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世界神へ挑む者  作者: 蒼井七海
第三章 黒の警告文
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2

 学院の東側は、おもに武術科関連の教室が集まるところだ。彼らが心身を鍛える武道場も、もちろんここにある。中はよくある体育館並みに広く、武術科生の演習はこの武道場でやるというのが慣習だったりするのだ。

 そんな武道場に、今日はひときわ気合の入った声が響き渡っている。

「――ふっ!」

 細く、鋭く息を吐いて、ステラは木剣を振りかざした。その目にはいつにもまして鋭利な光が宿っている。そんな彼女を、武道場の扉の影からながめていたのは、レクシオだった。

 何か言いたげな顔をしており、実際ステラが手を止めた時に口を開いた。

「おまえ、ほんとバカだよなぁ?」

 ステラがきょとんとして振り返ったのを見ると、軽い口調で続ける。

「肋骨折ってるのに剣の特訓するか、フツー?」

「だって、なんか悔しいんだもん」

 不機嫌そうに目を細めたステラが思い出していたのは、教会を訪れた日のことだった。嘲るように笑う青年の姿が思い浮かぶ。

「今まではうぬぼれがあったのかもしれない。自分は強いっていうさ」

 レクシオは、黙っている。だが、ステラが二の句を継ごうとした時に重々しい声で言った。

「……あまり、今から力を求めない方がいいと思う。強すぎる力を持つと、人間ってのはすぐに溺れるんだよ」

 ステラははっとして幼馴染を振り返った。今の言葉に、少しだけ自嘲するような響きがあった気がする。思えば、ヴィントの一件をぶちまけてからというもの、彼はステラに対して本音を漏らすようなことが多くなった。むろん、今のような含みのある言葉を使っての話だが。

(どういう心境の変化かしらね)

 先日の事件に、何か思うところがあったのかもしれない。

 とりあえず彼女は、ふっと笑ってこう言った。

「ご忠告、ありがとうございます。分はわきまえるつもりよ」

 そして背中を向ける。背後から「ほんとかねぇ」という笑い含みの声が聞こえてきたが、気にしない。再び剣の稽古に戻った。

 ふと、武道場の大きな窓を見ると、青い空を黒いカラスが旋回していた。


 あの特訓のあと軽く授業を受け、二人は帰路についた。なんの偶然か、今日も寮までは一緒にいくことになった。だが、そこにこの間のような静寂はない。時折たわいもない話をしながら、楽しく歩いていた。

 だが、その途中突然大きな羽音がした。

「――!?」

 あまりにも近い。普通はそんなことないので、ステラはおったまげて数歩後退した。一方のレクシオは苦笑して、やけに近くにいる黒い影をながめていた。

「カラスだな」

 どこにでもいるような鳥だ。カラスはカァ、と大きく鳴いてから、やかましい羽音を立てて飛び立った。唐突過ぎる出来事の終わりに、その場には短い静寂が訪れる。だが、それはすぐに破られた。レクシオがなにかを見つけた模様だ。しゃがみこんで、見つけた物を拾い上げる。

「紙?」

 ステラもようやく戻ってきて、それを見た。メモ用紙くらいの大きさの紙が折りたたまれている。さっきまではなかったものだ。二人で首をかしげる。そして、レクシオがゆっくりと開いた。別に無視して捨ててもいいのだが、今回はお互いがそう言う気にはならなかったのだ。

 だが、それが開かれた瞬間わずかな後悔が頭の中をかすめる。

 開いた紙には、筆で書かれたような黒い文字でこうつづってあった。


『銀の月の夜 女神の選定の日 我は神聖なる場を 紅く染めに降り立つ』


 二人は、はっとして顔を見合わせた。それからすぐに立ち上がり、周囲を見渡す。道だけではなく、建物の上や中までも。しかし、探し求めている姿はどこにもなかった。

「な、なんなの!?」

 悲鳴のようにステラが叫ぶと、レクシオが紙をにぎりしめて呟いた。

「警告文のつもりか」

 その言葉に、ステラは小さく息をのんだ。黒い瞳で幼馴染を見据える。すると彼は、こう言った。

「あいつらの所に行こう」

 うなずくしかなかった。


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