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女暗殺者リリィ

最強の暗殺者・隣国の王子を警護する

掲載日:2026/06/21

 後の帝国時代、親方様より謎の指令。


 隣国の王子を警護せよと。

 

 暗殺が生業(なりわい)なのにと首を傾げながらも隣国から訪問して来た王子の警護に就くリリィ。

 いつも被る仮面は外せと言われた。

 そして、服装も変えて警護に就く。


 王子を狙って襲ってくる謎の暗殺者達。

 それは、人間とは思えなかった。


 王子に着いて来た直属の警護が全く役に立たない。

 それをリリィは次々と返り討ちにしていく。

 

 その剣捌(けんさばき)きは、(まい)でも(おど)っているかのように綺麗だった。

 体格差を補う為に、そのような動きになったのだろうか?

 

 試客の懐に入り込み、表情ひとつ変えずに刺客の急所を狙う。

 だが、相手が一太刀で倒せなかった。

 リリィは刺客の体をバラバラにしてトドメを刺す。

 

 王子は見惚れてしまった。

 今目の前には、惨劇(さんげき)が広がっているというのに。


「う、美しい」

 隣国の王子は、自分の迂闊(うかつ)な発言に戸惑った。


「こいつらは、いったい誰なんだ? どこの国の連中だ?」

 リリィは、隣国の王子にきつい視線を向け尋ねた。


「あなたが、冥府の舞姫か?」

 王子は、その問いには答えずリリィに尋ねた。

「……」

 しばらくの沈黙の後、リリィは答えた。

「そう呼ばれているようだが、それがどうかしたか?」

「どうして私を護ってくれるのだ?」

「知らん。命令だからだ」

「それだけか?」

「ああ、それだけだ」

「そうか。それは助かる」

「……」

「何か?」

「あいつらは、何者だ?」

「あいつらとは?」

「お前は馬鹿か? お前を襲って来た連中だ」

「ああ」

 うっかりしていたと表情をする隣国の王子。

「それが、わからないんだ。身に覚えが無くてね」

「……」

「相手がわからないと警護(けいご)出来ないと?」

「そんなことはない。ただ」

「ただ?」

「あいつらは、……。人間じゃない」

「え?」

「変な呪術にでもはまっているのか? お前は?」

「お前はって? これでも、王子なんだが」

「ふん!」

「う、うん。そんなことはしていない。これで良いか?」

「そうか。まあどうでも良い」

「じゃ、なぜ聞くのだ?」

 王子は、がっかりした表情を見せた。


 リリィは、その問いに答えずプイッと顔を背けて、王子の前から姿を消した。


「王子! 王子! ご、御無事ですか?」

 他で待機していた家臣達が、騒動を聞きつけて飛び込んできた。


「ああ、ご苦労。この通り私は無事だ」

「こ、これは?」

 惨状を見て警護の者達は息を呑んだ。

「これは、後の帝国の手の者が?」

「いや、違う」

 王子は即座に否定する。

「得体の知れない暗殺者にやられたのだ。もう、私一人になった時、冥府の舞姫が駆けつけて来てくれて、その暗殺者達を返り討ちにしてくれた」

「め、冥府の舞姫? 後の帝国の暗殺者として有名な? そんな? 顔を見た者は、皆んな死んでいる聞いておりますが本当に?」

「ああ、多分そうだな」

「良くご無事で」

「だが、私はこうして生きている。その舞姫に、私は命を助けられた」

「……」

 警護の者達は、暗殺者の目的と正体も。

 それから守る為に冥府の舞姫を警護に付けた後の帝国の目的がわからず、困惑した。


 翌日、王子は後の帝国の皇帝代理の元に訪れた。

 そして、後の帝国へ手向かうことのないとの信書を皇帝代理に手渡した。


「あの、皇帝様に直接お渡しすることは出来ないのか?」

「出来ませぬ」

「何故ですか?」

「……。信書は受け取った。早く帰られよ」


「無礼な!」

 家臣達が抗議しようとしたが、王子は静止した。


「そうですか。では、これで失礼致します」


 隣国の王子は、自国へと帰ることになった。


 リンド皇国の国境付近に着いた時、自国の警護兵達が集まっていた。

 それも少ない無い人数が集結しており、今にも後の帝国に突入しようとする様子だった。


「王子、良くご無事で!」

「何だ? 何事か? リンド皇国の国境付近で、後の帝国の皇帝に勘違いされるぞ。それに、リンド皇国の許可は得ているのか?」


「そ、それが、王子への暗殺があると情報が入って来ておりまして、王子を呼び戻そうと此処まで来た次第です」

「何だと? それはいつだと聞いている?」

「昨夜、実行されると。ですので、こうして慌てて我らは……」

「昨夜か?」


 それは、人とは思えない者達に王子が襲撃された晩のことだ。


「それでか?」

 王子はひとり呟いた。


「あの、何か思い当たる事でもでございまでしょうか?」

「ああ、そうだな。それならば冥府の舞姫殿が、その者達を返り討ちにしてくれた」

「え? め、冥府の舞姫ですか? あの暗殺者の?」

「そうだ」

「その者が、王子を?」

「ああ、その暗殺者が警護に着いてくれていた」

「本当でしょうか?」

「こうして国境付近まで警護して来てくれたのを、その目で見たであろう?」


 王子は、少し遠くに離れた場所で停車していた、黒い場車に視線を向けた。


「あ、あの中に?」

「ああ」


 王子達が視線を向けると、黒い馬車はゆっくりと向きを変え帝国内に戻って行った。


「これは、いつか恩を返さなければならんな。少なくとも冥府の舞姫殿には」

 王子は馬車の見送りながら呟いた。

「何かの思惑もあるかと思いますが。ですが、も何か報いたいものですな」


 その馬車が見えなくなるまで、王子達は見送った。


「どうか舞姫殿。ご健在で」

 暗殺者との名高い者に、ご健在でとはおかしいと思いながらも、それ以外の相応しい言葉が見つからなった。


「では、皆の者。国に戻ろうか?」

「はっ!」


 再び王子が振り返るも、そこにはリリィの乗った黒い馬車の姿は、もう居なかった。


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