表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

馬車の中には

遅くなりました(汗)

どぞ~~

 ラウバ・ジルという男はどうやら雇われた護衛というわけではなく、レイスの古い友人という立場らしい。気の置けない間柄なのか、接し方の端々から親密さ、気安さが透けて見える。

 そんなラウバを含めた数人がレイスの商隊のメンバーであり、直属の護衛とのこと。他の雇った護衛たちの統括なんかをしているらしい。


「つまり偉い人?」


「偉い……という訳ではないが、護衛の責任者というところかな」


 ラウバの立場をざっと説明したレイスは、一心の率直な感想に苦笑しながら馬車の中へと潜り込む。それに一心とルウェルが続き、更にその後ろからはハルとカグラも続いた。


「……普通?」


「でも荷物は少ないね」


 馬車内部へと足を踏み入れた一心達は、早速とばかりに辺りを見回す。しかしこれと言って珍しいものや、変わったものは見受けられない。自然と一心やルウエルの口から漏れ出た感想も、驚愕からは程遠いものとなった。


「はは、種はこちらだよ」


 そんな一心達の反応に気を悪くした様子も無く、寧ろ逆に笑みを深めたレイスは、一心達を馬車の奥へと導く。


 レイスの馬車は、人が乗り込む部分と荷台部分とが簡単に仕切られている、割と良く目にするタイプの荷馬車で、荷物や人が濡れたりしないように全体を幌で覆っている。


 レイスが誘ったのは、そんな馬車の人の乗る座席部分であった。


「秘密の座席を開けるとあら不思議」


「え……」


「何……これ」


 レイスが冗談半分にそう呟き、一つの座席に手を掛けた直後、音も無く、光も無く、唐突にその座席が消失した。後に残ったのは、座席のあった所にあるぽっかりと穴をあけた空間だけ。いや……


「階段?」


「これは確か……」


 穴を覗き込み、その中にある物を呟くルウェルと、何やら感慨深げに考え込み始めるカグラ。そんな2人の様子を視界の隅に捉えながら、一心もルウェルの隣へと移動し、その穴を覗き込む。そこには確かに石で出来た階段が存在した。


「ほんとだ階段がある………けど……」


 階段があるということは、そこから下に降りれるということだ。しかし覗くその先は暗く、何があるのか窺い知る事は出来なかった。


「何があるの……って、あ、ちょっと……」


 目を凝らして穴の中を覗き見る一心。その隣で、突然ルウェルが一歩その中へと足を踏み入れた。


 こつん。という靴が石を踏む音がして、そこに間違いなく石の階段がある事を告げてくる。


「いや、見てても分からないでしょ」


「それはまぁ、確かにそうだけど……」


 意外な大胆さを見せるルウェル。更に一歩、もう一歩と足を進める。


「まぁ、確かに眺めていても分からないか」


一心もそう結論付け、それに続く。


「おぉ……なんか冷たい?」


 一瞬冷やりと冷気が足を撫でた気がしたが、しかしそれ以降何も変化はない。前を行くルウェルも特に変わった様子は見られないので、害はなさそうだと足を進める。


 恐々と、しかし少しドキドキしながら進める事5歩。前を歩くルウェルの腰がちょうど穴の中に消えたころ、それは唐突に起った。


「え……」


 そう一心が漏らした時には、前を進むルウェルの姿が、先の座席同様音も無く、光も無く唐突に消失する。


「ちょっと、ルウェ――なんだ……これ」


 続いて、慌てて後を追おうとしたところで、一瞬の浮遊感が一心を襲い、そして次の瞬間には視界が反転。一心は気付くと冷たい石の床に四肢を投げ出した状態で倒れていた。


「ホントに何がどうなったんだ?」


 頭を振り、周りへと目を向ける一心。まずは状況判断だと己のいる場所を確認しようと目を凝らすが……


「駄目だ、見えない」


 あたりに灯りはなく、真っ暗闇が広がっているばかり。


「一心? どうなったの?」


 暗くて見えないが、ルウェルが近くにいるらしく、声だけが返ってくる。多少その声が響いているところを見ると、どうやら狭い部屋の中らしい。真っ暗なことも加味すると地下室といったところか。


「君たちさ、私が言うのもなんだけど、もう少し人を疑うとかした方が良いんじゃないかい? もしこのまま閉じ込められたりしたらどうするのさ?」


 そんな声とともに現れたのはもちろんレイスだった。その手に松明を持ち、更にその後からカグラが、ハルが、そしてラウバが現れる。何もないところから唐突に。


「あはは……」


「これって……」


 苦笑するルウェルの横で、一心は先ほど感じた一瞬の浮遊感について考えていた。それは確かに覚えのある感覚。ただし、厳密には近いが違う感覚だった。


(転位門では無いぞ。じゃが近いものだ)


 覚えのある浮遊感。そして一瞬での移動。一心が思い浮かべたのは正しくユズリアルの庭へと続く転位門。


 しかしその一心の思考を、まるで読んだかのようなタイミングで、カグラが念話を繋げ、否定する。


(どういうこと?)


(転位門は、条件を満たす者を決められた場所へと転位させる、転位魔法を魔道具化した物じゃ。対して、今回のは空間魔法の応用による空間拡張術式によるものじゃな)


(すまん、全く意味が分からない)


(そこら辺の知識は与えておらんからの。無理もないじゃろうて)


 一心の記憶領域は、カグラの現在の力で可能な範囲しか拡張されていない。そしてその結果、一心に刻み込まれ、彼が知る事となった魔法知識は、4大魔法系統(炎、水、風、土)に限られている。


 そして今回話しに出てきた転位魔法や、空間魔法は、4大魔法系統とは異なる性質を持つ、特殊系統魔法に属する物だった。


(特殊系統魔法?……って何?)


(特殊系統魔法とは、簡単に言えば4大魔法系統から外れた魔法体系の事じゃな。最大の特徴は、4代系統魔法と違って互いに独立してはいない点じゃ。空間魔法の先に重力魔法があり、その更に先に転位魔法がある。魔道具に関しても同様じゃ。つまり今回の物は、転位門の劣化版、あるいは簡易版といったところじゃな)


(ふぅん……)


 つまり、転位魔法を習得するためには、重力魔法と空間魔法を習得していなければならない。そう言う事らしい。


(空間や重力の上位版が転位って事か。そういや転位では無くて空間魔法って言うからには、転位はしていないんだよな? ってことはやっぱりここは馬車の中?)


(正確には馬車内部の拡張された一部の空間の中、ということになる)


(なかなか想像に難い話だね)


(まぁな)


 とはいえ、この世界に来た当初であればもっと驚いていたであろうし、すぐには信じられなかっただろう。当たり前のようにそれを受け入れられるようになるぐらいには、一心もこの世界(ファンタジー)に慣れたということだ。


「って事なんだけど……一心聞いてた?」


「え?」


 そして、カグラとの念話に一生懸命になっていた一心は、レイスの説明を丸々聞き逃したのだった。



 ◇  ◇  ◇



「一心ってさ。偶にぼうっとすることあるよね」


 その日の夜。一心相手にレイスが語ったことを語って聞かせたルウェルは、最後にそう付け加えた。


「あはは……ちょっと考え事を」


 取り敢えずそう言って誤魔化す一心。ルウェル相手に隠す必要は無いかもしれないが、一応念のためだ。


 レイスが語ったという内容については、カグラが一心へと説明したことと大差なかった。


 寧ろ、どちらかと言えばカグラの方がより内容が深く、詳しかった為、結局聞かなくても大した影響は無かったかもしれない。


「しかし、なんでそんなもんレイスさんは持っていたのかねぇ?」


「さぁ、それは聞いても教えてくれなかった。商人には秘密のルートがあるんです……だって」


 一心の質問にレイスのモノマネで答えるルウェル。どうでもいいがあまり似ていない。


「秘密のルートって言われてもな……。あの空間門ってやっぱ珍しい魔道具なんだよね?」


「珍しいよ!」


「まぁの」


 今度の質問は、ルウェルとカグラ二人に向けたもの。そして二人の答えは同じだった。そしてその答えは一心の予想通りのもの。


「だよな。ってことは、問題はなんでそんな貴重な物を一介の商人であるレイスさんが持っていたかと言う事だ……」


「それは確かに。空間門? レベルになると国か貴族が管理するレベルだと思うんだよね」


 ルウェルもすかさず一心の呟きに同意する。


 ちなみに空間門とは、とりあえず便宜上一心が名づけた呼び名だ。


「有能な商人故に持つ独自の伝手かなんかで手に入れた可能性。もしくは背後に有力な実力者が居る可能性。どっちが高いと思う?」


「さてな。偶然手に入れたという可能性もある。どちらにせよ、ここで考えていても答えなど出はせんよ」


「確かにな……これも何となく探ってみるか。しかしレイスとの関係は極力維持したいしな……」


「難しいところだよね」


 好奇心で突いてみたは良いものの、返ってきたものは思いの外大きかった。


「ほんと藪蛇だった」


 とはいえ、目的地キルナンへはもう少し。特に気にする事でもないのかもしれない。


「取り敢えずは、このままで行こう。俺らが見せてって言って見せてくれたんだ。それで貴重な物を持ってるから怪しいっていうのは、何かあんまりな気がする」


 結局一心はそう結論付け、ルウェル、カグラもそれに同意した。残るはハルだが、こういった話し合いはメイドの出る幕では無いと、最初から話し合いには参加していない。彼女はルウェルの意向に従うのだろう。


「ということで全会一致ということで」


「全会一致は良いが……話し合う必要があったか?」


 結局話し合う前と何かが変わった訳では無いとカグラ。文句をつけているとか、そういう訳では無く、純粋な疑問から来た質問だった。


「情報を整理して、共有した。たとえ何かが変わったわけでは無かったとしても、それは大事なことだと思うよ? 勘違いや誤解だって、原因の半分ぐらいは情報共有の不足からくるものだと俺は思うし」


「そんなもんかの?」


「たぶん?」


 言いたいことは分かるが、それでも何処か納得のいかない様子のカグラ。一方で、一心も今回の話し合いに意味があったのかどうかは、正直自信は持てなかった。


 ここら辺りは文化の違いだろう。とりわけ会議好きで、年から年中会議やら話し合いをしないと不安な日本人である一心と、会議や話し合いという概念自体が薄いこの世界に暮らす者達。


 どちらかが正しいという訳では無く。また、その必要性も後にならねば分からず、しかも後になっても本当に必要だったかどうかは判断が難しい。会議・話し合いとは、そう言う物なのかもしれない。



お読みいただきありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ