達もいるのか。


「ウチとしては昼間の人たちの方が常識的な気がして好きね」


 なるほど、「デイ・ウォーカー」ならではの感想だな。

ちなみに玄関までは歩いて二、三十分ほどの距離。

もう普通に車走らせてても驚かねぇぞ。


「しかし警備の連中は風情の分かる格好をしてるな」

 夜だから若干分かりにくいが、皆金銀をあしらった、い

かにも憲兵というような格好をした連中がうじゃうじゃいる。

コレでかがり火とかが偽物じゃなく、無線機(インカム)を使ってさえいなければ満点だ。


 玄関も素晴らしい造りだ、イタリア式なのが通好みって感じで良い…と思ったが、

何故か自動ドアだ。

ソディアちゃんのお爺様とやらはマジで風情を何だと思ってるんだ!?


「「「お帰りなさいませ、姫様」」」

「ただいま戻りました…あら? 今日は夜勤だったの?」


 玄関を抜けるとそこでもメイドさんズのお出迎え。顔色は外の連中よりは良さそうだ。


「はい、姫様がご帰宅なさるとお聞きしましたので」

「ありがとう」

「ところで後ろの殿方達は…?」

「あ…うん…例の…」


 ? 例の…?


「そうでございましたか! 姫様! これは行幸ですね!」

「じゃあ…案内してあげて」

「承りました! 後当主様には…?」

「ウチ…コホン…私から伝えるからそれはいいわ」

「それでは…ささ、皆様どうぞこちらへ」


 メイドさん達(多分人間)は俺様達をソディアちゃんとは別の方…

多分客間へ案内してくれるようだ。


「じゃあ、修吾…また後でね」

「ん? …ああ、また後でな…?」


 案内された客間はユリエルちゃんのとこの客間に勝るとも劣らないだだっ広い部屋だ。

所狭しと並ぶ様々な調度品もさることながら、

十数人が軽く座れるめちゃくちゃ柔らかいソファがこれまたたくさんある。


「お茶汲みはいかがいたしますか?」

「あ、おかまいなく」

「では、お食事のお時間までごゆっくりどうぞ…」


 メイドさん達は音も立てずその場から一人もいなくなる……ホントに人間だろうか?


「ふーん…あの女にしてはなかなかじゃん」


 綺理華…寛ぎ過ぎだ。いくらティーセット

(と呼んで良いのか悩むほどの量のお茶菓子が並んでる)が用意されているからって

自分の家のようにふんぞり返るなよ…てかお前、スカートなのに足を広げすぎだって…!

そんなんじゃフレンチ

(イギリスではフレンチは「下品、教養無し」の意味でも使われる)

って陰口叩かれても文句は言えねぇだろ…


「…いい銘柄を使ってますねぇ…」

「本当ね…コーヒー派の私たちからしてみてもこれは感心するしかないわ」


 君たち姉妹も姉妹で慣れすぎだよ。その点ハティちゃんはおとな…


「(シューゴくん! シューゴくん! この揚げたてベルリーナ・クラップフェン

【ドイツのあげパン。粉砂糖などが塗してあり、中身は甘いカスタードやジャム、

又はワインのフィリング等が入っている】もなかなかの本格派だよ!

これでマスタード入りがあったらお約束だよ!?)」


 めちゃめちゃ子供に戻ってる! リスみたいに頬を膨らましてもぐもぐしちゃってるよ

…なんだか微笑ましいが…この後のご飯は考えてないのかな…?


「シューゴ様。いろいろと索敵魔術(サーチ)を駆使しましたが、

トラップらしきものは防犯用以外確認できませんでした」


 今回ばかりはララルゥの緊張感ある行動に敬意を表してやる。


「どうやら普通にお客さんとして迎えられたようだな」

「残念ながらそのようです」


 残念なのはお前のウジ虫みかん脳のほうだ。


「まぁしかし、いい趣味だな…」


 そこかしこに飾られてる絵画がイギリスファンタジー全開と言うのがまた趣がある。


――うむ、この絵の良さが分かるのであるか――


「ぬお!?」

「「「「「!?」」」」」


 背後から声がしたかと思ったらいつの間にかスーツ姿に

片眼鏡(モノクル)+すっきりあごヒゲ面のおっさん…

良く言えばナイスミドルなおじ様がいる!?


「はっはっは…失礼。我輩の方がいささか無作法であるな」


 何の前触れも無く人様の背後に現れるのはいささかもクソも無いと思いますよ。


「ど、どちらさんですか?」

「おっと、これまた失礼した。我輩は――」

「お爺様! どうしていつもそういう登場ばかりするのよ!?」


 言いつつ客間に飛び込んできたのはソディア…


「…ちゃん?」


 何たる漆黒のドレスアップ。その姿は正に吸血鬼の令嬢そのものだ…

そして清楚な中に漂うエロ…もとい色っぽさが素敵すぎる!


「あ、修吾…お待たせ」

「………」

「(シューゴくん。鼻の下が伸びてるよ?)」


 そんなハティちゃんこそ口の周りがクリームまみれだぞ?

こらこら、今さら拭っても遅いぞ? 

ちなみに首筋に凄い殺意を孕んだ視線を感じているが今だけは無視しよう。


「うむ…ソディアよ。今日は一段と美しいな。母君を思い出させる…」

「それはどうもお爺様…って話を反らさないでよ!」

「いやしかしだな…吸血鬼と言うのはこのように登場した方が人間の常識的にも…」

「お爺様は映画の見すぎ! そんなだから『旧臭い原型(オールディスト・アーキタイプ)

なんてノスヴェラス伯爵に揶揄されるのよ?」

「はっはっは…(ふる)いのはその通りなのだから仕方の無いことであろう…?」

「ああもう微妙に話がかみ合ってない…!」


 仲睦まじいようなそうでないような…


「えーと…ソディアちゃん? まさかとは思うがこのおっさ…このおじ様は、も…」

「もしかしなくてもソディアの祖父である。

我輩の名はガルダート。ガルダート・ゼノン=ゴッドフィートだ。

一応表では株式会社G・F・Eの代表取締役をしている者だ。

まぁ、形骸化しつつあるな…」


 ご丁寧に俺様達全員に名刺を配るガルダートのおっさん。

代表取締役って事は筆頭株主ってやつだな。

でも社長じゃないから全部を運営しているわけじゃないと。


「こんな感じだけど、ウチのお爺様が実質吸血鬼社会を取りまとめる

『常夜の神マグナス五大老(マグナス・ファイブ)』の筆頭なの」

「へぇ……」

 『常夜の神マグナス五大老』…! コミュニティ

(吸血鬼達の生活区(なわばり)の通称)の連中が聞いたら震え上がる奴らのことか!

いつも連中への脅迫のネタに使っていたが、

こうもあっさりその筆頭に接触できるとは夢にも思わなかったぞ…?


「「「………」」」

「???」


 どうやらユリエルちゃんを除くほかの女子たちもその事は重々理解しているな。

うむ、知ってて絶句しなけりゃ大物だ。俺様のようにな!


「うむうむ…さすがは魔術師ゼル・ノワールレゾーの孫息子…

この程度では微塵も驚かんか……ふぁっはっはっはっはっはっ!」


 ホントは絶句したかったけど…ほら、だって俺様だし?(意味不明)


「ジジイのことも知ってやが…るんですか?」

「ああ、良く知っているとも…懐かしいな…かれこれ三百年も前の話だが…

あの頃、人類と吸血鬼の存亡を賭けた死闘は今でも心を震わせてくれたのである…」


 しんみりと物騒な過去を話し出したなこのおっさん。

そういや俺様のジジイは六百年以上生きていたな…。


「そう…あれは西暦で言うと1722年のことだ…当時は390歳の君の祖父殿が…」

「お爺様…そういう話は食事の時でもいいでしょう…?」

「おっと…これは失礼した…」


 ガルダートのおっさんは俺様の手を硬く握り締めてくる。ごつい。そして何か嫌だ。


「極東…いや太陽の昇る地より遠路遥々よく来てくれた…

ゴッドフィート家へようこそ。シューゴ殿」

「あぁ…わざわざどうも」


 ガルダートのおっさんはまたご丁寧に他の全員にも同じ様な事をする。

何が違うといえば女子に対しては手の甲に口付けをしたりすることだろうか。

これは紳士的と捉えるべきか下心満載のエロジジイと捉えるべきか…


「さて、では堅苦しいのもこの辺りにして、食事もそろそろ出来たはずである。

心ばかりで悪いが、楽しんでもらいたい」


 心ばかりとか言ってたけど、ビックリするほど旨い林檎を始めとした

山海の珍味やら何やら勢ぞろいな食卓。酒こそ出ないがノンアルコールカクテルは

一体何種類あるのかと言うほどの豪勢さ。誰だ!?

イギリスはクソ不味いモノしかないメシマズ国家とか抜かしやがったのは!

…まぁウナギのゼリー寄せは確かに噂どおりクソ不味かったし、

ウワサのハギスも微妙だったのは否定しないよ★


「ふはぁー……」


 食事の後は超バカでかい風呂(ちょっと悔しい…)とか

吸血鬼と魔術師の古来からの関わりとか興味深い話とか

夜のキツネ狩りとか至れり尽くせりだったぜ。

ちなみに女子の殆どは疲れていたようだから

みんなそれぞれあてがわれた部屋にてぐっすりお休み中。

ただララルゥだけは何処かに行ってるようで姿を見ない…

念の入れようは感心だが、単独行動は感心しないな。


「ちょっといいかね?」

「どぉうあ!?」


 いきなり目の前にガルダートのおっさん出現!


「はっはっは! …やはりこれは楽しいのである!」


 このジジイ…やっぱりわざとか!


「何の用だ…ですか?」

「はっはっは…君はゼル殿と違って繕うのが下手であるな」

「そりゃ悪うござんした…で、俺様に何の用だガルダートのおっさん」

「なんのことはない、ソディアと共にちょっと一杯付き合わぬか?」


 未成年を何だと思ってるんだこのおっさん。


「心配するな。用意したのはノンアルコールのブラッディマリー

…まぁトマトジュースだ。ウールスターシャーソースも勿論用意してある」


 トマトジュースで一杯って…。


「お気に召さないのなら牛乳でも構わぬぞ? あれは、良いものである…!」


 何で牛乳…? って考えたら牛乳って素を(ただ)せば牛の血液…そういうことか!


 時刻的には午前零時になったかならないかと言う時間帯。

人間からすればもう寝てもいい時間だが、

吸血鬼からしてみれば正午みたいなもんなんだろうな。


「今夜は満月ね…ウチは三日月の方が好きだけど」


 月夜の下のソディアちゃんはなんとも言えない魅力があるな。

芸術的と言うか何と言うか…うーむ…。


「うむ、満月にはあまりいい思い出が無いのである」

「それはまた何でだよ?」


 満月の夜の吸血鬼とか、普通にありがちじゃねぇか。


「満月といえば人狼(リカントロープ)だ…最近は妙に大人しいが…

連中同士で潰しあってくれていると非常に有難いのだが」


 そういえば吸血鬼と人狼は敵対してるんだよな…

主に連中が昼でも自分ら並に力があるっていう単純な理由で…。


「とはいえ、今宵はいい夜である…風も穏やかで無遠慮に照らしつける太陽とは違う

月の輝きに染められた大地…かつての我らの夜の王国が懐かしくて仕方が無い…」


 感慨に浸ってはトマトジュースや牛乳をがぶ飲みするおっさんの姿は何か嫌だ。

違う意味で悪酔いしちまうじゃねぇか。


「ねぇ、お爺様…ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」


 ソディアちゃんが切り出さなかったら俺様は本来の目的を忘れるところだったぜ。


「祝言はいつかだと? こらこらソディアよ、(はや)ってはいかん――」

「…逸ってないし、聞きたいのもそれじゃないから…」


 祝言? このおっさんは何を考えているんだ?


「では何だと? 我輩はてっきり…」


 何故そこで俺様を見る。そして何故乾杯しようとするんだよ。

だからどうして寂しそうに一気飲みし始める?


「…あのね、ふと…気になったのだけど…私たちに噛まれて何も起こらない事…ある?」

「ぶどぅは!!」

「うをわ!? 汚ぇ!」


 ガルダートのおっさんは盛大に目と鼻と口からトマトジュースを噴出した。

見方によっちゃとんだホラーだ。


「ゴフッ…いきなり何を言い出すかと思えば…バカバカしい事を」

「でも…」


 ソディアちゃんは俺様を見る。よし、バトンタッチだ。


「実際俺様はソディアちゃんに口付けされた。

だが、軽くぶっ倒れただけで吸血鬼化はおろか

死肉の下僕ディスパル』にすらなってねぇみてぇなんだよ」

「…何だと?」


 おっさんの眼光が鋭くなった。きな臭くなってきたぜ。


「この間、ウチは間違いなく修吾の喉元に口付けしたの…でも、

その後聖水をかけたけど、そんなことじゃ噛み痕が消えないことくらいは分かってた…

けど、ほら…」


 ソディアちゃんが俺様の首筋を示す。

するとおっさんは鼻を近づけ匂いを嗅ぐ(何か怖気が走った、色んな意味で)


「…確かに…口付けの痕跡が匂いだけは残っている…

だというのに内部的な痕跡は殆ど残っていない…?」


 匂いでそこまで分かるのかよ? 吸血鬼って皆そうなのか?


「だが…しかし、後にも先にも…」

「お爺様…? やっぱり何か知っているの?」

「………」


 ガルダートのおっさんは考え込む。


「今回の節目も何も起こらぬと多寡を括っていたツケが廻ってきたという事か…」

「どういうことだよ?」


 何となくだが、おっさんは迷っている気がする。


「ソディアよ」


 さっきとは別人のような顔つきになったな、おっさん。


「は、はい…!」

「地下離宮に『常夜の神マグナス五大老』を呼ぶぞ」

「え…!?」


 きな臭いどころかヤバイ臭いがぷんぷんしてきやがった…!


☣魔術師クロアミ☣


 一方その頃、松明こそは一つも欠けることなく点けられてはいるものの、

人の気配をまるで感じられない地下道をララルゥは足音を立てずに歩いている。


「(しかし、あると思っていたら、本当にありましたね)」


 ララルゥの影から漆黒と深紅のローブをまとった『守護兵』メガデスが現れる。


「格好が格好とはいえ、あなたの体躯は目立ちます。戻りなさい」


 やれやれといった様子でメガデスはララルゥの影の中に潜り込む。


「(ですが、ご主人(シューゴ)サマに何も言わずに行動するのは

存外まずくないですかな?)」

「結果的にシューゴ様の有利になるのであれば、多少の罵りなど幾らでも聞き流します」

「(…やはり、愛のなせる業ですかね…)」

「……貴方の『神核(コア)』(『守護兵』の脳であり心臓である部分)…

握り潰して欲しいですか?」


 眉がヒクつき、顔を真っ赤にしつつも射殺すような眼光を影に向けるララルゥ。


「(冗談デス…ヨ?)」


 常人なら方向感覚がいつ狂ってもおかしくない程の殺風景な十字路だらけな地下道を、

全く恐れることなく歩を進めていくララルゥ。


「(しかしこの地下道…行き止まりばかりで迷路みたいですね…)」

「みたいではなく、本当に迷路です。造りは単純ですが」

「(この規模を単純と…いやはや…貴女の将来は想像が尽きません)」


 まるで道順が分かるかのようにぐんぐん歩を進めていくララルゥ。


「……ここは」

「(行き止まりじゃないですか)」


 ララルゥは目の前の壁を思い切り蹴りつける。すると壁が音も無く半回転する。


「(何と、まぁ)」

索敵魔術(サーチ)を途絶えさせず、鉄板を蹴り貫けられる脚力があれば誰にでも解けます」

「(既に最初の段階で常人には逆立ちしても無理ですな…)」


 半回転した壁の向こうは一本道になっており、眼を凝らせばその先には大きな扉。


「……ここからは嫌な臭いがしますね」

「(ワタクシに嗅覚はありませんが、血液の臭素物質が感知できます)」


 ララルゥは両手を合わせ、魔方陣を空中に出現させる。

魔方陣からは身の丈以上はある巨大な剣『破壊剣オートクレール』が現れる。

彼女はそれを手にとり、下段に構えながらゆっくりと歩を進めていく。


「…向こうの気配は?」

「(とりあえず、グリーンですな)」


 ララルゥは扉を押し開け、構えを崩さずに向こうに飛び込む。


「………」

「(広いですねえ…)」


 彼女たちの目の前には、広大な空洞と、その中央と思われる場所には、

小さな城のような建物が一軒だけ建っていた。


☣魔術師クロアミ☣


 しっかしなぁ…なんともこの地下通路の臭いは嫌だな。

何が嫌って、ここにたち込める臭いはどう嗅いでもニンニクのそれだしよ…。


「うむむ…侵入者除けのつもりで仕掛けたのだが…我輩もこれは…うぶ…」


 どうでもいいけどここで吐くなよ、ガルダートのおっさん。


「お爺様の場合は単純に牛乳とトマトジュースの飲みすぎだと思うの…」


 確かに、何だかんだであのおっさんはドラム缶レベルでアホみたいに飲んでたし。


「つーかソディアちゃんは平気なのかよ?」

「ウチやお爺様くらいになれば、ニンニクなんてただ臭くてイライラするだけよ。

けど、他の皆は嗅いだだけで軽く痙攣するみたいね」


 あ、普通の吸血鬼にはクリティカルヒットなのか。やっぱ魔除けは伊達じゃないな。


「ぐがが……か、下腹部から尊厳を破壊しかねない何かがこみ上げ…!」

「………」


 とりあえず手洗いに行けと言いたい。てかあんたホントに吸血鬼か?


「お爺様……もう少し先にお手洗いありますから…」

「う、うむ…我輩は尊厳を守り通して見せよう…ぬふぅ!?」


 既に尊厳もへったくれもねぇと思う。あん時の鋭い眼光は何処へ行った?


「あのよ、ガルダートのおっさん」

「むぐぅ…? 詳細ならば離宮で話す…だから今は我輩のことは…のおおお!?」


 よしわかった。そこにトイレのドアが見えるからとっとと尊厳を守ってこい。


 悲痛な叫びを上げるおっさんのトイレは長いと聞いた事があるが…それにしても長ぇな。


「ねぇ、修吾」

「何だ?」

「五大老の話の内容…気になるでしょ?」

「まぁな」


 噛まれた俺様がなんとも無いことがどんだけの大事なのかは確かに気になる。

理由によっちゃあ俺様の凄さとかカッコよさが滅茶苦茶アップするかもしれんからな。


「話…変わるけどいい?」

「ん? 別に構わんが」


 気のせいかソディアちゃんの頬が赤いような…? 

いや、松明の明かりのせいだ。自意識過剰も甚だしいぞ俺様。


「ウチが血を吸ったのは修吾が初めてだって言ったよね?」

「ああ、聞いたと思う」

「むぅー…修吾酷い! ウチ二回目は泣きながら言ったんだよ?」


 そういえばそうだっけ?


「で、それがどうしたんだ?」

「うん…あのさ、ウチね。今まで会った男の子の中で、

“吸ってみたい”ってホントに思ったのも、修吾が初めてだったんだ…」


 単語が微妙に違えば甘酸っぱい展開なのに…!


「ふーん…」

「あ、何か淡白ぅ…」


 一応俺様人間なので、そんな台詞じゃときめかんよ。


「じゃあ…普通に口付け(ちゅー)したいって思ったのも修吾が初めて…

って言ったらどうする?」

「!?」


 ふ、ふははははバカメそそそんなててていどでここここ

この俺様がどどど動揺すすするるるとでえででも

おもももったのかかかか?(説得力は、ゼロです)


「…何を言い出すかと思ったら…そん――」


 ソディアちゃんに顔を両手で掴まれた。相変わらず何て腕力だ!


「何のつもりだ…!」

「今度は…邪魔も入らないし…」

「空気を読めよ…!」

「ウチ…空気読めないから…」


 ほああああああ! ソディアちゃんの…ソディアの

なんかうっすら濡れて柔らかそうな唇が…ちかづ――


――ジー…ジジッ…――


「………」

「………」


 静かだったからこそ分かる、カメラがピントを自動補正する時に聞こえる機械音。


「………」

「………」


 ソディアは顔から火を噴きそうだ。俺様は冷や汗が噴きそうだ。


「修吾…何か凶器的なものはあるの?」

「銀製のククリナイフ的なものがあるぞ」

「あら丁度いい…抉り斬るのにもってこいね」


 俺様は懐に隠し持っていたそれをソディアちゃんに手渡す。


「じゃあ、ちょっと待っててね修吾。ウチはそこでまだ録画しようとしてる

出歯亀ご老体を四つ裂きにしてくるから」


 眩しい笑顔で怖すぎる事言ってソディアはうっすら戸が開いていた

トイレに突っ込んでいく。どれ、耳を澄ませてみようか。


「や、やぁソディア。お前もぎぇあがぎゃみげッ!?」

「モウロクしていらっしゃるお爺様にはちょっと外科手術が必要よね? 主に脳の」

「はっはっは…待てソディアよ。いくら我輩とてそんなもので

脳を麻酔無しで手術されると幾らなんでも待てやめ痛

ぎゃああああああああああああああああああああ!?」


 あんたらが吸血鬼でホントに良かったよ。フツーだったらどえらい事だ。


 ソディアの脳外科手術と言う名の拷問云々でマジでえげつない事になった

ガルダートのおっさんが元の姿に「再生」するまで意外に時間が掛かった。

やっぱ吸血鬼は銀での傷は治りが遅くなるようだな。

だというのに不死者(アンデッド)のくせに

(まぁ主にゴースト系の話だが)純鉄では全く傷つかねぇってんだから不思議だぜ。


「…下垂体の辺りがまだ痛い気がするぞ…」

「ホントに大丈夫かおっさん」


 下垂体は頭のど真ん中のど真ん中だったはずなので、

痛くてもそこをどうにも出来ないもどかしさは足の裏の虫刺されといい勝負だ。


「お爺様なら大丈夫よ。昔首をねじ切っても死ななかったし」


 ねじ切っちゃったのかソディア!? 仮にも実の祖父だろ?


「うむ…あれは痛かったな…しかし小学生にもなってのアレは――」


 さくっ。おっさんの眼にナイフぶっすり、しかもばっちり貫通いや貫痛。

つーかさっきからスプラッター成分が多すぎねぇ?

当分動物性のものは白身魚にしておこう…。


「ア゛ッ――てんぼろぁあああああ!?」


 正直正気を疑いたくなる光景が広がりすぎだ。

ナイフが深く突き立てられた目ん玉から夥しい出血とともにのた打ち回るおっさんとか、

実の祖父の目玉に思いっきりナイフ刺して心なしか冷笑しているかのような孫娘とか、

どんだけSAN値直葬すりゃいいんだよ?


「で、ソディア。大分歩いてるが、いつになったら離宮とやらに着くんだ?」

「え? あ、うん。もうそろそろだと思うケド…?」

「…さりげなく我輩の惨状を無視しないで貰いたいのである」


 もう目玉治ったのかおっさん。銀の短剣ぶっ刺さったのに回復早いな。

あ、ナイフきちんと血を拭って返してくれるのか。流石は英国紳士だな。


「それはともかく、ここはマジで迷路だな。

ニンニク臭さも相まって方向感覚が鈍りそうだぜ」

「うむ、侵入者を迷わせる小細工だからな、それくらいの効果が無くては

何世紀もかけて壁と言う壁にニンニクのエキスをすり込んだ甲斐がない」


どんだけ暇なことしてんだよ…。


「お爺様。そういえばマシアス子爵がここで百三十年迷って

死に掛けたとか聞いたけど……それってホントなの?」

「うむ、頭でっかちだからな。だから少し鍛えろと放り込んだら

百三十年も迷いに迷ってミイラ化しかけた所を保護した記憶があるぞ。

出口を塞いだから脱出できないというのに……いやぁ、あれは面白かった!」


 仮にも仲間に何て事しやがるんだこのおっさん…そうか、

そんな性格だから孫娘であるソディアに首ねじ切られたり

脳外科手術されたり目玉にナイフ刺されたりするのか…何か納得したぜ。


「ふむ、どうやら目的地に到着したか」


 おっさんが指差したその方向にはやたらと馬鹿デカい合金製と思われる扉。


「いろんな意味で長かったなぁ…」


 俺様はドアノブに手をかk――


「あ! 修吾!? 迂闊に触るとウチらでも危ない超高圧電流が――」


 触ァァる前にぃィ言えェェェェェエエエエエヱヱヱヱヱ゛ヱ゛ヱ゛ヱ゛ヱ゛ヱッ!

――っそおいッ!(手を離した)普通なら死ぬところだったぜ…魔術師でよかった。


「…危うく心臓麻痺するところだった…」

「いやぁ、すまんすまんシューゴ殿…これも侵入者除けの装ぶるぁぁぁぁぁ!?」


 とりあえず大事な事を先に言わなかったこのクソジジイに

さっきのククリナイフを脳天にしっかりバッチリざっくりブッスリお見舞いしてやる。


「で、どうやって開けんだこの扉は?」

「お爺様…はまだのた打ち回っているから…ウチが何とかやってみるね」


 そう言うとソディアは扉の前に立ち


「****…*****…****」


 ん? 何語喋ってんだ? ソディアの行動で音声認識なのは分かったが…

聞いたことの無い言葉だな…ラテン語のような…ルーマニア語のような…

しかしそのどれとも符合しないちょっと変わった発音だな。


「ほお…ソディアよ…古代ゲヘナ語が上手くなったな」


 チッ…おっさんもう再生したのか…刺し手に捻りを加えときゃ良かった。

人間だったら即死ものだが、おっさん人間じゃないので容赦しねぇつもりでやったが、

まだ甘かったな。


「古代ゲヘナ語…?」

「我々が古の時代に最初に人間たちとの会話に使用した言葉だよ」

「は…? オイおっさん。何を意味のわからん事を…」

「ふむ…? シューゴ殿は我々『夜神族』が人間から派生したと思っているのかね?」


 そうじゃねぇってのか…? いや、まぁそうじゃなかったら連中の

始祖(はじまり)って何なのかが確かにあやふやではっきりわからなくなるけどよ。


「*********!」


 ソディアが古代ゲヘナ語とやらで何かを叫ぶと、

合金製の扉が低くも大きな音を立てながらスライドして開く。

あれか、古代の自動ドア的なやつなのか? だというのに侵入者用の仕掛けに

普通に高圧電流って…相変わらず風情がねぇ…!


「ふぅ…この言葉って喉が疲れる…」

「それは無理も無い、人間には聞き取れても

喉のつくりからは発音できない音階も含まれているからな」

「…これなら普通に音声登録で済ませたほうが楽じゃないの…?」


 全くだ。最早いくら声真似が上手かろうとも

機械はそう簡単に騙せないレベルまで進歩してるこの世の中だぜ?


「しまった! その手があったか!」


 オーマイガーシとか叫ぶな。てか気づけよ。


「ソディア…やっぱ吸血鬼も、ボケには完全に勝てないのか?」

「多分…。お爺様、ああ見えて五大老中の最年長だし…」


 やっぱボケジジイはいつの世も何処にでもいるんだな。俺様のジジイもそうだった!


「まぁとにかく、地下離宮とやらを拝ませてもらうぜ」


 ご大層な仕掛けの扉の先には…何とびっくり満点の青空…ってえええええええ!?


「な…なんじゃこりゃあ!? ここは地下じゃねぇのか?」

「シューゴ殿。あれは絵だ」


 絵だと…? ん? よく見りゃ確かに青空にしてはぼんやりした光り方だな…。


「あれって品種改良したヒカリゴケで描かれてるの」

「うむ、その通りだ。ここは元々我らのかつての王国

…『常夜の王国ニアー=ゲヘナー』の初代王朝の宮殿を

そのまま離宮として使っているからな」

「しかし何だって青空…って単純な理由か」


 考えてみりゃ普通の吸血鬼は陽光で灰燼になっちまうんだから。

こうやって洞窟の壁とかにそんなもんを施すのもお天道様への想い入れあってのモノか。


「『デイ・ウォーカー』である我輩たちにとっては、

これを描いた彼らの日の元への憧れは推し量りきれぬよ…」


 おっさんの目がどこか寂しそうだ。だが無視する。


「とはいえ芸術的だな…っとそれはともかく離宮は…あれか」


 ヒカリゴケの青空の下にそびえる旧王朝の宮殿もとい地下離宮はそこにあった。

所々に鍾乳石が伸びているのは地下離宮ならではのちょこっと神秘的な光景だ。


「さて、では離宮の円卓の間に向かおう。

いろいろあって他の大老たちが待ちくたびれているかも知れん」


 ん? ちょっと待てよ。


「なぁソディア」

「? どうしたの修吾?」

「ここは一方通行じゃねぇのか?」

「ああ、その事ね。ここが旧王朝の名残なのはさっき聞いたわよね?」

「聞いたな」

「ウチら五大老の家って、その王朝時代からの古い列なり等もあって、

ここを中心に地下で繋がってるの。だから集まる時はあまり時差とかも

気にならなくて便利なの」


 へぇ~。何となくロマンを感じるな。


「着いたぞ、ここが円卓の間…まぁ今風に言えば会議室だ」


 今風に言うなよ…このおっさんは徹頭徹尾で風情の無い…。

まぁとにかく気は引き締めよう。吸血鬼だろうが

お偉いさんに睨まれるような事は駄目だ。

ここで好印象をもたれておけば素敵なコネクションになる可能性がある。

立身出世の一歩も出会いから! と、いうことで…


「失礼しま…」


 真面目な雰囲気を考えていた俺様が馬鹿だった。

だって円卓の上にピッツァとかチーズやらヨーグルトとかワインとかの

食いかけや飲みかけが所狭しと並べられてるし…

しかもそこかしこに無造作に置かれているその書籍の山が…


「…英訳された日本のラノベって…」

「おお、わしは待ちくたびれていたぞ。ガルダート卿」


 そのラノベを読みふけっていた見た目パリッとスーツ姿の二十代の若社長っぽい

イケメソが俺様達に気付いて立ち上がる。


「うむ、待ちくたびれさせてすまないノスヴェラス卿」

「ガルはいつも遅刻する。何十世紀経っても変わらない」


 そのイケメソの右隣に座っているソディアと見た目があまり変わらない

ゴスロリ少女(?)が抑揚の無い声で愚痴をこぼす。


「ははは、すまんなリル。今回は我輩がトマト牛乳を飲みすぎたのが主な原因だ」

「そういうところもいい加減に治して」

「全くだね…おかげさまで小生はトゥルーエンドを制覇しちゃったよ」


 そしてその対角線上には日本製の携帯ゲーム機から眼を離そうともしないスーツ姿で、

どこぞの眼鏡ゲーム神少年としか言いようの無い風体の野朗がいる。


「マルス…お前は今度は何を始めたのだ…?」

「ギャルゲーと言うものはとても面白いね。

今日までに十九万作をクリアしてしまったよ」

「……ま」

「「「「まさかしなくとも、我々が『常夜の神マグナス五大老』だ」ね」な」…」

「………」


 こ、こいつらが『常夜の神マグナス五大老』…?

どこぞの大学のだらけたサークルみてぇなこいつらが…?


「お久しぶりです。大老の皆様」

「おお、スフィ…じゃなかった。ソディア嬢か…少し見ないうちに美人になった」

「ノスヴェラス伯爵もお元気で何よりです」


 むぅ…何だか親戚同士のようで微妙に微笑ましいな、

しかしそのイケメソがソディアの腰に伸ばそうとした手を

握りつぶされなきゃもっと微笑ましかったな。


「久しぶり」

「リルティア侯爵も、お変わりなさそうですね?」

「見た目が変わらないのは、今に始まったことじゃないわ」


 やっぱそうか、見た目が近そうでもあの二人には相当な年齢さ…殺気!?

思考停止! 考えるな! 感じるんだ! さもなくば命に関わる気がする! 


「マシアス子爵…」

「小生は気にするな、今このキャラが…ほぅあ…!?」

「…も、相変わらずですね」


 つーことはこのクソガキっぽいこいつも相当な歳なんだろうな…

いい年してナニやってんだか。まぁ、それは他人の勝手か。


「うむ、結局我輩で最後か」

「いや、ちょい待て」

「どうしたのだ? シューゴ殿」

「明らかに一人足りねぇ」


 俺様とソディアを除けば其処にはおっさん含めて四人しか居ない。


「変わってるけど良い匂いの人間がいる」

「本当だな。とても珍しい血の香りがする」

「確かに…………ぬうぅ!? ここで選択肢だとぅ!? おのれクソゲーだったか!?」


 また匂いか、動物か貴様ら。


「おっと、紹介していなかったな。彼はシューゴ、

シューゴ・ノワールレゾー。ソディアの婚約者で、

我らが永久の盟友ゼル・ノワールレゾーの孫だ」

「そう、俺様が…って!? オイおっさん! 今何つった?!」

「ん? 我輩は何かオカシナ事を言ったか?」


 俺様がソディアの婚約者なんて聞いてねぇぞ!?


第九話に続く☆

確かこの次の話からエター化していたような…

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