一緒に
私たちはずっと一緒だった。
たとえ私がどんなに旋回しても、
たとえ彼がどんなに速く飛んでも、
私たちは互いの隣をずっと離れない。
それぐらい、一緒だった。
「さあ、行こうか」彼は私の方を向いて言う。
これからたくさんの仲間たちと共に長い旅をする。
もちろん、彼も一緒に。
私たちは群れの後ろを、二人きりで飛んでいた。
彼とはいつも一緒。いつからだったのだろうか?
告白もしていないし、されてもいない。
いつ、知り合ったのかもよく覚えていない。
自然に、このような関係になったのだ。
でも、そんなことどうだっていい。
今一番大事なのは、彼と過ごすこの時間なのだ。
それに、過去は関係ない。
ただ、ひとつだけ気になるのは、彼の気持ち。
彼は、私が笑えば、共に笑ってくれる。
私が、泣けば、慰めてくれる。
それは、彼なりの愛情表現なのかもしれないけれど、
一度だけでいいから、言葉で伝えてほしい。
そんな私の気も知らず、彼は私に笑いかける。
私も彼に笑い返した。
刹那、一陣の風が吹き荒れた。
その風は、私の身体を連れ去って、
彼からだんだん離れていく。
視界の端で火花が散る。
その瞬間、背中に痛みが走り、全身がしびれる。
そのまま、私は急降下していった。
目覚めると、今まで彼と私が住んでいた場所にいた。
なんでこんなところに……
風にあおられて……そうか、電線にあたったのか。
私は体を起こそうとした。
でも、どこを動かそうとしても、全く反応がない。
そして、直感が私に恐ろしい真実を告げた。
それを悟ってしまった私は、絶望した。
「おい、大丈夫か?」
突然の声に驚いて、振り返ると、彼がいた。
「みんなは?」
なぜあなたはここにいるの?
「もう先に行ったよ」
「早く行って!」答えを聞いた瞬間に叫んだ。
「でもお前が……」
「みんなに追いついて!」
あなただけでも、と言いかけてしまいそうになる。
「お前は?」
「大丈夫、すぐに追いつく」本当はできない。
だって私は、『二度と飛ぶことができない』のだから。
「……本当だな?」
「……うん」ゆっくりとうなずいた。
「そうか」彼はつぶやいて、飛び立っていった。
そう、これでいい。自分に言い聞かせた。
彼に心配させたくないし、迷惑もかけられない。
私は正しいことをした。
そう思うのだけれど、心には大きな穴が開いていた。
彼が見えなくなると、様子を伺っていたのか、
蛇が木の上のほうから降りてくる。
その目はまるで私を哀れんでいるかのようだった。
目の持ち主は大きな口をあけ、私ののどを狙う。
そして、血しぶきがあがった。蛇の。
蛇は目をつぶされ、木から滑り落ちていった。
そして、その場にいたのは彼だった。
「どうして……どうして……」言葉が続かなかった。
どうして来たの? 彼には自由になってほしかった。
私は彼を行かせてあげられなかった罪悪感と、
そうさせた自分への怒りで涙が止まらなかった。
「不満そうな顔だな」
彼の顔は笑っていたが、声は冷静だった。
「私は死ぬ覚悟は出来ていたのに!」
今までにないほど、彼に感情をぶつける。
「分かっていたよ、全部」
「え?」私は硬直した。
「お前の表情と態度を見ていればな」
どうやら私の気遣いは無駄だったようだ。
「でも、私はもう――」
「誰だって、好きなヤツの隣にいるのが一番幸せだ」
私の言葉をさえぎり、彼は言った。さらに、
「俺の場合は、お前だな」
やっと聞けたその言葉。
その言葉がうれしくて、
まだまだこの涙は止まらないだろう。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
夜も更けて、私たちは眠りにつく。
いつもの他愛もない会話。
私たちの関係は少しでも変化したのだろうか?
彼は翼を広げ、私を包み込むようにして、
さらに、私に寄りかかってきた。
麻痺したはずの私の身体は、
彼のぬくもりだけは感じることが出来たのだった。
私たちはずっと一緒だった。
いや、これからもずっと一緒だ。