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隣のあの子  作者: yui
1/14

*出逢い



新宿駅南口。

今日は夏休み真っ只中の休日であり、人混みでごった返している。


あと数分で俺は、約2年ぶりにあの子に会う。


高校の頃通っていた塾で、半年間週に一度だけ隣の席だったあの子に。






〜高校三年 春〜



例年より早咲きの桜がしぼむ頃、俺、小高知哉(おだかともや)の通う塾の新学期が始まった。その塾は難関国公立大学を目指す中高一貫校の生徒を対象としている小さな塾で、生徒はほとんど高一からそのまま通う上にクラスも学年に文理それぞれ一クラスしかないため、新学期といって連想されるワクワク感なんてない。むしろ、今日から正式に受験生となってしまうのかと憂うつになる。新学期最初の授業は英語であり、この科目だけは文理共通の一クラスとなる。俺の通う高校は男子校であり、同じ塾に通う他の二人、杉村と村沢は俺と違って理系なので、この英語の曜日、すなわち木曜日のみ彼らと同じクラスであり少し心強い。文系理系それぞれ20人程のクラスは、その半分以上が塾から近い大山女子学園と渋川女学院の生徒で構成されており、名前の通り女子校なので、同じく有名進学校に通ってはいてもやはり男子は肩身が狭いのだ。

もう二年も通っているにも関わらず、普段は毎日部活で遅刻するため授業が始まる前に塾に着くことは滅多になく、授業の準備で忙しく動き回るスタッフの人たちで溢れた受付は新鮮だった。教室番号を確認して教室に入る。学校の教室より狭い教室に見慣れた二種類のブレザーの制服のグループが二つできていた。一つは大山の生徒でもう一つは渋川の生徒。女子はどうしてこう群れるのか。女子が苦手というわけではないが、というより普通に話せるが、その集団は見ていて気分がいいものでもない。心の中で溜め息をつきながらも、他の二人がもう席に着いて突っ伏しているのを見てドアの横に貼られた座席表に書かれた自分の名前を探す。名前順であるためすぐに見つかる。前から三列目後ろから二列目の端というなんとも微妙な席。そして隣には女子の名前。大山か渋川のどちらかだろう。今度は本当に溜め息が出る。俺の隣の子の所に集まらなきゃいいけど。

自分の席に着いたものの、授業が始まるまであと十分もなく、他の二人のように突っ伏す。

五分ほどして隣の席の椅子が引かれる音がした。なんとなく隣の席を見ると、大山のでも渋川のでもない、セーラー服の女子が座っていた。見慣れたブレザーの子が座ると思っていた俺は驚いてそのがテキストやノートを机の上に出す様子をまじまじと見てしまった。塾には他の学校の生徒はたくさんいたが、そのセーラー服を見るのは初めてだった。俺の視線に気づいたのか、その子は俺を見てどうもといったかんじで会釈して、机の上のノートに視線を戻すと、表紙に油性マジックで"English""葛西七菜"と書いた。高三から入る人なんて聞いたことないのに、見たことない制服を着た見たことないその子。知りたいことはたくさんあったが、さすがにいきなりは話しかけることはできず、授業が始まった。


90分間の授業が終わり、15分の休憩。女子から少し離れた後ろの方で杉村と村沢の話に加わる。ふと話題が途切れたところで、二人にその子のことを尋ねる。

「俺の隣のさ、セーラーのやつって誰?」

「あぁ。葛西さんだろ。確か向ヶ丘の。」

「向ヶ丘?」

「そう。向ヶ丘高校。」

「へえ。初めてみた。」

「高二の時からいるよな?理系だけど。」

「あ、でも昨年は英語一回もでなかったし小高が知らないのも当たり前か」

「は、なんで?」

「さあ?他の科目も大体この休憩が終わった頃に来たり来なかったりだし。部活とかじゃねーの」

「実は俺らもあんま見たことないよな」

部活にしては遅すぎないか?という俺の疑問は先生の休憩の終わりを告げる声に飲み込まれた。


授業が終わるとその子はクラス担当のスタッフとなにやら楽しそうに話したあと、他の女子の集団を掻い潜るようにして教室からあっというまに消えてしまった。


これが俺が七菜に出会った最初の日。

今思うと俺は、たったその一日だけですでに七菜に惹かれてしまっていたのかもしれない。だって隣のあの子は、たった一人セーラー服だったのに埋もれるどころかどことなく輝いて俺には見えたのだから。


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