*消えた線香花火
花火も終盤になり、みな明るい花火ではなく小さな線香花火になる。葛西は他の女子たちと楽しそうに話しててその笑顔にほっとしながら、村沢と杉村と立石とこのあとカラオケでも行く?と盛り上がる。
すると突然、「七菜!」という声がして、見るとこの間の翔ってやつがいた。突然のことにみな静まり返り線香花火のパチパチという音と息を切らした翔が呼吸する音しか聞こえない。
葛西の驚いた顔が線香花火に照らされる。
「翔……どうしたの、とつぜ…」
「お前まだ達哉のこと調べてるんだろ?!」
花火が消えた。表情が見えなくなる。
「なんの話……」
「母さんが言ってた。七菜があの日のこと近所の人に聞いてたって」
翔が静かに言う。
達哉?あの日のこと……?
「あいつはもう戻ってこねぇよ」
葛西は何も言わなかった。
「お前だって本当は分かってんだろ?」
葛西は俺たちのいるほうに歩いてきて、荷物を持った。
「ごめん、咲。先かえるね」
「……え?七菜……?」
とまどう俺らに背をむけて葛西は帰りの方向へ歩き始めた。暗くて表情がよく見えない。突然のことにみな、なにもできなかった。
「おい!七菜!」
翔の声に、葛西がたちどまる。
「…達哉は」
小さな葛西の声。あの公園の時の声と似ていた。
「なにも言わずにいなくなったりなんかしない。なにか事情があったんだよ。だからわたしは…」
葛西が深く息を吐く音が聞こえる。
「達哉に会わなきゃ。会って、助けになりたいの。だから……もうほっといてよ……」
葛西歩き出す。
すると、翔が葛西の後ろから抱きついた。
「なんで…俺じゃだめなんだよ」
「俺ならいなくなったりなんかしない。七菜のこと、悲しませたりなんかしない。」
「もうみてらんねぇよ。いつも笑顔の七菜が、達哉のことになると泣きそうな顔になるのは、みてらんねぇんだよ……」
すごく長い時間が経った気がした。ほんの数秒だったのかもしれないけど、俺にはそう思えた。
葛西はまた深く息を吐いて、翔の手をどかして離れた。
「ごめん翔……」
「わたし……達哉がいなきゃ、自分がいなくなっちゃう」
葛西は最後に消え入るような声でそう呟くと、1人で薄暗い川辺から消えていった。その後ろ姿が消えた辺りから俺は目が放せなかった。
俺が「達哉」のことを初めて知った日は、七菜の満面の笑顔を最後に見た日と同じ日となった。




