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出発準備1……からの、決闘

次話です。どぞ~

 ユズリアル女王国には、現在3つの公爵家が存在する。北に領地を持つ武の名門フォルスト公爵家、西に領を持つ商いを得意とするルワン公爵家、そして王都の近くに領を持つ最大の公爵家にして、文の名門アウグス公爵家。いずれも女王家の血を保ち、代々の王配を選出した家柄である。


 現在の王配は――女王位が空位なので正確には先の王配――アウグス公爵家のキルア・ラム・アウグス。アイリーン、ルウェル両王女の父親である。


「この3公爵家と、南のクストー侯爵家、東のローゼンバーグ侯爵家が女王国の有力な家柄」


「なるほど……」


 久々にユズリアルの庭から出てきた一心。彼は、これまた久々となるハルの個人授業を受けていた。


「フォルストと、ローゼンバーグが王姉派。クストーは中立。アウグスは王女派」


「ルワン公爵家は?」


「良い顔しい」


「良い顔しい? あぁ、蝙蝠って事か」


「蝙蝠?」


「どっちにもいい顔して、最後に勝ちそうな方に味方する人の事」


「そう、それ」



 相変わらず言葉が少ないハル。余計なことは一切言わない。けれど、それがかえって一心にとっては分かりやすかった。


「東西南北と中央に有力貴族を配置、そんでもって、ルウェルの叔母のフランは、フォルスト公爵家の侯爵夫人と」


 習った事をその場で口に出し、記憶する(・・・・)一心。


(一度で覚えられるのって便利だよな……)


 カグラによる肉体改造のおかげで、意識するだけで、見聞きした事を記憶領域に保管できる。魔法や魔法工学に関する膨大な知識も、この記憶領域に保管されており、これのおかげで一心は魔法を使うことが出来た。


 一心の感覚的には、頭の中にパソコンがある感じである。


「ってか、アイリーンの対抗馬のフランって、公爵家の人間なのな」


「正解。でも継承権は持ってる」


「ありなんだ、そういうの。後は……、王女派が文官派で、王姉派が武官派?」


「ん」


 更に記憶領域に情報を書き込む。


 フランは、先の女王を決める時にも、ルウェル達の母親と王位争いを繰り広げた。その際に、フランの側に付いたのが武の名門フォルストであり、ローゼンバーグだった。


 そしてユスナーン――先代女王の名――の側に付いたのが、文の名門アウグスである。


「つまり先代女王の選出は、文官と武官の権力闘争でもあり、現在のアイリーンとフランの王位争いは、さしずめその第2ラウンドといったところか……」


 そして勝利したユスナーン側は、アウグス公爵家当主がそのまま王配になり、敗北したフランは、フォルスト公爵家へと下った。


「王位選定に口出し出来て、影響力を持つのが候補者以外の降神術師。今の場合は、2人いる」


 王族では無いが、間違いなく王家の血筋に名を連ね、国家防衛の任についている2人の軍人。それぞれ東と南で他国に睨みを利かせているのが、女王国に4人しかいない降神術師の内、アイリーンとフラン以外の2人だった。


「というか、ローゼンバーグ家と、クストー家の人間」


 わざわざ配置したわけでは無く、それぞれがローゼンバーグ公爵の娘と、クストー侯爵その人である。


「だから一人は中立で、一人がフランを支持してるのか」


「そう」


 昨夜のアイリーンの話と照らし合わせる一心。


(大体はアイリーンが言ってた通りだな)


 一通りの事は昨日のうちにアイリーンから教えられていた。ただし時間が遅かったこともあり、簡単なことしか教えられていない。一心は、こうして再度ハルに教わる事で、アイリーンの話を補完しているのだ。


「状況的には王女派が不利か……」


「問題ない。王姉は北で手いっぱいで北から動けない。それで、中央は文官達が押さえてる」


「それはそれで問題なんだが……」


 要は現状、国中央部しかアイリーンに従っていないことになる。


「……アイリーンって、実は人気ない?」


「まだ表舞台に立ってないから、民の認知度は低い」


 それは仕方のないことかもしれない。言い換えればアイリーンはこれから女王になった後で、何を成すかによるということだ。


「ちなみにフランは?」


「北では英雄。東でも人気。南と西でも軍部では知名度が高い」


「それはまた……もしかして仮にフランが直接中央に来て、文官達押さえたら一気に決まる?」


「かもしれない」


 だから王女派は、何とか早急にアイリーンを王位に付けようとしているのだとか。しかしその為に必要な承認が得られない。


「残りの2人の降神術師の承認……か」


 国の最大戦力であり、他国に対する抑止力でもある降神術師。女王国の王とは、それらの存在を束ねる者の事なのだ。


 そして故に、女王国の王になる為には、その降神術師たちの内、過半数の承認が必要になる。


「最低でも2人必要」


 4人中3人の承認を得るには、己を除く2人の承認が必要である。そして現在、一人はフランの支持を表明し、もう一人は中立……どちらの支持も示していない。


「もしクストーが王姉を支持したら……」


「その時点で次の王がフランに決まる」


「ってことだよな」


 思った以上に厳しい状況、では無く、思った以上の更に上に厳しい状況なのだ。


「だから姫様は必死」


「なるほど」


 そう答えつつ、実はルウェルが必死なのはそれだけが理由では無いことを知っている一心。そこら辺の事情も昨日アイリーンに聞かされていた。


 そもそも何故今になって一心が有力者たちの情報を学んでいるかといえば、それはアイリーンの頼みが原因だ。彼は外に出る前に、出来るだけの情報を得ようとしているのだ。


「ハルも同行するんだっけ?」


「ん」


 ハルと、ルウェルと一心。3人での旅路……


(これはあれか? フラグとかハーレムルートとかそういうのか?)


 と、ちょっと期待しないでもない一心。しかし……


「エルクから。手出したら殺す。3秒以上見つめたら刺す。5秒以上見つめたら斬る。だって」


「あ、そうですか……」


「報告係」


 そう言ってハルは自分の顔を指差すのだった。


 ◇  ◇  ◇


 次の日。


「すまんな、急に呼び出したりして」


「いや、俺も無理聞いてもらったから」


 夜が明けたばかりの早朝、まだ村の住民たちが寝静まっている頃、リュークの元を訪れる一心の姿があった。ちなみにカグツチは庵でお留守番である。


「一応村にある中で、とにかく頑丈な奴を選んだ。どうだ?」


「十分です。ありがとうございます」


 そう言ってリュークが指し示す先にあったのは一台の馬車。一心は移動用の馬車を借りに訪れたのである。


 移動に馬か馬車を使うことはすぐに決まった。しかし一心は馬には乗れない。となると馬車で移動ということになるのだが、そこで一つの問題が生じた。


「あんまり無茶苦茶するなよ?」


「大丈夫ですよ」


 それは、一心がとにかく乗り物に弱いということだ。この世界ではまだ村から出たことが無く、馬車にも乗ったことが無いが、しかし自宅の車でも己が運転しない限り酔ってしまう一心。馬車に酔わないという確信が持てなかった。


 そこで一心は、改造を施して何とか揺れを軽減出来ないかと考えたのだ。


「じゃぁ、ありがとうございます。これからさっそく……」


 どんな改造を施すか頭の中で妄想しつつ、一心はリュークのもとを後にする。いや、後にしようとした。


「一心ーー!!」


「げ、エルク……」


 そう、エルクが来なければ……



 ◇  ◇  ◇



「決闘だ!!」


「いや、なぜ急にそうなる!?」


「俺が勝ったら、お前がここに残れ、姫様とは俺がいく」


「いや、だからあなたと、リュークがここに残るのが意味がある訳で……」


「弱い奴に姫様を任せられるか!!」


「聞いてないし。ってか、ハルに監視頼んだんじゃないのかよ……」


 今回の旅にリュークとエルクは同行しない。それはアイリーンからの指示だった。


「エルク、儂とお前が動けばいらん耳目を集めかねない。アイリーン様はそうお考えなのだ」


「それは俺の知る事では無い。第一、俺もお前も付いて行かずに、姫様に万一のことがあったらどうする? この男が守り切れるという保証でもあるのか?」


「それは……」


「姫様の側近は俺と、お前だ。こんな何処から沸いたのかも分からん男に任せるのか? 本当に!」


 リュークがそんなエルクを宥めようとするが、しかしエルクは耳を貸さない。それだけでは無く、逆にリュークがエルクの言葉に説得されそうになってしまった。


(おいおい、しっかりしてくれ……)


 一心としては、勝っても負けても面倒なことにしかなりそうもない決闘など、断固ごめんである。リュークに頑張ってもらうしかないのだが……


「一心が強ければ問題ないってことだな?」


「そうだ!」


 と、何やら話が怪しげな方向に向かってしまう。


「いやだから、ちょっと待って――ってか、俺の意志は?」


「場所は?」


「訓練場で良いだろう」


「ねぇ、俺の意志――」


 慌てて割って入るが、一心の言葉はエルクはおろかリュークにまで無視され、結局エルクとの模擬戦が決まってしまうのだった。






「こんな所あったんだ」


 へぇ……と半ばやけになりながら、辺りを見回す一心。場所を館から、村はずれの訓練場へと移した3人。早朝ということもあり、訓練場には他に誰もいなかった。


「武器は――」


「もちろん真剣でだ。それ以外は認めん」


「いや、あのさ。確認のために聞くけど、怪我したらどうするの?」


「それはお前の力不足という訳だ。問題ない」


(いや、問題ありありでしょ!!)


 あんまりな、そしてあからさまなエルクの発言に、声を失う一心。


(この人殺す気満々なんじゃないか? 普段から事あるごとに殺すとか言ってるし。ってか、今怪我するの俺限定みたいな言い方したよな?)


 ここまで言われたらさすがに腹が立つ。おまけにエルクの普段の態度が態度だ。


(やりたくもない決闘をさせて、しかも真剣? 怪我したら俺の力不足?)


 この時、一心の頭の中にあったのは、もういっそのこと容赦なく叩きのめせと言う言葉だった。触媒無しだの、科学だのの、隠し事は一切頭から抜け落ちる。


(魔力炉解放(・・)


 無言で戦闘状態へと移行する。


 起動(・・)では無く、解放(・・)。それ即ち完全なる全力。


 魔力炉から解き放たれた魔力が全身に満ち、細胞を、神経を、筋肉を活性化させる。それに伴って視界がより鮮明になり、鼻があらゆる匂いを嗅ぎ分け、その他の五感も研ぎ澄まされてゆく。


(さて、何から試そうか……)


 一心は、いつの間にか笑っていた。


 あふれ出る魔力に呑まれ、溢れ出る全能感に酔いしれる。いつの間にか苛立ちから興奮へと変わる感情。


 ムカつくエルクを叩きのめしたい。覚えた魔法を試したい。そんな子供じみた欲求が彼を支配する。


「武器は?」


「素手で構わない。お前程度なら」


 普段は口にしない挑発を、己が口にしたことにも一心は気付いていない。そして怒りに顔を染めるエルクの表情にも、訝しむリュークにも。


「早く始めよう。何時でもいいぞ?」


「――リューク」


 殺気立ったエルクが短くリュークを促し、そして――


「危ないと判断したら止めるからな……始め!」


 戦いの火蓋が今、切って落とされた。

次回へ続く!! みたいな感じになってしまいましたが、第、ええと何話でしたっけ? 投稿です(笑)


今年最後の投稿だと思います。たぶん? 明日は……しないかな。。。。


なにわともあれ、今年一年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします!!


そして次話、「決闘……からの、出発準備2」です。 よろしくおねがいいたしま~す。



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