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世界神へ挑む者  作者: 蒼井七海
終章
23/23

夏の終わり 少女の決意

「ところで、レク」

 お昼時ということでやってきた学生で賑わっている食堂の中。ほかほかと湯気を立てているグラタンを口に運びながら、ステラは向かいの幼馴染を見た。

「んー?」

 彼の方はスパゲッティの麺をくわえたままの状態で顔を上げてきた。どこからどう見ても、いつもの幼馴染である。彼女は「ああ、日常っていいな」としみじみと感じながら口を開いた。

「あの、みんなで防御壁を張る時にレクが言った『一時的に無理矢理叩き起こす』っていうのはどういう意味なの?」

「ああ……」

 ステラの問いを聞いて、幼馴染――レクシオは顔をしかめて頭をかいた。

 あの調査団総出の大作戦から三日ほどが経つ。魔法陣の攻撃を見事に防ぎきった後、五人はエドワーズも混ぜてアインやギーメル、そしてヴィントの姿を探した。だが、彼らはどこにもいなかった。トニーやレクシオが屋根の上まで徹底的に探したが、やはり彼らはいなかった。

 その後、「警察に報告しようか」という案も出たが、犯人が逃げてしまった以上報告しても余計な騒ぎになるだけなので、結局彼ら六人だけの秘密にするということになった。みんな最初はためらいがちだったが、ステラが「警察に捜査を任せても、死人を出すだけじゃない?」と言ったことで、どうにかその場は上手く収まったのだった。

 そしてやはり、ステラは気になっていた。どうしてあの時、全く発動しなかった『銀の魔力』が突如として力を発揮したのかが。

 レクシオは麺を吸い上げると、こんこん、と指先でテーブルを叩いた。

「たまにいるんだよ。魔導士を志していて内に魔導術を使えるだけの魔力を有していても、それを発揮できない奴ってのが」

 ま、おまえは違うけどな、という彼の言葉にステラは生返事を返した。

 幼馴染の講義は続く。

「そんな時の対処法が『叩き起こす』って言ったやつだ。内側にある程度の魔力を秘めた人っていうのは、外部から多量の魔力を浴びせられると、それに強く反応して内側の魔力を一時的に外側に放出するんだ。これにより、その人は外側へ魔力を出すという行為がやりやすくなり、そのまま練習を続ければ自分の意思で魔力をコントロールできるようになる」

 グラタンにフォークを突きたてる。そこで、ステラは首をかしげた。

「そういうこと。でも、『外部からの多量の魔力』って」

 そんなもの、受けた覚えないし、というステラに対し、レクシオはあっさりと答える。

「魔法陣の魔力だよ。防御壁で防いだとは言っても、アレから放出される魔力すべてを遮断したわけじゃない。いくらかは体に浴びてるんだ」

「へーえ」

 ステラは納得したようにうなずくと、グラタンを口に運んだ。

 それからふと、窓の外を見る。今日の天気は快晴だ。まだまだ夏の残像を残す太陽の光は強い。だが、最近はどこか秋めいた風が吹いてくるようになったことに、ステラは気付いていた。

 そこで、今回の一件のきっかけとなった日のことを思い出す。にやりと笑ったステラは、再びレクシオの方に質問をぶつけてみた。

「ところで、なんでレクは魔導術に詳しいのよ。武術科でしょ?」

 レクシオが目を瞬くのが見えた。だが、ステラはあえて何も言わずに答えを待つ。すると、この妙に勘のよい幼馴染はにやりと笑った。

「……天才だから?」

 返ってきたのは、前と同じ答えだった。

(そう簡単に手の内は明かさないか)

 ステラは目を細めてグラタンをもそもそと食す。

 幼馴染は相変わらず、簡単に心を開かない。だが、最近のステラはそれにやる気を出すようになった。多分――彼の父親であるというヴィントに、直接出会ったせいだろう。

(あの無愛想男と同じように終わりたくない!)

 これが、彼女の本音だった。彼が父親に心を開かないのなら、あたしが開いてやる――というわけである。

 だが、きっと一人でそれをやることは無理だ。可能なら、とっくにできていていいはずだ。


「おーい! ステラ、レク!」

「一緒にご飯、たーべよ」

「いやぁ、なんてタイミングがいいんだろうな! 僕たちは」


 入口の方から三人の声が聞こえてくる。

(あいつらの協力も、ないとね)

 ステラは心の中で呟くと、ひっそり笑みを浮かべた。


「いいよー! たまにはみんなでワイワイやろうっ!」


 こうして今日も、クレメンツ怪奇現象調査団は、同じ屋根の下に集うのであった。

 夏は足早に過ぎて行き、もうすぐ実りの秋がやってくる。




Fin

……長かった。

 ですが、どうにかこうにか第二弾『世界神へ挑む者』完結です。今回は、この『ラフィア』シリーズ随一の敵組織(え?)も顔を出し、戦闘シーンも多めの話でした。シリアスだったり伏線もあったりで、読者にとっては大変な話でもあったかもしれません。


 でも、やはりもっとも大きなことは、シリーズタイトルの由来となる『ラフィア』についての話がメインになったことでしょう。この女神さまや選定についての話は今後も何かとつきまといますので、宜しくお願いします。


 さて、ここで次回予告。

 シリーズ第三弾『抗争勃発』は、受験が終わってから……ということで、二月の中旬辺りから始めたいと思います。秋の学院で、とある騒動が起こります。やっと学園色の強い話が書けそうです。


 それでは、次回の連載までしばしお待ち下さいませ。

 今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。


2013.1.13

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