名前が決まったようです。
騎士団に引き渡す前に、ルーン宅へ泊まることになった。
サラもお母様もルーンの力説によって恐怖心が薄れたのか家につく頃には普通に接してくれるようになっていた。
家に着いてすぐ、お母様は夕飯の支度に取り掛かり、子供2人は私を撫でたり抱いたり観察したりしていた。
「よかったねー」
「うん!…でも、騎士の人がかうことになっちゃうんだよね」
ルーンが私をギュッと強く抱き締める。
「ルーン元気出して?騎士さんのところにいってもきっとおねがいしたら会わせてくれるよ」
「…うん」
『にゃーん!(元気出して!)』
寂しそうなルーンの顔に頭をぐりぐり擦り付けた。
「くすぐったいよー。」
笑顔になったルーンにほっとする。
やっぱり子供は笑顔が一番だ!
「ただいまー!」
「「あっ!パパ!」」
ルーン達のお父様が帰ってきたよう。
ルーン家の麗しき見た目をご紹介。
お父様は見た目年齢20代前半から中盤。身長は180後半ぐらい。栗色の髪はワックスとかなくても立つ短さ
。瞳の色は髪と同じ。線は細目だが形の良い眉毛に目力のあるキリッとした美形。
お母様も見た目年齢20代前半から中盤。身長は170ぐらい。髪は陽の光が反射したような金色で瞳の色は茶色。腰ほどの少しクルンとした長い髪を後ろで一つに纏めている。顔つきはキリッとしている。声をかける時には眉尻を少しさげて、女性らしい優しい雰囲気。
ルーンとサラは、5歳くらい。身長はルーンが110cmほど。サラは120cmほどだ。顔立ちは2人ともお父様似で、瞳の色はお母様似。ルーンは髪色がお父様よりさらに明るい栗色。サラはお母様そっくりの金色だ。
「お帰りなさい。アルトさん」
「ああ、ただいま。ソフィア」
お父様の名前はアルトさん、お母様の名前はソフィアさんと言うことが判明。
そして、帰ってきたアルトさんはソフィアさんに濃厚なチューのプレゼント。
年齢=恋人いない歴の私には刺激が強すぎる。
(子供たちの前でやるなよ!羨ましいなんて思ってないからな!)
そうは思っても言えませんが…
だけど「お帰り、ただいま」のご挨拶が終わった頃を見計らって、自分の存在を教えるために『にゃん!』と一言鳴いてみた。
「ん?こいつはどうしたんだ?」
「あのね、ぼくが森の近くで見つけたの。」
「そうか、可愛いな!」
「でしょっ!それにね、森でサーベルウルフがおそってきたときにね、たすけてくれたんだよ。こんなに大きくなってね、すごくかっこよかったんだ!」
ルーンは興奮した様子で腕をいっぱいに広げながら私の事をアルトさんに話している。
(というかルーンパパ、反応あっさり過ぎません?普通は返してこいとかさ。いや、困るけど)
肝心のアルトさんはニコニコしながらルーンの話を聞いていた。
「ところでルーン、こいつの名前はなんて言うんだ?」
アルトさんがルーンに聞く。
(そういえば、あの子とかこの子とかだったなぁ。名前、名前ねぇ?確かに名前ないと呼ばれても反応しにくいなぁ)
自分から名乗ることが出来ないのでどうしようもないけれど、名無しは不便だ。
「わかんない。なんてなまえなの?」
ルーンは素直にアルトさんに答えた後、私に向かって聞いてくる。
『にゃーん(馨だよー。)』
一応答えはしたがルーンは分かるはずもなくキョトンとした顔をする。
ルーンのその行動が面白かったのかアルトさんは可笑しそうに笑って言った。
「あはは!まだ決まって無いみたいだな。名前が無いんじゃ不便だろ。ルーン、こいつの名前を考えてやったらどうだ?」
「ぼくがきめていいの?でも、騎士さんがかうことになるのにかってにきめていいのかな?」
「そうなのか?まあ、大丈夫だろ!」
今のやり取りで、アルトさんは繊細そうな顔に似合わずなんとも豪快そうな人だとわかった。
しかし、名前を決めてもらえるのは助かる。
騎士の所に言ってからでも構わないけれどやっぱり馴染むためにも出来るだけ早い方がいいだろう。
『にゃおーん♪(いい名前付けてね♪)』
「ほら、こいつもいいって言ってるぞ。」
アルトさんがニパッと私に笑いかける。
(なんて適当な。当たってるけど…。というか私の言葉わかってるわけじゃ無いよね?)
アルトさんの言葉にルーンが少し考え込んで。
「うーん、黒いからスミ(炭)は?」
『う゛みぁー(それはちょっとー。)』
「嫌そうだな。」
私が首をフルフル振りながら唸るとルーンはまたうんうん唸り出した。
暫くすると何か思い付いたのか、パッと顔をあげる。
「じゃあ、フィーアはどうかな?」
『にゃん!(いいじゃん!)』
「よろこんでるみたい!よかったねルーン。」
「どうしてその名前にしたんだ?」
「あのね、はじめて見たときね、目がサファイアみたいなきれいな青色だなっておもったの。それにママがサファイアには、せいじつっていう思いやりのいみがあるって言ってたから」
(へぇー。私の目って青色なんだ。まだ自分の姿みた事ないし見てみたいな。鏡とかないのかなー。)
ルーンの言葉でまだ自分の姿を見た事が無いのを思い出した。鏡を探してウロウロ。
鏡は棚の上にあるが、かなり高い位置にある。一か八かジャンプしてみるとむしろ少し跳び過ぎなくらいの脚力があった。
(棚は1.5mくらいだし、本気で跳んだら2mくらい行けそう。今度、試してみようかな?まぁ、とりあえずは鏡だ、鏡。)
無事鏡にたどり着き、覗き込むとそこには碧い瞳の真っ黒い黒猫がいた。
(おぉー、これが私か。でもなんかもっと“モンスター”って感じの姿をイメージしてたけど普通に猫だ。)
普通に猫ってのも変だけど。
モンスターと言われると血が緑とか、色が面白い配色とか、眼が複眼になってるようなのを想像していた。
それだけに、ちょっと拍子抜けである。普通が一番だけどさ。
「フィーア何してるの?」
サラが棚に登った私に気づいて聞いてくる。
ルーンの方を見るとまた私の事をジェスチャー混じりにアルトさんに話していた。
『みゃうっ!』
サラの腕目掛けて飛び降りるとサラは少し後退りしながら私を受け止めた。
「やっぱりなまえ気にいったんだー。」
私が返事をした事で名前が気に入ったか再確認したらしい。
「サラもきめたかったのに…。」
サラはしょんぼりしながら言った。
確認は気に入ってなかったら自分が付けるためだったらしい。
『にゃう、みゃー(ごめんねー、結構気に入ったの。)』
サラは悪いが‘フィーア’という名前は気に入った。
ルーンは5歳児にしては中々のセンスである。
「アルトさん、ルーン、サラ、フィーア、ご飯よ。」
いつの間にかご飯の支度を終わらせていたソフィアさんの声で皆がテーブルに向かう。
私の名前も呼んでいたのでさっきの名前談議は聞こえていたようだ。
テーブルに飛び乗るとパンや色とりどりの野菜、紫色した肉がお皿に盛り付けてあった。
(パンや野菜は美味しそうだけどあの肉の色はヤバいだろ。)
食卓に並んでいるのだから大丈夫だとは思うがあまりにも毒々しい色なので鼻を近付けクンクン嗅いでみる。
「あなたのご飯は此方よ。」
自分の姿を忘れていて食卓のものを食べようとしていた私をソフィアさんが首根っこを摘まんで床に下ろす。
床にはお皿に乗せられた紫の生肉があった。
『………。(生だよね。いくら今は獣でも元人間にはキツいんだけど。しかも、紫。)』
食べたくは無いが折角出してくれたのに食べない訳にもいかない。
匂いを嗅いで腐ってない事を確認した後ちょっとだけかじってみる。
『み゛ゅー(マズっ。)』
獣化したから生でも大丈夫!とか期待してみたがやっぱり生は嫌だ。お腹を壊すとかは無さそうだけど美味しくない。
これ以上食べると気持ち悪くなりそうなのでソフィアさんには悪いが食べるのを止め、お腹がすいてグーグー鳴る腹の音を聞きながらどうしようかとお皿の周りをウロウロする。
(いい匂いだから余計質が悪いなー。もう無理!お腹すいた!)
食欲に負け食卓に登って何か強奪しようとした時、私が生肉に本の少ししか口を付けていないのにルーンが気がついた。
「フィーアおなか空いてないの?」
『うみゃー(逆だよー。)』
頭を振ってルーンに返答する。
「おかあさん、フィーアがごはん食べてない。」
「あらあら、お腹空いて無いのかしら?」
「でも、そうきいたらちがうって。」
ルーンがソフィアさんにそうじゃ無い事を伝えてくれる。
「凄いな!ルーンはフィーアの言う事がわかるのか。」
アルトさんはルーンの言葉を聞いて面白い事を聞いたという顔で言った。
「だってきいたら、あたまをよこにふったんだ。」
それを聞いてサラが驚き、続いてアルトさん達が言葉を繋ぐ。
「すごいね!フィーアはわたしたちの言ってること、わかるのかな?」
「きっと頭が良いんだな。」
「そうね。それにしても何で食べないのかしら、チャムキャットの主食は生肉で合ってるわよね?」
ソフィアさんの問いにアルトさんが「チャムキャットは毛色がグレーじゃなかったか?」と返す。
(チャムキャットがどうのこうのはきっと関係無いよね。なんたって中身が私なだけだし。)
そうとは知らずにソフィアさんは困り顔で「何なら食べるのかしら」っとキッチンの食べ物を入れてあるらしい箱を探る。
私はルーンの膝の上に飛び乗ってからさっき目をつけていた食卓のにあるサラダの皿の一つを前足で引き寄せた。
『ムシャムシャ(なんか色変なのも入ってるけど、みずみずしくて美味しいや。)』
サラダの中には、細切れの肉も入っておりとても美味しい。
テーブルに座ったままの3人は興味津々でサラダをムシャムシャ食べる私を凝視する。
「あら、フィーアはお肉じゃなくてお野菜が好きなのかしら。」
「でも、サラダにお肉はいってたわ。」
サラの言葉を聞いたソフィアさんは少し考え込んだ後、焼けたお肉をサラダが入っていた空のお皿に移し私の前に置いた。
『にゃうにゃー!(あざーすっ!)』
サラダだけじゃもの足りないと思っていた所にお肉を置かれガツガツと食べる。
「フィーアおいしそうにたべるね。」
ルーンは自分のスープを啜りながらも私をニコニコしながら観察し続ける。
「フィーアは、生のお肉が好きじゃないみたいね。」
私が焼けたお肉はガツガツ食べるのをみてソフィアさんは言った。
(さすが、ソフィアさんわかってらっしゃる。)
それからしばらく楽しく談笑しながら食事を取り、食事を終えるとアルトさんがルーン達から距離を取った所にソフィアさんを呼んだ。
ルーンとサラは2人で仲良く絵を描いていたので、こっそりアルトさん達の近くに行く。
「フィーアを騎士に預けに行くと聞いたが」
「ええ、家で飼うわけにはいかないのでしょう?騎士にお願いするのがいいと思いまして。お願いできるかしら?」
「ああ、じゃあ早速支度するよ。だがルーン達は大丈夫のか?」
「連れて帰るときに騎士に預けることを条件にしましたし、飼えない理由もちゃんと教えたから大丈夫だと思うわ。」
「仕方ない事だが、もう仲もいいみたいだし可哀想だな。契約獣のほとんどは王宮付きの騎士と契約しているらしいし、騎士は王宮を離れる事は無いだろう。もう、会えないも等しくなるな。」
契約獣はその名の通り契約するモンスターの事だろう。
アルトさんが言った通りなら、騎士団に行けば私は必要時以外は王宮から出ることが出来ない。もうルーン達とは会えないと言う事だ。
(ルーン達と会えなくなるのは嫌だな。)
出会ってまだ1日も経って無いがルーン達は私の大切な人になりつつある。
今日一日で色々な事があっていまだに整理がついていない事も不安も多々あるけど、それでも今日を乗り切る事が出来たのはルーン達が居てくれたからだろう。
ルーンに拾われなきゃ、今頃モンスターに襲われないかビクビクしていたに違いない。
「確かに、可哀想だけれどだからこそ早い方がいいと思いまして。」
「そうだな。おい、ルーン、サラ。」
話に区切りが付いたのかアルトさんがルーンとサラを呼んだ。
「「なにー?」」
パタパタ音を立てながらルーン達が寄ってくる。
「明日、王都に出発するが一緒に来るか?」
「「いきたい!」」
アルトさんが聞くと2人共元気よく返事をした。
(ルーン達といれるのはあと1日か。騎士団ってどういう所なんだろう。どんな人がパートナーになるのかな。騎士のパートナーになるってことは凶暴なモンスターを討伐したりするんだよね。)
色々考えているうちにアルトさんも2人もどんどん支度を進めていった。2人がソフィアさんに手伝ってもらって支度を済ませると、私を中心に2人と1匹仲良く川の字で眠った。
第2部から2日以内に書くことができました。
目標だった5000字も到達でき満足です。
次話も早目に書けるよう努力したいと思います。
つたない文ではあると思いますが精一杯頑張るので応援よろしくお願いします。
ご覧下さりありがとうございました。