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今回はちょっと短めです。
そして、闇が空を支配するようになった頃。
「ちぇーっ。さすがに二回連続で成功なんていう都合のいいことはないかー」
帝都のとある屋根の上で、青年は拗ねていた。
原因はもちろん、今回の神父殺害の失敗である。ただ神父を殺すだけなら自分にとって容易いことだった。事実彼は、ディノのあいつよりもひ弱だと思う。だから、この程度の『仕事』は余裕だ。そのはずだった。
だが、たとえ剣術の「け」の字を学んだばかりのようなひよっこであったといえども、あそこに邪魔者がいたことで、すべてが狂ってしまった。
(あいつだけなら始末も余裕だったと思うんだけどねぇ)
本当の問題は、あの小娘に引っ張られるようにしてほかの人間が集まってきてしまったことだろう。たとえひよっこの集まりが相手でも、多勢に無勢はちょっと厳しい。それに――
青年の脳裏に、黒い髪に緑の瞳の少年の姿がちらついた。
「余計なことして、あいつの怒りを買いたくないしな」
そう、呟いたときだった。まさに今少年以上にその脳裏に浮かんでいた、しかし一番出てきて欲しくなかった人が姿を現したのだ。
旅装束で普通に屋根の上にたったそいつは、あの少年と同じ色の髪、そして同じ色の瞳をしている。
「ヘマをしたようだな。ギーメル」
「――あんたにゃ関係のない話でしょうが?」
その人物の方に視線を動かした青年、ギーメルは忌々しさを多分に含んだ声で言う。しかしその人物は、緑の瞳でこちらを見下ろしながら「あいにくそうでもない」などとぬかす。そこでギーメルは、思い切って吐いてみた。
「そーだ。おいヴィント。ありゃあいったいなんだよ?」
すると、ヴィントと呼んだ人物は小首をかしげた。
「なんのことだ?」
「とーぼーけーんーなっ!!」
いらだったギーメルはついに立ち上がり、相手に思いっきり指を突きつけてやった。
「なんで、明らかにおまえの身内と思われるがきんちょが、人間と行動してんだよ! しかも親しげに話しこんでんだよ! オレにはそれが理解できない、そしてむっしょーに腹が立つ!! いったいなんなんだ、あいつは!?」
ここぞとばかりにまくしたててやったつもりだったが、ヴィントの方はひどく冷静だった。記憶の糸を辿ろうとするかのように夜空を見上げ、そして呟いた。
「……『あれ』のことか。人間社会に溶け込んでいることに関しては、あれの努力のたまものだろうな。おまえがどう思おうが勝手だが、だからといって八つ当たりする権利は無いと思っておけ」
「ンなっ」
思わぬ言葉に、ギーメルは表情を凍りつかせた。『あれ』などと随分ぞんざいな呼び方をしたものだが、言動から察するに近しい者であることは確かだ。子か、甥か、まあその辺だろう。だが結局、こいつははっきり言わない。
「だから結局のところなんなんだよ!」
また質問をぶつけてみてやるが、それに対するヴィントの答えは冷淡なものだった。
「知りたければ自分で調べるがいい。ただし、学院名簿をあさっても簡単には出てこないだろうな。
――あと、これだけは言っておく。くれぐれも本人には手を出すなよ?」
最後の一言のところだけ、視線に殺気が込められていた気がする。
その後すぐにムカつくそいつは立ち去った。が、ギーメルはしばし彼のことを罵倒し続けていた。同時にあの少女だけでなく、ひょっこりと現われた少年の方にも興味を示したのだが、どうにもしばらくそれを認める気にはなれなかったという。




