火と水
これはガロアとエミリーの高校時代の話。
二人は同じ高校に通う高校生であった。二人の通う高校は偏差値的にも魔法の環境的にも普通の高校だった。
「ガロア、おはよう」
「ああ、おはよう。エミリー」
二人は幼いころからの幼馴染で、仕事の関係であまり家に居ないエミリーの母親とガロアの母親が親友であったのでよく遊びにいったりしているぐらいの仲であった。俗に言う家族公認の仲と言うやつだ。そのためか互いに家を出る時間が重なるとこうして一緒に登校していた。
「今日から、魔法の授業が始まるのよね」
「そうだよな。楽しみだ」
ガロアは魔法と言う未経験の体験に湧きあがる感情の暴走をなんとか体に押しとどめている状態だった。
「テンション高いわねえ。まあ、気持ちはわかるけど」
エミリーはそんなガロアの様子を嬉しそうに眺めながらそう言った。
「当たり前だよ。魔法だぜ。男でこの響きに感動しない奴なんていないって」
魔法の学習は高校からその学習が始まる。魔法は悪用が怖いのである程度の年齢になってからの学習と言う事で高校生からの学習となった。
「魔法ねえ。もっと専門的な人にだけ教えるべきだと思うけどね」
「何でだよ。すげえじゃん、魔法」
「いやいや、魔法って危険でもあるでしょ」
「そんなもんか。まあ、魔法は楽しまないと」
「はあ、まあそうね」
その日の魔法の授業。ガロアとエミリーにとっては最初の魔法とのふれあいとなるはずの時間だった。
学校のグラウンド、グラウンド中央に置かれた的に向かって学生たちが呪文を唱えて言った。
「火の玉」
当時、魔法の授業は基本的な魔法を唱えることから始まった。基本的な呪文としては大体、何処の学校でも基本的な魔法として「火の玉」が使用されていた。
「次、エミリーやりなさい」
黒いローブを着た教師がエミリーに指定の位置に移動するように促す。
「はい」
エミリーは立ちあがって、待っている生徒から十分に距離にある正面まで移動した。そして、エミリーは的に向かって右手を向けると唱える。
「火の玉」
他の学生が放ったものよりも二回りは大きい炎の球が的を燃やし尽くした。
「すっっごい」
生徒たちの中から歓声が上がる。
「ほお、すごいなあ。大したもんだ」
教師もそれに驚きの声をあげた。
「へえ、やるじゃねえか。俺も負けていられねえな」
ガロアはそれを見て、驚きと嫉妬の声をこぼす。
「次、ガロア。やりなさい」
「やっと、来たか」
ガロアは立ちあがって、嬉しそうに指定の位置に移動して的に右手を向ける。
「火の玉」
・・・・・。
「・・・。あれ」
何も起きない。
「うーん。もう一回唱えてみろ、ガロア」
教師は少し残念そうにガロアに確認を促した。
「ふう。緊張したのか。・・・・、よし。火の玉」
・・・・。何も起きない。
「・・・。残念だがガロア」
教師は申し訳なさそうにガロアに移動を指示した。
「分かってます。下がります」
魔法はできるものとできないものがいる。最初の魔法の授業はできるかできないかを判断するものでもあった。ガロアとエミリーの通う高校ではこの時の測定によって、それ以降、魔法を習う者、習わない者に分けられる。
当然の事だが、ガロアとエミリーのクラスは分かれることになる。
数日後、あの授業以来クラスも変わったこともあり二人は会う頻度が減っていた。それでも、たまに時間が合うとこうして一緒に登校することもあった。
「おはよう、ガロア」
エミリーに以前のような元気な声はない。
「ああ、おはよう」
それはガロアも同様だった。
「・・・・」
「・・・・・」
二人は合う機会を減らしただけでなく以前のような自然な会話ができないでいた。それは今まで二人の間にはなかった現実的な大きな差異に二人が耐えきれなかったからだ。
「今、魔法ってどんなの習ってるんだ」
それでも、沈黙に耐えきれずガロアがエミリーに質問した。
「・・。ええと基本的な魔法をきちんとできるかをテストしている感じかな」
「そうか」
ガロアは悲しそうに下を向いてしまった。
「・・・。そんなに気になるなら、先生に頼んで魔法をもう一回唱えてみればいいじゃない」
エミリーは少しいらついたように大きな声を上げた。
「・・・。馬鹿、何回も頼んだよ。結果は変らなかったけどな」
ガロアはたんたんとそれに答えた。
「・・。ごめん」
「謝んな」
ガロアは強く拳を握りしめた。
それから数カ月後。
高校の廊下、通常授業を終えたガロアが廊下を友達と通っていた。ガロアはあれから落ち込みながらも中学からの友達のフォローもあってクラスで何人かの友達を作っていた。
「ガロア、お前終始寝てただろ」
ガロアの友達の一人がガロアの授業態度を茶化し始めた。
「うっせえ、何だよ。数学なんて新しい言語開発した奴」
「言語って」
「だってよお。何言ってるか、わかんねえもん」
「確かになあ。物理とかも謎理論だもんな」
「そう。そう」
廊下の反対側から、エミリー含め魔法実習を終えた生徒たちが向かってきた。エミリーも元々の明るさからかクラスに何人かの友達を作っていた。
「エミリー、最初は凄かったのに」
「そうかなあ。多分、まぐれだったんじゃない」
「でも、的にはしっかり当たってるし、やっぱり優秀よ」
「そう。そう」
廊下でエミリーとガロアがすれ違った。二人は何も互いに声を掛けない。いや、かけられなかったのだ。二人は互いに自分の目の前の現実から目を背けることで前に進んでいたから。
「ガロアももったいないなあ」
「何だよ。一体」
「エミリーさんだよ。あんなにかわいい幼馴染がいるとか」
「あいつとはそんなんじゃないって」
「綺麗だよなあ」
ガロアはその言葉を聞こえないように歩くペースを上げた。