表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

教室の窓辺

 昼休み。蓮は人のいない場所を探して図書室にいた。窓際の古い椅子に座り、手に持った小説は、ただの飾り。文字を追っても頭に入らない。


 そのとき、誰かがすっと隣に座った気配がした。


 顔を向けると、そこにいたのは蒼だった。


 蓮は言葉を交わさなかった。蒼も話しかけてこない。ただ、本を開いて黙って座っている。


「逃げ場が、ここしかないのかもしれない」と、蓮は思った。


 それから何日も、二人はその窓辺で会うようになった。言葉はなかったが、不思議と落ち着く空間だった。


 ある日、蓮はふと、蒼の手元を見てしまった。長袖のシャツから、赤くうっすらと覗いた線。


 目を逸らそうとした瞬間、蒼が慌てて袖を引っ張った。


「見た?」


 小さな声だった。かすれるような、恐れるような。


 蓮は黙って、ほんの少しだけ頷いた。


「……やりすぎると、消えないよ」


 それが、蓮が初めて蒼にかけた言葉だった。


 蒼の目が揺れる。「お前も……?」


 蓮は視線を窓の外に向けた。桜の花びらが風に舞っていた。


「俺も、たぶん。生きてるっていうより、死なないようにしてるだけって感じ」


 沈黙が、再び二人を包んだ。


 けれど、その沈黙は、以前とはどこか違っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ