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飲み込む。

作者: 名無しの竹
掲載日:2025/11/23

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ざらつく。あの日みたいだ。


突然にして足場がなくなるような。

ふいに金槌で殴られたような。

ありえないことだ。

私は今ここで生きているし、数十秒後も同じ場所で生きているだろう。

私が消えるわけじゃない。

息を吹き返した。


スクリーンに映された画面を見る。

そこに私の番号はなかった。

悲しさがあふれるとか、悔しくてたまらなくなるとか、そんなものはなかった。

ただ、一杯のコーヒーが欲しくなった。


電話に出た私の声は普段通りだったと思う。

むしろ普段より明るかったかもしれない。

先生の期待に満ちた声が聞こえた。

「見た?」


ごめんなさい、先生。

出来る限り毅然として、でも少し悲しそうな、そんな声で。

「ダメでしたあ。」

きっと、普通の受験生なら泣いていたところだろうけど。

私は、どちらなのか悩むことから解放された、と安堵していた。

泣くことも怒ることもなく、ただ、コーヒーを入れてソファーに座った。


明日も学校か。

そう思うことで日常へ意識を戻した。


翌日、私はできる限り普段通りの顔で友達に会いに行った。

そのつもりだった。

どんな顔をしていたんだろう。

一言も話さないうちに、友達が背中をさすってくれた。

「あの子から聞いたの?」

「ううん。顔を見たら。」

もう一人の友達が立ち上がって抱きしめに来た。

「一般入試もあるって言ったって、応えるよなあ。」


たったこれだけの温かみに、花が崩れた。


苦しかった。

今は泣いてはいけない気がして。

安心した。

私は苦しんでいいのだと。

この結果は、私にとって辛いものだったと、言葉にしていいのだと。

初めて私は、私の状況を知ったのだ。


学校にいる間、私はこれまでの日常をなぞるような気分だった。

普段通りの顔で、普段通りの授業を。

窓から差し込む光の温かさも、眠くなるような先生の声も。

全て普段通り。

その奥の声が聞こえないように、グラウンドを見た。

穏やかな秋の終わり。

色付いた葉が、散っていた。



笑えるほど何もない場所に住んでいた。

車の音も、虫の声も聞こえない、閑静な住宅街。

晩秋、冷え込んだ夜のベランダは、まったくの暗闇だった。

街灯もなく、月も出ていない。

空気がさすように冷たい。


もしも、死に方を選べるなら。

最も美しく、冷たく死にたい。

そんな馬鹿げたことを考えた。


一息ついて答える。

「もしもし?」

「ああ、久しぶり。」


彼女とは、他愛もない話をするような仲ではない。

どちらかが、何かを諦めたくなった時。

そんな時だけ、電話をかける相手だった。

「一旦、終わったよ。」

「そう。」

聞いてるのか聞いてないのか、わからない具合に返事をする。

そんな関係性が好きだった。

どうせ理解し合えるような話をしない。

言いたいことを言うだけの、生産性のない会話。

「面接直後、ずっと後悔してたんだ。あんなこと言わなければって。」

「うん。」

「あーあ、もうしんどいなあ。」

「そういう年だからね。」

当たり障りのない言葉で、会話が途切れる。

次は彼女の番だ。

「好きな人に、恋愛相談されたの。」

「うわあ。」

そう言いながら空を見た。

かすかに見える、オリオン座。

その隣はおうし座かな、なんて考えていた。

彼女の話が流れていく。

「恋にうつつを抜かしてる場合じゃ、ないのになあ。」

「仕方ないよ。理性でどうにかできるなら苦労しない。」

「そうだね。」

彼女との電話は、いつも終わりが見えない。

風のように実体のないまま。

弱まったころに、

「じゃあ。そろそろ。」

「うん。」

ラジオを切るみたいに別れる。

部屋に戻り、もぐりこんだ布団は冷え切っていた。

静かな満足感とともに、眠りについた。


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