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城塞都市アルス

次話です~~どなどな。

城塞都市アルス。昔実在した戦士の名を関したその街は、北の玄関口として知られている。ただ、城塞都市という名を冠しているにもかかわらず、その街の壁は低く、初めて訪れた者には、その名前の由来が何なのか、頭を悩ます者も多かった。


夕方頃に街に到着した一心たち一行は、門で簡単な身分確認の後、街へと入る。


「ようこそ、ウィスタル公爵領へ。と言っても、ここはまだ公爵領では無いんだがね」


「ええと、どういうことです?」


レイスの言葉に疑問を浮かべる一心。


確か先日、レイスは城塞都市アルスが公爵領最南端の街と紹介していたはずだ。ということは、ここは公爵領で間違いないはずである。しかしそう思って問いかけると、思いもよらない答えが返って来た。


「ここは正確には城塞都市アルスでは無いんだよ」


「ーー? アルスでは無い? じゃあここは何なんです?」


「いやちょと違うな。ここはアルスであって、アルスではない。と言ったほうが正確かもね」


「はい?」


ますます意味が分からない。何かの言葉遊びだろうか。混乱する一心達の様子を見て、レイスが笑みを深める。


「ふふ、ここは本来、アルスに併設された関所でね、それがいつの間にか宿屋や商店なんかが出来始めて、次第に人も住み着くようになった。それでどんどん拡張されていったのが、今いるこの場所なんだ。つまり、ここは街ではなくて関所なんだよ」


「関所? ここが?」


言われて周りを見回すが、どう見ても関所には見えなかった。


(いや、どっからどう見ても街なんだけど……からかわれてるのか?)


一心に、ついそう思わせてしまうほど、今いる場所は関所のイメージからは程遠い。


「言っとくけど、からかってないからね?」


「……疑ってなんかナイデスョ?」


さすが商人。人の顔色を読むのが上手いのか、絶妙なタイミングで声を掛けてくる。実際めちゃくちゃ疑っていたのだが、素直に認めるのは、なんだか悔しかった。


「ま、最初に知った人はだいたい同じ顔をするんだけどね。いや、その顔を見るのがまた楽しくてさ」


「どうでもいいですけど、ってか、本当に関所なんですか?」


「あ、やっぱ疑ってた?」


「レイスさん?」


「あは、ごめんごめん」


口では謝りつつも、全然済まなそうではないレイス。人懐っこい笑顔がまた曲者で、怒るに怒れないし、ついつい許してしまいそうになる。実際、己も笑みを浮かべていることに気づく一心。


「全く……」


すんなり懐に入ってきてしまうことといい、憎めない性格と行動といい、全てが計算されたものだとすると、かなりの曲者だ。


(まぁ、多分天性のものなんだろうけどさ……)


得だよな〜、商人天職じゃん。などと思いながら一心は話の先を促す。


「それで、じゃあアルスの街はどこにあるんですか?」


しかし、そう質問した瞬間に、レイスの表情が変わった。口調もどこか真面目なものになる。


「ああ、それは……この先だ。よく見ておくといい」


「ーー?」


そのレイスの口調と表情、言葉の意味を知ったのは、レイスに続いて、街にしか見えない関所を通り抜けたその後だった。


「なに……これ?」


一行の目にしたもの。それは、街中に突如として現れた背の高い壁だった。それが、左右見渡す限りずっと続いている。


「もしかしてこれが城塞?」


「そうだ。但し防ぐのは魔物でも、獣でも無い」


思いもよらない所で知らされた城塞都市の名の由来。しかし本当の驚きはここからだった。


「こっちだ」


レイスに言われて、再びその後に続いて歩を進める。壁に沿って少し歩くと、壁内部へと続く扉があった。そこへ入り、階段を登ると、その先はちょうど壁の上に繋がっていてーー


「なんなんだ……これ……」


「街? いえ……、村?」


「なんなんじゃこの対比は……」


一心、ルウェル、カグラがそれぞれの言葉で、その驚愕を吐露する。


壁の向こう側にあったもの。それもまた一つの街だった。ただし、ルウェルの言葉通り、街というよりは村。街と呼ぶには余りに廃れ、寂れた場所だった。


「ここがウィスタル公爵領最南端の街、アルスだよ」


「ここが……アルス。でもどうして⁉︎ この差は何なんですか?」


後ろを振り返れば、活気ある人の営みが、喧騒となって城塞の上にまで響いてくる。道行く人はどの人も笑顔で、楽しげに言葉を交わしていた。しかし、一度視線を前へと戻すと、そこには人の笑みは無く、見るからにボロの布切れを身にまとった人達が、地面に直接座り込んでいる。そこには活気も喧騒も無い。


「この光景が、北と中央との縮図だよ。食料も豊富で比較的温暖で暮らしやすい中央や南

に対して、北はとにかく土地が痩せていて食料が無い。それに加えて、国境からの魔物に常に脅かされ、年間通して寒く過ごしにくい」


その結果、北は常に飢えに苦しんでいるとレイス。大国である女王国において、最も死亡率が高い地域がここ北なのだ。その主な原因は飢餓と魔物による被害。とにかく生活に適さないのだ。


「で、ですがちゃんと北に送る食料分の予算は毎年……」


王宮で暮らしてはいないが、そこは王族。ルウェルは毎年北へ送る為の予算が組まれていることを知っていた。国も何もしていない訳ではないのだ。ショックながらにそう反論する。しかし……


「確かに国は、北への食料支援として毎年それなりの額を確保している。しかし現状、それは北の為では無いんだよ」


「北の為では無い?……どういうことですか?」


「食料支援を名目に莫大な予算を確保し、食料を購入する。ではその食料は何処から購入しているか知っているかい?」


「それは、食料が豊富な南や中央では?」


「その通り。但し(・・)、その中でも、王家に近い、より正確には中央の貴族たちに近い立場の領地からなんだ」


「ええと、おっしゃる意味が……」


意味ありげにそう告げるレイスと、その言葉に秘められた意味を掴みきれないルウェル。しかし、一心にはなんとなくレイスの言わんとすることが分かった。


「わざと高い値段で売買する。そうすればその領地は潤う。沢山金が落ちるからね。けど、その分北に送る分の食料は少なくなる……」


「ほほう……まさにその通り。よく分かったね」


一心の言葉に感心するレイス。一心にしてみれば、この手の話はラノベやアニメに限らず、古今東西の歴史を紐解けば割とよく出てくる話だ。別段驚く程のことではなかった。


レイスは、種明かしするのを少し楽しみにしていたのだがと、少しおどけて見せ、そうして少しばかり場の雰囲気を軽く、柔らかいものにしてから話を続ける。


「つまり名目は北の為。しかし実態は自分達や周りが富む為のものなんだよ。国の予算を使ってね。しかも国の確保したのは、さっき一心が言ったとおり多くはない。そうなると必然的に足りない分は独自に購入しなければならない。それが生きる為に必要なものである以上、どれだけ高くてもね」


そうして更に北は食料を購入し、金が北から中央、南へと流れる。こうして更に北とその他の地域との格差が開き、中央と北との確執へと繋がっているのだ。


「そんなことが本当に……」


始めて知らされた、しかもかなり深刻な問題に、その先の言葉が続かないルウェル。彼女は今日この時、初めて国の腐敗を目の当たりにした気がした。レイスは続ける。


「女王国は大国だからね。東には敵国、北には魔物領が接しているとはいえ、その東と北以外ではまず敵はない。その北と東にしても、中央の人間にとっては遠い話だし、何より降神術師が睨みを聞かせているという安心感がある。つまりはこれと言って、脅威となる外敵の存在が無い。その結果が王国内での権力闘争を激化させ、領内にだけ目を向ける後押しをしているんだ」


「そんな……」


「それは分かりましたが……」


完全に言葉を失ってしまったルウェル。対して、一心には一つ分からないことがあった。


「それで、結局この壁と向こう側との差は何なのですか? こちら側の人間は、隣が……壁の向こう側があんな状態なのに何もせず、思わない訳で?」


「--っつぅ」


この時、まっすぐにレイスへと視線を向けていた一心は、その隣で息を飲むルウェルに気付かなかった。彼女には、一心の言葉が何処か自分に向けた糾弾のように感じられた。


「無論、何も思わない人間ばかりではないさ。こっそり食料を分けたり、医薬品を届けたりする者もいる。仕事を用意する者も」


「つまり、何も思わない人間もいて、そして堂々と支援したり助けたりは出来ないと?」


「なんて言うか……本当に鋭いね。まぁ、その通りと言っておこうか」


レイスはこの場所を関所と言った。一心の知る関所とは、物の流れを管理し、関税を掛けるところだ。そしてそんな関所とアルスの間に設けられた高い壁。壁は見る限りどこまでも続いていて、超えることは容易ではない。


「僕らはこれからこの壁を越えて向こう側へと進みますよね」


「キルナンや他の北の街町を目指すのならそうだな」


レイスは言った。壁は魔物に対してのものではないと。では何に対するものなのか。


「この街……関所を通過する以外で通る場所はありますか?」


「ないな」


「では僕らはここを通る為に、何をどれだけ置いて行くことになりますか?」


「ほんと……君只者ではないだろ?」


そう、つまりはそういうことなのだろう。


壁は魔物ではなく人に対してのもの。北の民が難民となって南下しないよう、北に閉じ込めておくための檻。そして同時に、これから北に向かう人間を一度集める柵の役割も果たしている。そうして北に向かう者たちを集め、通行税だとでも言って金を取り、食料を押さえる。そして壁のこちらだけが潤い続ける。


「酷いだろ? 同じ国に暮らす者同士なのに……でも、そう思っても何もできない自分が一番情けないよな」


そう言って、レイスは今まで一度も見せなかった顔で笑った。何処疲れたような、何かに耐えるような……それでいて何処か諦めたような顔で。


結局、レイスはその積荷を半分に減らし、一心たちは持っていた非常食と金の多くを失って北の大領、ウィスタル公爵領へと足を踏み入れた。






ようやくウィスタル公爵領の端まで来ましたね~~


果たして公爵領ではどんな出会いが待っているのか……

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