*沈む気持ち
さっきのことを考えないように、テストの過去問を時間を計って自分を追い詰めながらやった。おかげで、必死で解いて、丸つけ、直しをして、気付いたら塾が閉まる20時だった。いつもの6人で帰る。
葛西はさっきのことなんてなかったかのようにいつもと変わらなくて、俺もいつも通りを保つ。6人で他愛のない話をしながら駅まであるくこの10分くらいは、穏やかな時間で、ほっとする。
駅まで半分くらい歩いた時だった。
「七菜!」
という声がして声の聞こえたら方を見ると、車道の向こう側に大手の塾Y塾がありその前に同い年くらいの男子4人と女子2人がいて、そのうち1人の女子が手を振っていた。
「沙耶!」と葛西が嬉しそうに応えると、6人は走って車道を渡ってこっちへやってきた。
「ひさしぶり!」と葛西は彼女たちにかけよって、7人で盛り上がっていた。
俺達が歩いていくと、葛西が振り返って、「学校の友達なんだ」と言い、彼女たちにも俺らのことを紹介して、また話を再開させる。
学校の友達と話す葛西を初めて見た。学校でもやはり表情が豊かでいつも明るいんだろうという俺の想像は当たってた。
「仲良さそうーいいなー共学」
葛西たちの後ろを歩きながら立石が呟く。
「共学ってあんな感じなんだな」と村沢。
いつの間にか盛り上がりは収まっていて、葛西は背の高い男子と列の後ろで喋っていた。
「翔また背伸びた?笑」
「お前が縮んだんだろ」
「は!?縮んでないし!」
「こどもー」
「むかつくー!だいたい受験生で成長期ってどうなの。寝過ぎなんじゃないのー?」
「まあそれは否めない」
「赤ちゃんですか」
「うるせぇよ」
2人は言い合いしながらも、笑ってて楽しそうだった。さっきまで微笑ましく見ていたその笑顔に今度は胸が締め付けられる。
「翔も七菜も懲りないねー。どっちもこども」
と振り返って笑いながら言う沙耶という女子に、
「翔でしょ」
「七菜がな」
と2人の声が重なって答える。
七菜って呼んでるんだ……
俺の知らなかった葛西の新たな一面は、今度は俺を複雑な思いにさせる。
「七菜と翔くんなかいいね」白川が楽しそうに立石に小声言うのが聞こえる。
「やっぱりあの曖昧な返事はそういうことなのかな?」
夏休みの初めの会話での曖昧な葛西の返事と表情を思い出して、心臓がぐんと重く沈んだ気がした。
その前にも電車で、「子供っぽい」と言った俺に、「よく言われるから慣れた」みたいなこと言ってたな。あれは翔ってやつによく言われるということだったのだろうか。
駅でまだ沙耶と喋ると言う葛西と別れて俺らは電車に乗る。
午後のドキドキなんてもう少しも残ってなくて、ただただ翔ってやつと話す楽しそうな葛西の顔が浮かんで、気分はどんどん沈んでいった。
俺、あの時から七菜のことについてはちょっとしたことですぐ不安になるんだ。可笑しいよな。