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時々言葉を変えつつも、エドワーズが話してくれたとおりのことを二人に語って聞かせる。千年に一度の女神の選定。神の子に宿る世界を動かす魔力。そして、その力を手にした者の歩んだ道。二人は最後まで口を挟まなかった。だが、話が終わると同時に力を抜いて、テーブルに突っ伏した。
「な、なんかえらく壮大な神話ねぇ。本当に今回の警告文と関係あるの?」
ナタリーが半眼でこちらをにらんでくる。困りながらもステラは答えた。
「た、多分。だってそれしか思いつかないし」
「うむ。あながち間違いではないと思うな」
妙に緩んだ声音でレクシオが言う。彼らしくもなく眉間にしわをよせ、非常に渋い顔をしながら続けた。厄介事にかかわったという実感がわいてきたのかもしれない。
「これらの警告文の意味を直訳すると『満月の夜に行われる選定を私は壊しにいく』とかそういうノリだが、果たしてどうやって壊すというのかね。俺たちにとっちゃ存在すら曖昧な女神を、殺すとでも言いたいのか?」
もっともな、そしてとても難しい疑問だ。少し考えてから、ステラは思いつきを提示してみる。
「紅く染めに降り立つ、って書いてあったから、また神父を殺害にでも来るんじゃない?」
だが、すぐに退けられた。
「神父を殺してなんになる? それで女神の選定を止められたなら、苦労はしないだろ」
そっかぁ、と呟いて肩を下ろした。いいところまでいったと思ったのだが、振りだしに戻ってしまったようだ。
(そもそも、なぜあの青年は神父を狙ったの?)
ディノにしても、この帝都にしても。仮に神話が本当のことだったとして、神の子が選ばれることを阻止するためならもっと違う方法があっただろう。単に話を知っているだけの神父を殺害したところで――レクシオの言葉を借りるようだが――選定を止めることはできない。それができれば苦労はない。青年に生じるメリットといえば、醜い復讐心が満たされていくだけのことだ。
(もしかして、話を知っていることが重要だったりするのかな)
うんうんと考え込んでみたが、結局ステラに答えを出すことはできなかった。
「もう一度、エドワーズさんに話を聞いてみれば?」
テーブルに顎を乗せているティアが、突然気だるげな声で言う。その提案に、ステラとレクシオは目を瞬かせた。
「でも――この前襲撃事件があったばかりだし。あの傷をえぐりにいくってのも、なんかなぁ」
ポリポリと頬をかきながらステラは言う。暗に、せめてもう少し時間をおこうと言ったのだった。至極まっとうな意見に聞こえる。だが、それに対して返ってきた言葉もまた、真っ当なものだった。
「でも、それだと待ってる時間が無駄じゃん。その間にまたあの人が現れたらどうしようもないんだし。そうなる前に、もう少し詳しい話を聞いてみるべきよ」
うっ、と言葉に詰まるステラ。そんな彼女に、さらなる追い打ちがかかった。
「一理あるな」
レクシオが腕を組みながらそう言ったのだ。半眼で見てくる彼に対し、眉をひそめる。多分この場に味方はいない――幼馴染の一言でそれをうっすら悟ったステラは、自棄気味に立ち上がった。
「あーはいはい。分かったわよ。行けばいいんでしょ、行けば。その代わり、気まずくなったらあんたらのせいだからね」
彼女は吐き捨てながら、「そんなに怒らなくてもいいのに」と呟くナタリーと苦笑するレクシオを視界の端にとどめていた。