教室の窓辺
昼休み。蓮は人のいない場所を探して図書室にいた。窓際の古い椅子に座り、手に持った小説は、ただの飾り。文字を追っても頭に入らない。
そのとき、誰かがすっと隣に座った気配がした。
顔を向けると、そこにいたのは蒼だった。
蓮は言葉を交わさなかった。蒼も話しかけてこない。ただ、本を開いて黙って座っている。
「逃げ場が、ここしかないのかもしれない」と、蓮は思った。
それから何日も、二人はその窓辺で会うようになった。言葉はなかったが、不思議と落ち着く空間だった。
ある日、蓮はふと、蒼の手元を見てしまった。長袖のシャツから、赤くうっすらと覗いた線。
目を逸らそうとした瞬間、蒼が慌てて袖を引っ張った。
「見た?」
小さな声だった。かすれるような、恐れるような。
蓮は黙って、ほんの少しだけ頷いた。
「……やりすぎると、消えないよ」
それが、蓮が初めて蒼にかけた言葉だった。
蒼の目が揺れる。「お前も……?」
蓮は視線を窓の外に向けた。桜の花びらが風に舞っていた。
「俺も、たぶん。生きてるっていうより、死なないようにしてるだけって感じ」
沈黙が、再び二人を包んだ。
けれど、その沈黙は、以前とはどこか違っていた。