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ラウバ・ジル、35歳

どぞ~

「……何処から出てきたんです? それ」


「ん? 馬車の中だけど?」


「そうじゃなくて……いや、そうなんだけど……」


「はは……まぁ、見なかったことにしといてよ」


ウィスタル公爵領へと入って3日。一心たちの歩みは一気に遅くなっていた。というのも、ここ北部には中小規模の村や町が点在しているのだが、レイスは一々村に立ち寄っては行商を行いながら北上しているのだ。真っ直ぐ北上していれば、今頃目的地であるキルナンへと到着していたかもしれない。


一心たちとしては、出来れば急ぎたい旅路ではあったのだが、しかし急かすことは出来なかった。レイスのやっている行商が、貧しい北の地に暮らす人々の為だというのが、何となくだが感じられたからだ。


「俺たちも何か分けるものがあればいいんだけど……」


「そうですね。もう少し携帯食を持ってくるなり、買い込むなりすればよかったですね」


「まぁ、持ってきてたとしても、関所でごっそり取られてお終いだった気もするけどさっ。しかし、やっぱ思い出すと腹立つな!」


「確かに……」


一心の言葉に同意するルウェル。2人はレイスの行商を手伝っていた。無論、近くにはハルとカグラもいる。


関所でごっそり取られた筈の食料は、何故かレイスの荷馬車から次から次へと出てくる。それを不思議に思うが、しかしそれで、ここまで来る途中の村々が多少は潤い、喜びの声で満ちたので悪いことでは無いのだろう。


(……というか、流石に量がおかしいよな?)


当初は関所の人間に金でも包んだか、何処かに隠していたのかと思っていたが、3日間放出しても、なお尽きない食料の量に、流石に疑問を感じ始める一心。しかし、


「あの、レイスさん?」


「ん? なんだい?」


「出てくる食料の量……おかしくないですか?」


「そう? 気のせいじゃないかな?」


と言った感じで、何度か探りを入れたのだが、全てかわされてしまった。


「レイスさん?」


「気のせいだよ」


「まだ何も言っていないのですが……」


流石にそろそろ誤魔化せないと思ってきたのか、レイスもだんだん一心と目を合わさなくなってくる。


(うぅ……無理に聞き出そうとは思わないけど、でも気になる)


人には秘密にしたいことの一つや二つあるものだ。そんな大袈裟なことではないかもしれないが、しかしあまり知りたがるのも良くはないのだろう。今後の付き合いを考えてみればなおさら……


「だめ?」


「……はぁ。仕方ないね。後でおしえてあげるよ」


「やっぱ駄目ですよ………え? 良いの⁉︎」


それでも好奇心に勝てず、これが最後だと自分に言い聞かせながら発した一心。すると、何と了承の返事がくるではないか。


「い、いんですか? 本当に⁉︎」


「誰にも言わないって約束できたらーー」


「約束します‼︎」


むしろ一心の方が戸惑ってしまった。それでも返事は即答したが。


「ま、こうして僕の寄り道に付き合って貰ってる訳だしね」


「いや、それはどちらかといえば俺たちが勝手に付いて来ているだけで……」


申し訳なさそうにそう言うレイスに、首を振って答える。


実際、レイスと別れ、一心達だけで北上するという手もあったのだ。しかしそれをしなかったのは、旅慣れたレイスがいた方が安心感もあり、折に触れてのアドバイスが貴重だったからだ。

携帯食でない、暖かい食事が魅力だったという理由もある(さすがのハルも野営では勝手が違うらしく、調理などはしていなかった。道具がないというのもある。そんな野営用の調理器具を始め、レイスは各種様々な旅に役立つ便利道具を持っていたのだ)


「そこはほら、盗賊から助けてくれた恩もあるし、何より護衛たちが手こずるような相手を圧倒できた君たちの戦闘力も魅力だしさ。僕としても一緒の旅が安心できるし、そこは持ちつ持たれつじゃないかな」


一方的に乗っかってるだけではと心配する一心に、ちゃんとイーブンな関係だよとレイスは笑って答える。


「そう言ってもらえると、こちらとしても有難いですね」


その言葉に安心したのか一心の顔からも自然と笑みがこぼれた。


(ねぇ、ハル。何か最近あの2人妙に仲良くないですか?)


(そうですね。しかし悪いことではないと愚愚考いたしますが?)


そんな2人のやり取りを隣で見ていたルウェルとハル。いつの間にあんなに仲良くなったのかとルウェルは疑問だった。というより、仲か良すぎるのがルウェルには気になった。


(別段気にすることも無いかと思いますが……男同士の気安さというのもあるでしょうしし)


(それは……まぁ、そうなんだけど……なんというか面白くないというか)


一応納得して見せるも、何処か釈然としない様子のルウェル。


ーー姫様、それは嫉妬というやつでは?


一瞬そう言いかけたハルだったが、しかし流石にそれを口に出すのは憚られたのか、別な言葉に変える。


(一応、世間には男同士の秘められた愛……なんておぞましいものもあるそうですが?)


(お、男同士? な、何で⁉︎ 男同士って成り立つの⁉︎)


(ええ。成り立つそうですよ? 現に軍などでは……)


但し、その方向性は些か誤ったものだったが。


そんな感じでルウェルとハルは、一心が聞けば卒倒しそうな話題で盛り上がり、一心は一心で、男の友情(但し、未だ未履行)を温めながら時を過ごして、その日の行商を終えた。


そしてーー


「さて、お待ちかねかな」


日が暮れ、食事も終えて一段落着いた頃、一旦別行動をしていたレイスが一心達の元を訪れた。


「はい!待ってましたぁ‼︎」


「本当に私たちも良いんですか?」


一心が元気良く返事を返す隣で、ルウェルが自分たちの同行の是非を尋ねる。


「ええ、構いませんよ。但しご内密に。これだけ守っていただけたら問題ありません。どうぞこちらへ」


その言葉を聞き、ルウェルとハル、カグラが腰を上げる。


「あ、ちょっと……」


教えると決めて既に躊躇いは無いのか、言うが早いがレイスは歩き始める。それに慌てて一心が続き、さらにルウェル、カグラ、ハルの順で続く。


その日はちょうど、 雲もない、月の明るい夜で、そのため灯りはいらず、月明かりの下を5人は無言で歩く。


滞在することになった村は小さな村で、数分も歩くと馬車置き場へと到着した。


「レイスか? それにお前らまで。どした? こんな時間に?」


レイスの馬車へと近づくと、馬車の護衛で残っていたのか、中年の男が声を掛けてくる。一心に乗馬の手解きをしてくれた、あの護衛だ。


「あ、中年護衛」


「あ? 誰が中年じゃごらぁ!」


名前が分からなかったので、とりあえず心の中でそう呼んで他の護衛と区別していたのだが、ついそれが口から出てしまった。


「あはは。すいません、つい……」


取り敢えず笑ってごまかすことにした一心。


この中年、先日の「良い目をしているな」発言といい、短身で筋肉質な肉体、おまけに髭面と、某ロボットアニメに登場するラン○・ラルを彷彿とさせる男だった。


(何というか……敵キャラだけど何故か人気があって、主人公に良い影響を与える大人的立場? まぁ、敵じゃないけど)


何となく安心できる雰囲気を持つ大人というのは、稀にいるものだ。中年護衛(年齢不詳、名前不詳)は、そんな大人だった。


「ラウバだ。ラウバ・ジル。こう見えてもまだ35だ、馬鹿野郎」


いや、ラウバ・ジル、35歳らしい。


「ま、まぢか……」


この時一心が受けた衝撃は、それなりに凄まじかった。


(……というか、自分が何にこんなに驚いたのかわからない)


果たして見た目が似てると思っていたら名前まで似ていたことか、それとも目の前で35歳だと言いながら胸を張る中年が、以外と若いと感じたことか。はたまた35ってれっきとした中年だと思ったことか。


「35……十分中年」


「がーん」


そんな一心の心の葛藤? を他所に、普段は無口なハルがぼそりと一言ラウバの傷を抉る。中々に情け容赦無い口撃だったが、口でわざわざ「がーん」などと言っている時点で、ラウバ自身はそこまで気にしていないのだろう。


「立ち直れない……おじさんもう立ち直れないかも」


たぶん。いや、きっと絶対。







ラウバ・ジル。モデルは……言うまでもないですよね。「いい目をしているな」の意味は違いますが(笑


作者はその世代ではないのですけど、何となく出してみました。

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