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第2話 王女様いきなりクライマックス

目を開けた時、開けたというより、見えることを脳が理解した時。

俺は、赤ん坊だった。


(…は?)


音が大きい。匂いが濃い。

体が動かない。

ふにふに。ぷにぷに。柔らかい。弱い。


転生特典なのか、目はすでに見える。ピントは甘いけど、人の輪郭も光も分かる。

耳も普通に聞こえる。むしろ敏感で、布が擦れる音まで拾う。


(生後どれくらいだ?)


ただ、体が馴染んだ感覚からして、産声を上げた直後ではない気がした。

だいたい半日。そんな感じ。


「目が、しっかりしておられます」


女の声。柔らかい。近い。

誰かが俺を抱いている。温かい。


「クロエ様」


(クロエ?それ俺?)


知らない言葉が、ぽつぽつ飛んでくる。


「アリシア様と同じですね」


(アリシア?世界観どこ?説明どこ?)


俺は焦って体を動かそうとする。

でも動くのは、せいぜい 指だけ。手のひらもふにゃふにゃだ。


(これ、詰みでは?)


そう俺が思った時。



灯りが…揺れた。


いや、揺れたというより、音が先に消えた。

布が擦れる音が遠のき、微かに聞こえていた風の音も、急に耳に届かなくなる。


(え?)


赤ん坊の俺でも分かる。

これはただの静けさじゃない。


沈黙が置かれた。

部屋の中を、透明な布が覆ったみたいに。


次に来たのは、匂いだった。

雨の匂い。

それが窓の方から、すーっと入り込む。


侍女が小さく眉を寄せた。


その瞬間、カーテンの影が歪む。

何もないはずなのに、空気の輪郭だけが揺れて、形になっていく。


黒装束。

短剣。

顔は布で隠されているのに、目だけは妙に光って見えた。


(人?いや、さっきまでいなかっただろ)


(え、なにそれ、透明化?)


(この世界、魔法あるのか!!)


俺が理解したより先に、黒装束が動いた。

音がしない。足音が吸われている。


黒装束は、俺を抱いている侍女の腕を見た。


その視線が刺さった瞬間、侍女の背に線が入ったのが分かった。

彼女はプロだ。危険を感じる速度が違う。


侍女は俺を抱え直す。胸に密着させる。

同時に、腰のあたりから小さな短剣を抜いた。

(侍女って武装するんだ、いや、王女の侍女ならするか)


黒装束が手を伸ばす。

狙いは俺の首じゃない。


口と鼻を塞ぐ動き。

一瞬で気道を潰す、あの動作。


(殺す気か…)


(いや、静かに"落とす”つもりか)


黒装束の指先に、淡い光が走った。

火じゃない。氷でもない。薄い霧みたいな、冷たい膜。


霧が侍女の口元へ伸びる。


侍女が一歩下がる。床を蹴る。

赤ん坊の俺を抱いたまま、踏み込んだ。


「っ!」


侍女の短剣が閃く。

黒装束の一部が裂けるが、その音もしない。


黒装束はぶれた。

こう、揺らぐみたいに。

人間の避け方じゃない。背中が壁に触れるぎりぎりで、影みたいに滑った


(運動能力おかしいだろ!いや、魔法か?)


侍女は叫ばない。叫べない。


代わりに、侍女は俺の小さな手を掴ませた。

俺の指が、彼女の手袋の縫い目に引っかかる。


「…握って」


声は聞こえないが、唇の動きで分かった。


(握る? 握るって何を)


その時、視界の端に半透明のUIが出た。

メール画面みたいな、世界観無視のやつ。


(サポセン!そうだ、これがあった!)


宛先:Support Center

件名:緊急案件 黒装束がいる/魔法使いぽい

本文:赤ん坊なう。目と耳は使える。

部屋の音が消えた→透明化みたいな侵入者。

侍女が抱えて応戦中。今すぐやるべきこと。


送信。


黒装束が、侍女の短剣を無視して距離を詰めてきた。

狙いは俺の顔、霧の膜が伸びる。


侍女は俺を抱いたまま、机を蹴った。

倒れた机が黒装束の膝を止める。

花瓶が偶然か、黒装束の頭に当たる。


衝突音が遅れて届いた。

音が戻り始めている。


「近衛!!侵入者!!」


さっきまで消えていた部屋の音が一気に押し寄せ、俺の耳がびりっと痛んだ。


黒装束が舌打ちした。


「…ちっ」


その声は低い。男か女か分からない。

そして次の瞬間、黒装束の体がぶれる。

足元に淡い紋が浮かんだ。


(また魔法!)


侍女が追うが、追えない。俺を抱えている。


黒装束は窓へ跳んだ。

窓枠に足をかけた時の動きが、まるで猫だ。


一瞬だけ振り返る。

そして小さなものを床へ落として、窓から消えた。


「引いたか」


侍女が低く吐く。声が震えていない。震えを殺している。


直後、扉が叩き割られる勢いで開いた。


足音。怒号。

近衛兵が雪崩れ込み、窓へ走る。


隊長格らしい男が窓枠の霜を指でなぞり、眉を寄せた。


「魔法使いか。厄介だな」


騒ぎの中、UIが震えるように点滅した。

(そういえばサポセンにメールしてたな)


《返信》

《※初回利用特典:優先対応》


お問い合わせありがとうございます。

緊急事案として処理します。


【状況推定】

・対象は「隠匿(視覚/聴覚阻害)」系の簡易魔法を使用

・目的は殺害よりも拘束・連れ去りの可能性が高い


【即時推奨】

・警備系統(近衛/侍女/乳母)を一本化

・窓・廊下・水路など抜け道の封鎖

・今後48時間は同様の侵入を想定


※魔法は希少ですが、暗躍には使われやすい傾向があります。


(テンプレっぽいのに、今は刺さる!)


侍女が窓に近づく。


「賊がこれを落としました」


近衛隊長がそれを拾い上げ、親指でこすった。

硬貨に見えるが、刻印がやけに綺麗だ。新品みたいに。


隊長が眉を寄せる。


「帝国の紋か?」


侍女が即座に言う。


「帝国のような紋です。断定は…」


隊長は硬貨を光にかざし、裏面を見た。

そこで、表情が変わった。


刻印ではない。

縁の部分に、小さな欠けがある。

わずかな傷。だが、意味のある傷。


「この欠け方」


隊長が低く呟く。


「港都の両替商がつける“印”だ。偽造品の判別で、縁に一つ削る」

「国内で一度回った硬貨だ」


侍女の目が一瞬だけ冷えた。


「つまり…」


隊長が硬貨を握り込む。

指の骨が浮くほど強く。


「王国の中に、窓口がある可能性がある」


(内通者おるやん)


赤ん坊の俺ですら分かる。

これ、外より内が怖いタイプの事件だ。


隊長が兵に短く命じた。


「両替商を押さえろ。取引記録を洗う」

「港都の出入りも締める。今夜からだ」


別の騎士が小声で吐き捨てるように言った。


「帝国が絡んでるなら、面倒なことになりますな」


隊長は答えなかった。

答えないのが、答えだった。


(帝国?印?)


俺は赤ん坊のまま、理解できない単語だけを飲み込む。

でも一つは分かった。


この世界、魔法がある。

そして、俺は生後半日で暗殺されかけた。


(何この世界、いきなりクライマックスすぎるだろ……)


(サポセンにメールだな、この国の状況を聞かないと詰む)



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