小話① 王女様月末払いが来てしまう
次回から新展開にはいります。
その前の小話回です。
窓際。
クロエはリディアに抱っこされ、外を眺めていた。
王宮は平常運転。
治安局と諸侯の綱引きは、きっと表に出ない程度で続く。
外圧も、内圧も、今はまだ燃えない。
(まぁ、しばらくは大丈夫…)
クロエは、部屋の隅に視線をやる。
薄い影。
人の気配が、ないのにいる。
(犬、頑張ってるなぁ…)
その瞬間。
コン、コン。
扉が叩かれる。
「合言葉を」
扉前の近衛が低く問い、向こうから即答が返る。
さらに返し。
確認。
問題なし。
近衛が扉を開けた。
「失礼いたします。侍医です」
「姫様のお体を診に参りました」
リディアが頷く。
「承知しました」
クロエをベッドに寝かせようと、
窓際から一歩。
その瞬間だった。
何の前触れもなく。
魔法陣も、光も、音もなく。
『身に着けているもの』が消えた。
クロエと、リディアの。
時間が、止まる。
誰も、動かない。
誰も、声を出さない。
次の瞬間。
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛——!?」
奥の間で絶対に出してはいけない声が炸裂した。
付き添いの近衛、即座に反転。
侍医、視線を天井に固定。
扉前の近衛、即座に外へ。
「見てません!」
「私は何も見ていません!」
「床しか見ておりません!!」
リディアは、
反射でクロエを抱きしめ、布を引き寄せ、完全防御。
完璧な対応だった。
さすが騎士家系。
しかし、顔は真っ赤になり、息も荒い。
一瞬の間、その時。
クロエの視界の隅に、ぴこん、と通知。
【お支払い完了のお知らせ】
月末払いの料金を回収しました。
【回収対象】
・お客様が身につけていたもの
・お客様が手で触れていたもの
上記を「資産」と判断しました。
またのご利用をお待ちしております☆
(…)
(…は?)
クロエの思考が完全停止する。
(いや待て)
(資産って何だよ)
数秒遅れて、事態を理解したクロエの魂が叫ぶ。
(運営ぃぃぃぃぃ!!!!!)
その直後。
「何事だ!!」
近衛隊長、突入。
続いて侍女長。
状況を察した瞬間、二人とも視線を完全に逸らすプロの動き。
「…全員、下がりなさい」
「いいですね、誰も見ていません」
「「「見てません!!!」」」
一糸乱れぬ即答。
侍女長は即座に指示を飛ばす。
「毛布!今すぐ!」
「部屋を閉めて!」
「記録係は外へ!」
「この件は、私が責任を持ちます!!」
リディアはクロエを抱いたまま、真っ赤な顔で震えていた。
クロエは無表情。
魂だけが遠くへ旅立っている。
(これ)
(俺のせいだ)
(課金)
(月末払い)
(回収方法)
薄い影、ノクスが、部屋の隅でそっと視線を逸らしていた。
犬、仕事を全う。
その日の王宮。
「奥の間で不可解な魔法事故が発生」
「詳細は秘匿」
「関係者全員、口が固い」
という公式発表が出た。
なおその晩、
クロエのツインリンクにはアリシアから短文が届く。
「何かあった?」
クロエは、震える指で返信した。
「サポセン」
「運営のせい」
こうして。
アルトフェン王宮史上、最も平和で最も混乱した事件は幕を閉じた。
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