始まり
ヴェルナ―はシモンにガロアとエミリーが戦い合い、ガロアが勝利した事を話し終えた。
「・・といったことがあったんですよ」
「凄いですね」
シモンはそれしか言えなかった。
「何か感じたことはありましたか」
ヴェルナ―はそう言うとカップに注がれた紅茶を飲みほした。
「ええと、そこまで誰かに全てを出し切れるってなんか良いですね」
「つまんないですね」
ヴェルナ―は残念そうにシモンの言葉を切り捨てた。
「え」
「そんなありふれた感想を感じているような人ではないと思いましてね」
ヴェルナ―はシモンにほほ笑みかけた。
「・・・そうですね。正直言うと、羨ましいとは思いました。そして俺には無理だろうとも」
シモンは少し考えた後、言葉を選ぶように答えた。
「どうして」
「俺はまだ、誰かに全てを出し切れるような人間にはなれそうにないので」
シモンは少し寂しそうな顔で答えた。
「そうですか。シモン君は作る段階なんですね」
「作る段階ですか」
「ええ、シモン君は誰かを好きになる事を学ぶ段階なんだと思いますよ。今まで、色々なことがありすぎたんですから、まあ私のせいですけど」
そう言って、ヴェルナ―はシモンに笑いかけた。
「いや、あの事は」
「いえいえ、冗談です。でもシモン君がそう言う段階なのは本当だと思いますよ」
「じゃあ、どうすれば」
「個人的には付き合うのもいいと思います。何も知らないまま、人と愛し合い。幸せになることは難しいでしょう」
「でも」
「気持ちは分かります。好きでもない人と付き合うのは誠実ではないと思うのでしょう」
「はい」
「なら、言い方を変えましょうか。シモン君と彼女で人を好きになる事を学ぶのはどうでしょう」
「どういう事です」
「シモン君の話を聞く限り、彼女はシモン君の事を好きと言うより人を好きになることがまだ分かっていないのだと思います。それなら、彼女と共に学んでみるのはどうでしょう」
「『学ぶ』ですか」
「まあ、彼女の合意が得られるならですけど」
「そうですね」
「私から言えるのはそんなところですね」
「分かりました。ありがとうございました」
「いいえ。ああ、後でどうなったかは教えてください」
「結構興味あるんですね」
「ええ、ソフィと話すネタになるもので」
「なるほど。・・・そう言えば、聞いた話の二人と今の二人違いすぎません」
「ガロアとエミリーさんの事ですか」
「はい」
「それは恥ずかしくなったんですよ」
「ええと、それって」
「戦いが終わった後、自分たちのしたことを振り返って恥ずかしくなったんだと思いますよ」
「なるほど」
「私は今の二人の空気が一番だと思います」
「それは俺もそう思います」
「二人は本当に最高の相手と出会ったんですよ」
「なんか悔しくなりました」
「悔しくですか」
「俺も恋愛してみたくなりました」
「そうですか」
「じゃあ、俺はこれで色々ありがとうございました」
「ええ」
シモンはロザリンドを呼び出した。
「失礼だけど、ロザリンドさんは恋愛経験は」
「ええ、無いわ。いいわけみたいだけど、パパの影響が大きかったから」
ロザリンドは自分の指を少し力を入れて絡め始めた。
「そうなんだ。俺も恋愛ってしたことないんだ」
「そうなの」
「そう、だからロザリンドさんが言っていた提案に乗ろうと思って」
シモンはそう言ってロザリンドの顔をしっかりと見た。
「試しに私と付き合うって事?」
ロザリンドは絡めた指をほどいた。
「改めて言うと酷いこと言ってるね」
シモンはそう言って、照れくさそうに笑った。
「そんな顔されても困るわ。私の言った提案なんだから」
「でも」
「そうね。私はね。人を好きになったことがないのよ。今まで、人を好きになるほど人にかかわったことがないから」
ロザリンドは少しずつ声を小さくしながらそう言った。
「それは俺も同じだよ。俺もここに来る前は病院に居たんだ。そこで親代わりの人はいたけど人を好きになることは無かった」
対して、シモンは声を大きくしてこれに答える。
「案外似ているのね、私たち」
「そうかもね」
「じゃあ、改めて言うわ」
ロザリンドは覚悟を決めたように深呼吸した。
「えっ何を」
シモンは驚いたようにロザリンドを見る。
「私はあなたを心から好きになるわ。だからあなたも私を心から好きになって」
「俺は君を心から好きになる。そして、君にも俺を心から好きになってもらうよ」
「ふふふ。意地っ張りなのね」
「負けるのは嫌だから」
一応、終わりですがこのシリーズはまだ続きます。
今回のテーマは正しすぎる恋愛です。真っ向から互いが互いを理解し合おうとする恋愛を描いたつもりです。