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魔法使いの恋愛事情  作者: アルケニア
4/7

魔法の進歩

「ガロア君、朗報です。魔法を唱えられるようになるかもしれません」

 グラウンドに降り立ったヴェルナ―はガロアにそう言い放った。

「え、ほ、本当ですか」

 ガロアはそう言うことしかできなかった。飾り付ける暇さえない感情の波がガロアを襲っていたからだ。

「・・・・・良かった。良かったよお」

 エミリーは泣きながら感情を言葉にする。さっきまでの満ち足りただけの感情の結果としてでなく。最高の、最上の感情を表す方法としてである。

「今日の放課後に私の家に来てください。詳細をお話します」

 ヴェルナ―は二人に最高の笑顔を見せてそう言った。

「分かりました」

「ではまた」

「はい」

 ヴェルナ―はまた天使となって空に消えていった。

「嘘じゃないよな」

 ガロアは確認した、夢ではないのか。なんかの間違いなのではないか。それをエミリーに確認した。

「うん。うん。嘘じゃないよ」

 エミリーはそれに涙を拭い、最高の笑顔で応えた。

「よっしゃああああああああああ」

 ガロアの咆哮がグラウンドに木霊した。



 放課後、ヴェルナ―宅にガロアとエミリーが訪れた。そのまま、二人は客室に通されるとヴェルナ―がにっこりとした笑顔と共に二人を迎えた。

「では早速ですが、なぜガロア君が今まで魔法を使えなかったかの原因と思われるものを説明します」

 ヴェルナ―は客間の椅子に二人を座るように促すと、お茶とお菓子をメイドに準備させた。

「はい」

 ガロアは真剣にヴェルナ―の目を見る。

「ガロア君。その前に幾つか質問に答えてください」

 ヴェルナ―はガロアとエミリーの分の紅茶を注いで二人の所に置いた。

「はい」

「では、あなたは今まで大きな怪我をしたことがありますか」

「・・・。いや、あんまり記憶にないです」

 ガロアは少し考えた後、そう答えた。

「・・。そうですか。では、病気は」

 ヴェルナ―は紅茶を少し飲むとそう質問した。

「病気もないです」

「・・。そうですか。では少し試したい事があるので手を出してください」

「はい?」

 ガロアはヴェルナ―の前に手を差し出した。

 ヴェルナ―は突然ポケットの中からカッターを取り出すとガロアの手を切り付けた。

「な、何するんですか」

 エミリーが立ち上がって、それに抗議する。

「想像通りだ。ガロア君。君は間違いなく精神性魔法制御障害だ」

 ヴェルナ―は一人、納得したように声を上げる。

「ヴェルナ―さん。何を言ってるんですか。いきなり、ガロアに斬りかかるなんて」

「エミリーさん。ガロア君の手を見てください」

 ヴェルナ―はガロアの手を自分の手で指し示した。

「え」

 エミリーはガロアの手を見てみた。そこには切り傷などなかった。逆の手を見てみたがそちらにも切り傷がない。

「どういう事」

 エミリーは困惑の声を上げた。

「通常、あるレベルの魔力以上を持つと魔力の作用で攻撃と言う攻撃を無効化するんですよ。魔術師でも上位のレベルでないと切り傷を無効にできないので普通は知らないんですが」

 魔法は当時の科学でも証明されている事実として、魔法を強く持っているものに加わる多くの力を防ぐ特性があることが分かっていた。

「それって、ガロアが魔術師上位の魔力を持ってるって事ですか」

 エミリーは驚きを言葉にした。

「いえ、恐らくはそれ以上でしょう」

「でも、そんな魔力があるなら普通魔法だって」

「それが私たちの勘違いでした。昨日、ある男から論文が届きましてその内容に『魔力をある一定以上持つ者が初めて魔法を唱えるとき魔法を極端に成功し辛くなる』ものがありまして」

 この論文は当時として余りにも革命的なものであった。エミリーの言う通り、普通は魔法を使う素養こそが魔力であるというイメージが強く、それは魔法を何年もやってきたヴェルナ―にとっても同じことだったからだ。

「じゃあ、ガロアは魔力がありすぎて魔法を唱えられなかったって事ですか」

 エミリーの驚きの声が部屋に響き渡る。

「そう言う事です。論文を書いた男も同じ理由で魔法を唱えられなかったらしいのですが色々試した結果唱えられるようになり、もしかしたら一般的に言えるのではないかと論文を書いたそうです」

 ヴェルナ―はそう言い切った。それは同時にその論文は間違いないだろうと言う確信を強くヴェルナ―が持っていることも意味する。魔法の理論は現代科学でも最高峰の難度を誇る。そんな理論の最先端をいくらヴェルナ―と言えど一日、二日で理解はできない。その事実はヴェルナ―が二人に希望を見出してやりたいという意思と論文をよこした男への絶対の信頼がそろった事で初めてこの状況が成立したことを示していた。

「でも色々試してみましたが、俺、できませんでしたよ」

 しかし、当然そんなことを言われても信じきれるわけがないとガロアは不満そうな顔をした。

「方法があるんです。それを今から教えます」

「はい!」



 三人はヴェルナ―宅の大きな庭に出た。

「質問です。魔法ができるメカニズムは知ってますか」

「はい。魔法は魔力が言葉の影響を受けて形になるものですよね」

「ガロア君は」

 ヴェルナ―はガロアにも意見を出すように促した。

「ええと、俺もそうだと思います」

「授業で習うので一般的にはそれで正しいのですが、先ほど言った論文によるとそうではないそうです」

 ヴェルナ―は持っていた論文を指で指し示した。

「ええええ、そうなんですか」

「良いリアクション、ありがとうございます、ガロア君。魔法は魔力と情報によって形をなすようなのです。言葉は魔力に情報を伝える手段というだけなのだそうです」

 魔法がどのように形になるかの議論は行われていたが、多くの学者は声が鍵であると言う考えを持っていた。それはヴェルナ―もである。しかし、その論文には声が鍵ではなく、本当に鍵となっていたのは情報だと言うのである。

「ええと、どういう事ですか」

 エミリーの戸惑いも無理もないことだった。なぜなら、目の前で常識の書き変わる瞬間を感じ取ったのだから。

「言葉が足りませんでしたね。あなた達は魔法を唱えるときにその魔法によって生じる現象を想像しますね」

「はい、そうしないとどうなるか分からないですから」

 これも誤解の原因となっていた。魔法を唱えるという行為の性質上、当たり前のように情報を必要とする。だから、誰も疑問に抱かなかったのだ。情報が魔法発生に不可欠なものだとは。

「それが、情報を魔力に伝える行為なのです。それに言葉を追加して魔法を発動させる」

「なるほど」

「では、なぜガロア君は魔法が唱えられなかったのか。それはガロア君の知識がガロア君の魔力をコントロールできるほど無かったからです」

 魔法はそれを発動させるために多くの情報を必要とする。必要となる情報の量はその魔法の特性に多く依存し、必要となる情報量がないと魔力の量に関係なく術は発動しなくなる。

「ってことは」

「ええ、知識を十分に得れば魔法を唱えることは可能です。魔力は十分にあるようなので」

「よかったあ」

「・・。試験には間に合いますか」

「ええ、でも私のメニューに付き合ってもらいますよ」

「はい。はい。はい」

 次の日からヴェルナ―とガロアの練習が始まった。



 ヴェルナ―邸、早速次の早朝からヴェルナ―、ガロアが集まっていた。二人は庭で練習のために軽くストレッチをしていた。

「エミリーさんもくると思っていたんですが」

「エミリーなら、自分の練習を始めたみたいです。そろそろ、自分の練習しないとヤバいからって」

「そうですか。ではこちらも負けていられませんね」

「はい」

 二人は十分に体をほぐし終えた。

「練習を始める前にガロア君に聞きたいことがありまして」

「聞きたいことですか」

 ガロアは真剣な顔でそう言った。

「はい。心配しなくても、どう答えても練習を止める事は無いので緊張しなくてもいいですよ」

「少し緊張しちゃいました」

「ふふ、では質問しますね。ガロア君、君はあのまま成果が出なかったらどうしてました」

 ヴェルナ―にとっても、ガロアの努力はエミリーへの強い依存によるものだという懸念が拭えていなかった。この質問はヴェルナ―がその懸念を拭うためだった。

「本音を言うと考えて無かったです」

「そうですか。怖くなかったんですか」

 ヴェルナ―はガロアの異常性を見定めるように観察していた。

「怖かったです。すごく。でも、それで失敗しても何とかなる気がして」

「楽観的ですね」


「そうですね。その通りです。でも、色々やってみて気づいたんですが自分に合う努力の仕方って一つなんだと思います。だからこれが失敗しても、今度は違うものをできるように同じように努力する。それでいいと思えたので」


「ふふふ、あはははは」

 ヴェルナ―の笑い声が辺りに響いていた。ヴェルナ―は自分の中に生まれた強い感情の塊をそうやって出すことしかできなかったのだ。

「なんかすいません。生意気言って」

 ガロアはヴェルナ―の突然の笑い声に驚きながら、うろたえていた。

「正しいと思います。でも、そんなに簡単にはいかないでしょう。しかし、それに気付きそれを躊躇いなく実践できる。誰にでも出来る事じゃない。ガロア君、いやガロア。私は君と師として以上に友として接したくなりました。友達になりませんか、ガロア」

 ヴェルナ―は理解した。ガロアが行っていた努力は本人が言うにはエミリーに近づくため、しかしその実は自分の能力を上げるためだと言う事。ガロアにとって、エミリーの一言はきっかけであり、理由で無かった。そのガロアの本能的な向上心にヴェルナ―は心打たれたのだ。

「ええと、良いんですか。俺なんかで」

「優れたものが自分の能力に気づけないこと以上に周りに害を与えることはありません。それと敬語もさんづけも無しです。友にそんなものはいらないでしょう」

 ヴェルナ―はにっこりとガロアにほほ笑みかけた。

「分かった。改めて宜しくヴェルナ―」

「ええ、ガロア。こちらこそ。しかし、それとは別に練習では言う事を聞いてもらいますからね」

「はあい」

「早速ですが具体的な練習を先に説明します」

「はい」

「現状、魔法を覚えることを最優先にしますが何か覚えたい魔法ってありますか」

「・・・・うーん。やっぱりサリダ・デル・ソルですか、・・かな」

 ガロアは言い終えた後、ヴェルナ―に目で訴えかけた。

「やっぱり、敬語禁止は違和感あります?」

「正直」

 ガロアは言いずらそうにそう答えた。

「・・・ふふ。それなら敬語を言うたびに罰ゲームをしましょう」

 その顔を見て、ヴェルナ―はほほ笑みながらそう言った。

「え、そこまでしなくても」

 思いがけないヴェルナ―の提案に驚きを隠しきれないガロア。

「良いじゃないですか。何事も楽しまないと」

 対して、ヴェルナ―はほほえんだままだ。

「・・・。やったろうじゃないか、ヴェルナ―」

 ガロアは少し考えた後、意を決してそう言った。

「・・・・」

 ヴェルナ―は驚いた顔で固まった。

「だめでした?」

 ガロアは罰の悪そうな顔でヴェルナ―に問いかける。

「ふふ、はい罰ゲームです」

 ヴェルナ―はそのガロアの顔を見た後、ほほ笑みながらそう答える。

「え、え」

 またも予想外のヴェルナ―の反応にパニックのガロア。

「罰ゲームはそうですね。次に会うのは一週間後なので、このスケッチブックの全てのページに自分のイメージする大きな火の玉を描いて来て下さい」

 ヴェルナ―は置いてあった袋の中から一冊のスケッチブックを取り出して、それをぺらぺらとガロアに見えるようにめくった。

「絵をか、けばいいんだな」

「ふふ、そう言う事です。絵を描くのは火の玉に対するイメージを固定するためです。できるだけ多く書いて、これだと思う火の玉が描けたらそれ以降はそれを真似て残りを埋めて下さい」

 ヴェルナ―はスケッチブックに指で火の玉を描く真似をして見せた。

「は、わかった」

「ふふ、それ以外は火の玉を物理、化学、生物、地学的に理解してください。これは魔法の性質上必要な知識ですし、絵で得た抽象的なイメージを具体的な知識で形にしていく意味もあります」

 ヴェルナ―は再び、袋を見て今度は物理、化学、生物、地学の教科書を何冊か取り出した。

「な、へえ。・・・、魔法に必要ってのは」

「それは魔法は確かに不思議な存在ですが、基本的に物理的な性質は当然持っているんです」

「え、そうは思いませ、・・ないけど」

「そう思うのも無理ないですが、魔法は物理法則に従っています。ただ、魔法は圧倒的なエネルギーによって物理法則を無視しているだけです」

「そうなんだ」

「ええ、しかしそれは同時に物理法則から離れるような魔法ほど魔力が必要になるんですよ。だからこそ、最初に習う魔法はエネルギーそのままの火の玉が多いんです」

「そうなんだ」

「そうなんです。だから、しばらくは座学ですね」

 ヴェルナ―は自分の家を指さして、教科書の入った袋をガロアに渡した。

「マジか」

「マジです」

「え、それならストレッチする必要無かったんじゃ」

「ああ、それは気分です」

 ヴェルナ―はそう言ってほほ笑んだ。

(やべえ、尊敬はしてるが殴りてえ)


 そんなこんなを繰り返して、いよいよMSP魔法選別試験当日となった。



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