北へ
次話で~す。どぞどぞ。。。。
「うん、快適快適。やっぱ馬車の車重とサスペンションの比重が合ってなかったのかもな」
翌日。昨日同様夜が明ける前に出立した一心達一行は、一路北を目指して進んでいた。
薬を飲んだからか、それとも荷物の追加で車重が重くなったからか、はたまた行く道の影響か、この日はまだ一心は酔っておらず、異世界での旅路を楽しんでいた。
「ねぇ、一心。そろそろ教えてくれてもいいのではないかしら。何故北なの?」
そんな一心に、今日も同乗しているルウェルが声を掛ける。しかしその表情は硬い。
「私は南に向かうと聞いていたし、リューク達にもそう説明したわ。私たちの目的は王位の選定権を持つ、クストー侯爵に会って説得することではないの?」
「違うから北に向かっているんだよ。僕たちが会いに行く相手は南のクストー侯爵では無い。北のフォルスト侯爵夫人、つまりもう一人の女王候補、フラン・リズ・フォルストだよ」
「…………何故? 相手は姉様と争っている人物よ。母上を侮辱し、私を……っ――私を蔑んだ……」
瞳に宿る敵意。一度言い淀んだのは憎しみ故か。
「信じてたのに……あなた、北の人間だったのね!!」
そして勘違いの速さと、思い込みの激しさは相変わらず。
(さすが姉。予想通りの展開だな……)
「――何がおかしい!!」
ルウェルの反応が、あまりにアイリーンの予想した通りだったので、思わず笑ってしまった一心。目ざとく見つけたルウェルが怒りの声を上げる。
「北に行くの、アイリーンの指示だけど?」
「……え? で、でも私には南に行くようにって……だから一心が裏切って北にって……」
「御者はハルだけどな」
「あ、あれ?」
「敵をだますにはまず味方からってね」
そう言いながら、一心は懐に手を伸ばす。そこにはアイリーンから預かった3通の手紙があった。
「ええと……これか。ここにアイリーンからルウェル宛の手紙があったりして」
その中の一つを取り出して渡す。
「村にはそれこそ北の人間やら、中央の人間でもアイリーンの味方じゃない奴が紛れ込んでいる可能性が高いんだろ? なのに馬鹿正直に今から北に向かいます、なんて言えないでしょ」
「それはそうだけど……私に言ってくれたって別に……ハルには言って私には言わないって……」
「ハルに教えたのは今朝の出発前だよ。ルウェル同様アイリーンからの手紙付きでね。でも、ハルは北に向かうって言ってもそこまで驚いてなかったし、アイリーン様のご指示ですか? って聞いてきたけどね~」
「うぅぅ……一心のいじわる」
いじけながら、もうしらないっ とそっぽを向き、アイリーンからの手紙を読み始めるルウェル。背を向けても、耳が真っ赤なので、だいたいどんな表情をしているのか予想がつく。
(ってゆうか、誤解する要素あったか? なんかずれてるというか……少し将来が心配になってきたぞ。王女がこんなんでいいのか?)
そんなところがかわいくもあるが、一心としては不安だった。保護者でもなんでもないのだが、何やらそんな気分にさせられる。
「うぅ……読み終わりました」
しばらくすると、手紙をたたみながらルウェルが向き直る。未だ顔が赤く、俯き気味なのはまぁ、仕方ないだろう。
「で、何て書いてあった?」
「まず勘違いとかしてたらアホだと……」
「ま、まぢ?」
ルウェルならきっと面白い勘違いをするよっ と言いながら、その内容まで予想し、一心へと話していたアイリーン。しかしそれを手紙に書くとは思わなかった。しかし言われてみると、彼女ならやりそうだという気にもさせられる。にやつく顔が目に浮かんだ。
「そ、それで他には?」
「北に向かってその目で確かめてくるようにって。情勢と、暮らしと、あとフランという人物を」
「大体俺が言われた事と同じだな」
「どういう意味? なんでわざわざ叔母上を?」
姉がそう言うのであれば、北に向かうことに否は無く、情勢を見ろというのも納得できる。しかし敵対する叔母を確かめろというのはどう言う事なのか。そこだけがつかみきれなかった。
「どんな人なんだ? なんでアイリーンと対立している?」
けれど、悩むルウェルに次に一心が掛けた言葉は、問いの答えでは無く、フランの人となりを尋ねる言葉。ルウェルは少し考えると、フランについて話し始めた。
フラン・リズ・フォルスト。フォルスト公爵家の公爵夫人で、前女王の姉。ルウェルの知る限りでは、彼女を表す言葉は傍若無人。気が短く何事も力で解決しようとするタイプの武人。妹である前女王に女王の座を奪われたと豪語し、その娘であるアイリーンとルウェルを憎む。
「特に私の事は、女王家に生まれながら降神術が扱えない落ちこぼれだと。だからその母や、姉は……」
「ユズリアルの血が薄いから王位には相応しくない。相応しいのは降神術の才に溢れる自分だと?」
「はい……」
ルウェルが言い淀んだ先を一心が口にする。ルウェルの話すフランの人物像は、アイリーンの話す人物像とほぼ一致した。但し、
「北では英雄のように人気があるって聞いたけど? あと東でも人気があるし、軍部では中央でも人気があるって」
「それは……初めて聞いた」
ハルの語った人物像とは一致しない。
ちなみにルウェルが降神術を扱えないというのは事実だ。彼女は精神へと干渉することは出来ても、その身に神や精霊を降ろせない。そして降ろせない以上、契約を結ぶことも出来ない。
「会ったことは無いんだよね?」
「ええ。でも……」
「周りはみんなそう言った?」
「うん」
会ったことが無いのにすらすらと出てくるフランの人物像。同じく会ったことが無いと言うアイリーンも大体言う事は同じ。
「だからじゃないか?」
「え?」
「会ったことも無いのに、それだけ知っているってことは、周りがそれだけルウェルや、アイリーンに話したって事だろ? みんながみんな同じようなことを言ったってことは、フランという人が皆がそう思うような人物なのか、もしくは周りがルウェル達にそう思わせたいって事じゃない?」
だからアイリーンはルウェルに見てきてほしいのだろう。実際のフランという人物を。
「あんまり外、出たことないんでしょ?」
「ええ、それは……まぁ」
「いい機会だからいろいろ見て、知って、感じるといいよ。なんて、偉そうなこと言ってるけど、俺も知らないからいろいろ見れたらいいなって思ってる。この世界のこと」
「見て、知って、感じる……」
黙り込み、考え込み始めてしまったルウェル。そんな彼女を一人残し、一心は扉を開け、外へと出る。走る馬車から落ちないように気を付けながら、御者席へと移動すると、手綱を握るハルの横にカグラがいた。
「青春じゃの~。見て、聞いて、か、感じるっ! キリ」
「やめい」
走る馬車はそれなりにうるさい。特に車輪がゴムでは無く木でできているので、カラカラカラカラずっと音がしている。とてもではないが中の音が聞こえるとは思えなかったのだが、カグラには全て筒抜けだったようだ。
「変わります」
「ん」
からかってくるカグラを適当に居なしながら、ハルの隣へと腰を下ろす一心。昨日に引き続き手綱を握っているハルに、変わる事を申し出ると、ちらりと視線を向けられた後、ずいっと手綱を向けられた。苦笑しながら手綱を手に取る。こんな経験も、この世界に来なければすることは無かっただろう。
「真っ直ぐ進めばいい」
「了解」
舗装などはされていないが、踏み固められた街道を進むだけなので、一応一心にも進むべき方向は分かる。後は頃合いを見て馬を休ませたり、走る速さを調節したり、脇にそれないように注意するぐらいでいい。それくらいなら一心にも出来るはずだ。
「やはり、ここが一番落ち着くのぉ」
そして何故かカグラが一心の膝の上に乗ってきたが、彼女は体が小さいうえに、自際の重さは更に軽い。大した苦にもならないので一心はしたいようにさせた。
しばらく3人は無言で、馬車の走る音だけが響く。吹き抜ける風が、伝わる振動が、ゆっくりと流れる景色が心地よい。
(馬車の旅も良いもんだな……酔ってさえいなければだけど)
車に電車に飛行機。地球での移動は早く、快適で便利だが、こういった馬車の旅はそれらにはない風情があった。どちらかというと、飛行機などよりも船旅を好む一心には、馬車の旅が性に合っていたのかもしれない。
(更にこれさえなければだけど……)
そう、偶に上がる血飛沫が無ければ。
「邪魔」
「消えろ」
「滅殺」
ここは異世界だ。そしてファンタジーだ。となれば、街道に魔物が出るのはある意味お決まりかもしれない。そんな魔物が寄って来る度に、ハルの口から物騒な言葉が漏れ、魔物たちが風の魔法で切り裂かれていく。
(何が一番怖いかって、ハルが無表情なのが怖いんだが……)
愉悦を浮かべられても困るが、血飛沫舞う光景を前に、そしてそれを成した人物が、何の表情も浮かべないというのも、十分に恐怖誘う光景であった。
とはいえ、頻度はそう多くは無い。基本的には風情溢れる馬車の旅、時々血飛沫な旅路を、4人を乗せた馬車は北に向かって進む。
◇ ◇ ◇
(あ~~これもある意味お決まりだよな)
途中で馬に水を飲ませる為に休憩を取り、更に昼食を取るための休憩を挟んだ午後過ぎ。馬車の旅+異世界=盗賊的な法則が成り立つのかどうかは分からないが、身なりの汚い男達が馬車を取り囲んでいた。
人数は10人以上、恐らく15人ぐらいはいるだろう。ハル曰く中規模の盗賊だと言う。これで中規模だと大規模はどうなんの!? と思った一心だったが、今はそれどころでは無い。どう対応するか、第1回緊急馬車会議が開かれた。
「助けましょう!」
「畏まりました」
「え?」
いや、会議にならなかった。ルウェルが助けると言った瞬間に、議決。何処から取り出したのか分からないガントレッドを両手に嵌め、ジャキーンと打ち鳴らすハルと、レイピアのような細い剣を腰に差し、更に触媒のついた魔法杖を手に飛び出すルウェル。
「え、いや、ちょっとーー」
そして主従のあまりに早い行動に取り残される一心。
ちなみに盗賊に囲まれたのは、一心達の乗る馬車では無い。少し先に行った街道に1台の馬車が横転し、更にその横にもう1台の馬車が。計2台の馬車をぐるりと取り囲む形で盗賊たちが展開していたのだ。そして……
「あれって、血だよな……」
護衛だったと思われる数人が地に伏し、盗賊たちの手には抜身の、それも赤く染まった剣や槍が握られている。
「へへ、兄ちゃん1人か?」
「いや見ろよ、女がいるぞ」
「女ってまだガキじゃねぇか。まぁいい、ガキと荷物全部とついでにお前の命。全部まとめて置いていけ!」
そしてタイミングが良いのか、悪いのか。取り残された一心とカグラを前に、3人の男が立ちふさがった。
「ええと……あちらのお仲間で?」
人間、あんまりな事態に直面すると、逆に冷静になるらしい。抜身の剣を手に、ぎらつく眼差しを向けてくる男を前に、あ、どうも。と呑気に挨拶をする一心。不思議と恐怖は無い。
(だってどう見てもエルクの方が怖かったって……)
向けられる殺気も何処か温い。と言っても殺気なんかがはっきりと感じれれる訳では無い。エルクと対峙した時にあった、凍えるような、身のすくむような怖さが無いというだけだ。しかし、それだけでエルクよりも弱いというのがはっきりと感じられる。
(嫌な奴だけど、これだけは感謝するべきか……)
「へっ、ビビッて声も出せないか。おい、嬢ちゃん。そんな奴ほっておいて俺達と――」
半ばどうでもいいことを考えている一心。その一心の無言を勘違いしたのか、男の一人がカグラへと無防備に近づく。そして――
「触るな。儂に触れていいのは、ユズリアルと、一心と、後はまぁ、おまけでルウェルと、アイリーンとハルだけだ」
「へ、あ、あ、あぁぁぁっぁぁーーー」
意外と触れていい人多いなー。いや少ないのか? と一心が考える目の前で、カグラに触れた男の手が燃え上がる。手加減したのかそれとも今はそれが限界なのか、燃えるのは男の触れた手だけだが、それでも肉の焼ける臭いが、男の叫び声と共に辺りを充満する。
「こ、こいつ魔法師か!?」
「だが触媒が!!」
また触媒かー、注意しないとな。などと思っている一心は、どうやら大分この世界に慣れたようだ。もしくは単に現実放棄しているだけか。あるいは、ゲームと似た展開にどこかゲーム感覚があるのか。
「風の大砲」
しかしだからと言って、何時までも見ている訳にもいかない。取り合えず魔力炉を起動し、エルク戦で使った風の連打を残る2人へと放つ。
「風の矢、風の暴風、風の鉄槌」
風の大砲で吹き飛ばし、無防備な体勢の所を矢で貫き、縫い付ける。そこを暴風が襲い、巻き上げ、最後に上空から風の鉄槌で打ち落とす。
「え?」
抵抗する間もなく、べちゃりと潰れる2人。
内心でやり過ぎたと焦りながら、今の魔法とエルク戦で使った時との効果の違いに驚く。
(なんで? エルク戦ではここまでの威力は無かったはずなのに……)
まともにくらってもエルクは立ち上がり、反撃してきた。だからこそ、死にはしないだろうと盗賊2人に向けて放ったのだが……
「ひ、ひ、許してくれ……殺さないで」
恐らく即死だったであろう2人を前に、最後に残った盗賊が怯え、後ずさる。その股の部分からは液体が垂れ、肉が焼ける臭いでも、血の臭いでもない臭いが漂う。
「いや、俺は……」
殺すつもりは無かった。しかしその言葉は口から出てこない。いや、縫い付けられたかのように、他のどんな言葉も一心の口からは出てこなかった。
(殺した……人を。俺……が?)
ここは異世界で相手は盗賊。そう思っていても、人を殺してしまったという罪悪感は拭えず、けれども、同時に何処か実感がわかない。
(手に何の感触も無いからか?)
剣で斬れば、その手に感触が残っただろう。しかし魔法は使った後に何の感触も残らない。初めて、魔法を怖いと感じた。
「落ち着け、主よ。こいつらは人を襲い、人を殺した。ならば逆に殺される覚悟もあったはずだ。ここは人が死に、人を殺すことがある世界。ならばそれは世界の理。軽々しく考えるのは論外だが、さりとて重く考えすぎることも無い。やらねばやられていたかもしれぬ。それも忘れるな」
一心のことを主と呼び、常には無い口調で話すカグラ。ぽん、ぽんと背中を叩かれ、少しずつ心が落ち着いていく。同時に、いかに自分が今冷静でないかが自覚され、意識して冷静にあろうと呼吸を深くする。
「それに主よ、良く見ろ。死んではおらん。お主もルウェルのことを笑えんな」
「生き……てる?」
叩きつけられ、血だまりに沈んだ2人。腕や足はあらぬ方向を向いている。だが、良く見ると、その背が上下していた。
「生きてる……」
その事に、自分でも驚くほどに安堵し、力が抜けて座り込む。手足がしびれ、震えていた。
「情けない……情けないな。全く」
そう口にしながらも、その口元は自然と笑む。
「はは……ははは」
ふと視線をずらせば、涙に歪んだ視界の先で、ハルが群がる盗賊をなぎ倒し、叩きつぶし、そこから少し離れた所では、ルウェルが杖に手をかざし、馬車に近づこうとする盗賊たちを水で押し流していた。
「全く、なんて世界だよ……」
猫科の獣耳と尻尾を揺らし、メイド服に身を包んだ少女ハル。蜂蜜色の髪が美しい、超絶美少女のルウェル。この2人が大の大人たちを薙ぎ払う様は(しかも片方は血を飛び散らせながら)何処か現実離れしていて、不思議なことに美しかった。
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